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鑑定評価3手法の計算構造と使い分け

税・その他 読了 約23分

積算価格・比準価格・収益価格がどう組み上がるかを不動産鑑定評価基準から解説。再調達原価の直接法と間接法、純収益の構成、還元利回りと割引率の違い、手法の使い分けまで整理します。

目次

    本記事の役割 — この記事は、三つの手法で価格がどう組み上がるかと、どの場面でどの手法を使うかを扱います。価格の四類型や用語の定義といった基礎は不動産の鑑定評価|4つの価格と3つの手法にまとめてあるので、先にそちらを読んでから戻ってくると理解が早くなります。

    先に結論を書きます。宅建試験で鑑定評価の数値を実際に計算させる形式はまれです。問われるのは手法と用語の対応、そして適用場面です。計算力を鍛える必要はありません。

    では計算構造を知る意味がないかというと、そうではありません。価格がどう組み上がるかを一度たどると、用語が自然な位置に収まります。「積算価格」がなぜ積算なのか、「比準価格」がなぜ比準なのか、還元利回りと割引率がなぜ別物なのか。定義を暗記するより、組み立てを見たほうが定着します。

    この記事では、国土交通省が定める不動産鑑定評価基準(平成14年7月3日全部改正、平成26年5月1日一部改正)の記述に沿って、三つの手法の計算構造を追います。あわせて、どの対象にどの手法が適用できるかという使い分けを整理します。

    なお、以下に載せる数値例は理解のために極端に簡略化したものです。前提条件は都度明示しますが、実際の鑑定評価は基準に沿った多数の判断を伴うため、この例のように単純には決まりません。宅建の計算分野全体は宅建の計算問題まとめに横断整理があります。

    なぜ計算そのものは問われにくいのか

    基準が求めているのは判断の手順

    不動産鑑定評価基準を読むと、数式そのものはごくわずかしか出てきません。分量の大半は、どの資料を集め、どう選び、何を補正し、どう判断するかという手順の記述です。

    たとえば取引事例比較法なら、事例をどこから選ぶか、どういう要件を満たす事例だけを使えるか、どの要因を比較するか。収益還元法なら、純収益をどう捉えるか、還元利回りをどう求めるか。計算は最後の一手であって、その手前の判断がほとんどを占めます。

    この構造から考えると、四肢択一で問える部分がどこかも見えてきます。判断の手順や用語の定義は正誤で問えますが、多数の前提を要する計算を出題するには問題文が長くなりすぎます。だから宅建では用語と適用場面が中心になる、という関係です。

    それでも構造を追う理由

    とはいえ、式の形を知っておくと得られるものがあります。

    第一に、用語の位置が分かります。再調達原価と減価修正がどう組み合わさって積算価格になるのか、事情補正と時点修正がどの段階で効くのか。式の中の位置が分かれば、用語を入れ替えた選択肢に反応できます。

    第二に、適用できない場面が分かります。式に必要な入力が手に入らなければ、その手法は使えません。原価法が土地のみの場合に使いにくいのは、再調達原価を求められないことがあるからです。なぜ使えないのかを式から説明できると、暗記が要りません。

    原価法:積算価格はどう積み上がるか

    全体の形

    原価法は、価格時点における対象不動産の再調達原価を求め、これに減価修正を行って試算価格を求める手法です。この試算価格を積算価格といいます。

    形としては、再調達原価から減価額を差し引く、という引き算です。したがって計算構造を追うには、再調達原価をどう求めるかと、減価額をどう求めるかの二つを見ればよいことになります。

    再調達原価をどう求めるか

    再調達原価とは、対象不動産を価格時点において再調達することを想定した場合において必要とされる適正な原価の総額をいいます。建設資材や工法の変遷により再調達原価を求めることが困難な場合には、同等の有用性を持つものに置き換えて求めた原価(置換原価)を再調達原価とみなします。

    求め方について、基準は建設請負を想定するとしています。請負者が発注者に対して直ちに使用可能な状態で引き渡す通常の場合を想定し、発注者が請負者に対して支払う標準的な建設費に、発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を加算して求めます。付帯費用には、建物引渡しまでに発注者が負担する通常の資金調達費用や標準的な開発リスク相当額等が含まれる場合があります。

    そして手法として直接法と間接法の二つが置かれています。基準は、収集した建設事例等の資料としての信頼度に応じていずれかを適用するものとし、必要に応じて併用するとしています。

    直接法は、対象不動産について直接的に再調達原価を求める方法です。使用資材の種別、品等及び数量、所要労働の種別、時間等を調査し、価格時点における単価を基礎とした直接工事費を積算し、これに間接工事費及び請負者の適正な利益を含む一般管理費等を加えて標準的な建設費を求め、さらに通常の付帯費用を加算します。

    間接法は、近隣地域もしくは同一需給圏内の類似地域等に存する類似の不動産、または同一需給圏内の代替競争不動産から間接的に対象不動産の再調達原価を求める方法です。類似の不動産等について素地の価格や工事費等の明細を明確に把握できる場合に、それを分析して補正します。

    対象そのものを積むのが直接法、似たものから写すのが間接法。この対比で覚えてください。

    土地の再調達原価という考え方

    原価法は建物のための手法だと思われがちですが、基準は土地についても再調達原価の求め方を置いています。

    土地の再調達原価は、その素材となる土地の標準的な取得原価に、当該土地の標準的な造成費と発注者が直接負担すべき通常の付帯費用とを加算して求めます。宅地造成直後の対象地の地域要因と価格時点における地域要因とを比較し、公共施設や利便施設の整備、住宅等の建設により社会的・経済的環境の変化が価格水準に影響を与えていると客観的に認められる場合には、地域要因の変化の程度に応じた増加額を熟成度として加算することができます。

    建物及びその敷地の再調達原価は二段構えです。まず土地の再調達原価または借地権の価格に通常の付帯費用を加算した額を求め、この価格に建物の再調達原価を加算します。ここで基準は括弧書きで重要な但し書きを置いています。再調達原価が把握できない既成市街地における土地にあっては、取引事例比較法及び収益還元法によって求めた更地の価格に通常の付帯費用を加算した額を用いる、と。

    つまり、造成の履歴をたどれない土地では、原価法の中に他の二手法の結果が入り込むわけです。手法が独立して並んでいるのではなく、互いに入れ子になりうるという構造は、使い分けを考えるうえで重要です。

    減価額をどう求めるか

    減価額を求める方法は二つあり、基準はこれらを併用するものとすると定めています。いずれか一方を選ぶのではありません。

    耐用年数に基づく方法は、価格時点における経過年数及び経済的残存耐用年数の和として把握される耐用年数を基礎として減価額を把握する方法です。ここでいう経済的残存耐用年数とは、価格時点において、対象不動産の用途や利用状況に即し、物理的要因及び機能的要因に照らした劣化の程度並びに経済的要因に照らした市場競争力の程度に応じて、その効用が十分に持続すると考えられる期間をいいます。方法としては定額法、定率法等があり、どれを用いるかは対象不動産の用途や利用状況に即して決定します。

    観察減価法は、対象不動産について、設計・設備等の機能性、維持管理の状態、補修の状況、付近の環境との適合の状態等、各減価の要因の実態を調査することにより減価額を直接求める方法です。

    片方は年数から計算し、もう片方は現物を見て判断する。性質の違う二つを組み合わせて精度を確保する設計です。

    簡略化した数値例

    以下は理解のための例です。前提を極端に単純化しており、実際の鑑定評価では減価修正の二方法を併用するほか、多数の判断が加わります。

    前提:建物の再調達原価を3,000万円とする。耐用年数を30年、経過年数を10年とする。減価修正は定額法によることとし、残価はないものとする。観察減価法による調整は行わないものとする。

    まず年間の減価額を求めます。3,000万円を30年で割ると、1年あたり100万円です。次に経過年数分の減価額を求めます。100万円に10年を掛けて1,000万円。最後に再調達原価から差し引きます。3,000万円から1,000万円を引いて、積算価格は2,000万円となります。

    式の形を見ると、再調達原価に「残存耐用年数÷耐用年数」を掛けたものと一致します。この例では3,000万円に20年÷30年を掛けても2,000万円です。定額法の減価修正はこの比例配分だと理解しておくと、数字が変わっても対応できます。

    取引事例比較法:比準価格はどう組み上がるか

    全体の形

    取引事例比較法は、まず多数の取引事例を収集して適切な事例の選択を行い、これらに係る取引価格に必要に応じて事情補正及び時点修正を行い、かつ地域要因の比較及び個別的要因の比較を行って求められた価格を比較考量し、対象不動産の試算価格を求める手法です。この試算価格を比準価格といいます。

    形としては、事例の価格に補正率と比較率を順次掛けていく掛け算です。原価法が引き算、取引事例比較法が掛け算という対比で捉えると構造が見えます。

    使える事例の要件

    掛け算に入る前に、そもそもどの事例を使えるかという関門があります。基準は取引事例等について、投機的取引であると認められる事例等適正さを欠くものであってはならないとしたうえで、次の要件の全部を備えるもののうちから選択するとしています。

    第一に、近隣地域または同一需給圏内の類似地域等に存する不動産に係るもの、あるいは対象不動産の最有効使用が標準的使用と異なる場合等において同一需給圏内の代替競争不動産に係るものであること。第二に、取引等の事情が正常なものと認められるものであること又は正常なものに補正することができるものであること。第三に、時点修正をすることが可能なものであること。第四に、地域要因の比較及び個別的要因の比較が可能なものであること。

    第二の要件が、次に見る事情補正と対応しています。補正できるものは使えるが、補正の余地がないものは使えない。投機的取引の事例が排除されるのは、補正の巧拙以前に事例として適正さを欠くからです。

    四つの操作は何を直しているか

    選ばれた事例の価格に対して、四つの操作が加わります。それぞれ直している対象が違います。

    事情補正は、取引等が特殊な事情を含み、これが価格に影響を及ぼしているときに行います。基準は特殊な事情の例として、当事者双方の能力の多様性と特別の動機による売り急ぎ、買い進み等を挙げています。直しているのは取引当事者の事情です。

    時点修正は、取引等の時点が価格時点と異なることにより、その間に価格水準に変動があると認められる場合に、事例の価格を価格時点の価格に修正します。直しているのは時間の経過による価格水準の変動です。時点修正にあたっては、事例に係る不動産の存する用途的地域、または当該地域と相似の価格変動過程を経たと認められる類似の地域における土地または建物の価格の変動率を求め、これにより修正します。

    地域要因の比較は、事例の不動産が存する地域と対象不動産の存する地域との違いを比較します。直しているのは場所の違いです。ただし事例が近隣地域に存するものである場合は、地域が同じなので個別的要因の比較だけを行います。

    個別的要因の比較は、事例の不動産と対象不動産の個別の条件の違いを比較します。直しているのは物件そのものの違いです。

    当事者のずれ、時間のずれ、場所のずれ、物件のずれ。四つのずれを順に潰していく手続だと捉えると、順序も内容も思い出せます。

    簡略化した数値例

    以下は理解のための例です。実際には多数の事例を収集して比較考量するため、一つの事例から一意に価格が決まることはありません。

    前提:ある取引事例の価格を1平方メートルあたり30万円とする。事情補正は不要(100分の100)、時点修正は取引時点から価格水準が5%上昇(100分の105)、地域要因の比較は事例の地域より対象地域がやや劣る(100分の95)、個別的要因の比較は事例の物件より対象物件がやや優れる(100分の103)とする。

    30万円に、1.00、1.05、0.95、1.03を順に掛けます。1.05に0.95を掛けると0.9975、これに1.03を掛けると約1.0274。したがって30万円に約1.0274を掛けて、約30.8万円となります。

    注目してほしいのは、四つの率が独立に掛け合わされることです。どれか一つが1.00であっても他は効きます。そして基準が求めているのは、この計算を複数の事例について行い、比較考量して試算価格を導くことです。一つの事例の結果がそのまま比準価格になるのではありません。

    収益還元法:収益価格はどう組み上がるか

    純収益が出発点

    収益還元法は、対象不動産が将来生み出すであろうと期待される純収益の現在価値の総和を求めることにより試算価格を求める手法です。この試算価格を収益価格といいます。

    出発点は純収益です。基準は純収益を、不動産に帰属する適正な収益をいい、収益目的のために用いられている不動産とこれに関与する資本、労働及び経営(組織)の諸要素の結合によって生ずる総収益から、資本、労働及び経営(組織)の総収益に対する貢献度に応じた分配分を控除した残余の部分をいう、と定義します。

    算定は、一般に1年を単位として総収益から総費用を控除して求めます。ここで基準が挙げる総費用の内訳が具体的です。賃貸用不動産の総費用は、減価償却費、維持管理費(維持費、管理費、修繕費等)、公租公課(固定資産税、都市計画税等)、損害保険料等の諸経費等を加算して求めます。

    そして括弧書きに重要な条件が置かれています。減価償却費について、償却前の純収益を求める場合には計上しない、と。純収益には償却前のものと償却後のものがあり、どちらを使うかによって組み合わせる利回りも変わります。純収益と利回りは対応させなければならないという点は、式を見るだけでは分からない部分です。

    賃貸以外の不動産の場合

    基準は、賃貸用不動産以外についても総費用の求め方を置いています。賃貸以外の事業の用に供する不動産の総費用は、売上原価、販売費及び一般管理費等を加算して求めます。

    ただし但し書きがあります。賃貸以外の事業の用に供する不動産であっても、売上高のうち不動産に帰属する部分をもとに求めた支払賃料等相当額、または賃貸に供することを想定できる場合における支払賃料等をもって総収益とした場合は、総費用も賃貸用不動産の算定の例によるとされています。

    賃貸を想定して収益を捉えるなら、費用も賃貸の枠組みで捉える。収入と費用の捉え方を揃えるという原則がここに現れています。自用の不動産に収益還元法を適用できるのも、この置き換えが可能だからです。

    なおDCF法の適用にあたっては、保有期間中における大規模修繕費等の費用の発生時期に留意しなければならないとされています。複数期間を個別に見通す以上、いつ大きな支出が来るかが結果を左右するからです。

    二つの求め方

    収益価格を求める方法は二つあります。

    直接還元法は、一期間の純収益を還元利回りによって還元する方法です。収益価格は、一期間の純収益を還元利回りで除して求めます。

    DCF法は、連続する複数の期間に発生する純収益及び復帰価格を、その発生時期に応じて現在価値に割り引き、それぞれを合計する方法です。復帰価格とは、保有期間の満了時点における対象不動産の価格をいい、基本的には保有期間満了時点の翌期の純収益を最終還元利回りで除して求めます。

    一期間だけを見るのが直接還元法、複数期間と最後の売却まで見るのがDCF法。この違いが出題の中心です。

    還元利回りと割引率は別物

    ここが、式だけ眺めていると見落とす部分です。基準は還元利回りと割引率の意義を明確に書き分けています。

    還元利回りは、直接還元法の収益価格及びDCF法の復帰価格の算定において、一期間の純収益から対象不動産の価格を直接求める際に使用される率であり、将来の収益に影響を与える要因の変動予測と予測に伴う不確実性を含むものです。

    割引率は、DCF法において、ある将来時点の収益を現在時点の価値に割り戻す際に使用される率であり、還元利回りに含まれる変動予測と予測に伴う不確実性のうち、収益見通しにおいて考慮された連続する複数の期間に発生する純収益や復帰価格の変動予測に係るものを除くものです。

    読み解くと関係が見えます。DCF法では将来の各期の純収益を個別に見通すので、変動予測を明示的に織り込んでいます。だから割り戻す率にはその分を含めません。他方、直接還元法は一期間の純収益だけを使うので、将来の変動予測を利回りの中に畳み込む必要があります。だから還元利回りには変動予測が含まれる。どこで将来を見込むかの違いが、二つの率の違いを生んでいます。

    なお基準は、還元利回りを求める方法として、類似の不動産の取引事例との比較から求める方法、借入金と自己資金に係る還元利回りから求める方法、土地と建物に係る還元利回りから求める方法、割引率との関係から求める方法を例示しています。利回りは所与ではなく、それ自体が求めるべき対象だという点も押さえておいてください。この記事では利回りの水準を数値で示しません。

    簡略化した数値例

    以下は理解のための例です。実際には純収益の見通しや利回りの査定に多数の判断が入ります。

    前提:ある賃貸用不動産について、年間の総収益を600万円、年間の総費用を200万円とする。還元利回りを5%と査定したものとする。直接還元法によることとし、純収益は永続的なものと仮定する。

    まず純収益を求めます。600万円から200万円を引いて400万円。次に還元利回りで除します。400万円を0.05で割って、収益価格は8,000万円となります。

    式の意味を言い換えると、年400万円を生む不動産を、5%の利回りが得られる価格で買うといくらかという問いです。利回りが高いほど価格は下がり、低いほど上がります。利回りの査定が価格に直結することが、この式から読み取れます。利回りという概念そのものは不動産投資の基礎知識でも扱っています。

    どの手法をどの場面で使うか

    適用の可否は入力が揃うかで決まる

    三つの手法の使い分けは、式に必要な入力が手に入るかで判断できます。基準の記述もこの考え方に沿っています。

    原価法は、対象不動産が建物または建物及びその敷地である場合において、再調達原価の把握及び減価修正を適切に行うことができるときに有効です。そして対象不動産が土地のみである場合においても、再調達原価を適切に求めることができるときは適用することができます。造成地や埋立地のように取得原価と造成費をたどれる土地なら適用できるということです。逆に、造成の履歴をたどれない既成市街地の土地では再調達原価を求められません。

    取引事例比較法は、近隣地域もしくは同一需給圏内の類似地域等において対象不動産と類似の不動産の取引が行われている場合、または同一需給圏内の代替競争不動産の取引が行われている場合に有効です。事例がなければ使えません。取引が乏しい特殊な用途の不動産で適用が難しくなるのは、この理由によります。

    収益還元法は、賃貸用不動産または賃貸以外の事業の用に供する不動産の価格を求める場合に特に有効です。そのうえで基準は、不動産の価格は一般に収益性を反映して形成されるものであり収益は不動産の経済価値の本質を形成するとしたうえで、文化財の指定を受けた建造物等の一般的に市場性を有しない不動産以外のものには基本的にすべて適用すべきものであり、自用の不動産といえども賃貸を想定することにより適用されるものである、としています。

    適用範囲が最も広いのは収益還元法です。「自分で使っている不動産には使えない」という理解は誤りで、使えないのは市場性を有しない不動産のほうです。

    手法は入れ子になる

    使い分けを考えるときに見落とされやすいのが、手法が互いに入り込む場面です。

    前述のとおり、建物及びその敷地の再調達原価を求める際、再調達原価が把握できない既成市街地における土地については、取引事例比較法及び収益還元法によって求めた更地の価格を用いることが基準に明記されています。原価法を適用しているのに、その内部で他の二手法の結果を使っているわけです。

    また、還元利回りを求める方法の一つとして、類似の不動産の取引事例との比較から求める方法が挙げられています。収益還元法の入力を取引事例から得るということです。

    三手法は排他的な選択肢ではなく、互いに材料を供給し合う関係にあります。だからこそ、どれか一つだけを適用して終わりにする発想が基準にはありません。

    複数適用と試算価格の調整

    基準は、鑑定評価の手法の適用に当たっては、地域分析及び個別分析により把握した市場の特性等を適切に反映した複数の鑑定評価の手法を適用すべきであり、対象不動産の種類、所在地の実情、資料の信頼性等により複数の手法の適用が困難な場合においても、その考え方をできるだけ参酌するように努めるべきである、としています。

    複数適用すれば複数の試算価格が出ます。これを一つにまとめるのが試算価格の調整です。基準はこれを、各試算価格の再吟味及び各試算価格が有する説得力に係る判断を行い、鑑定評価額の決定に導く作業と定義しています。

    単純に平均するのではありません。どの試算価格がその案件でどれだけ説得力を持つかを判断して重みを決める作業です。再吟味の観点として、資料の選択・検討及び活用の適否、一般的要因の分析並びに地域分析及び個別分析の適否、各手法の適用において行った各種補正・修正等に係る判断の適否などが挙げられています。

    入力が揃う手法を複数適用し、結果の説得力を比べて決める。これが基準の設計です。地価公示法4条が三つの推定を「勘案して」行えと求めているのも、同じ発想の現れです。地価公示との接続は地価公示法にまとめています。

    公的価格との関係

    ここまで見た三手法は、公的な価格の算定にも使われています。地価公示の標準地の正常な価格は、不動産鑑定士が地価公示法4条の三つを勘案して鑑定評価した結果を土地鑑定委員会が審査・調整して判定するものですし、都道府県地価調査の基準地の標準価格も同じ枠組みです。

    相続税路線価や固定資産税評価額も、公示価格を基礎としつつ課税目的で設定されています。つまり、この記事で追った計算構造は、公表されている土地の価格の背後に共通して存在します。四つの公的価格の関係は土地の価格はどう決まる?、保有時の課税との接続は固定資産税にまとめています。

    なお、これらの手法を実際に適用するのは不動産鑑定士です。宅建士との業務の違いは不動産鑑定士と宅建士の違い、宅建の次に目指す場合の学習量は不動産鑑定士を宅建の次に目指すメリットと勉強法で扱っています。宅建で問われるのは、鑑定士が何をしているかを外側から理解しているかどうかであって、自分で鑑定評価ができることではありません。

    試験での出題ポイント

    手法と試算価格の名称

    最も基本的で最も出るのが、手法と試算価格の名称の対応です。原価法は積算価格、取引事例比較法は比準価格、収益還元法は収益価格。「原価法で求める価格を比準価格という」といった入れ替えは典型です。

    原価法の適用対象

    「原価法は土地のみの評価には適用できない」は誤りです。基準は再調達原価を適切に求めることができるときは土地のみの場合にも適用できるとしています。他方、「原価法はあらゆる土地に適用できる」も言い過ぎで、再調達原価を求められることが条件です。条件付きで可能というのが正確な理解です。

    収益還元法の適用対象

    「自用の不動産には収益還元法を適用できない」は誤りです。賃貸を想定することにより適用されるというのが基準の立場です。適用の対象外とされているのは、文化財の指定を受けた建造物等の市場性を有しない不動産のほうで、この向きを逆にした選択肢に注意してください。

    減価修正の二方法

    「耐用年数に基づく方法と観察減価法のいずれか一方を選択して適用する」は誤りです。基準は「これらを併用するものとする」と定めています。

    事例の選択と補正

    「特殊な事情を含む取引事例は一切使用できない」は誤りで、正常なものに補正できるなら使えます。他方「投機的取引と認められる事例も事情補正すれば使える」も誤りです。基準は投機的取引であると認められる事例等適正さを欠くものであってはならないとして、選択の段階で排除しています。

    二つの利回り

    「DCF法において将来の収益を現在価値に割り戻す際に用いる率を還元利回りという」は誤りです。割り戻す際に使うのは割引率で、還元利回りは直接還元法の収益価格およびDCF法の復帰価格の算定に使われます。細かい区別ですが、条文どおりに問われる余地があります。

    手法の適用数

    「三方式のうちいずれか一つを選んで適用すれば足りる」は誤りです。市場の特性等を反映した複数の手法を適用すべきであり、適用が困難な場合でもその考え方をできるだけ参酌するよう努めるべきものとされています。

    覚え方・整理の仕方

    演算の形で三手法を分ける

    三手法は、式の形で区別すると混ざりません。

    原価法は引き算です。再調達原価から減価額を引く。取引事例比較法は掛け算です。事例の価格に四つの率を掛ける。収益還元法は割り算です。純収益を利回りで割る。

    引く、掛ける、割る。この三つを手法名と結びつけておけば、試算価格の名称も導けます。積み上げた原価から引くから積算価格、事例に比べて準ずるから比準価格、収益から求めるから収益価格名称は演算の結果に付けられた名前だと理解してください。

    「入力が揃うか」で適用可否を判断する

    適用場面を暗記する必要はありません。その手法の式に必要な入力が手に入るかを考えれば足ります。

    原価法には再調達原価が要る。だから造成の履歴をたどれない土地では使いにくい。取引事例比較法には事例が要る。だから取引の乏しい特殊な不動産では使いにくい。収益還元法には収益の見通しが要る。だから収益を観念できない文化財等では使えないが、それ以外なら賃貸を想定して使える。

    式から逆算すれば、適用の可否は自分で説明できます。

    四つのずれで取引事例比較法を覚える

    事情補正と時点修正の混同は、何がずれているかで解けます。当事者のずれを直すのが事情補正、時間のずれを直すのが時点修正、場所のずれを直すのが地域要因の比較、物件のずれを直すのが個別的要因の比較。

    「誰が・いつ・どこで・何を」の四つのずれと覚えれば、順序も内容も再現できます。

    二つの利回りは「どこで将来を見込むか」

    還元利回りと割引率の区別は、定義文を覚えるより理屈で押さえるほうが確実です。

    DCF法は将来の各期の収益を個別に見通すので、変動予測は見通しのほうに入っている。だから割り戻す率(割引率)には変動予測を含めない。直接還元法は一期間しか見ないので、変動予測を率のほう(還元利回り)に畳み込むしかない。

    将来を見込む場所が違うから、率の中身が違う。この一文で両者の関係が復元できます。

    この分野に時間をかけすぎない

    最後に配分の話を一つ。鑑定評価は税・その他の枠に含まれ、地価公示法と交互に問われる関係にあります。いずれも用語と適用場面で決着する領域なので、覚えれば取れます。

    ただし出題数は限られます。計算演習に時間を投じるより、用語の対応と適用場面を確実にするほうが効率的です。この記事で構造を一度たどったら、あとは不動産の鑑定評価で用語を固めてください。税・その他全体の配分は税・その他の得点戦略、免除を受けない場合の範囲は免除科目5問の攻略法、統計は統計問題の対策にまとめています。

    理解度チェッククイズ

    問1 原価法における減価修正は、耐用年数に基づく方法と観察減価法のうち、対象不動産に適したいずれか一方を選択して適用する。

    答え:×。不動産鑑定評価基準は「減価額を求めるには、次の二つの方法があり、これらを併用するものとする」と定めたうえで、耐用年数に基づく方法と観察減価法を挙げています。前者は経過年数と経済的残存耐用年数の和として把握される耐用年数を基礎に減価額を把握する方法で定額法・定率法等があり、後者は設計・設備等の機能性、維持管理の状態、補修の状況、付近の環境との適合の状態等を調査して減価額を直接求める方法です。性質の違う二つを組み合わせて精度を確保する設計になっています。

    問2 原価法における再調達原価を求める方法のうち、近隣地域等に存する類似の不動産から間接的に対象不動産の再調達原価を求める方法を直接法という。

    答え:×。それは間接法です。直接法は、対象不動産について直接的に再調達原価を求める方法で、使用資材の種別・品等・数量や所要労働の種別・時間等を調査して直接工事費を積算し、間接工事費および請負者の適正な利益を含む一般管理費等を加えて標準的な建設費を求め、通常の付帯費用を加算します。基準は、収集した建設事例等の資料としての信頼度に応じていずれかを適用するものとし、必要に応じて併用するとしています。

    問3 取引事例比較法において、取引事例に売り急ぎ等の特殊な事情が含まれ価格に影響していると認められる場合には、時点修正を行って正常な価格に修正する。

    答え:×。特殊な事情を直すのは事情補正です。時点修正は、取引の時点が価格時点と異なることにより、その間に価格水準に変動があると認められる場合に、事例の価格を価格時点の価格に修正するものです。事情補正が直すのは当事者の事情、時点修正が直すのは時間の経過による価格水準の変動で、対象が異なります。なお、投機的取引であると認められる事例は補正の対象ではなく、選択の段階で排除されます。

    問4 DCF法において、ある将来時点の収益を現在時点の価値に割り戻す際に使用される率を還元利回りという。

    答え:×。割り戻す際に使用されるのは割引率です。不動産鑑定評価基準は、還元利回りを「直接還元法の収益価格及びDCF法の復帰価格の算定において、一期間の純収益から対象不動産の価格を直接求める際に使用される率」とし、将来の変動予測と予測に伴う不確実性を含むものとしています。他方、割引率はDCF法において将来時点の収益を現在価値に割り戻す際に使用される率で、収益見通しで既に考慮された変動予測に係る部分を除くものとされています。

    問5 原価法は、対象不動産が土地のみである場合であっても、再調達原価を適切に求めることができるときは適用することができる。

    答え:○。基準は、原価法は対象不動産が建物または建物及びその敷地である場合において再調達原価の把握及び減価修正を適切に行うことができるときに有効であるとしたうえで、「対象不動産が土地のみである場合においても、再調達原価を適切に求めることができるときはこの手法を適用することができる」と定めています。土地の再調達原価は、素材となる土地の標準的な取得原価に標準的な造成費と通常の付帯費用を加算して求めます。造成地や埋立地が典型で、造成の履歴をたどれない既成市街地の土地では適用が難しくなります。

    まとめ

    • 三手法は式の形で区別できます。原価法は再調達原価から減価額を引く引き算で積算価格、取引事例比較法は事例の価格に事情補正・時点修正・地域要因の比較・個別的要因の比較を掛ける掛け算で比準価格、収益還元法は純収益を利回りで割る割り算で収益価格を導きます。再調達原価には直接法と間接法があり、減価修正は耐用年数に基づく方法と観察減価法を併用するものとされています
    • 適用の可否は式に必要な入力が揃うかで決まります。原価法は再調達原価を求められれば土地のみでも適用でき、取引事例比較法は事例があることが前提、収益還元法は市場性を有しない不動産以外には基本的にすべて適用すべきものとされ、自用の不動産にも賃貸を想定して適用されます。手法は排他的ではなく、既成市街地の土地の再調達原価に他の二手法の結果を用いるなど、互いに材料を供給し合います。
    • 収益還元法では還元利回りと割引率が別物です。還元利回りは直接還元法の収益価格およびDCF法の復帰価格の算定に用いられ変動予測を含み、割引率はDCF法で将来の収益を割り戻す際に用いられ、収益見通しで既に考慮された変動予測に係る部分を除きます。どこで将来を見込むかの違いが両者を分けています。

    三手法と用語の対応は、宅建試験AIブートラボの肢別トレーニングで論点ごとに演習できます。

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