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不動産の鑑定評価|4つの価格と3つの手法

税・その他 読了 約24分

不動産鑑定評価基準の用語を原文から整理。正常価格・限定価格・特定価格・特殊価格の区別、原価法・取引事例比較法・収益還元法の適用場面、事情補正と時点修正の違いを解説します。

目次

    本記事の役割 — この記事は不動産鑑定評価基準の用語と手法を扱います。地価公示法の仕組みは地価公示法、公示価格を含む四つの公的価格の比較は土地の価格はどう決まる?にそれぞれ譲ります。税・その他分野全体の配分は税・その他の得点戦略を参照してください。

    不動産の鑑定評価は、宅建試験の税・その他の枠で繰り返し問われる領域です。ただし、この分野で計算をさせる出題はまれです。問われるのは用語の意味と、手法がどの場面に対応するかという関係です。

    だからこの記事では、計算ではなく用語の正確さに重心を置きます。限定価格と特定価格はどう違うのか。事情補正と時点修正は何を直しているのか。原価法は土地に使えるのか。収益還元法は自分で使っている建物に使えるのか。いずれも定義を正確に押さえていれば決着し、あいまいなままだと入れ替えの選択肢に引っかかります。

    参照するのは、国土交通省が定める不動産鑑定評価基準です。以下で引用する定義は、同基準(平成14年7月3日全部改正、平成26年5月1日一部改正)の文言によります。

    鑑定評価基準とは何か

    統一的な物差しを定める文書

    不動産鑑定評価基準は、不動産の鑑定評価をどのような考え方と手順で行うべきかを国土交通省が定めた文書です。法律そのものではありませんが、不動産鑑定士が鑑定評価を行う際の統一的な物差しとして機能しています。

    なぜ統一的な基準が要るのか。不動産には同じものが二つとなく、市場も情報が行き渡りにくいため、評価する人によって結論がばらつきやすいからです。ばらつきを放置すると、鑑定評価という行為そのものが信頼を失います。基準は、判断の余地を残しつつ、判断の手順と用いる概念を揃えるためにあります。

    不動産鑑定士という資格そのものの位置づけは不動産鑑定士と宅建士の違い、宅建の次に目指す場合の実際は不動産鑑定士を宅建の次に目指すメリットと勉強法にまとめています。

    価格形成要因という出発点

    基準は、不動産の価格を形成する要因(価格形成要因)を次のように定義します。不動産の効用及び相対的稀少性並びに不動産に対する有効需要の三者に影響を与える要因をいう、と。

    効用、相対的稀少性、有効需要。この三つが不動産の価格を支えており、価格形成要因はこの三者に影響を与えるものとして定義されています。そして基準は、価格形成要因は一般的要因、地域要因及び個別的要因に分けられる、と続けます。

    種別と類型という二本の分類軸

    用途で分けるのが種別、利用と権利で分けるのが類型

    基準は評価に入る前に、対象不動産を二つの軸で分類します。不動産の種別とは不動産の用途に関して区分される分類をいい、不動産の類型とはその有形的利用及び権利関係の態様に応じて区分される分類をいいます。

    種別のほうは、地域の種別が宅地地域、農地地域、林地地域等に分けられ、宅地地域はさらに住宅地域、商業地域、工業地域等に細分されます。これに対応して土地の種別も宅地、農地、林地、見込地移行地等に分けられます。見込地は他の種別へ転換しつつある土地、移行地は同じ種別の中で細分された用途間を移行しつつある土地を指します。

    更地・建付地・借地権・底地

    類型のほうは、宅建の権利関係と直接つながります。基準の定義を確認します。

    更地とは、建物等の定着物がなく、かつ使用収益を制約する権利の付着していない宅地をいいます。建付地とは、建物等の用に供されている敷地で、建物等及びその敷地が同一の所有者に属している宅地をいいます。借地権とは借地借家法に基づく借地権、すなわち建物の所有を目的とする地上権または土地の賃借権をいい、底地とは宅地について借地権の付着している場合における当該宅地の所有権をいいます。

    更地と建付地の違いは、建物の有無だけではありません。使用収益を制約する権利が付いていないことが更地の要件に入っています。だから、建物がなくても借地権が設定されていれば更地ではありません。そして借地権が付着している土地の所有権を、地主の側から見た呼び名が底地です。借地権と底地は同じ土地を二方向から見たもので、両者を足せば完全な所有権に戻ります。限定価格の代表例が「借地権者が底地の併合を目的とする売買」であるのは、この構造から出てきます。

    建物及びその敷地の類型は、自用の建物及びその敷地、貸家及びその敷地、借地権付建物、区分所有建物及びその敷地等に分けられます。

    最有効使用という前提

    効用が最高度に発揮される使用を標準とする

    鑑定評価の考え方の中核にあるのが最有効使用の原則です。基準はこう定めます。

    不動産の価格は、その不動産の効用が最高度に発揮される可能性に最も富む使用(最有効使用)を前提として把握される価格を標準として形成される。この場合の最有効使用は、現実の社会経済情勢の下で客観的にみて、良識と通常の使用能力を持つ人による合理的かつ合法的な最高最善の使用方法に基づくものである。

    読み解くべき点が二つあります。第一に「合法的」であることです。法令に違反する使い方をすれば収益が上がるとしても、それは最有効使用になりません。用途地域や建ぺい率・容積率の制限は、そのまま最有効使用の枠を決めます。制限の中身は建築基準法の頻出ポイントにあります。

    第二に、現実の使用方法が最有効使用とは限らないことです。基準も「ある不動産についての現実の使用方法は、必ずしも最有効使用に基づいているものではなく、不合理な又は個人的な事情による使用方法のために、当該不動産が十分な効用を発揮していない場合がある」と注意を促しています。古い木造家屋が建っている商業地でも、評価はその現況ではなく最有効使用を標準に行われます。

    判定にあたっての留意点

    基準は最有効使用の判定にあたって、良識と通常の使用能力を持つ人が採用するであろうと考えられる使用方法であること、使用収益が将来相当の期間にわたって持続し得る使用方法であること、効用を十分に発揮し得る時点が予測し得ない将来でないことなどを挙げています。

    一時的に高収益をもたらすだけの使い方や、実現時期が見通せない使い方は最有効使用として採用されません。継続性と実現可能性が要件に組み込まれているわけです。

    価格形成要因の三層と、地域分析・個別分析

    一般的要因は四つに大別される

    一般的要因とは、一般経済社会における不動産のあり方及びその価格の水準に影響を与える要因をいい、基準は自然的要因、社会的要因、経済的要因及び行政的要因に大別しています。

    自然的要因には地質・地盤等の状態、土壌及び土層の状態、地勢の状態、地理的位置関係、気象の状態。社会的要因には人口の状態、家族構成及び世帯分離の状態、都市形成及び公共施設の整備の状態、教育及び社会福祉の状態、不動産の取引及び使用収益の慣行など。経済的要因には貯蓄・消費・投資及び国際収支の状態、財政及び金融の状態、物価・賃金・雇用及び企業活動の状態、税負担の状態、技術革新及び産業構造の状態など。行政的要因には土地利用に関する計画及び規制の状態、土地及び建築物の構造・防災等に関する規制の状態、宅地及び住宅に関する施策の状態、不動産に関する税制の状態、不動産の取引に関する規制の状態が挙げられています。

    税が経済的要因と行政的要因の両方に現れる点は、混乱しやすい箇所です。基準の言い方を見ると、経済的要因が「税負担の状態」という負担の重さの側面を、行政的要因が「不動産に関する税制の状態」という制度としての税の側面を捉えています。金利は「財政及び金融の状態」として経済的要因に入ります。

    地域要因と個別的要因

    地域要因とは、一般的要因の相関結合によって各地域の特性を形成し、その地域に属する不動産の価格の形成に全般的な影響を与える要因です。住宅地域なら日照や交通施設の状態、商業地域なら顧客の質と量や繁華性の程度、といった具合に、地域の種別ごとに中身が変わります。

    個別的要因は、対象不動産そのものの特性に関する要因です。土地なら地積、形状、間口と奥行の関係、接面道路の状態、角地であるかどうか。建物なら建築年次、構造・規模、設備の状態、維持管理の状態などが該当します。

    地域分析と個別分析

    この三層に対応して、分析も二段構えになります。

    地域分析とは、対象不動産がどのような地域に存するか、その地域はどのような特性を有するか、対象不動産に係る市場はどのような特性を有するか、及びそれらの特性がその地域内の不動産の利用形態と価格形成についてどのような影響力を持っているかを分析し、判定することをいいます。

    個別分析とは、対象不動産の個別的要因が対象不動産の利用形態と価格形成についてどのような影響力を持っているかを分析して、その最有効使用を判定することをいいます。最有効使用を決めるのは個別分析だ、という対応関係を押さえてください。

    地域分析で重要な地域概念が三つあります。近隣地域は対象不動産の属する用途的地域で、対象不動産の価格の形成に直接に影響を与える特性を持つもの。類似地域は近隣地域の地域の特性と類似する特性を有する地域。同一需給圏は、一般に対象不動産と代替関係が成立して、その価格の形成について相互に影響を及ぼすような関係にある他の不動産の存する圏域で、近隣地域を含んでより広域的なものです。

    求める価格は四種類

    正常価格が原則

    ここが最も出題されやすい領域です。基準は求める価格を四つに分けています。定義を原文の骨格どおりに確認します。

    正常価格とは、市場性を有する不動産について、現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格をいいます。

    「合理的と考えられる条件を満たす市場」の中身も基準は具体化しており、市場参加者が自由意思に基づいて参加し参入・退出が自由であること、取引形態が市場参加者を制約したり売り急ぎ・買い進みを誘引したりするような特別なものではないこと、そして対象不動産が相当の期間市場に公開されていることが挙げられています。市場参加者の要件としても、売り急ぎ・買い進み等をもたらす特別な動機のないこと、対象不動産の最有効使用を前提とした価値判断を行うこと、買主が通常の資金調達能力を有していることなどが並びます。

    つまり正常価格は、誰でも参加できる開かれた市場で、急がされずに成立するであろう価格です。通常の売買で参照されるのはこの価格になります。

    限定価格は市場が相対的に限定される場合

    限定価格とは、市場性を有する不動産について、不動産と取得する他の不動産との併合又は不動産の一部を取得する際の分割等に基づき正常価格と同一の市場概念の下において形成されるであろう市場価値と乖離することにより、市場が相対的に限定される場合における取得部分の当該市場限定に基づく市場価値を適正に表示する価格をいいます。

    基準が挙げる例示は三つです。借地権者が底地の併合を目的とする売買に関連する場合、隣接不動産の併合を目的とする売買に関連する場合、そして経済合理性に反する不動産の分割を前提とする売買に関連する場合。

    三つ目に注意してください。併合ではなく分割で、しかも「経済合理性に反する」分割です。ひとまとまりで使うべき土地を無理に切り分ける場面を指しており、併合の例と方向が逆になっています。

    限定価格の本質は、買える人が限られていることにあります。借地権者にとっての底地、隣地所有者にとっての隣接地は、その人にとってだけ特別な価値を持ちます。市場が広く開かれていないからこそ、正常価格とは違う水準で価格が成立します。

    特定価格は法令等による社会的要請が背景にある

    特定価格とは、市場性を有する不動産について、法令等による社会的要請を背景とする鑑定評価目的の下で、正常価格の前提となる諸条件を満たさないことにより正常価格と同一の市場概念の下において形成されるであろう市場価値と乖離することとなる場合における不動産の経済価値を適正に表示する価格をいいます。

    基準の例示も三つです。証券化対象不動産に係る鑑定評価目的の下で、投資家に示すための投資採算価値を表す価格を求める場合。民事再生法に基づく鑑定評価目的の下で、早期売却を前提とした価格を求める場合。会社更生法又は民事再生法に基づく鑑定評価目的の下で、事業の継続を前提とした価格を求める場合です。

    限定価格との違いは、乖離の原因がどこにあるかです。限定価格は市場の側が限定されることから生じ、特定価格は評価の目的が法令等の要請で縛られることから生じます。「市場が狭いのが限定価格、目的が縛られるのが特定価格」と分けてください。

    特殊価格はそもそも市場性がない

    特殊価格とは、文化財等の一般的に市場性を有しない不動産について、その利用現況等を前提とした不動産の経済価値を適正に表示する価格をいいます。

    例示として基準が挙げるのは、文化財の指定を受けた建造物、宗教建築物、または現況による管理を継続する公共公益施設の用に供されている不動産について、その保存等に主眼をおいた鑑定評価を行う場合です。

    四つのうち、特殊価格だけが「市場性を有しない」不動産を対象としています。正常価格・限定価格・特定価格はいずれも「市場性を有する不動産について」という書き出しで始まります。この一語の有無が決定的な区別になります。

    三つの手法

    原価法は再調達原価から出発する

    原価法は、価格時点における対象不動産の再調達原価を求め、この再調達原価について減価修正を行って対象不動産の試算価格を求める手法です。この手法による試算価格を積算価格といいます。

    再調達原価とは、対象不動産を価格時点において再調達することを想定した場合において必要とされる適正な原価の総額をいいます。建設資材や工法の変遷により再調達原価を求めることが困難な場合には、同等の有用性を持つものに置き換えて求めた原価(置換原価)を再調達原価とみなします。

    適用場面について、基準はこう書いています。原価法は、対象不動産が建物又は建物及びその敷地である場合において再調達原価の把握及び減価修正を適切に行うことができるときに有効であり、対象不動産が土地のみである場合においても、再調達原価を適切に求めることができるときはこの手法を適用することができる

    「土地には原価法を適用できない」という理解は誤りです。造成地や埋立地のように再調達原価を把握できる土地には適用できます。基準は土地の再調達原価について、素材となる土地の標準的な取得原価に標準的な造成費と通常の付帯費用を加算して求めるとし、宅地造成後の環境変化が価格水準に影響していると客観的に認められる場合には、地域要因の変化の程度に応じた増加額を熟成度として加算できるとしています。

    減価修正の二つの方法は併用する

    減価額を求める方法は二つあり、基準はこれらを併用するものとすると定めています。「望ましい」ではなく「するものとする」です。

    耐用年数に基づく方法は、価格時点における経過年数及び経済的残存耐用年数の和として把握される耐用年数を基礎として減価額を把握する方法で、定額法、定率法等があります。ここでいう経済的残存耐用年数とは、対象不動産の用途や利用状況に即し、物理的要因及び機能的要因に照らした劣化の程度並びに経済的要因に照らした市場競争力の程度に応じてその効用が十分に持続すると考えられる期間をいいます。

    観察減価法は、対象不動産について、設計・設備等の機能性、維持管理の状態、補修の状況、付近の環境との適合の状態等、各減価の要因の実態を調査することにより減価額を直接求める方法です。

    一方は年数から計算し、他方は現物を見て判断する。性質の違う二つを組み合わせることで精度を確保する設計になっています。

    取引事例比較法は事例を補正して比べる

    取引事例比較法は、まず多数の取引事例を収集して適切な事例の選択を行い、これらに係る取引価格に必要に応じて事情補正及び時点修正を行い、かつ地域要因の比較及び個別的要因の比較を行って求められた価格を比較考量し、これによって対象不動産の試算価格を求める手法です。この試算価格を比準価格といいます。

    事例の選択には要件があります。基準は取引事例等について、投機的取引であると認められる事例等適正さを欠くものであってはならないとしたうえで、次の要件の全部を備えるもののうちから選択するとしています。近隣地域または同一需給圏内の類似地域等に存する不動産に係るもの、あるいは同一需給圏内の代替競争不動産に係るものであること。取引等の事情が正常なものと認められるものであること又は正常なものに補正することができるものであること。時点修正をすることが可能なものであること。地域要因の比較及び個別的要因の比較が可能なものであること。

    ここは誤解が生じやすい箇所です。特殊な事情を含む事例は、正常なものに補正できるなら使えます。しかし投機的取引と認められる事例は、補正の対象ではなくそもそも選択してはならないものとして扱われています。「特殊な事情がある事例は一切使えない」も誤りですが、「どんな事例でも補正すれば使える」も誤りです。

    事情補正と時点修正は直しているものが違う

    二つの操作は名前が似ていますが、対象が違います。

    事情補正は、取引事例等に係る取引等が特殊な事情を含み、これが価格等に影響を及ぼしているときに行う補正です。基準は特殊な事情の例として、当事者双方の能力の多様性と特別の動機による売り急ぎ、買い進み等を挙げています。直しているのは取引当事者の事情です。

    時点修正は、取引事例等に係る取引等の時点が価格時点と異なることにより、その間に価格水準に変動があると認められる場合に、事例の価格を価格時点の価格に修正するものです。直しているのは時間の経過による価格水準の変動です。

    事情は「誰が・どういう状況で」を直し、時点は「いつ」を直す。この対応で覚えれば入れ替えに反応できます。

    収益還元法は将来の収益から逆算する

    収益還元法は、対象不動産が将来生み出すであろうと期待される純収益の現在価値の総和を求めることにより対象不動産の試算価格を求める手法です。この試算価格を収益価格といいます。

    適用範囲について、基準の書きぶりが重要です。収益還元法は賃貸用不動産または賃貸以外の事業の用に供する不動産の価格を求める場合に特に有効であるとしたうえで、こう続けます。不動産の価格は一般に当該不動産の収益性を反映して形成されるものであり、収益は不動産の経済価値の本質を形成するものである。したがってこの手法は、文化財の指定を受けた建造物等の一般的に市場性を有しない不動産以外のものには基本的にすべて適用すべきものであり、自用の不動産といえども賃貸を想定することにより適用されるものである。

    「自分で使っている不動産には収益還元法を適用できない」は誤りです。賃貸を想定して試算すればよい、というのが基準の立場です。適用できないのは、文化財等の市場性を有しない不動産のほうです。

    収益価格を求める方法は二つあります。直接還元法は一期間の純収益を還元利回りによって還元する方法で、収益価格は純収益を還元利回りで除して求めます。DCF法は、連続する複数の期間に発生する純収益及び復帰価格を、その発生時期に応じて現在価値に割り引き、それぞれを合計する方法です。復帰価格とは、保有期間の満了時点における対象不動産の価格をいいます。

    一期間だけを見るのが直接還元法、複数期間と最後の売却まで見るのがDCF法。この違いが問われます。数値を当てはめた計算の型は鑑定評価の3手法の計算例で扱っていますが、宅建試験では計算より用語と適用場面の対応が中心です。利回りという概念そのものは不動産投資の基礎知識でも触れています。

    手法は複数適用し、試算価格を調整する

    「三方式併用」ではなく「複数の手法の適用」

    三つの手法をどう使うかについて、基準はこう定めています。鑑定評価の手法の適用に当たっては、地域分析及び個別分析により把握した対象不動産に係る市場の特性等を適切に反映した複数の鑑定評価の手法を適用すべきであり、対象不動産の種類、所在地の実情、資料の信頼性等により複数の鑑定評価の手法の適用が困難な場合においても、その考え方をできるだけ参酌するように努めるべきである。

    現行基準の表現は「三方式を併用すべき」ではなく「複数の鑑定評価の手法を適用すべき」です。古い解説には旧版の言い回しが残っていることがあるので、条文表現を問う形で出た場合に備えて確認しておいてください。

    試算価格の調整とは何か

    複数の手法を適用すると、複数の試算価格が出ます。これを一つの鑑定評価額にまとめる作業が試算価格の調整です。

    基準は、試算価格又は試算賃料の調整とは、鑑定評価の複数の手法により求められた各試算価格又は試算賃料の再吟味及び各試算価格又は試算賃料が有する説得力に係る判断を行い、鑑定評価における最終判断である鑑定評価額の決定に導く作業をいう、と定義します。

    単純に平均するのではありません。それぞれの試算価格がどれだけ説得力を持つかを判断して重みを決める作業です。再吟味の観点として、資料の選択・検討及び活用の適否、一般的要因の分析並びに地域分析及び個別分析の適否、各手法の適用において行った各種補正・修正等に係る判断の適否などが挙げられています。

    賃料の鑑定評価

    鑑定評価の対象は価格だけではありません。基準は賃料についても定めています。

    求める賃料は、一般的には正常賃料または継続賃料で、依頼目的に対応した条件により限定賃料を求めることができる場合があります。

    正常賃料は、正常価格と同一の市場概念の下において新たな賃貸借等の契約において成立するであろう経済価値を表示する適正な賃料(新規賃料)です。限定賃料は、限定価格と同一の市場概念の下において新たな賃貸借等の契約において成立するであろう賃料で、隣接不動産の併合使用を前提とする場合などに求められます。継続賃料は、不動産の賃貸借等の継続に係る特定の当事者間において成立するであろう経済価値を適正に表示する賃料です。

    価格の四類型と賃料の三類型が対応していることに気づいてください。正常価格に正常賃料、限定価格に限定賃料が対応し、賃料には継続という時間軸の類型が加わる。特殊価格に対応する賃料は置かれていません。市場性のない不動産に賃料を観念する場面がないからです。賃貸借の実務そのものは不動産賃貸の仲介業務にあります。

    鑑定評価と地価公示の関係

    鑑定評価は地価公示とも接続しています。基準は鑑定評価額の決定について、地価公示法施行規則1条1項に規定する国土交通大臣が定める公示区域において土地の正常価格を求めるときは、公示価格を規準としなければならない旨を定めています。

    地価公示側から見ると、標準地の正常な価格は不動産鑑定士の鑑定評価を経て判定されます。鑑定評価が地価公示を支え、公示価格が鑑定評価を縛るという相互関係になっています。標準地の選定、価格の判定時点、公示価格の効力といった地価公示法そのものの中身は地価公示法で扱っています。

    公示価格、都道府県地価調査の基準地価格、相続税路線価、固定資産税評価額という四つの公的価格の関係は土地の価格はどう決まる?にまとめています。税の計算にどう使われるかは不動産にかかる税金の全体像固定資産税を参照してください。

    試験での出題ポイント

    限定価格と特定価格の入れ替え

    最も狙われるのがここです。限定価格は市場が相対的に限定される場合(借地権者による底地の併合、隣接不動産の併合、経済合理性に反する分割)、特定価格は法令等による社会的要請を背景とする評価目的の場合(証券化対象不動産の投資採算価値、民事再生法に基づく早期売却前提、会社更生法・民事再生法に基づく事業継続前提)です。

    「隣接地の併合を目的とする売買に関連して求める価格は特定価格である」といった入れ替えが典型です。併合や分割が出てきたら限定価格、法律名が出てきたら特定価格という反射を作っておくと処理が速くなります。

    「市場性を有する」の有無

    四つの価格のうち、定義の書き出しが違うのは特殊価格だけです。正常価格・限定価格・特定価格は「市場性を有する不動産について」から始まり、特殊価格は「文化財等の一般的に市場性を有しない不動産について」から始まります。「特殊価格は市場性を有する不動産について求める価格である」は誤りになります。

    原価法の適用対象

    「原価法は土地のみの評価には適用できない」は誤りです。基準は再調達原価を適切に求めることができるときは土地のみの場合にも適用できるとしています。逆に「原価法はあらゆる土地に適用できる」も言い過ぎで、再調達原価を求められることが条件です。

    収益還元法の適用対象

    「自用の不動産には収益還元法を適用できない」は誤りです。賃貸を想定することにより適用されるというのが基準の立場です。適用の対象外とされているのは文化財の指定を受けた建造物等の市場性を有しない不動産のほうで、この向きを逆にした選択肢に注意してください。

    事例の選択と補正

    「特殊な事情を含む取引事例は一切使用できない」は誤りで、正常なものに補正できるなら使えます。他方「投機的取引と認められる事例も事情補正すれば使える」も誤りです。基準は投機的取引であると認められる事例等適正さを欠くものであってはならないとして、選択の段階で排除しています。補正できる特殊事情と、そもそも排除される事例は別という切り分けが要ります。

    減価修正の二つの方法

    「耐用年数に基づく方法と観察減価法のいずれか一方を選択して適用する」は誤りです。基準は「これらを併用するものとする」と定めています。

    三手法の適用

    「三方式のうちいずれか一つを選んで適用すれば足りる」は誤りです。市場の特性等を反映した複数の手法を適用すべきであり、適用が困難な場合でもその考え方をできるだけ参酌するよう努めるべきものとされています。

    覚え方・整理の仕方

    手法と価格名を頭文字で結ぶ

    三手法と試算価格の名称は、頭の字で対応させると崩れません。原価法は積算価格、取引事例比較法は比準価格、収益還元法は収益価格。原は積、取は比、収は収、と三対で唱えてください。

    そのうえで、何を根拠に価格を導いているかを一語で添えます。原価法は「いくらで作れるか」、取引事例比較法は「いくらで売れているか」、収益還元法は「いくら稼げるか」。この三つの問いが、そのまま適用場面の違いに対応します。作れるものでなければ原価法は使えず、事例がなければ取引事例比較法は使えず、収益を観念できなければ収益還元法は使えません。

    四つの価格は「市場」で切る

    四類型は、市場という語を軸に一列に並べると整理できます。

    市場が正常に開かれているのが正常価格。市場が狭いのが限定価格。市場は開かれているが目的が法令に縛られているのが特定価格。そもそも市場がないのが特殊価格。

    そのうえで例示を一つずつ紐づけます。限定価格には「借地権者が底地を買う」、特定価格には「民事再生法」、特殊価格には「文化財」。例示を一つ思い出せれば定義に戻れるので、代表例を一つだけ確実に覚えるのが効率的です。

    補正と修正は「何がずれているか」で分ける

    事情補正と時点修正は、ずれの原因を問う形で覚えます。売り急ぎや買い進みという当事者側のずれを直すのが事情補正、取引時点と価格時点という時間のずれを直すのが時点修正。

    ここに地域要因の比較と個別的要因の比較を足すと、取引事例比較法の四つの操作が揃います。当事者のずれ、時間のずれ、場所のずれ、物件のずれ。四つのずれを順に潰していく手続だと捉えると、順序も内容も思い出しやすくなります。

    一般的要因は「自・社・経・行」

    一般的要因の四区分は、自然的・社会的・経済的・行政的の頭文字で押さえます。迷いやすいのは経済と行政の境目で、金利や物価は経済、規制や計画は行政が原則です。税については、負担の重さとして見るなら経済、制度として見るなら行政に整理されています。

    免除科目との位置関係を知っておく

    鑑定評価は税・その他の枠に入りますが、登録講習の修了者が免除を受ける問46から問50までの範囲とは別です。免除を受けない受験者が押さえるべき範囲の全体像は免除科目5問の攻略法、統計の対策は統計問題の対策にまとめています。この分野は覚えれば取れる領域なので、税・その他の中では優先度が高いと考えてください。

    理解度チェッククイズ

    問1 借地権者が底地の併合を目的とする売買に関連して求める価格は、特定価格である。

    答え:×。限定価格です。不動産鑑定評価基準は限定価格の例示として、借地権者が底地の併合を目的とする売買に関連する場合、隣接不動産の併合を目的とする売買に関連する場合、経済合理性に反する不動産の分割を前提とする売買に関連する場合の三つを挙げています。特定価格は法令等による社会的要請を背景とする鑑定評価目的の下で求める価格で、例示は証券化対象不動産に係る投資採算価値を表す価格、民事再生法に基づく早期売却を前提とした価格、会社更生法または民事再生法に基づく事業の継続を前提とした価格です。併合・分割が出てきたら限定価格、法律名が出てきたら特定価格と切り分けてください。

    問2 原価法は、対象不動産が土地のみである場合には適用することができない。

    答え:×。基準は「対象不動産が土地のみである場合においても、再調達原価を適切に求めることができるときはこの手法を適用することができる」と定めています。造成地や埋立地のように素材となる土地の取得原価と造成費から再調達原価を把握できる場合が典型です。基準は土地についての原価法の適用に関し、宅地造成後の社会的・経済的環境の変化が価格水準に影響を与えていると客観的に認められる場合には、地域要因の変化の程度に応じた増加額を熟成度として加算できるとしています。

    問3 収益還元法は、賃貸用不動産の評価には有効であるが、自用の不動産の評価には適用すべきものではない。

    答え:×。基準は、収益還元法は「文化財の指定を受けた建造物等の一般的に市場性を有しない不動産以外のものには基本的にすべて適用すべきものであり、自用の不動産といえども賃貸を想定することにより適用されるものである」としています。賃貸用不動産に特に有効であることは確かですが、そこに限定されるわけではありません。適用の対象外とされているのは、市場性を有しない不動産のほうです。

    問4 取引事例比較法において、投機的取引であると認められる事例であっても、適切な事情補正を行えば取引事例として用いることができる。

    答え:×。基準は取引事例等について「投機的取引であると認められる事例等適正さを欠くものであってはならない」と定めており、選択の段階で排除されます。事情補正の対象となるのは、売り急ぎ・買い進み等の特殊な事情を含むもののうち、事情が正常なものと認められるか、または正常なものに補正することができるものです。「特殊な事情を含む事例は一切使えない」も誤りですが、「補正すればどんな事例でも使える」も誤りです。

    問5 原価法における減価修正の方法には耐用年数に基づく方法と観察減価法があり、これらを併用するものとされている。

    答え:○。基準は「減価額を求めるには、次の二つの方法があり、これらを併用するものとする」と定めたうえで、耐用年数に基づく方法と観察減価法を挙げています。前者は経過年数と経済的残存耐用年数の和として把握される耐用年数を基礎に減価額を把握する方法で定額法・定率法等があり、後者は設計・設備等の機能性、維持管理の状態、補修の状況、付近の環境との適合の状態等を調査して減価額を直接求める方法です。いずれか一方を選択するのではありません。

    まとめ

    • 求める価格は四種類です。正常価格は開かれた市場で成立する価格、限定価格は併合や分割により市場が相対的に限定される場合の価格、特定価格は法令等による社会的要請を背景とする評価目的の下で正常価格の前提を満たさない場合の価格、特殊価格は文化財等の市場性を有しない不動産についての価格です。定義の書き出しで「市場性を有する不動産について」と始まらないのは特殊価格だけです。
    • 三つの手法は、原価法が積算価格(再調達原価から減価修正)、取引事例比較法が比準価格(事情補正・時点修正・地域要因の比較・個別的要因の比較)、収益還元法が収益価格(直接還元法とDCF法)を導きます。原価法は再調達原価を求められるなら土地のみにも適用でき、収益還元法は自用の不動産にも賃貸を想定して適用します。減価修正の二方法は併用するものとされ、手法は複数を適用すべきものとされています。
    • 用語の入れ替えが出題の中心です。事情補正は当事者の特殊な事情を、時点修正は取引時点と価格時点のずれを直すという対応、投機的取引の事例は補正ではなく選択の段階で排除されるという切り分けを押さえてください。

    鑑定評価の用語と手法の対応は、宅建試験AIブートラボの肢別トレーニングで論点ごとに演習できます。

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    税と価格の評定は毎年ほぼ同じ形で出ます。出題パターンを肢別で押さえれば取りこぼしません。

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