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従業者名簿と帳簿|記載事項と保存期間

宅建業法 読了 約24分

従業者証明書・従業者名簿・帳簿の3制度を条文根拠つきで整理。記載事項、記載のタイミング、保存期間の起算点、閲覧義務の有無、事務所と案内所での扱いの違いまで解説します。

目次

    この記事は、宅地建物取引業者が事務所に備え、従業者に携帯させる3つの制度、すなわち従業者証明書、従業者名簿、帳簿を各論として扱うものです。義務の主体が宅地建物取引業者なのか宅地建物取引士なのかという切り分けの全体像は宅建業者と宅建士の義務で扱っているので、ここでは記載事項、記載のタイミング、保存期間、閲覧義務といった細部に入ります。

    結論を先に述べます。3つはいずれも宅地建物取引業者の義務であり、宅建士個人の義務ではありません。そして試験で問われるのは、名簿と帳簿の違いに集約されます。備えるのはどちらも事務所ごとですが、閲覧義務があるのは名簿だけ、保存期間は名簿が最終の記載をした日から10年、帳簿が各事業年度の末日に閉鎖した後5年(宅地建物取引業者が自ら売主となる新築住宅に係るものは10年)です。この2軸を先に固定してから、それぞれの記載事項に入るのが効率的です。

    3つの制度は何のためにあるのか

    目的から分けると2系統になる

    3つの制度は、目的で見ると2系統に分かれます。

    第一の系統が、誰が業務をしているのかを明らかにするものです。従業者証明書と従業者名簿がこれにあたります。不動産取引では、訪問してきた人物が本当にその会社の従業者なのかを、取引の相手方が確かめる手段が必要です。名刺は誰でも作れますが、従業者証明書は宅地建物取引業者が交付するもので、名簿と番号で対応がとれています。

    第二の系統が、取引の記録を残すものです。帳簿がこれにあたります。どの物件について、いつ、誰との間で、どういう態様の取引をし、いくらの報酬を受けたのかを残すことで、後から問題が生じたときに事実を確認できるようにしています。監督行政庁が業務の実態を把握する手がかりにもなります。

    目的が違うので、扱いも違います。人物を確かめるための名簿は取引の関係者に閲覧させる必要がありますが、取引の記録である帳簿には他の取引の内容が含まれるため、閲覧させる制度になっていません。この違いは丸暗記するより、目的から導けるようにしておくほうが忘れません。

    すべて宅地建物取引業者の義務

    3つとも、条文の主語は宅地建物取引業者です。宅地建物取引士個人の義務ではありません。

    このため、違反があったときに監督処分を受けるのも罰則の対象になるのも業者です。宅建士が名簿に記載されるのは、名簿の記載事項に宅建士であるか否かの別が含まれているからであって、宅建士自身が何かを備える義務を負っているわけではありません。宅建士側の義務は宅建士の登録と宅建士証で扱っています。

    従業者証明書

    携帯させなければ業務に従事させられない

    宅地建物取引業法48条1項は、宅地建物取引業者は国土交通省令の定めるところにより、従業者に、その従業者であることを証する証明書を携帯させなければ、その者をその業務に従事させてはならないと定めています。

    条文の構造を確認してください。義務を負うのは業者で、内容は「携帯させる」ことです。そして効果は「携帯させなければ業務に従事させてはならない」という形で書かれています。証明書を持たせないまま業務をさせること自体が違反になるということです。

    対象は従業者全員

    ここで最も問われるのが対象の範囲です。48条1項は「従業者」としか書いておらず、宅地建物取引士であるかどうかを区別していません。したがって、宅建士資格を持たない従業者にも証明書を携帯させる必要があります。

    さらに範囲は広く解されています。国土交通省の「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」は、従業者には代表者も含まれ、また非常勤の役員や、単に一時的に事務の補助をする者も含まれるとしています。つまり、社長も、たまに手伝いに来る人も、証明書を携帯していなければ業務に従事させられません。

    「宅建士は宅建士証を携帯していれば従業者証明書は不要」「役員は従業者ではないので不要」「アルバイトは対象外」といった選択肢は、いずれも誤りです。

    「従業者」の範囲をどう考えるか

    対象が広いといっても、際限なく広いわけではありません。判断の基準は、その宅地建物取引業者の指揮命令のもとで宅地建物取引業の業務に従事しているかどうかです。

    したがって、正社員であるか、契約社員であるか、パートやアルバイトであるかは関係ありません。雇用形態ではなく、実際にその業者の業務に従事しているかどうかで決まります。同じ理由で、代表者や役員も、業務に従事する以上は対象になります。

    一方、その業者の業務に従事していない者は含まれません。取引先の担当者、清掃や設備の保守のために出入りする業者、単なる来訪者は従業者ではありません。

    退職した場合は、その時点で従業者ではなくなるので、証明書を回収することになります。名簿には従業者でなくなった年月日を記載しますが、記載を消すのではなく、退職した事実を残す形です。名簿が過去の在籍者も含めた記録であることは、10年間の保存義務とつながっています。

    記載事項と交付者

    従業者証明書は宅地建物取引業者が作成して交付します。都道府県知事が交付するものではありません。ここは宅建士証との決定的な違いです。

    記載されるのは、従業者の氏名、生年月日、主たる職務内容、証明書の番号、宅地建物取引業者の商号または名称、免許証番号、主たる事務所の所在地、有効期間の満了する日、そして本人の写真です。証明書の番号が付されている点が、次に述べる名簿との対応関係を作っています。

    提示は請求があったとき

    48条2項は、宅地建物取引業者の従業者は、取引の関係者の請求があったときは、証明書を提示しなければならないと定めています。

    請求があったときの義務です。自分から提示する義務ではありません。ここで、重要事項の説明にあたって請求がなくても宅建士証を提示しなければならないとする35条4項と混同しないでください。

    宅建士証で代えることはできない

    従業者証明書と宅建士証は別の制度です。したがって、宅建士証を提示することで従業者証明書の提示に代えることはできません。逆に、従業者証明書を提示しても、重要事項説明の場面で求められる宅建士証の提示を果たしたことにはなりません。

    違いを整理すると、交付するのは業者と知事、携帯義務があるのは証明書だけ、提示は証明書が請求時のみで宅建士証は請求時と重要事項説明時の両方、対象は証明書が従業者全員で宅建士証は宅建士だけ、ということになります。提示義務の全体像は宅建業者と宅建士の義務で扱っています。

    従業者名簿

    事務所ごとに備える

    48条3項は、宅地建物取引業者は国土交通省令の定めるところにより、その事務所ごとに従業者名簿を備え、従業者の氏名、従業者証明書の番号その他国土交通省令で定める事項を記載しなければならないと定めています。

    単位は事務所ごとです。本店にまとめて1冊置けばよいというものではなく、支店には支店の名簿が必要です。そして後述するとおり、事務所以外の場所、たとえば案内所には備える必要がありません。

    記載事項は7つ、住所は入らない

    記載事項は施行規則17条の2が定めており、次の7つです。

    第一に、従業者の氏名。第二に、従業者証明書の番号。第三に、生年月日。第四に、主たる職務内容。第五に、宅地建物取引士であるか否かの別。第六に、当該事務所の従業者となった年月日。第七に、当該事務所の従業者でなくなったときは、その年月日。

    ここで頻出なのが、住所が記載事項に含まれていないという点です。「従業者名簿には従業者の住所を記載しなければならない」という選択肢は誤りになります。

    理由も理解しておくと確実です。名簿は取引の関係者の閲覧に供されるものなので、そこに個人の住所まで載せる必要はありません。誰がその事務所の従業者なのかを確かめられれば足りるからです。同じ理由で、証明書の番号と氏名で本人が特定できるようになっています。

    もう一点、宅地建物取引士であるか否かの別が記載事項になっているのは、その人が重要事項の説明などの事務を行える立場かどうかを、取引の相手方が確認できるようにするためです。宅建士でなければできない事務については宅建士の独占業務を参照してください。

    保存は最終の記載をした日から10年間

    保存期間は、最終の記載をした日から10年間です。

    起算点に注意してください。従業者が退職した日でも、名簿を作成した日でもなく、その名簿に最後に記載をした日です。従業者の入退社があるたびに記載が加わるので、記載が続いているかぎり起算点は先送りされます。

    そして10年という期間は、後述する帳簿の5年と対になって問われます。「従業者名簿の保存期間は5年である」という選択肢は誤りです。

    取引の関係者から請求があれば閲覧させる

    48条4項は、宅地建物取引業者は取引の関係者から請求があったときは、従業者名簿をその者の閲覧に供しなければならないと定めています。

    閲覧を請求できるのは取引の関係者です。取引と無関係の第三者に閲覧させる義務はありません。また、閲覧させる義務であって、写しを交付する義務ではありません。

    この閲覧義務があることが、名簿と帳簿を分ける最大の特徴です。

    「取引の関係者」とは誰か

    閲覧を請求できる「取引の関係者」の範囲も確認しておきます。これは従業者証明書の提示を請求できる者(48条2項)と同じ表現です。

    含まれるのは、その取引の当事者となる者、たとえば売買であれば売主と買主、貸借であれば貸主と借主、そしてこれらの代理人や、同じ取引に関与している他の宅地建物取引業者です。取引をしようとしている段階の者、たとえば物件を検討して問い合わせをしている買主候補も含まれると考えられます。

    含まれないのは、その取引と関係のない第三者です。近隣住民、報道関係者、競合他社の担当者といった立場の人に、閲覧させる義務はありません。制度の目的が、取引をしようとしている人が相手方の実体を確かめられるようにすることにあるからです。

    電磁的方法による備付け

    名簿は紙でなければならないわけではありません。国土交通大臣が定める基準に適合する電磁的方法によって記録し、必要に応じて紙面に表示できる状態であれば、それをもって名簿への記載に代えることができるとされています。パソコン上のデータで管理している事務所も一般的です。

    閲覧させる場面では、ディスプレイ上に表示するか印刷して見せることになります。電子化されても、備える義務と閲覧させる義務がなくなるわけではありません。

    帳簿

    事務所ごとに備え、取引のあったつど記載する

    49条は、宅地建物取引業者は国土交通省令の定めるところにより、その事務所ごとに、その業務に関する帳簿を備え、宅地建物の取引のあったつど、その年月日、その取引に係る宅地または建物の所在および面積その他国土交通省令で定める事項を記載しなければならないと定めています。

    備える単位は名簿と同じく事務所ごとです。異なるのは記載のタイミングで、帳簿は「取引のあったつど」記載します。まとめて期末に書けばよいというものではありません。名簿が従業者の入退社に応じて記載されるのに対し、帳簿は取引ごとに記載される、という違いです。

    なお、実務ではこの帳簿を取引台帳と呼ぶことがあります。同じものを指しています。

    記載事項

    記載事項は施行規則18条が定めています。主なものは次のとおりです。

    取引のあった年月日。取引に係る宅地または建物の所在および面積。取引の態様、すなわち自ら売主となったのか、代理なのか、媒介なのかの別。取引の相手方および取引の各当事者の氏名または商号もしくは名称。取引に関与した他の宅地建物取引業者の商号または名称。取引に係る宅地建物の売買金額、報酬の額または交換した宅地建物の価額。そして取引に関する特約その他参考となる事項です。

    このほか、宅地建物取引業者が自ら売主となる新築住宅に係るものについては、資力確保措置に関する事項の記載が求められています。

    報酬の額が記載事項に含まれている点は覚えておく価値があります。報酬額の制限(46条)に違反していないかを確認する材料になるからです。報酬の計算については報酬額の制限で扱っています。

    記載事項が何を確認可能にしているか

    帳簿の記載事項は、それぞれが確認の手がかりになるように選ばれています。

    報酬の額が記載事項に含まれているのは、46条2項が定める上限を超えて報酬を受領していないかを確かめられるようにするためです。取引に係る売買金額もあわせて記載されるので、金額と報酬を照合すれば計算の当否が判定できます。

    取引の態様が記載事項に含まれているのは、自ら売主となったのか媒介にすぎないのかで、適用される規律が変わるからです。自ら売主であれば8種制限がかかりますし、自ら売主となる新築住宅であれば資力確保措置の義務も生じます。後述する保存期間の例外も、この態様の記載と結びついています。

    取引に関与した他の宅地建物取引業者の商号または名称が記載されるのは、複数業者が関与した取引で、報酬の総額が上限に収まっているかを確認するためです。報酬の総枠は取引全体で判定されるので、関与業者が分からなければ判断できません。

    このように、記載事項を丸暗記するのではなく、何を確認可能にするための項目かという観点で見ると、覚える負担が減ります。

    各事業年度の末日に閉鎖し、閉鎖後5年間

    保存の仕組みは名簿と違います。施行規則18条3項により、帳簿は各事業年度の末日をもって閉鎖するものとされ、閉鎖後5年間保存しなければなりません。

    つまり、起算点が「閉鎖した日」です。名簿の「最終の記載をした日」とは考え方が違います。帳簿は事業年度という区切りで締めるので、期末で一度閉じて、そこから5年数えるという構造になっています。

    そして例外があります。宅地建物取引業者が自ら売主となる新築住宅に係るものについては、閉鎖後10年間の保存が必要です。この10年は、品確法95条が新築住宅の売主に課している引渡しから10年間の瑕疵担保責任に対応しています。責任が続いている間は取引の記録も残しておく、という発想です。関連する制度は住宅瑕疵担保履行法で扱っています。

    閲覧義務はない

    帳簿については、48条4項に相当する規定がありません。したがって、取引の関係者から請求があっても、閲覧させる義務はありません。

    理由は明快です。帳簿には他の取引の当事者の氏名、金額、報酬額といった情報が記載されています。これを第三者に見せることは、他の顧客の情報を開示することになってしまいます。

    「帳簿は取引の関係者の請求があれば閲覧させなければならない」という選択肢は誤りです。閲覧義務があるのは名簿だけ、と覚えてください。

    なお、帳簿も名簿と同様に、国土交通大臣が定める基準に適合する電磁的方法による記録が認められています。

    名簿と帳簿の違いを4軸で押さえる

    出題の中心はここなので、軸を決めて整理します。

    軸1 何を記録するか

    名簿は人の記録です。誰がその事務所の従業者で、いつからいつまで在籍し、宅建士かどうかを記録します。帳簿は取引の記録です。どの物件について、いつ、誰と、どういう態様で取引し、いくら受け取ったかを記録します。

    この違いが、以下の3軸すべての違いを生んでいます。

    軸2 記載のタイミング

    名簿は従業者の異動に応じて記載します。従業者になったとき、従業者でなくなったときに記載が発生します。帳簿は取引のあったつど記載します。

    したがって、取引がまったくない期間でも従業者の入退社があれば名簿の記載は動きますし、従業者に変動がなくても取引があれば帳簿の記載は増えます。

    軸3 保存期間と起算点

    名簿は最終の記載をした日から10年間。帳簿は各事業年度の末日をもって閉鎖し、閉鎖後5年間、ただし自ら売主となる新築住宅に係るものは10年間。

    年数だけでなく起算点が違うことに注意してください。「最終の記載をした日から」と「閉鎖後」です。年数を入れ替える選択肢だけでなく、起算点を入れ替える選択肢も作られます。

    軸4 閲覧義務

    名簿にはあり、帳簿にはありません。名簿は人を確かめるためのもので、帳簿は取引の記録だからです。

    4軸の要点

    • 名簿は人の記録、帳簿は取引の記録
    • 名簿は異動のつど、帳簿は取引のつど記載する
    • 名簿は最終記載日から10年、帳簿は閉鎖後5年(自ら売主の新築住宅は10年)
    • 閲覧義務があるのは名簿だけ

    事務所と、それ以外の場所

    備付けや掲示の義務は、場所によって必要なものが変わります。ここも頻出です。

    そもそも「事務所」とは何か

    備付けの単位が事務所である以上、何が事務所にあたるのかが先に決まらなければなりません。

    宅地建物取引業法施行令1条の2は、事務所を2つの類型で定めています。ひとつが本店または支店です。もうひとつが、これ以外で継続的に業務を行うことができる施設を有する場所のうち、宅地建物取引業に係る契約を締結する権限を有する使用人を置くものです。

    後者の要件は2つあります。継続的に業務を行うことができる施設であること、つまりテントやプレハブのような一時的なものではないこと。そして契約締結権限を有する使用人が置かれていることです。どちらか一方だけでは事務所になりません。

    本店については注意点があります。本店で宅地建物取引業を営んでいなくても、支店で営んでいれば本店も事務所として扱われます。本店は全体を統括する立場にあるためです。逆に、支店で宅地建物取引業を営んでいなければ、その支店は事務所にあたりません。事務所の要件そのものは事務所の設置要件で詳しく扱っています。

    事務所に必要なもの

    事務所には次のものが必要です。専任の宅地建物取引士を業務に従事する者5人に1人以上の割合で置くこと(31条の3第1項、施行規則15条の5の3)。従業者名簿を備えること(48条3項)。帳簿を備えること(49条)。標識を掲げること(50条1項)。報酬の額を掲示すること(46条4項)。

    この5つが事務所に求められる基本のセットです。事務所そのものの要件は事務所の設置要件で扱っています。

    標識だけは事務所以外にも必要

    50条1項は、宅地建物取引業者は事務所等および事務所等以外の国土交通省令で定めるその業務を行う場所ごとに、公衆の見やすい場所に標識を掲げなければならないと定めています。

    つまり標識は、事務所に限らず、案内所、モデルルーム、展示会場といった業務を行う場所すべてに必要です。契約行為等を行うかどうかも問いません。5つのうち標識だけが場所の範囲が広い、という点を押さえてください。

    標識に何が書かれているか

    標識は業者票とも呼ばれ、記載事項が省令で定められています。免許証番号、免許の有効期間、商号または名称、代表者の氏名、主たる事務所の所在地などが記載され、事務所用と、事務所以外の業務を行う場所用とで様式が分かれています。事務所に掲げるものには、その事務所の専任の宅地建物取引士の氏名も記載されます。

    標識が果たしているのは、その場所で業務を行っているのが誰なのかを外から見えるようにする機能です。従業者証明書が人について同じ機能を果たしているのと対応しています。人については証明書と名簿、場所については標識、という対応で覚えると整理しやすくなります。

    なお、標識の掲示を怠ることも監督処分と罰則の対象です。掲示する場所が「公衆の見やすい場所」とされている点も、外から確認できることを目的としているという趣旨から導けます。

    案内所には名簿も帳簿も要らない

    裏返すと、従業者名簿と帳簿は事務所にだけ備えればよく、案内所に備える必要はありません。報酬額の掲示も事務所だけです。

    「案内所にも従業者名簿を備えなければならない」「案内所にも報酬額を掲示しなければならない」という選択肢は、いずれも誤りです。

    案内所で必要になるもの

    案内所で追加的に必要になるのは、契約の締結や申込みの受付を行う場合です。この場合、専任の宅地建物取引士を1人以上置く必要があり、あわせて50条2項により、業務を開始する日の10日前までに、免許を受けた国土交通大臣または都道府県知事および所在地を管轄する都道府県知事に届け出なければなりません。

    事務所は5人に1人、契約行為等を行う案内所は1人以上。この人数の違いも問われます。専任の宅建士の要件は専任の宅建士にまとめてあります。

    備える義務を支えている仕組み

    名簿や帳簿を備えていても、誰も確認しなければ制度は形だけになります。これを支えているのが立入検査の権限です。

    宅地建物取引業法72条1項は、国土交通大臣または都道府県知事が、宅地建物取引業を営むすべての者に対してその業務について必要な報告を求め、またはその職員に、事務所その他その業務を行う場所に立ち入り、帳簿、書類その他業務に関係のある物件を検査させることができると定めています。

    条文が「帳簿、書類」を名指ししていることに注目してください。備付けの義務は、行政庁がいつでも実物を確認できることを前提に置かれています。取引のあったつど記載せよという49条の要求も、後からまとめて作れば足りるという運用を許さない趣旨だと理解できます。

    なお、この立入検査の権限は犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならないとされています。行政上の監督のための権限であって、刑事手続とは別のものだという整理です。

    違反したときどうなるか

    監督処分

    48条や49条の義務に違反した場合、宅地建物取引業者は監督処分の対象になります。指示処分、業務停止処分、情状が特に重いときは免許取消処分という段階は、宅地建物取引業法上の他の違反と同じです。処分の要件と手続は監督処分の種類と手続で扱っています。

    罰則

    これらの義務違反には罰則もあります。83条は、48条1項に違反した者、48条3項の規定に違反して従業者名簿を備えずもしくは同項に規定する事項を記載せずもしくは虚偽の記載をした者、そして49条の規定による帳簿を備え付けずもしくは同条に規定する事項を記載せずもしくは虚偽の記載をした者を、50万円以下の罰金に処すると定めています。

    条文の書きぶりから分かるとおり、備えないことだけでなく、必要な事項を記載しないこと、虚偽の記載をすることも同じく罰則の対象です。「備えてさえいれば記載漏れは問題ない」ということにはなりません。罰則の全体像は宅建業法の罰則一覧で確認できます。

    試験での出題ポイント

    名簿と帳簿を入れ替える

    閲覧義務の有無、保存期間、起算点。この3つを入れ替えた選択肢が最も多く出ます。「帳簿は取引の関係者の請求があれば閲覧させなければならない」「従業者名簿は各事業年度の末日をもって閉鎖する」といった形です。

    住所を記載事項に加える

    従業者名簿の記載事項に住所を紛れ込ませる型です。記載事項は氏名、従業者証明書の番号、生年月日、主たる職務内容、宅地建物取引士であるか否かの別、従業者となった年月日、従業者でなくなった年月日の7つで、住所は含まれません。

    従業者証明書の対象を狭める

    「宅地建物取引士は宅建士証があるので従業者証明書は不要」「代表者は従業者ではないので不要」「一時的に事務を補助するだけの者は不要」。いずれも誤りです。宅建士かどうかを問わず、代表者も非常勤役員も一時的な補助者も対象です。

    交付者を入れ替える

    従業者証明書を交付するのは宅地建物取引業者、宅建士証を交付するのは都道府県知事です。「従業者証明書は都道府県知事が交付する」という選択肢は誤りです。

    提示の要件を入れ替える

    従業者証明書は取引の関係者の請求があったときに提示します。宅建士証は、取引の関係者から請求があったときに加えて、重要事項の説明をするときには請求がなくても提示します。この非対称を反転させた選択肢が出ます。

    場所を入れ替える

    名簿と帳簿と報酬額の掲示は事務所のみ、標識は業務を行う場所ごと。案内所に名簿や帳簿を備える必要はありません。5つのうち標識だけが範囲が広い、という構造で覚えてください。

    義務の主体を入れ替える

    3つとも条文の主語は宅地建物取引業者です。「宅地建物取引士は、その事務所ごとに従業者名簿を備えなければならない」「専任の宅地建物取引士は帳簿を備え付けなければならない」といった記述は、主語をすり替えた誤りになります。

    宅建士が登場するのは、名簿の記載事項に宅地建物取引士であるか否かの別が含まれている場面だけです。宅建士自身が何かを備えたり携帯させたりする義務は負っていません。従業者証明書についても、携帯させる義務を負うのは業者で、48条2項の提示だけが従業者の行為として書かれています。主体の切り分けは宅建業者と宅建士の義務で整理しています。

    動詞を入れ替える

    条文が使っている動詞は3つとも違います。従業者証明書は「携帯させる」、名簿と帳簿は「備える」、標識は「掲げる」、報酬額は「掲示する」。

    この違いが選択肢に反映されます。「従業者名簿を従業者に携帯させなければならない」「標識を事務所に備えなければならない」といった形で、動詞を入れ替えた記述が作られます。動詞は義務の内容そのものを表しているので、記憶するときは名詞と動詞をセットにしてください。

    新築住宅の10年

    帳簿の保存期間について、宅地建物取引業者が自ら売主となる新築住宅に係るものだけが10年です。「新築住宅の売買を媒介した場合も10年」という選択肢は、自ら売主である場合という限定を外しており誤りです。数字の整理は宅建業法の数字まとめで横断的に確認できます。

    覚え方・整理の仕方

    「人か取引か」から降ろす

    名簿は人の記録、帳簿は取引の記録。ここから、記載のタイミングも、閲覧義務の有無も導けます。人を確かめるための名簿は見せる必要があるが、取引の記録である帳簿は他の顧客の情報を含むので見せられない。理由から思い出せる形にしておけば、閲覧義務の有無で迷いません。

    数字は起算点とセットで覚える

    10年と5年という数字だけを覚えると、どちらがどちらか分からなくなります。「名簿は最終記載日から10年」「帳簿は閉鎖後5年」と、起算点まで含めた一文で覚えてください。起算点が違うこと自体が出題対象になります。

    そして帳簿の例外は「自ら売主となる新築住宅は10年」です。この10年が品確法の10年責任から来ていることを知っていれば、なぜ自ら売主の場合に限られるのかも納得できます。売主でなければ10年責任を負わないからです。

    3つを主語で確認する

    従業者証明書は「業者が従業者に携帯させる」、名簿は「業者が事務所ごとに備える」、帳簿は「業者が事務所ごとに備える」。主語はすべて業者です。証明書の提示だけが従業者の行為として書かれています(48条2項)。誰の行為として条文が書かれているかを確認する癖をつけてください。

    10年が2回出てくることに注意する

    この分野には10年が2回登場します。ひとつが従業者名簿の保存期間、もうひとつが帳簿の例外、すなわち宅地建物取引業者が自ら売主となる新築住宅に係るものの保存期間です。

    同じ10年でも、由来がまったく違います。名簿の10年は人の在籍記録をどれだけ残すかという話で、帳簿の10年は品確法の瑕疵担保責任が10年続くことに合わせたものです。混ざりやすいので、「名簿の10年は無条件、帳簿の10年は自ら売主の新築住宅に限る条件つき」と区別して覚えてください。

    そして帳簿の原則はあくまで5年です。「帳簿の保存期間は10年」とだけ覚えていると、条件のない選択肢で誤ります。

    3つは番号でつながっている

    従業者証明書、従業者名簿、帳簿はばらばらの制度に見えますが、証明書と名簿は明確につながっています。名簿の記載事項に「従業者証明書の番号」が含まれているからです。

    取引の相手方が従業者証明書の提示を受け、そこに記載された番号を名簿で照合すれば、その人物が本当にその事務所の従業者であることを確かめられます。証明書だけでは業者が勝手に作ったものかもしれず、名簿だけでは目の前の人物と結びつきません。2つがそろって機能する設計です。

    この関係を知っていると、なぜ名簿に証明書の番号が載るのか、なぜ名簿を閲覧させる必要があるのかが同時に理解できます。帳簿だけが取引の記録という別系統にある、という位置づけも見えてきます。

    事務所の5点セットを一列に

    専任の宅建士、従業者名簿、帳簿、標識、報酬額の掲示。この5つを事務所に必要なものとして一列に並べ、そのうえで例外を2つ足します。標識だけは事務所以外の業務を行う場所にも必要。契約行為等を行う案内所には専任の宅建士1人以上と50条2項の届出が必要。5つと例外2つ、という形で覚えるのが最も速い整理です。宅建業法全体での位置づけは宅建業法の全体像で俯瞰できます。

    理解度チェッククイズ

    Q1. 従業者名簿には、従業者の氏名、住所、生年月日、主たる職務内容などを記載しなければならない。(○か×か)

    答えを見る×:住所は記載事項に含まれていません。施行規則17条の2が定める記載事項は、従業者の氏名、従業者証明書の番号、生年月日、主たる職務内容、宅地建物取引士であるか否かの別、当該事務所の従業者となった年月日、当該事務所の従業者でなくなったときはその年月日の7つです。名簿は取引の関係者の閲覧に供されるものなので、個人の住所まで載せる必要がないという整理です。

    Q2. 宅地建物取引業者は、取引の関係者から請求があったときは、事務所に備える帳簿をその者の閲覧に供しなければならない。(○か×か)

    答えを見る×:閲覧義務があるのは従業者名簿だけです(48条4項)。帳簿にはこれに相当する規定がありません。帳簿には他の取引の当事者の氏名や報酬の額が記載されているため、第三者に見せる制度になっていないのです。保存期間も異なり、名簿は最終の記載をした日から10年間、帳簿は各事業年度の末日をもって閉鎖した後5年間(宅地建物取引業者が自ら売主となる新築住宅に係るものは10年間)です。

    Q3. 宅地建物取引士である従業者については、宅地建物取引士証を携帯させていれば、従業者証明書を携帯させる必要はない。(○か×か)

    答えを見る×:48条1項は宅地建物取引士であるかどうかを区別しておらず、従業者全員に従業者証明書を携帯させなければ業務に従事させてはならないとしています。国土交通省の解釈・運用の考え方によれば、代表者や非常勤の役員、単に一時的に事務の補助をする者も含まれます。従業者証明書は宅地建物取引業者が交付するもの、宅建士証は都道府県知事が交付するもので、別の制度であり相互に代替できません。

    Q4. 宅地建物取引業者は、契約の締結を行う案内所を設置した場合、その案内所に従業者名簿と帳簿を備えなければならない。(○か×か)

    答えを見る×:従業者名簿(48条3項)も帳簿(49条)も、備えるのは事務所ごとであり、案内所には備える必要がありません。報酬額の掲示(46条4項)も事務所のみです。一方、標識の掲示(50条1項)は事務所以外の業務を行う場所にも必要です。契約の締結や申込みの受付を行う案内所については、専任の宅地建物取引士を1人以上置くことと、業務開始の10日前までに免許権者および所在地を管轄する都道府県知事へ届け出ること(50条2項)が求められます。

    Q5. 宅地建物取引業者が自ら売主として新築住宅を販売した取引に係る帳簿は、閉鎖後10年間保存しなければならない。(○か×か)

    答えを見る○:帳簿は各事業年度の末日をもって閉鎖し、閉鎖後5年間保存するのが原則ですが、宅地建物取引業者が自ら売主となる新築住宅に係るものについては閉鎖後10年間の保存が必要です(施行規則18条)。この10年は、品確法95条が新築住宅の売主に課している引渡しから10年間の瑕疵担保責任に対応しています。なお、新築住宅の売買を媒介したにすぎない場合は自ら売主ではないため、原則どおり5年間です。

    まとめ

    従業者証明書、従業者名簿、帳簿は、いずれも宅地建物取引業者の義務です。証明書は従業者全員に携帯させるもので、宅建士かどうかを問わず、代表者や一時的な補助者も対象になります。交付するのは業者であり、宅建士証で代えることはできません。

    名簿と帳簿の違いは4軸で押さえてください。名簿は人の記録で異動のつど記載し、最終の記載をした日から10年間保存し、取引の関係者から請求があれば閲覧させる義務があります。帳簿は取引の記録で取引のあったつど記載し、各事業年度の末日に閉鎖して5年間(自ら売主となる新築住宅は10年間)保存し、閲覧義務はありません。

    場所の違いも問われます。名簿、帳簿、報酬額の掲示、専任の宅建士は事務所に必要なもので、標識だけが事務所以外の業務を行う場所にも必要です。案内所には名簿も帳簿も備える必要がなく、契約行為等を行う場合に専任の宅建士1人以上と50条2項の届出が加わります。

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