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従業者名簿と帳簿|記載事項と保存期間

宅建業法 読了 約47分

従業者証明書・従業者名簿・帳簿を条文根拠つきで整理。記載事項、記載の契機、保存期間の起算点、閲覧義務、電磁的記録、罰則と監督処分の非対称、令和7年4月の記載事項改正まで解説します。

目次

    この記事は、宅地建物取引業者が事務所に備え、従業者に携帯させる3つの制度、すなわち従業者証明書、従業者名簿、帳簿を各論として扱うものです。義務の主体が宅地建物取引業者なのか宅地建物取引士なのかという切り分けの全体像は宅建業者と宅建士の義務で扱っているので、ここでは記載事項、記載の契機、保存期間、閲覧義務、そして違反したときの効果といった細部に入ります。

    結論を先に述べます。3つはいずれも宅地建物取引業者の義務であり、宅建士個人の義務ではありません。そして試験で問われるのは、名簿と帳簿の違いに集約されます。備えるのはどちらも事務所ごとですが、閲覧義務があるのは名簿だけ、保存期間は名簿が最終の記載をした日から10年、帳簿が各事業年度の末日に閉鎖した後5年(宅地建物取引業者が自ら売主となる新築住宅に係るものは10年)です。この2軸を先に固定してから、それぞれの記載事項に入るのが効率的です。

    そしてもうひとつ、令和8年度の受験者は先に知っておくべきことがあります。従業者名簿の記載事項は令和7年4月1日に変わりました。令和6年国土交通省令第70号により、宅地建物取引業法施行規則17条の2第1項1号にあった「生年月日」が削除され、同項は5号構成から4号構成になっています。e-Govの法令データで、同じ省令に基づく令和7年1月1日施行版(生年月日あり)と令和7年4月1日施行版(生年月日なし)を条文単位で突き合わせて確認しました。令和8年度試験の基準日である2026年4月1日時点でも削除されたままですから、「従業者名簿の記載事項は生年月日を含めて7つ」と書いてある教材は、この点について古くなっています。改正の全体像は令和8年度に影響する法改正まとめで確認してください。

    3つの制度は条文のどこに置かれているか

    位置が性質を語っている

    宅地建物取引業法は、免許(3条以下)、宅建士(15条以下)、営業保証金(25条以下)と続いて、31条から「業務」の章に入ります。31条の業務処理の原則から始まり、広告規制(32条から34条)、媒介契約(34条の2)、重要事項説明(35条)、37条書面、8種制限(37条の2から43条)、報酬(46条)、禁止行為(47条)と進み、その最後に48条(証明書の携帯等)、49条(帳簿の備付け)、50条(標識の掲示等)が並んでいます。

    この並び順には意味があります。35条や37条は個々の取引について何をせよという規律ですが、48条から50条は、個々の取引ではなく事業の体制そのものに向けられた規律です。誰が業務をしているのか、どんな取引をしてきたのか、そこで誰が営業しているのか。取引の中身ではなく、業者の側の可視性を確保するための規定が3つ並んでいる、と理解してください。宅建業法全体の設計は宅建業法の全体像で俯瞰できます。

    目的から分けると2系統になる

    3つの制度は、目的で見ると2系統に分かれます。

    第一の系統が、誰が業務をしているのかを明らかにするものです。従業者証明書と従業者名簿がこれにあたります。不動産取引では、訪問してきた人物が本当にその会社の従業者なのかを、取引の相手方が確かめる手段が必要です。名刺は誰でも作れますが、従業者証明書は宅地建物取引業者が交付するもので、名簿と番号で対応がとれています。

    第二の系統が、取引の記録を残すものです。帳簿がこれにあたります。どの物件について、いつ、誰との間で、どういう態様の取引をし、いくらの報酬を受けたのかを残すことで、後から問題が生じたときに事実を確認できるようにしています。監督行政庁が業務の実態を把握する手がかりにもなります。

    目的が違うので、扱いも違います。人物を確かめるための名簿は取引の関係者に閲覧させる必要がありますが、取引の記録である帳簿には他の取引の内容が含まれるため、閲覧させる制度になっていません。この違いは丸暗記するより、目的から導けるようにしておくほうが忘れません。

    すべて宅地建物取引業者の義務

    3つとも、条文の主語は宅地建物取引業者です。宅地建物取引士個人の義務ではありません。

    このため、違反があったときに監督処分を受けるのも罰則の対象になるのも業者です。宅建士が名簿に記載されるのは、名簿の記載事項に宅建士であるか否かの別が含まれているからであって、宅建士自身が何かを備える義務を負っているわけではありません。宅建士側の義務は宅建士の登録と宅建士証で扱っています。

    例外がひとつだけあります。48条2項の提示義務です。ここだけ主語が「従業者」になっており、業者ではなく従業者本人の行為として書かれています。後述するとおり、この提示義務には罰則も監督処分の列挙もありません。条文が誰を名宛人にしているかを読む訓練としては、48条は格好の素材です。同じ視点で条文を読む練習は宅建士の独占業務3つでもしています。

    業者間取引でも外れない

    宅地建物取引業法78条2項は、33条の2および37条の2から43条までの規定は宅地建物取引業者相互間の取引については適用しないと定めています。つまり8種制限は業者間で外れます。

    しかし48条と49条はこの列挙に入っていません。相手方が宅地建物取引業者であっても、証明書を携帯させる義務も、名簿と帳簿を備える義務も、そのまま働きます。「業者間取引だから帳簿の記載は要らない」という選択肢は誤りです。8種制限が外れる範囲の正確な線引きは8種制限が適用されない場合を参照してください。

    なお78条1項は、この法律の規定は国および地方公共団体には適用しないと定めています。国や地方公共団体が取引の当事者になる場合の扱いと、業者間取引の扱いは別の話です。ここを混ぜないでください。

    従業者証明書は何をどこまで求めているか

    携帯させなければ業務に従事させられない

    宅地建物取引業法48条1項は、宅地建物取引業者は国土交通省令の定めるところにより、従業者に、その従業者であることを証する証明書を携帯させなければ、その者をその業務に従事させてはならないと定めています。

    条文の構造を確認してください。義務を負うのは業者で、内容は「携帯させる」ことです。そして効果は「携帯させなければ、その者をその業務に従事させてはならない」という形で書かれています。証明書を持たせないまま業務をさせること自体が違反になる、という書きぶりです。

    この書き方は、単に「携帯させなければならない」と書くのに比べて義務が重くなっています。携帯させていないことと、業務に従事させたことの両方が違反の要素になるからです。逆に言えば、業務に従事させていない者について証明書を交付しなくても48条1項違反にはなりません。

    交付するのは業者、様式は別記様式第八号

    従業者証明書は宅地建物取引業者が作成して交付します。都道府県知事が交付するものではありません。ここは宅建士証との決定的な違いです。

    様式は施行規則17条が定めており、別記様式第八号によるものとされています。宅建業法の書類には様式が省令で定められているものと定められていないものがあり、証明書は前者です。

    様式第八号の表に何が並んでいるか

    様式第八号の表面には、次の欄が置かれています。従業者証明書番号。従業者氏名と、その下のかっこ内に生年月日。縦3.0センチメートル、横2.4センチメートルの写真と、その撮影年月。業務に従事する事務所の名称および所在地。証明書の有効期間の始期と終期。免許証番号。商号または名称。主たる事務所の所在地。代表者氏名。そして「この者は、宅地建物取引業者の従業者であることを証明します」という文言です。

    ここから2つのことが読み取れます。

    第一に、「主たる職務内容」も「宅地建物取引士であるか否かの別」も、証明書の様式には入っていません。これらは後述する従業者名簿の記載事項です。証明書と名簿の記載事項を混ぜた選択肢が作られるので、どちらに何が載るのかを分けて覚えてください。

    第二に、生年月日は証明書には残っています。従業者名簿からは令和7年4月1日に削除されましたが、証明書の様式では氏名の下に生年月日を書く欄がそのまま置かれています。同じ改正で名簿と証明書の扱いが分かれた、という形です。

    証明書番号の付け方と有効期間

    様式第八号の備考には、実務上の細かい定めが置かれています。

    証明書番号は、第1けたと第2けたにその従業者が雇用された年の西暦下2けた、第3けたと第4けたに雇用された月(1月から9月までは第3けたを0とする)、第5けた以下に従業者ごとに重複がないように付した番号を記載することとされています。番号を見れば入社の年月が分かる設計です。

    有効期間は5年以下とすることとされています。宅建士証の有効期間が5年である(22条の2第3項)のと数字は同じですが、こちらは「5年以下」という上限の定め方です。事業者が5年より短い期間を定めることもできます。

    さらに、業務に従事する事務所に変更があったときは裏面に変更後の内容を記入すること、従業者の現住所等必要な事項がある場合には裏面に記入すること、用紙の色彩は青色以外とすることが備考に定められています。住所は表面の必須欄ではなく、必要がある場合に裏面に書く扱いです。

    一時的に従事する者の有効期間は従事期間限り

    国土交通省の「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」(令和8年4月1日施行版)は、48条1項関係として、単に一時的に業務に従事する者に携帯させる証明書の有効期間については、他の者と異なり、業務に従事する期間に限って発行することとする、としています。

    つまり、繁忙期だけ手伝う人に5年間有効の証明書を出すのではなく、その期間だけの証明書を出すという運用です。ここから逆に、一時的な従事者も証明書の交付対象であることが確認できます。交付対象でなければ有効期間の話が出てきません。

    同じ箇所は、従業者証明書を発行した者についてはすべて従業者名簿に記載するとともに、従業者証明書を携帯していない者が業務に従事することのないよう、すべての者が携帯することとする、としています。証明書の交付と名簿への記載が1対1で対応することが、ここで明言されています。

    旧姓の併記

    解釈・運用の考え方は、証明書についても名簿についても、氏名の旧姓使用を希望する者については旧姓を併記してよいこととする、としています。ただし、業務の混乱および取引の相手方等の誤認を避けるため、恣意的に現姓と旧姓を使い分けることは厳に慎むべきこととする、という留保が付いています。

    宅建士証についても同様の取扱いが認められており、名前をめぐる扱いは制度をまたいで揃えられています。

    「従業者」の範囲をどこで切るか

    解釈・運用の考え方が示す3階建ての範囲

    48条1項は「従業者」としか書いておらず、宅地建物取引士であるかどうかを区別していません。したがって宅建士資格を持たない従業者にも証明書を携帯させる必要があります。しかし本当の論点は、そこから先の範囲です。

    解釈・運用の考え方は、証明書を携帯させるべき者の範囲を次のように示しています。代表者(いわゆる社長)を含み、かつ、専任の宅地建物取引士の設置基準(法31条の3第1項)における従事者の範囲の定めるところに、非常勤の役員と、単に一時的に事務の補助をする者を加えるものとする、というものです。

    構造を分解すると3階建てになっています。土台が、専任の宅建士を何人置くかを決めるときに分母として数える従事者の範囲です。そこに代表者を含めることが明示され、さらに非常勤の役員と一時的な事務補助者が上乗せされています。

    ここが重要なところで、証明書の対象範囲は、専任の宅建士の設置基準における分母よりも広いということです。5人に1人という割合計算の分母に入るかどうかと、証明書を携帯させるかどうかは、一致しません。設置基準の分母の数え方は専任の宅建士の設置義務で扱っています。

    雇用形態では決まらない

    以上から、正社員であるか、契約社員であるか、パートやアルバイトであるかは関係ありません。雇用形態ではなく、その業者の業務に従事しているかどうかで決まります。同じ理由で、代表者や非常勤の役員も、証明書を携帯していなければ業務に従事させられません。

    「宅建士は宅建士証を携帯していれば従業者証明書は不要」「役員は従業者ではないので不要」「アルバイトは対象外」といった選択肢は、いずれも誤りです。

    一方、その業者の業務に従事していない者は含まれません。取引先の担当者、清掃や設備の保守のために出入りする事業者、単なる来訪者は従業者ではありません。線引きの基準は、その宅地建物取引業者の指揮命令のもとで宅地建物取引業の業務に従事しているかどうかです。

    退職したらどうなるか

    退職した時点でその者は従業者ではなくなるので、証明書は回収することになります。名簿の側では、当該事務所の従業者でなくなった年月日を記載します。記載を消すのではなく、いなくなったという事実を書き加える形です。

    この「消さずに残す」設計が、最終の記載をした日から10年間という保存義務とつながっています。過去に誰が在籍していたかを後から確認できることに、この制度の意味があるからです。取引の当時その事務所にいた人物が誰だったかを、数年後に検証できる状態を作っている、ということです。

    提示義務の非対称と、そこに制裁がない理由

    48条2項は請求があったときの義務

    48条2項は、従業者は、取引の関係者の請求があつたときは、前項の証明書を提示しなければならないと定めています。

    請求があったときの義務です。自分から提示する義務ではありません。ここで、重要事項の説明にあたっては請求がなくても宅建士証を提示しなければならないとする35条4項と混同しないでください。

    宅建士証の提示は二重に義務づけられている

    宅建士証の提示義務は2か所にあります。22条の4は、宅地建物取引士は、取引の関係者から請求があつたときは、宅地建物取引士証を提示しなければならないと定めます。これは従業者証明書の48条2項と同じ形です。

    これに加えて35条4項が、宅地建物取引士は、前三項の説明をするときは、説明の相手方に対し、宅地建物取引士証を提示しなければならないと定めています。重要事項の説明の場面だけ、請求を待たずに提示する義務が上乗せされているわけです。

    したがって提示の場面は、従業者証明書が請求時のみ、宅建士証が請求時に加えて重要事項説明時、という非対称になります。この非対称を反転させた選択肢がよく作られます。

    宅建士証で代えることはできない

    従業者証明書と宅建士証は別の制度です。交付者が違い(業者と知事)、根拠条文が違い(48条1項と22条の2)、対象者が違い(従業者全員と宅建士だけ)、様式が違います。したがって、宅建士証を提示することで従業者証明書の提示に代えることはできません。逆に、従業者証明書を提示しても、重要事項説明の場面で求められる宅建士証の提示を果たしたことにはなりません。

    48条2項には制裁がない

    ここが見落とされやすいところです。宅建業法の罰則(79条から83条まで)と過料(85条・86条)を条文単位で確認すると、48条1項と48条3項は列挙されていますが、48条2項は一度も登場しません。業務停止事由を列挙した65条2項2号にも、48条は「第一項若しくは第三項」としか書かれていません。

    つまり、従業者が請求を受けたのに証明書を提示しなかったこと自体に、直接の罰則も監督処分の明示的な列挙もありません。義務の名宛人が従業者個人であって業者ではないため、業者に対する制裁になじまないという整理です。

    対照的に、宅建士証の提示義務のうち35条4項に違反した場合は、86条により10万円以下の過料に処せられます。「請求があったときの提示」という同じ形の義務でも、制裁の有無が制度ごとに違います。罰則の全体像は宅建業法の罰則一覧で確認してください。

    従業者名簿の記載事項は6つになった

    事務所ごとに備える

    48条3項は、宅地建物取引業者は国土交通省令で定めるところにより、その事務所ごとに、従業者名簿を備え、従業者の氏名、第一項の証明書の番号その他国土交通省令で定める事項を記載しなければならないと定めています。

    単位は事務所ごとです。本店にまとめて1冊置けばよいというものではなく、支店には支店の名簿が必要です。そして後述するとおり、事務所以外の場所、たとえば案内所には備える必要がありません。

    条文が名指ししている記載事項は2つだけです。従業者の氏名と、48条1項の証明書の番号。残りは省令に委任されています。

    施行規則17条の2第1項の4号

    施行規則17条の2第1項は、48条3項の国土交通省令で定める事項として次の4つを挙げています。

    第一号が、主たる職務内容。第二号が、宅地建物取引士であるか否かの別。第三号が、当該事務所の従業者となつた年月日。第四号が、当該事務所の従業者でなくなつたときは、その年月日。

    法が定める2つと省令が定める4つを合わせて、記載事項は6つです。

    令和7年4月1日に生年月日が消えた

    冒頭に書いたとおり、令和7年4月1日より前は、施行規則17条の2第1項1号が「生年月日」で、以下が繰り下がって5号構成でした。令和6年国土交通省令第70号により、この1号が削除されています。

    e-Govの法令データで確認すると、同じ省令に基づく令和7年1月1日施行版は「一生年月日二主たる職務内容三宅地建物取引士であるか否かの別四当該事務所の従業者となつた年月日五当該事務所の従業者でなくなつたときは、その年月日」となっており、令和7年4月1日施行版では冒頭の「生年月日」が消えて4号構成になっています。様式第八号の二の側でも、生年月日欄と性別欄が削除されました。

    したがって令和8年度試験の基準日(2026年4月1日)における正解は、生年月日を含まない6項目です。「従業者名簿には従業者の生年月日を記載しなければならない」という記述は、いまは誤りになります。

    ただし、繰り返しますが、従業者証明書の様式第八号には生年月日欄が残っています。改正で消えたのは名簿の側だけです。ここを混ぜないでください。

    住所は法にも省令にも書かれていない

    住所は記載事項ではありません。これは従来から繰り返し問われてきた点で、48条3項が名指ししているのは「従業者の氏名」と「証明書の番号」だけであり、施行規則17条の2第1項の4号にも住所は入っていません。

    条文の履歴には注意点があります。施行規則17条の2第3項(電磁的記録による代替を認める規定)は、令和7年3月31日まで「法第四十八条第三項に規定する従業者の氏名、住所及び同条第一項の証明書の番号並びに第一項各号に掲げる事項」と書いていました。法48条3項にはすでに住所がないのに、省令側の引用に住所が残っていたわけです。令和7年4月1日の改正で、この「住所」も削られ、「従業者の氏名及び同条第一項の証明書の番号並びに第一項各号に掲げる事項」に整理されました。

    なお、住所がまったく記録されないわけではありません。前述のとおり従業者証明書の様式第八号の備考3は、従業者の現住所等必要な事項がある場合には裏面に記入することとしています。名簿の記載事項ではないが、証明書の裏面には書き得る、という切り分けです。

    「主たる職務内容」には何を書くのか

    記載事項のうち、意味が取りにくいのが「主たる職務内容」です。解釈・運用の考え方は、48条3項関係として、この欄には、代表者または役員である場合には役職名を記入し、それ以外の者については、総務、人事、経理、財務、企画、設計、広報、営業等に区分して記入することとし、なお、その者が所属する社内の組織名をなるべく付記することとする、としています。

    つまり、この欄は自由記述ではなく、職種の区分を書く欄です。そして「営業」以外の職種も列挙されていることに注目してください。経理や総務の担当者も従業者として名簿に載り、証明書を携帯します。宅地建物取引業の営業に直接関わらない職種でも対象になる、という制度の広さが、この記入例から読み取れます。

    宅建士であるか否かの別が入っている理由

    2号の「宅地建物取引士であるか否かの別」が記載事項になっているのは、その人が重要事項の説明などの事務を行える立場かどうかを、取引の相手方が確認できるようにするためです。

    宅建士でなければできない事務は、重要事項の説明、35条書面への記名、37条書面への記名の3つです。名簿を見ればその事務所に何人の宅建士がいるかが分かり、目の前の担当者が説明できる立場かどうかも分かります。独占業務の範囲は宅建士の独占業務3つで扱っています。

    なお、専任であるか否かの別は記載事項ではありません。名簿は「宅建士であるか否か」までしか書かせておらず、専任かどうかは標識の側(事務所に掲げる宅地建物取引業者票)で表示されます。

    保存は最終の記載をした日から10年間

    施行規則17条の2第4項は、宅地建物取引業者は従業者名簿を最終の記載をした日から10年間保存しなければならないと定めています。

    起算点に注意してください。従業者が退職した日でも、名簿を作成した日でもなく、その名簿に最後に記載をした日です。従業者の入退社があるたびに記載が加わるので、記載が続いているかぎり起算点は先送りされます。同じ名簿を使い続けている事務所では、実質的に「最後の異動から10年」という運用になります。

    そして10年という期間は、後述する帳簿の5年と対になって問われます。「従業者名簿の保存期間は5年である」という選択肢は誤りです。数字の横断整理は宅建業法の数字まとめで確認できます。

    名簿の閲覧義務と「取引の関係者」

    48条4項は名簿だけに置かれている

    48条4項は、宅地建物取引業者は取引の関係者から請求があつたときは、前項の従業者名簿をその者の閲覧に供しなければならないと定めています。

    閲覧を請求できるのは取引の関係者です。取引と無関係の第三者に閲覧させる義務はありません。また、閲覧させる義務であって、写しを交付する義務ではありません。請求されたら見せる、それだけです。

    この閲覧義務があることが、名簿と帳簿を分ける最大の特徴です。49条には対応する規定がありません。

    「取引の関係者」とは誰か

    「取引の関係者」は、48条2項(証明書の提示)、48条4項(名簿の閲覧)、そして31条1項(業務処理の原則)や72条4項(立入検査をする職員の身分証明書の提示)でも使われている言葉です。宅建業法に定義規定は置かれていません。

    制度の趣旨から考えると、含まれるのは、その取引の当事者となる者、たとえば売買であれば売主と買主、貸借であれば貸主と借主、そしてこれらの代理人や、同じ取引に関与している他の宅地建物取引業者です。取引をしようとしている段階の者、たとえば物件を検討して問い合わせをしている買主候補も、相手方の実体を確かめる必要があるという趣旨からは含まれると考えられます。

    含まれないのは、その取引と関係のない第三者です。近隣住民、報道関係者、競合他社の担当者といった立場の人に閲覧させる義務はありません。制度の目的が、取引をしようとしている人が相手方の実体を確かめられるようにすることにあるからです。

    宅建業者名簿の一般閲覧とは別物

    紛らわしいのが、宅地建物取引業者名簿の閲覧です。10条は、国土交通大臣または都道府県知事は、宅地建物取引業者名簿および一定の書類またはこれらの写しを一般の閲覧に供しなければならないと定めています。

    こちらは行政庁が備える名簿を、誰でも見られるようにする制度です。閲覧させる主体が行政庁であり、請求者に限定がありません。これに対して従業者名簿は、業者が備え、取引の関係者にだけ見せます。主体も対象者も違います。

    「従業者名簿は一般の閲覧に供しなければならない」「宅地建物取引業者名簿は取引の関係者にのみ閲覧させる」といった形で、2つを交差させた選択肢が作られます。業者名簿の登載事項と変更の届出は宅建業者名簿と変更の届出で扱っています。

    閲覧義務違反に罰則はない

    48条4項も、48条2項と同じく、罰則の条文にも65条2項2号の列挙にも登場しません。閲覧を拒んだこと自体を直接処罰する規定はない、ということです。

    ただし制裁がまったくないわけではありません。65条1項1号(業務に関し取引の関係者に損害を与えるおそれが大であるとき)や2号(取引の公正を害するおそれが大であるとき)に該当すれば指示処分の対象になり得ますし、65条2項5号(宅地建物取引業に関し不正または著しく不当な行為をしたとき)に該当すれば業務停止もあり得ます。列挙にないことと、何も起こらないことは別です。処分の要件と手続は監督処分で扱っています。

    帳簿には何を書くのか

    事務所ごとに備え、取引のあったつど記載する

    49条は、宅地建物取引業者は国土交通省令の定めるところにより、その事務所ごとに、その業務に関する帳簿を備え、宅地建物取引業に関し取引のあつたつど、その年月日、その取引に係る宅地または建物の所在および面積その他国土交通省令で定める事項を記載しなければならないと定めています。

    読み落とされやすいのは「宅地建物取引業に関し」という限定です。宅建業に当たらない行為は帳簿の対象になりません。典型が自ら貸主となる貸借で、これは宅地建物取引業の定義(2条2号)に入らないため、帳簿に記載する義務も生じません。何が「業」に当たるかの線引きは宅建業の「業」に当たるケースで扱っています。

    記載の契機は「取引のあつたつど」です。まとめて期末に書けばよいというものではありません。名簿が従業者の異動に応じて記載されるのに対し、帳簿は取引ごとに記載される、という違いです。なお、実務ではこの帳簿を取引台帳と呼ぶことがあります。同じものを指しています。

    法が直接書いている3つと、省令が定める9号

    ここも構造を分けておくと得点になります。49条が条文の本体で名指ししているのは、取引のあった年月日、取引に係る宅地または建物の所在、そして面積の3つです。これらは施行規則18条1項の各号には入っていません。省令に委任された事項は、18条1項の1号から9号までです。

    第一号が、売買もしくは交換または売買、交換もしくは貸借の代理もしくは媒介の別、すなわち取引態様です(取引一任代理等に係るものである場合はその旨を含む)。

    第二号が、売買、交換もしくは貸借の相手方もしくは代理を依頼した者、または媒介に係る売買、交換もしくは貸借の各当事者およびこれらの者の代理人の氏名及び住所。

    第三号が、取引に関与した他の宅地建物取引業者の商号または名称(個人の場合はその者の氏名)。

    第四号が、宅地の場合の現況地目、位置、形状その他当該宅地の概況。

    第五号が、建物の場合の構造上の種別、用途その他当該建物の概況。

    第六号が、売買金額、交換物件の品目および交換差金または賃料。

    第七号が、報酬の額。

    第八号が、宅地建物取引業者が自ら売主となる新築住宅の場合の4項目(後述)。

    第九号が、取引に関する特約その他参考となる事項。

    帳簿には住所が入る

    いま挙げたなかで、名簿との対比で最も効く論点が第二号です。帳簿には取引の相手方等の住所を記載します。名簿には住所を書かないのに、帳簿には書く。この非対称は覚えておく価値があります。

    理由は目的から導けます。名簿は取引の関係者に見せるものなので、従業者の私的な情報は載せない。帳簿は誰にも見せない内部の記録で、後から当事者を特定できることに意味があるので、住所まで記録する。閲覧義務の有無と、住所を書くかどうかが、きれいに裏表になっています。

    「従業者名簿には住所を記載するが、帳簿には記載しない」という記述は、方向が逆で誤りです。

    物件の書き方は宅地と建物で分かれる

    第四号と第五号が宅地と建物で書き分けられていることも押さえてください。宅地なら現況地目、位置、形状。建物なら構造上の種別、用途。どちらも「その他当該宅地(建物)の概況」で締められており、列挙は例示です。

    面積は49条の本体側に書かれているので、宅地でも建物でも記載します。物件調査でどこまで確かめるかという実務の話は物件調査で扱っています。

    報酬の額が入っていることの意味

    第七号の報酬の額と、第六号の売買金額は、セットで確認の手がかりになります。46条2項は国土交通大臣が定めた額を超えて報酬を受けてはならないと定めており、帳簿に金額と報酬が並んでいれば、上限を超えていないかを照合できます。報酬の枠組みは報酬額の制限、計算の手順は報酬額計算のパターン別攻略で扱っています。

    第三号で他の宅地建物取引業者の商号または名称を記載させているのも同じ趣旨です。報酬の総額は取引全体で判定されるため、関与した業者が分からなければ上限に収まっているかを判断できません。

    第一号の取引態様も、報酬の枠を決める要素です。媒介と代理では受けられる報酬の上限が違いますし、自ら売主なら報酬という概念自体がありません。取引態様の明示義務そのものは取引態様の明示義務で扱っています。

    このように、記載事項を丸暗記するのではなく、何を確認可能にするための項目かという観点で見ると、覚える負担が減ります。

    第八号の4項目と、新築住宅の定義

    施行規則18条1項8号は、宅地建物取引業者が自ら売主となる新築住宅の場合に、次の4つを加えることを求めています。

    イが、当該新築住宅を引き渡した年月日。ロが、当該新築住宅の床面積。ハが、その新築住宅が住宅瑕疵担保履行法施行令6条1項の販売新築住宅であるときは、同項の書面に記載された2以上の宅地建物取引業者それぞれの販売瑕疵負担割合の合計に対する当該業者の販売瑕疵負担割合の割合。ニが、住宅瑕疵担保責任保険法人と住宅販売瑕疵担保責任保険契約を締結し、保険証券またはこれに代わるべき書面を買主に交付しているときは、その保険法人の名称です。

    ここでいう新築住宅は、住宅の品質確保の促進等に関する法律2条2項の定義によります。すなわち、新たに建設された住宅で、まだ人の居住の用に供したことのないもの(建設工事の完了の日から起算して1年を経過したものを除く)です。1年を過ぎれば未入居でも新築住宅ではなくなり、入居済みなら1年以内でも新築住宅ではありません。

    広告の世界で使う「新築」は、不動産の表示に関する公正競争規約が別に定義しています。法令ごとに新築の意味が違うことは不動産広告の表示基準で整理しています。

    ロの床面積について、解釈・運用の考え方は、各階ごとに壁その他の区画の中心線で囲まれた部分の水平投影面積による、としています。いわゆる壁芯計算です。資力確保措置の供託額を出すときの戸数の数え方とも関係するので、住宅瑕疵担保履行法の供託額とあわせて確認してください。

    第九号の受け皿

    第九号は「取引に関する特約その他参考となる事項」という受け皿です。列挙しきれないものをここで拾う設計になっています。

    契約不適合責任についての特約、手付解除の期限、心理的瑕疵についての告知内容など、後から争いになり得る事項がここに入ります。契約不適合責任の特約制限は契約不適合責任の特約制限、告知の実務は心理的瑕疵と告知義務で扱っています。

    帳簿には法定の様式がない

    見落とされやすい対比があります。従業者証明書は様式第八号、従業者名簿は様式第八号の二と、いずれも省令が様式を定めています。これに対し帳簿には様式の定めがありません。施行規則18条は記載事項と保存だけを定めており、書式は業者に委ねられています。

    だからこそ実務では取引台帳と呼ばれる各社独自の様式が使われます。試験対策としては、「帳簿は国土交通省令で定める様式によらなければならない」という記述が誤りになる、という形で効いてきます。

    帳簿の保存は閉鎖から数える

    各事業年度の末日に閉鎖する

    保存の仕組みは名簿と違います。施行規則18条3項は、宅地建物取引業者は帳簿を各事業年度の末日をもつて閉鎖するものとし、閉鎖後5年間(当該宅地建物取引業者が自ら売主となる新築住宅に係るものにあつては、10年間)当該帳簿を保存しなければならないと定めています。

    起算点が「閉鎖した日」であることに注意してください。名簿の「最終の記載をした日」とは考え方が違います。帳簿は事業年度という区切りで締めるので、期末で一度閉じて、そこから5年数えるという構造です。

    具体的に考えると分かりやすくなります。3月末決算の業者が令和8年5月に成立した取引を帳簿に書いたとします。この記載が属する事業年度は令和9年3月末に終わるので、そこで閉鎖され、保存期間はそこから5年です。取引の日から5年ではありません。同じ事業年度の取引は、いつ発生したものでも同じ日に起算点が揃う、という点が名簿との違いです。

    自ら売主となる新築住宅だけが10年

    例外は、宅地建物取引業者が自ら売主となる新築住宅に係るものです。この場合は閉鎖後10年間の保存が必要になります。

    この10年には根拠があります。品確法95条1項は、新築住宅の売買契約においては、売主は、買主に引き渡した時から10年間、住宅の構造耐力上主要な部分等の瑕疵について、民法415条、541条、542条、562条および563条に規定する担保の責任を負うと定めています。同条2項は、これに反する特約で買主に不利なものは無効とすると定めます。

    売主が10年間責任を負い続けるのだから、その取引の記録も10年残す。この対応関係です。だから「自ら売主」に限られます。媒介したにすぎない業者は品確法95条の責任を負わないので、原則どおり5年です。「新築住宅の売買を媒介した場合も10年」という選択肢は、この限定を外しており誤りになります。資力確保措置の全体像は住宅瑕疵担保履行法で扱っています。

    特約で20年に伸ばしても帳簿は10年

    細かいところですが、品確法97条は、新築住宅の売買契約において売主が担保の責任を負うべき期間を、引渡しの時から20年以内とすることができると定めています。当事者が20年の特約を結ぶことは可能です。

    しかし施行規則18条3項の10年は、この特約に連動しません。省令は「自ら売主となる新築住宅に係るものにあつては、十年間」と固定で書いており、責任期間が伸びても保存期間は10年のままです。制度が対応関係で作られていることと、条文が連動していることは別だ、という例です。

    中古住宅の場合

    自ら売主となる場合でも、対象が新築住宅でなければ10年にはなりません。中古住宅を業者が自ら売主として売った場合、帳簿の保存は原則どおり閉鎖後5年です。

    中古住宅の売買では、40条が契約不適合責任について通知期間を引渡しから2年以上とする特約を有効とするなど、別の規律が働きます。新築と中古で保護の厚みが違う理由は中古住宅の瑕疵と契約不適合で扱っています。

    名簿と帳簿を5つの軸で分ける

    出題の中心はここなので、軸を決めて整理します。

    軸1 何を記録するか

    名簿は人の記録です。誰がその事務所の従業者で、いつからいつまで在籍し、宅建士かどうかを記録します。帳簿は取引の記録です。どの物件について、いつ、誰と、どういう態様で取引し、いくら受け取ったかを記録します。

    この違いが、以下の4軸すべての違いを生んでいます。

    軸2 記載の契機

    名簿は従業者の異動に応じて記載します。従業者になったとき、従業者でなくなったときに記載が発生します。帳簿は宅地建物取引業に関し取引のあったつど記載します。

    したがって、取引がまったくない期間でも従業者の入退社があれば名簿の記載は動きますし、従業者に変動がなくても取引があれば帳簿の記載は増えます。両者は独立に動きます。

    軸3 様式の有無

    名簿には様式第八号の二という法定様式があります。帳簿には様式の定めがありません。証明書の様式第八号とあわせて、「様式があるのは証明書と名簿、ないのは帳簿」と覚えてください。

    軸4 保存期間と起算点

    名簿は最終の記載をした日から10年間。帳簿は各事業年度の末日をもって閉鎖し、閉鎖後5年間、ただし自ら売主となる新築住宅に係るものは10年間。

    年数だけでなく起算点が違うことに注意してください。「最終の記載をした日から」と「閉鎖後」です。年数を入れ替える選択肢だけでなく、起算点を入れ替える選択肢も作られます。「従業者名簿は各事業年度の末日をもって閉鎖する」という記述は、起算点をすり替えた典型です。

    軸5 閲覧義務

    名簿にはあり(48条4項)、帳簿にはありません。名簿は人を確かめるためのもので、帳簿は取引の記録で、しかも相手方の住所まで書かれているからです。

    5軸の要点

    • 名簿は人の記録、帳簿は取引の記録
    • 名簿は異動のつど、帳簿は取引のつど記載する
    • 様式があるのは名簿だけ、帳簿には法定様式がない
    • 名簿は最終記載日から10年、帳簿は閉鎖後5年(自ら売主の新築住宅は10年)
    • 閲覧義務があるのは名簿だけで、住所を書くのは帳簿だけ

    電磁的記録による備付け

    名簿の側の規定

    施行規則17条の2第3項は、法48条3項に規定する従業者の氏名および同条1項の証明書の番号ならびに施行規則17条の2第1項各号に掲げる事項が、電子計算機に備えられたファイルまたは電磁的記録媒体に記録され、必要に応じ当該事務所において電子計算機その他の機器を用いて明確に紙面に表示されるときは、当該記録をもつて従業者名簿への記載に代えることができると定めています。

    要件を分解すると2つです。第一に、ファイルまたは電磁的記録媒体に記録されていること。第二に、必要に応じ当該事務所において明確に紙面に表示できること。この「当該事務所において」という限定が効いています。データが本社のサーバにあっても、その事務所で表示・出力できる状態でなければ、その事務所に備えたことになりません。

    条文は「国土交通大臣が定める基準に適合する電磁的方法」という書き方をしていません。特定の技術基準への適合ではなく、紙面に表示できるかどうかという機能で判定する設計です。35条書面や37条書面の電磁的方法(承諾や技術基準が問題になります)とは要件の作りが違うので、混ぜないでください。書面の電子化についてはIT重説と書面電子化で扱っています。

    閲覧の方法まで書かれている

    17条の2第3項は後段で、この場合における48条4項の規定による閲覧は、当該ファイルまたは電磁的記録媒体に記録されている事項を紙面または入出力装置の映像面に表示する方法で行うものとすると定めています。

    つまり、印刷して見せてもよいし、画面に表示して見せてもよい。解釈・運用の考え方も、ディスプレイ等の入出力装置の画面等に表示する方法で行うこととする、としています。電子化しても閲覧させる義務が消えるわけではありません。

    帳簿の側の規定

    施行規則18条2項は名簿と同じ構造で、法49条に規定する取引のあった年月日、所在および面積ならびに18条1項各号に掲げる事項が、ファイルまたは電磁的記録媒体に記録され、必要に応じ当該事務所において明確に紙面に表示されるときは、記載に代えることができるとしています。

    閲覧の方法についての後段がないのは、帳簿に閲覧義務がないからです。条文の作りが目的の違いを反映しています。

    そして18条3項の保存義務は、括弧書きで「前項の規定による記録が行われた同項のファイル又は電磁的記録媒体を含む」としています。電子化しても保存義務の対象からは外れません。名簿の側も17条の2第4項に同じ括弧書きがあります。「電磁的記録で管理している場合、保存期間の定めは適用されない」という記述は誤りです。

    事務所という単位と、事務所以外の場所

    そもそも「事務所」とは何か

    備付けの単位が事務所である以上、何が事務所にあたるのかが先に決まらなければなりません。

    宅地建物取引業法施行令1条の2は、法3条1項の事務所を2つの類型で定めています。第一号が、本店または支店(商人以外の者にあつては、主たる事務所または従たる事務所)。第二号が、これ以外で、継続的に業務を行なうことができる施設を有する場所で、宅地建物取引業に係る契約を締結する権限を有する使用人を置くものです。

    第二号の要件は2つあり、両方を満たす必要があります。継続的に業務を行うことができる施設であること、つまりテントやプレハブのような一時的なものではないこと。そして契約締結権限を有する使用人が置かれていることです。どちらか一方だけでは事務所になりません。

    本店については注意点があります。本店で宅地建物取引業を営んでいなくても、支店で営んでいれば本店も事務所として扱われます。本店は全体を統括する立場にあるためです。逆に、支店で宅地建物取引業を営んでいなければ、その支店は事務所にあたりません。事務所の数と所在が何を決めるかは宅建業の事務所で詳しく扱っています。免許権者の決まり方は宅建業の免許制度を参照してください。

    事務所に必要な5点セット

    事務所には次のものが必要です。専任の宅地建物取引士を、業務に従事する者に対する割合が5分の1以上となる数だけ置くこと(31条の3第1項、施行規則15条の5の3)。従業者名簿を備えること(48条3項)。帳簿を備えること(49条)。標識を掲げること(50条1項)。報酬の額を掲示すること(46条4項)。

    この5つが事務所に求められる基本のセットです。なお31条の3第3項は、既存の事務所等が設置基準に抵触するに至ったときは2週間以内に必要な措置を執らなければならないと定めています。人数が変動する分母に対して、是正の猶予が置かれている形です。

    標識だけは事務所以外にも必要

    50条1項は、宅地建物取引業者は事務所等および事務所等以外の国土交通省令で定めるその業務を行う場所ごとに、公衆の見やすい場所に、国土交通省令で定める標識を掲げなければならないと定めています。

    標識を掲げるべき場所は施行規則19条1項が定めており、継続的に業務を行うことができる施設を有する場所で事務所以外のもの、一団の宅地建物の分譲をする場合の当該宅地建物の所在する場所、その分譲を案内所を設置して行う場合の案内所、他の業者が行う一団の宅地建物の分譲の代理または媒介を案内所を設置して行う場合の案内所、展示会その他これに類する催しを実施する場所の5つです。契約行為等を行うかどうかを問いません。

    5つのうち標識だけが場所の範囲が広い、という点を押さえてください。案内所ごとの標識の様式(6種類あります)、専任の宅建士を置くべき場所の要件、50条2項の届出の期限と宛先は、案内所等の届出と標識で条文の号ごとに扱っています。この記事では名簿と帳簿の側から見た切り分けだけを述べます。

    標識の記載事項は令和7年4月に変わった

    ここは古い教材との差が出る箇所です。事務所に掲げる宅地建物取引業者票について、かつては「専任の宅地建物取引士の氏名」を記載する欄がありましたが、令和7年4月1日施行の様式改正で、この欄は「この事務所に置かれている専任の宅地建物取引士の数」に改められ、あわせて同欄中に宅地建物取引業に従事する者の数を記載する形になりました。また、代表者氏名欄の次に「この事務所の代表者氏名」欄が新設されています。

    国土交通省の解釈・運用の考え方(令和8年4月1日施行版)も、50条1項関係として、「この事務所に置かれている専任の宅地建物取引士の数」欄の「宅地建物取引業に従事する者の数」については、専任の宅建士の数について変更があった場合のみ変更することとし、変更に伴い提出する専任の宅地建物取引士設置証明書に記載された数と同じ数を記載することとする、と述べています。改正後の欄名を前提にした記述です。

    したがって「事務所に掲げる標識には専任の宅地建物取引士の氏名が記載される」という記述は、令和8年度の基準日では正しくありません。名簿の記載事項の改正と同じ時期の変更なので、セットで押さえておくと効率的です。

    なお同じ解釈・運用の考え方は、デジタルサイネージ等のICT機器を活用した掲示についても、営業時間内その他公衆が必要なときに標識を確認できること、標識を確認できる旨の表示が常時分かりやすくなされていることなどの要件を満たす場合には、書面による掲示と同等の役割を果たすものとして差し支えないとしています。

    案内所には名簿も帳簿も要らない

    裏返すと、従業者名簿と帳簿は事務所にだけ備えればよく、案内所に備える必要はありません。報酬額の掲示も事務所だけです。

    「案内所にも従業者名簿を備えなければならない」「案内所にも報酬額を掲示しなければならない」という選択肢は、いずれも誤りです。

    案内所で追加的に必要になるのは、契約の締結や申込みの受付を行う場合です。この場合、専任の宅地建物取引士を1人以上置く必要があり(施行規則15条の5の3)、あわせて50条2項により、あらかじめ、所在地、業務内容、業務を行う期間および専任の宅地建物取引士の氏名を、免許を受けた国土交通大臣または都道府県知事および所在地を管轄する都道府県知事に届け出なければなりません。届出の期限は施行規則19条3項が業務を開始する日の10日前までと定めています。

    事務所は5分の1以上、契約行為等を行う案内所は1人以上。この割合と実数の違いも問われます。専任の宅建士の要件は専任の宅建士の設置義務にまとめてあります。

    備える義務を支えている立入検査

    72条1項の権限

    名簿や帳簿を備えていても、誰も確認しなければ制度は形だけになります。これを支えているのが立入検査の権限です。

    宅地建物取引業法72条1項は、国土交通大臣は宅地建物取引業を営むすべての者に対して、都道府県知事は当該都道府県の区域内で宅地建物取引業を営む者に対して、宅地建物取引業の適正な運営を確保するため必要があると認めるときは、その業務について必要な報告を求め、またはその職員に事務所その他その業務を行なう場所に立ち入り、帳簿、書類その他業務に関係のある物件を検査させることができると定めています。

    条文が「帳簿、書類」を名指ししていることに注目してください。備付けの義務は、行政庁がいつでも実物を確認できることを前提に置かれています。取引のあったつど記載せよという49条の要求も、後からまとめて作れば足りるという運用を許さない趣旨だと理解できます。

    対象が「事務所その他その業務を行う場所」であることも押さえてください。案内所にも立ち入れます。名簿や帳簿を備える義務がない場所でも、検査の対象にはなる、ということです。

    職員の側にも証明書の携帯義務がある

    72条4項は、立入検査をする職員は、その身分を示す証明書を携帯し、関係人の請求があつたときは、これを提示しなければならないと定めています。

    構造が48条1項・2項とそっくりです。携帯させ、請求があったら提示する。行政庁の側にも同じ形の義務が置かれていることは、この制度が「誰が何の資格で目の前にいるのかを確かめられる状態を作る」という共通の発想でできていることを示しています。

    犯罪捜査のためではない

    72条5項は、立入検査の権限は犯罪捜査のために認められたものと解してはならないと定めています。行政上の監督のための権限であって、刑事手続とは別のものだという整理です。行政調査に共通して置かれる規定です。

    検査を拒めば罰金

    83条1項5号は、72条1項から3項までの規定による報告をせず、または虚偽の報告をした者を、6号は、72条1項または2項の規定による検査を拒み、妨げ、または忌避した者を、それぞれ50万円以下の罰金に処すると定めています。

    備え付けなかったこと(3号の2・4号)と、検査を拒んだこと(6号)が、同じ50万円以下の罰金として並んでいます。制度の実効性が、備付けと検査の両輪で担保されていることが分かります。

    違反したときの三層

    罰則の条文位置

    83条1項は50万円以下の罰金を定める条文で、この分野に関係するのは次の3か所です。

    2号が、37条、46条4項、48条1項または50条1項の規定に違反した者。ここに従業者証明書の携帯(48条1項)、報酬額の掲示(46条4項)、標識の掲示(50条1項)が入っています。

    3号の2が、48条3項の規定に違反して従業者名簿を備えず、またはこれに同項に規定する事項を記載せず、もしくは虚偽の記載をした者。

    4号が、49条の規定による帳簿を備え付けず、またはこれに同条に規定する事項を記載せず、もしくは虚偽の記載をした者。

    3号の2と4号の書きぶりから分かるとおり、備えないことだけでなく、必要な事項を記載しないこと、虚偽の記載をすることも同じく罰則の対象です。「備えてさえいれば記載漏れは問題ない」ということにはなりません。

    そして先に述べたとおり、48条2項(従業者の提示)と48条4項(名簿の閲覧)は83条のどこにも出てきません。48条は4項あるうち、罰則があるのは1項と3項だけです。

    両罰規定で法人にも科される

    84条は両罰規定です。法人の代表者または法人もしくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人または人の業務に関して違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、法人に対しても罰金刑を科すと定めています。

    同条2号により、80条から83条まで(83条1項3号を除く)の違反については、法人にも各本条の罰金刑が科されます。名簿や帳簿の違反も、行為者と法人の両方が罰金の対象になり得るということです。除かれている83条1項3号は45条(秘密を守る義務)等の違反で、これは83条2項により告訴がなければ公訴を提起できない親告罪とされています。

    なお79条・79条の2の違反については、法人に1億円以下の罰金刑が科されます。無免許事業や不正免許取得といった、制度の根幹を壊す行為です。金額の段階は宅建業法の罰則一覧で確認してください。

    監督処分の列挙には帳簿が入っていない

    ここが最も見落とされる論点です。65条2項2号は業務停止処分の事由を条文番号で列挙していますが、その列挙を読むと、48条については「第四十八条第一項若しくは第三項」とあるのに対し、49条は列挙に入っていません。50条1項も46条4項も入っていません。

    つまり条文の作りとしては、次の非対称があります。従業者証明書を携帯させなかったこと(48条1項)と、名簿を備えなかったこと(48条3項)は、業務停止事由として名指しされている。帳簿を備えなかったこと(49条)は名指しされていない。しかし罰則の側では、48条1項も48条3項も49条も、等しく50万円以下の罰金の対象になっている。

    これは、帳簿違反が軽く扱われているという意味ではありません。65条2項5号が「前三号に規定する場合のほか、宅地建物取引業に関し不正又は著しく不当な行為をしたとき」という受け皿を置いており、悪質な帳簿違反はここで拾えます。また65条1項の指示処分は、1号(取引の関係者に損害を与えるおそれが大であるとき)や2号(取引の公正を害するおそれが大であるとき)という一般的な要件で書かれているので、条文番号の列挙とは関係なく働きます。

    さらに66条1項9号は、65条2項各号のいずれかに該当し情状が特に重いとき、または業務停止処分に違反したときは免許を取り消さなければならないとしています。列挙されている違反のほうが、必要的取消しまでの経路が短い、という違いはあります。

    覚え方としては、「罰則は48条1項・3項・49条が横並び、業務停止の列挙は48条1項・3項だけ」と一文にしておくのが実用的です。処分の種類と手続の全体像は監督処分で扱っています。

    免許の効力とは連動しない

    念のため書いておくと、名簿や帳簿の不備は免許の欠格事由ではありませんし、それだけで免許が失効することもありません。免許が失効するのは11条1項3号から5号までの届出事由(解散、合併消滅、廃業)などに限られます。届出義務者と30日の起算点は宅建業の廃業届・免許取消で扱っています。

    試験での出題ポイント

    名簿と帳簿を入れ替える

    閲覧義務の有無、保存期間、起算点。この3つを入れ替えた選択肢が最も多く出ます。「帳簿は取引の関係者の請求があれば閲覧させなければならない」「従業者名簿は各事業年度の末日をもって閉鎖する」といった形です。

    さらに近年の改正を踏まえると、住所の入れ替えも要注意になります。住所を書くのは帳簿(施行規則18条1項2号)であって、名簿ではありません。方向を逆にした選択肢を作りやすい場所です。

    生年月日を名簿の記載事項に混ぜる

    令和7年4月1日の改正で、施行規則17条の2第1項1号の「生年月日」は削除されました。したがって「従業者名簿には従業者の生年月日を記載しなければならない」は誤りです。

    厄介なのは、従業者証明書の様式第八号には生年月日欄が残っていることです。「証明書には生年月日が記載されるが、名簿の記載事項ではない」という区別を持っておかないと、どちらかで引っかかります。改正で正誤が反転した箇所の一覧は宅建業法の改正ポイントでも扱っています。

    住所を名簿の記載事項に加える

    従来からある定番です。名簿の記載事項は、法48条3項の氏名と証明書の番号、施行規則17条の2第1項の主たる職務内容、宅建士であるか否かの別、当該事務所の従業者となった年月日、従業者でなくなったときはその年月日の6つで、住所は含まれません。

    従業者証明書の対象を狭める

    「宅地建物取引士は宅建士証があるので従業者証明書は不要」「代表者は従業者ではないので不要」「一時的に事務を補助するだけの者は不要」。いずれも誤りです。解釈・運用の考え方は、代表者を含み、専任の宅建士の設置基準における従事者の範囲に非常勤の役員と単に一時的に事務の補助をする者を加える、としています。

    交付者を入れ替える

    従業者証明書を交付するのは宅地建物取引業者、宅建士証を交付するのは都道府県知事です。「従業者証明書は都道府県知事が交付する」という選択肢は誤りです。有効期間も、宅建士証が5年(22条の2第3項)、従業者証明書が様式第八号の備考により5年以下と、定め方が違います。

    提示の要件を入れ替える

    従業者証明書は取引の関係者の請求があったときに提示します(48条2項)。宅建士証は、取引の関係者から請求があったとき(22条の4)に加えて、重要事項の説明をするときには請求がなくても提示します(35条4項)。この非対称を反転させた選択肢が出ます。制裁も違い、35条4項違反は10万円以下の過料(86条)ですが、48条2項違反には罰則がありません。

    場所を入れ替える

    名簿と帳簿と報酬額の掲示は事務所のみ、標識は業務を行う場所ごと。案内所に名簿や帳簿を備える必要はありません。5点セットのうち標識だけが範囲が広い、という構造で覚えてください。

    なお立入検査(72条1項)は「事務所その他その業務を行う場所」が対象なので、案内所も入ります。備付け義務の範囲と検査の範囲は一致しません。

    義務の主体を入れ替える

    3つとも条文の主語は宅地建物取引業者です。「宅地建物取引士は、その事務所ごとに従業者名簿を備えなければならない」「専任の宅地建物取引士は帳簿を備え付けなければならない」といった記述は、主語をすり替えた誤りになります。

    宅建士が登場するのは、名簿の記載事項に宅地建物取引士であるか否かの別が含まれている場面だけです。従業者証明書についても、携帯させる義務を負うのは業者で、48条2項の提示だけが従業者の行為として書かれています。主体の切り分けは宅建業者と宅建士の義務で整理しています。

    動詞を入れ替える

    条文が使っている動詞は制度ごとに違います。従業者証明書は「携帯させる」、名簿と帳簿は「備える」、標識は「掲げる」、報酬額は「掲示する」、名簿は「閲覧に供する」。

    この違いが選択肢に反映されます。「従業者名簿を従業者に携帯させなければならない」「標識を事務所に備えなければならない」といった形で、動詞を入れ替えた記述が作られます。動詞は義務の内容そのものを表しているので、記憶するときは名詞と動詞をセットにしてください。語尾や動詞の違いから引っかけを見抜く方法は宅建の引っかけ表現パターンで扱っています。

    新築住宅の10年の限定を外す

    帳簿の保存期間について、宅地建物取引業者が自ら売主となる新築住宅に係るものだけが10年です。「新築住宅の売買を媒介した場合も10年」という選択肢は、自ら売主である場合という限定を外しており誤りです。8種制限が「自ら売主」の場合にだけかかるのと同じ限定の付き方なので、8種制限とはとあわせて理解しておくと定着します。

    電磁的記録を持ち出す

    「電磁的記録で管理する場合は国土交通大臣が定める基準に適合しなければならない」「電子化した場合は保存期間の適用がない」といった記述が作られます。どちらも誤りです。省令の要件は、必要に応じ当該事務所において明確に紙面に表示できることであり、保存義務の括弧書きは電磁的記録媒体も含むと明記しています。

    業者間取引で外す

    「業者間取引については帳簿の記載を要しない」という形です。78条2項が業者間で適用を外しているのは33条の2と37条の2から43条までであり、48条と49条は含まれません。宅建業法で「業者間なら外れる」ものと外れないものの線引きは、得点の分かれ目になります。宅建業法全体の得点設計は宅建業法で18問以上取るを参照してください。

    覚え方・整理の仕方

    「人か取引か」から降ろす

    名簿は人の記録、帳簿は取引の記録。ここから、記載の契機も、閲覧義務の有無も、住所を書くかどうかも導けます。

    人を確かめるための名簿は、取引の関係者に見せる必要がある。見せるものだから、従業者の住所までは載せない。取引の記録である帳簿は、他の顧客の情報を含むので見せられない。見せないものだから、当事者の住所まで書ける。この2本の線を引いておけば、閲覧義務と住所の有無を同時に思い出せます。

    数字は起算点とセットで覚える

    10年と5年という数字だけを覚えると、どちらがどちらか分からなくなります。「名簿は最終記載日から10年」「帳簿は閉鎖後5年」と、起算点まで含めた一文で覚えてください。起算点が違うこと自体が出題対象になります。

    そして帳簿の例外は「自ら売主となる新築住宅は10年」です。この10年が品確法95条の10年責任から来ていることを知っていれば、なぜ自ら売主の場合に限られるのかも納得できます。売主でなければ10年責任を負わないからです。

    10年が2回出てくることに注意する

    この分野には10年が2回登場します。ひとつが従業者名簿の保存期間、もうひとつが帳簿の例外です。

    同じ10年でも、由来がまったく違います。名簿の10年は人の在籍記録をどれだけ残すかという話で、帳簿の10年は品確法の瑕疵担保責任が10年続くことに合わせたものです。混ざりやすいので、「名簿の10年は無条件、帳簿の10年は自ら売主の新築住宅に限る条件つき」と区別して覚えてください。

    そして帳簿の原則はあくまで5年です。「帳簿の保存期間は10年」とだけ覚えていると、条件のない選択肢で誤ります。

    3つは番号でつながっている

    従業者証明書、従業者名簿、帳簿はばらばらの制度に見えますが、証明書と名簿は明確につながっています。名簿の記載事項に「従業者証明書の番号」が含まれているからです。解釈・運用の考え方も、証明書を発行した者についてはすべて名簿に記載するとしています。

    取引の相手方が従業者証明書の提示を受け、そこに記載された番号を名簿で照合すれば、その人物が本当にその事務所の従業者であることを確かめられます。証明書だけでは業者が勝手に作ったものかもしれず、名簿だけでは目の前の人物と結びつきません。2つがそろって機能する設計です。

    この関係を知っていると、なぜ名簿に証明書の番号が載るのか、なぜ名簿を閲覧させる必要があるのかが同時に理解できます。帳簿だけが取引の記録という別系統にある、という位置づけも見えてきます。

    記載事項は「法に2つ、省令に4つ」と数える

    名簿の記載事項を6つとして丸暗記するより、法48条3項が名指ししているのが氏名と証明書の番号の2つ、施行規則17条の2第1項が定めるのが4つ、と分けて覚えるほうが安全です。改正で動くのは省令側で、法は動きにくいからです。実際、令和7年4月に削られたのは省令の1号でした。

    帳簿も同じ数え方ができます。法49条が名指ししているのが年月日、所在、面積の3つ。施行規則18条1項が1号から9号まで。「法に3つ、省令に9号」です。この分け方を持っていると、条文単位で問われても答えられます。

    事務所の5点セットを一列に

    専任の宅建士、従業者名簿、帳簿、標識、報酬額の掲示。この5つを事務所に必要なものとして一列に並べ、そのうえで例外を2つ足します。標識だけは事務所以外の業務を行う場所にも必要。契約行為等を行う案内所には専任の宅建士1人以上と50条2項の届出が必要。5つと例外2つ、という形で覚えるのが最も速い整理です。

    制裁は三層で確認する癖をつける

    宅建業法の義務は、罰則、監督処分、そして私法上の効果という三層で見ると整理しやすくなります。この分野では私法上の効果はほとんど問題になりませんが、罰則と監督処分の対象が一致していないことが問われます。

    具体的には、48条1項・3項・49条には罰金があり、そのうち業務停止の列挙に入っているのは48条1項・3項だけで、48条2項・4項にはどちらもない。この非対称を一度自分で条文に当たって確認しておくと、他の論点でも「列挙されているか」を見る癖がつきます。頻出論点の絞り込み方は宅建業法の頻出論点を参照してください。

    理解度チェッククイズ

    Q1. 従業者名簿には、従業者の氏名、生年月日、住所、主たる職務内容などを記載しなければならない。(○か×か)

    答えを見る×:生年月日も住所も記載事項ではありません。法48条3項が名指ししているのは従業者の氏名と従業者証明書の番号で、施行規則17条の2第1項が定めるのは主たる職務内容、宅地建物取引士であるか否かの別、当該事務所の従業者となった年月日、当該事務所の従業者でなくなったときはその年月日の4つです。合計6項目です。生年月日は令和6年国土交通省令第70号により令和7年4月1日から削除されました。なお、従業者証明書の様式第八号には生年月日欄が残っている点に注意してください。

    Q2. 宅地建物取引業者は、取引の関係者から請求があったときは、事務所に備える帳簿をその者の閲覧に供しなければならない。(○か×か)

    答えを見る×:閲覧義務があるのは従業者名簿だけです(48条4項)。帳簿にはこれに相当する規定がありません。帳簿には施行規則18条1項2号により取引の相手方等の氏名と住所が記載され、6号の売買金額や7号の報酬の額も並ぶため、第三者に見せる制度になっていないのです。保存期間も異なり、名簿は最終の記載をした日から10年間、帳簿は各事業年度の末日をもって閉鎖した後5年間(宅地建物取引業者が自ら売主となる新築住宅に係るものは10年間)です。

    Q3. 宅地建物取引士である従業者については、宅地建物取引士証を携帯させていれば、従業者証明書を携帯させる必要はない。(○か×か)

    答えを見る×:48条1項は宅地建物取引士であるかどうかを区別しておらず、従業者全員に従業者証明書を携帯させなければ業務に従事させてはならないとしています。国土交通省の解釈・運用の考え方は、携帯させるべき者の範囲を、代表者を含み、専任の宅建士の設置基準における従事者の範囲に非常勤の役員と単に一時的に事務の補助をする者を加えたものとしています。従業者証明書は宅地建物取引業者が交付し様式は別記様式第八号、宅建士証は都道府県知事が交付するもので、別の制度であり相互に代替できません。

    Q4. 宅地建物取引業者は、契約の締結を行う案内所を設置した場合、その案内所に従業者名簿と帳簿を備えなければならない。(○か×か)

    答えを見る×:従業者名簿(48条3項)も帳簿(49条)も、備えるのは事務所ごとであり、案内所には備える必要がありません。報酬額の掲示(46条4項)も事務所のみです。一方、標識の掲示(50条1項、施行規則19条1項)は事務所以外の業務を行う場所にも必要です。契約の締結や申込みの受付を行う案内所については、専任の宅地建物取引士を1人以上置くことと、業務を開始する日の10日前までに免許権者および所在地を管轄する都道府県知事へ届け出ること(50条2項、施行規則19条3項)が求められます。なお、案内所であっても72条1項の立入検査の対象にはなります。

    Q5. 宅地建物取引業者が自ら売主として新築住宅を販売した取引に係る帳簿は、当該取引のあった日から10年間保存しなければならない。(○か×か)

    答えを見る×:年数は正しいものの、起算点が違います。施行規則18条3項は、帳簿を各事業年度の末日をもって閉鎖するものとし、閉鎖後5年間(自ら売主となる新築住宅に係るものは10年間)保存しなければならないと定めています。起算点は取引の日ではなく、その取引が属する事業年度の末日に閉鎖した時点です。この10年は品確法95条1項が新築住宅の売主に課している引渡しから10年間の瑕疵担保責任に対応しています。新築住宅の売買を媒介したにすぎない場合は自ら売主ではないため、原則どおり5年間です。

    まとめ

    従業者証明書、従業者名簿、帳簿は、いずれも宅地建物取引業者の義務です。証明書は従業者全員に携帯させるもので、宅建士かどうかを問わず、代表者や非常勤の役員、一時的な事務補助者も対象になります。交付するのは業者であり、様式は別記様式第八号、有効期間は5年以下です。宅建士証で代えることはできません。

    名簿と帳簿の違いは5軸で押さえてください。名簿は人の記録で異動のつど記載し、様式第八号の二があり、最終の記載をした日から10年間保存し、取引の関係者から請求があれば閲覧させる義務があります。帳簿は取引の記録で宅建業に関し取引のあったつど記載し、法定様式はなく、各事業年度の末日に閉鎖して5年間(自ら売主となる新築住宅は10年間)保存し、閲覧義務はありません。住所を書くのは帳簿の側だけです。

    令和8年度の基準日では、名簿の記載事項から生年月日が消えて6項目になっており、事務所に掲げる標識も専任の宅建士の氏名ではなく数を記載する様式に変わっています。どちらも令和7年4月1日の改正で、市販教材が追いついていない可能性がある箇所です。

    場所の違いも問われます。名簿、帳簿、報酬額の掲示、専任の宅建士は事務所に必要なもので、標識だけが事務所以外の業務を行う場所にも必要です。案内所には名簿も帳簿も備える必要がなく、契約行為等を行う場合に専任の宅建士1人以上と50条2項の届出が加わります。

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