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宅建士の独占業務3つ|条文の主語で見分ける

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宅建士の独占業務は重要事項の説明・35条書面への記名・37条書面への記名の3つ。35条5項だけ主語が宅建士である理由、押印廃止の範囲、罰則の非対称までを条文で整理します。

目次

    この記事は、宅地建物取引士の独占業務がなぜ3つなのか、その3つが宅地建物取引業法のどの条文にどう書かれているのかを、条文の文面そのものから確認するためのものです。宅建士の仕事全体の見取り図は宅建士の仕事内容に、説明事項や記載事項の中身は重要事項説明の記載事項37条書面の記載事項にあります。ここでは中身ではなく、条文の構造だけを扱います。

    先に結論を述べます。宅建士の独占業務は、重要事項の説明(35条1項から3項)、35条書面への記名(35条5項)、37条書面への記名(37条3項)の3つです。ところが、この3つは条文の書きぶりが同じではありません。35条1項と37条3項は「宅地建物取引業者は……宅地建物取引士をして……させなければならない」という形で、義務を負う主体は宅建業者です。これに対して35条5項だけは「宅地建物取引士は、当該書面に記名しなければならない」と書かれており、宅建士自身が義務の主体になっています。3つのうち1つだけが非対称です。この非対称は、条文を読まずに「独占業務は3つ」とだけ覚えていると絶対に気づけません。そして試験は、まさにこの主語を入れ替えて出題します。以下では、3つの条文を並べて読むところから始めます。

    3つの条文を並べて読む

    35条1項 — 業者が宅建士に説明をさせる

    宅地建物取引業法35条1項は、次のように書かれています。宅地建物取引業者は、宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の相手方若しくは代理を依頼した者又は宅地建物取引業者が行う媒介に係る売買、交換若しくは貸借の各当事者(以下「宅地建物取引業者の相手方等」という。)に対して、その者が取得し、又は借りようとしている宅地又は建物に関し、その売買、交換又は貸借の契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士をして、少なくとも次に掲げる事項について、これらの事項を記載した書面を交付して説明をさせなければならない、というものです。

    長い条文ですが、骨格だけを抜き出すと「宅地建物取引業者は……宅地建物取引士をして……説明をさせなければならない」となります。主語は宅地建物取引業者です。宅建士は「宅地建物取引士をして」という言い回しで、義務を履行する道具として指名されているにすぎません。法律上の義務を負っているのは業者であって、宅建士ではないのです。

    この構造には理由があります。宅建業法は、宅地建物取引業を営む者を免許制で規律する法律です。規律の名宛人はまず業者であり、業者が消費者に対して負う義務の内容として「宅建士に説明させること」が書き込まれています。宅建士の資格制度は、その義務を果たすための担い手を確保する仕組みとして、業者規制の内部に置かれています。

    35条5項 — 宅建士が記名する

    35条5項は、こう定めています。第一項から第三項までの書面の交付に当たつては、宅地建物取引士は、当該書面に記名しなければならない。

    ここで主語が変わります。文の冒頭は「第一項から第三項までの書面の交付に当たつては」という状況設定ですが、その直後に置かれた主語は「宅地建物取引士は」です。業者ではありません。「宅地建物取引士をして……させなければならない」という言い回しも使われていません。宅建士が直接、自分の名において記名義務を負う条文になっています。

    3つの独占業務のうち、宅建士自身が主語になっているのはこの条文だけです。ほかの2つは、いずれも業者が宅建士に何かをさせる形をとっています。

    37条3項 — 再び業者が宅建士に記名させる

    37条3項は、次のとおりです。宅地建物取引業者は、前二項の規定により交付すべき書面を作成したときは、宅地建物取引士をして、当該書面に記名させなければならない。

    主語は宅地建物取引業者に戻ります。そして「宅地建物取引士をして……記名させなければならない」という、35条1項とまったく同じ言い回しが使われています。同じ「記名」という行為でありながら、35条5項と37条3項では条文の作りが違うわけです。

    主語が違うと何が変わるか

    条文の主語は、単なる書きぶりの差ではありません。義務違反があったときに、誰が違反者になるかを決めます。

    35条1項の義務に違反したとき、すなわち宅建士以外の従業者に重要事項を説明させたときは、業者が義務違反者です。65条2項2号は、35条1項から3項までの規定に違反したときを業務停止事由として列挙しており、処分の相手は宅地建物取引業者です。宅建士でない者が説明した場合、その者は「宅建士としてすべき事務」を行える立場にないため、68条による指示処分の対象にはなりません。

    35条5項の義務は、宅建士自身が負います。宅建士が記名を怠れば、それは宅建士自身の義務違反です。68条1項3号は、宅建士が「宅地建物取引士として行う事務に関し不正又は著しく不当な行為をしたとき」に都道府県知事が指示できると定めており、宅建士本人が処分の対象になります。

    37条3項の義務は業者が負います。宅建士に記名させないまま37条書面を交付したときに違反するのは業者です。

    もっとも、実際には業者と宅建士の双方が処分される場合もあります。65条1項4号は、宅建士が68条または68条の2第1項の処分を受けた場合において、宅建業者の責めに帰すべき理由があるときは、業者に対しても必要な指示ができると定めています。組織的に不適切な運用が行われていれば、業者と宅建士の両方が責任を問われます。主体が分かれていることと、両方が責任を負いうることは矛盾しません。主体の区別そのものについては宅建業者の義務と宅建士の義務で条文ごとに整理しています。

    独占業務1 — 重要事項の説明

    「独占業務」とは何を意味するのか

    独占業務とは、その資格を持つ者でなければ法律上行うことができない業務のことです。宅建士の場合、35条1項が「宅地建物取引士をして……説明をさせなければならない」と定めていることの反面として、宅建士でない者が重要事項の説明をしても、業者は義務を果たしたことになりません。無資格者が説明した場合、その説明は法的には存在しなかったのと同じ扱いになり、業者は35条1項違反となります。

    ここで注意すべきは、宅建業法が「宅建士以外の者は重要事項の説明をしてはならない」という禁止規定を置いているわけではない、という点です。条文の形は禁止ではなく、業者に対する作為義務です。それでも結果として、宅建士でなければその業務を適法に行えないため、独占業務と呼ばれます。

    説明が独占業務になるのは1項だけではない

    35条には説明義務を定めた項が3つあります。1項は通常の売買・交換・貸借、2項は宅地建物の割賦販売、3項は宅地建物に係る信託の受益権の売主となる場合です。2項も3項も、条文は「宅地建物取引士をして……これらの事項を記載した書面を交付して説明をさせなければならない」と書かれており、1項と同じ構造です。

    したがって、独占業務としての「重要事項の説明」は、35条1項から3項までを含みます。1項だけを指すのではありません。35条5項が記名の対象を「第一項から第三項までの書面」と書いているのも、この3つが並列であることを前提にしているからです。

    相手方は取得者・借主となろうとする者

    35条1項が定義する「宅地建物取引業者の相手方等」は、売買・交換・貸借の相手方、代理を依頼した者、媒介に係る各当事者を指します。ただし条文は続けて「その者が取得し、又は借りようとしている宅地又は建物に関し」と書いており、説明の対象は取得または賃借しようとする物件に限られます。売主や貸主は、その物件を取得しようとしているわけではないので、実際には説明を受ける立場になりません。定義語は広く、説明の対象で絞られる、という二段構えです。この読み方は説明義務の全体像で詳しく扱っています。

    業者間取引では説明が消える

    相手方が宅地建物取引業者である場合の扱いは、35条6項が定めています。6項は読替えの表を置いており、1項の「宅地建物取引士をして、少なくとも次に掲げる事項について、これらの事項」を「少なくとも次に掲げる事項」に、「交付して説明をさせなければ」を「交付しなければ」に読み替えると定めています。そして「前二項の規定は、適用しない」として、4項(宅建士証の提示)と5項(宅建士の記名)を適用除外にしています。

    読替え後の1項には「宅地建物取引士をして」という文言が残りません。つまり業者間取引では、重要事項の説明という独占業務そのものが消えます。書面の交付義務だけが残ります。

    ただし記名は残ります。35条7項が、6項の読替えにより交付すべき書面を作成したときは、宅地建物取引業者は宅建士をして当該書面に記名させなければならない、と定めているからです。ここで注目してほしいのは主語です。5項では「宅地建物取引士は」だったものが、7項では「宅地建物取引業者は……宅地建物取引士をして……記名させなければならない」に変わっています。相手が業者かどうかで、同じ35条書面の記名の主語が入れ替わるのです。

    この読替えの根拠が78条2項ではないことも押さえておいてください。78条2項が業者間取引で適用しないと定めているのは、33条の2および37条の2から43条までの規定であって、35条は含まれていません。35条の扱いが変わるのは35条自身の6項によるものです。

    専任である必要はない

    35条1項は「宅地建物取引士をして」としか書いていません。専任の宅地建物取引士に限るとは書かれていないので、宅建士証の交付を受けている宅建士であれば、専任であるかどうかを問わず重要事項の説明を行えます。31条の3が定める専任の宅建士の設置義務は、事務所に一定数の宅建士を配置させる規制であって、誰が独占業務を行えるかを定めた規定ではありません。この点は毎年のように出題されるので、専任の宅建士の設置義務とあわせて確認してください。

    独占業務2 — 35条書面への記名

    記名の対象と時点

    35条5項は、記名の対象を「第一項から第三項までの書面」と特定し、時点を「交付に当たつては」としています。書面を作成した時点ではなく、交付する時点で記名がされていなければなりません。記名のない35条書面を交付すれば、その時点で5項違反です。

    記名という行為は、その書面の記載内容を宅建士として確認したことを示します。したがって、自分が調査していない事項について形式的に名前を書き入れることは、記名の趣旨に反します。68条1項3号が定める「宅地建物取引士として行う事務に関し不正又は著しく不当な行為」に該当すれば、指示処分や事務禁止処分の対象になりえます。

    説明する宅建士と記名する宅建士は同一でなくてよい

    35条1項は説明をさせるべき者を「宅地建物取引士」とだけ定め、5項は記名すべき者を「宅地建物取引士」とだけ定めています。どちらも同一人物であることを求めていません。したがって、書面を作成して記名した宅建士と、説明の場に立った宅建士が別人であっても、条文上は適法です。

    試験では「35条書面に記名した宅建士と説明を行った宅建士は同一でなければならない」という肢が出ます。条文にそう書かれていない以上、誤りです。同じ理屈で、35条書面に記名した宅建士と37条書面に記名した宅建士が別人であっても差し支えありません。

    電磁的方法による提供

    35条8項は、宅地建物取引業者は書面の交付に代えて、政令で定めるところにより相手方の承諾を得て、宅地建物取引士に、当該書面に記載すべき事項を電磁的方法により提供させることができる、と定めています。その電磁的方法は「第五項の規定による措置に代わる措置を講ずるもの」でなければなりません。つまり、電子化しても記名に相当する措置は要求されます。記名という手続が消えるのではなく、電子的な同等措置に置き換わるだけです。

    そして8項の後段は、この場合に業者は当該宅建士に当該書面を交付させたものとみなし、5項は適用しないと定めています。承諾が前提である点も重要で、相手方の承諾なく一方的に電子提供することはできません。IT重説と書面電子化の運用はIT重説と重要事項説明の電子化で扱っています。

    独占業務3 — 37条書面への記名

    交付は業者、記名は宅建士

    37条1項は、宅地建物取引業者は、自ら当事者として契約を締結したときはその相手方に、当事者を代理して契約を締結したときはその相手方および代理を依頼した者に、その媒介により契約が成立したときは当該契約の各当事者に、遅滞なく、所定の事項を記載した書面を交付しなければならない、と定めています。2項は貸借の場合の規定です。

    この1項・2項の主語はいずれも宅地建物取引業者であり、宅建士は登場しません。交付という行為自体は業者の義務であって、宅建士の独占業務ではありません。宅建士が関与するのは3項の記名だけです。

    したがって、37条書面を無資格の従業者が持参して交付しても、それ自体は違法ではありません。書面に宅建士の記名がされていることが要件です。「37条書面は宅建士が交付しなければならない」という肢は、この一点で誤りと判定できます。

    説明義務も提示義務もない

    37条には「説明」という文言がありません。書面を交付せよとしか書かれていないので、37条書面について宅建士が内容を説明する義務はありません。説明という行為がないため、宅建士証の提示義務も生じません。35条4項が提示を求めているのは「前三項の説明をするとき」だからです。

    この差は、書面の役割の違いから生じます。35条書面は、契約するかどうかを判断するための材料を契約前に渡す書面なので、渡すだけでなく説明させる必要があります。37条書面は、成立した合意の内容を後日の紛争に備えて固定する書面なので、正確な記載と確実な交付が本体になります。両者の対比は35条書面と37条書面の横断整理で軸ごとに整理してあります。

    電磁的方法と記名のみなし

    37条4項は1項の書面について、5項は2項の書面について、それぞれ相手方等の承諾を得て電磁的方法により記載事項を提供できると定めています。いずれも「前項の規定による措置に代わる措置」「第三項の規定による措置に代わる措置」という書き方で、3項の記名に対応する措置が要求されています。提供したときは書面を交付したものとみなされ、3項は適用しないとされます。

    ここで35条8項との違いに気づいておくと、条文の読みが一段深くなります。35条8項は「宅地建物取引士に……提供させることができる」と書いており、提供行為自体を宅建士にさせる形です。これに対して37条4項・5項は「当該書面に記載すべき事項を……提供することができる」と書いており、主語は業者のままで、宅建士に提供させるとは書かれていません。書面の世界での主語の違いが、電子の世界にもそのまま持ち越されています。

    押印はどこで消え、どこに残っているか

    2022年5月18日施行の改正

    35条5項と37条3項は、かつて「記名押印」を求めていました。これを「記名」に改めたのが、デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律(令和3年法律第37号)で、宅建業法に関する部分は2022年5月18日に施行されています。

    改正前の35条5項は「第一項から第三項までの書面の交付に当たつては、宅地建物取引士は、当該書面に記名押印しなければならない」でした。改正後は末尾が「記名しなければならない」に変わっています。37条3項も同様に「記名押印させなければならない」から「記名させなければならない」に変わりました。同じ改正で、35条8項・37条4項・5項の電磁的方法による提供の規定が新設されています。押印を外したことと、書面を電子化できるようにしたことは一体の改正です。

    媒介契約書面には押印が残っている

    ここが混同の温床です。媒介契約書面を定める34条の2第1項は、現在も次のように書かれています。宅地建物取引業者は、宅地又は建物の売買又は交換の媒介の契約を締結したときは、遅滞なく、次に掲げる事項を記載した書面を作成して記名押印し、依頼者にこれを交付しなければならない。

    「記名押印」のままです。2022年の改正でも、この文言は変更されていません。しかも、記名押印する主体は宅地建物取引業者です。条文のどこにも「宅地建物取引士」という語がありません。

    つまり媒介契約書面については、押印が今も必要であり、かつ押印するのは業者であって宅建士ではない、という二重の意味で35条書面・37条書面と異なります。媒介契約書面は宅建士の独占業務ではありません。記載事項や有効期間の規律は媒介契約の種類と規制媒介契約書の記載事項で扱っています。

    なお34条の2第11項は、依頼者の承諾を得て電磁的方法により提供できると定めており、その方法は「同項の規定による記名押印に代わる措置を講ずるもの」とされています。電子化の規定にも「記名押印」という語がそのまま残っている点に、改正が及んでいないことがはっきり表れています。

    押印をめぐる出題パターン

    試験では、押印の有無と主体を組み合わせて誤りを作ります。「35条書面には宅建士の記名押印が必要である」は押印が誤り。「媒介契約書面には宅建士が記名押印しなければならない」は主体が誤り。「37条書面には宅建士の記名が必要である」は正しい。3つの書面を、押印の要否と主体の2軸で覚えておくと、どの組み合わせが来ても判定できます。改正点の全体は宅建業法の最近の改正にまとめてあります。

    宅建士証の提示は独占業務に付随する

    35条4項 — 説明のときは請求がなくても提示する

    35条4項は、宅地建物取引士は、前三項の説明をするときは、説明の相手方に対し、宅地建物取引士証を提示しなければならない、と定めています。主語は宅地建物取引士です。ここも35条5項と同じく、宅建士自身が義務の主体になっています。

    重要なのは、相手方からの請求が要件になっていない点です。条文は「説明をするとき」としか書いていないので、請求されなくても自ら提示しなければなりません。重要事項の説明という独占業務を行う場面では、自分がその資格を持つ者であることを相手に示すことが義務づけられている、という構造です。

    22条の4 — 請求があったときに提示する

    これとは別に、22条の4が次のように定めています。宅地建物取引士は、取引の関係者から請求があつたときは、宅地建物取引士証を提示しなければならない。

    こちらは「請求があつたとき」が要件です。場面も限定されておらず、重要事項の説明の場面に限りません。取引の関係者から求められれば、いつでも提示する義務があります。

    過料の対象になるのは35条4項だけ

    2つの提示義務は、罰則の点でも扱いが違います。86条は、第二十二条の二第六項若しくは第七項、第三十五条第四項又は第七十五条の規定に違反した者は、十万円以下の過料に処する、と定めています。列挙されているのは、宅建士証の返納義務(22条の2第6項)、提出義務(22条の2第7項)、35条4項の提示義務、そして75条です。

    22条の4は、この列挙に入っていません。したがって22条の4の提示義務に違反しても、過料の定めはありません。宅建業法上の義務であることに変わりはないので、68条による指示処分の対象にはなりえますが、86条の過料は科されません。

    「請求がなくても提示、違反すれば10万円以下の過料」がセットになっているのが35条4項、「請求があったときに提示、過料の定めなし」が22条の4です。この対応で覚えると、根拠条文を取り違えません。罰則の全体像は宅建業法の罰則一覧を参照してください。

    37条書面の交付では提示しない

    37条書面を交付するとき、宅建士証の提示は不要です。35条4項は「前三項の説明をするとき」に限って提示を求めており、37条には説明という行為が存在しないからです。ただし、取引の関係者から請求があれば、22条の4により提示しなければなりません。「37条書面の交付の際に提示義務はない」は正しく、「37条書面の交付の際は請求されても提示しなくてよい」は誤りです。

    独占業務ではないもの

    媒介契約書面の記名押印

    前述のとおり、34条の2第1項が求めているのは宅地建物取引業者による記名押印です。宅建士は関与しません。宅建士の独占業務を3つと数えるとき、媒介契約書面を4つ目に数えてはいけません。

    供託所等に関する説明

    35条の2は、宅地建物取引業者は、宅地建物取引業者の相手方等(宅地建物取引業者に該当する者を除く。)に対して、契約が成立するまでの間に、営業保証金を供託した供託所およびその所在地、または保証協会の社員である旨等について説明をするようにしなければならない、と定めています。

    この条文には「宅地建物取引士をして」という文言がありません。宅建士が説明しなくてもよく、書面の交付も求められていません。さらに述語が「説明をするようにしなければならない」であり、35条1項の「説明をさせなければならない」とは書き分けられています。「するように」が挟まっていることから、努力義務と解されています。

    条文の位置が35条の直後にあり、名前も似ているため35条の説明と混同されがちですが、宅建士の関与も書面も義務の強さも違います。詳細は供託所等に関する説明義務にあります。

    37条書面の交付そのもの

    37条1項・2項の交付義務は業者のものです。宅建士が交付する必要はありません。独占業務は3項の記名だけです。

    契約の締結、広告、案内、価格査定

    契約を締結する行為、広告を出す行為、物件を案内する行為、価格を査定する行為は、いずれも宅建業法が宅建士に留保していません。無資格の従業者でも行えます。広告の規律は業者に向けられており(32条・33条・34条)、広告に関する規制で扱う誇大広告の禁止も、名宛人は業者です。

    事務所に備えるもの、掲げるもの

    48条3項の従業者名簿、49条の帳簿、50条1項の標識、46条4項の報酬額の掲示は、いずれも宅地建物取引業者の義務です。宅建士が備えるのでも掲げるのでもありません。48条1項の従業者証明書の携帯義務も業者に課されたもので、宅建士証とは別の制度です。事務所の要件と備付けもので場所ごとに整理しています。

    「独占業務でないもの」を数える意味

    独占業務でないものを列挙すると、独占業務3つの共通点が見えてきます。3つはいずれも、取引の相手方に対して情報を確定した形で渡す場面に置かれています。重要事項の説明は判断材料を渡す場面、35条書面の記名はその材料の正確性を担保する行為、37条書面の記名は合意内容の記録の正確性を担保する行為です。契約を結ぶことや広告を出すことは、情報を確定して渡す場面ではないので、資格者に留保する必要がありません。

    独占業務があるから設置義務がある

    31条の3の構造

    31条の3第1項は、宅地建物取引業者は、その事務所その他国土交通省令で定める場所ごとに、事務所等の規模、業務内容等を考慮して国土交通省令で定める数の成年者である専任の宅地建物取引士を置かなければならない、と定めています。

    その数を定めているのが施行規則15条の5の3で、事務所については、業務に従事する者の数に対する専任の宅建士の数の割合が5分の1以上となる数、それ以外の場所については1以上とされています。5人に1人以上という言い方は、この5分の1という割合を言い換えたものです。

    対象となる事務所以外の場所は施行規則15条の5の2が列挙しており、継続的に業務を行うことができる施設を有する場所、10区画以上の一団の宅地または10戸以上の一団の建物の分譲を行う案内所、他の業者が行う一団の宅地建物の分譲の代理・媒介を行う案内所、展示会その他これに類する催しを実施する場所の4つです。ただし、いずれも「契約を締結し、又はこれらの契約の申込みを受けるもの」に限られます。

    なぜ設置義務が必要になるのか

    独占業務があるということは、宅建士がいなければ取引を完結できないということです。重要事項の説明ができず、35条書面にも37条書面にも記名できないのですから、契約に至る手続そのものが止まります。

    だからこそ、宅建業法は業者に対して、宅建士を置いておくことを義務づけています。独占業務の規定だけがあって設置義務がなければ、業者は必要になったときに外部の宅建士を呼ぶという運用をとれてしまい、実際の取引の現場に専門家がいない状態が生まれます。31条の3は、独占業務の実効性を組織の側から担保する規定です。

    逆にいえば、31条の3は誰が独占業務を行えるかを定めた規定ではありません。専任でない宅建士でも独占業務は行えますし、専任の宅建士だからといって独占業務以外の権限が増えるわけでもありません。設置義務と独占業務は、目的でつながっているだけで、要件としては独立しています。

    抵触したときの2週間と罰則

    31条の3第3項は、宅地建物取引業者は、第一項の規定に抵触する事務所等を開設してはならず、既存の事務所等が同項の規定に抵触するに至つたときは、二週間以内に、同項の規定に適合させるため必要な措置を執らなければならない、と定めています。

    この3項に違反したときは、82条2号により100万円以下の罰金の対象になります。さらに65条2項2号は31条の3第3項を業務停止事由として列挙しています。措置を執らずに放置することは、罰則と監督処分の両方の対象です。数字と手続の詳細は専任の宅建士の設置義務にまとめてあります。

    違反したときのサンクションは対称ではない

    監督処分の列挙に記名の項は入っていない

    65条2項2号は、業務停止処分の対象となる違反行為を条文名で列挙しています。そこに挙げられているのは「第三十五条第一項から第三項まで」と「第三十七条第一項若しくは第二項」です。35条5項も37条3項も、この列挙には入っていません。

    だからといって記名を怠ってよいわけではありません。65条1項1号・2号は「業務に関し取引の関係者に損害を与えたとき又は損害を与えるおそれが大であるとき」「業務に関し取引の公正を害する行為をしたとき又は取引の公正を害するおそれが大であるとき」を指示事由として一般的に定めており、記名を欠いた書面の交付はこれに該当しうるからです。ただし、列挙されている条文とそうでない条文があるという事実は、条文を読んだ人にしか見えません。

    37条違反には罰金があり、35条違反にはない

    83条1項2号は、第三十七条、第四十六条第四項、第四十八条第一項又は第五十条第一項の規定に違反した者は50万円以下の罰金に処する、と定めています。ここで挙げられているのは「第三十七条」であり、項の限定がありません。3項の記名義務違反も含まれる書き方です。

    これに対して35条は、83条にも82条にも79条にも挙げられていません。35条1項の説明義務に違反しても、罰金の規定はないのです。35条について罰則が用意されているのは、4項の提示義務違反に対する86条の10万円以下の過料だけです。

    重要事項の説明のほうが実質的に重い義務に見えるのに、罰則は37条のほうが重い。この逆転は、35条違反が監督処分によって捕捉される前提で立法されていることによります。理由はともかく、試験では罰則の有無と金額が入れ替えられるので、事実として覚える必要があります。

    47条1号は35条・37条の記載事項を取り込む

    もう一段の仕掛けがあります。47条1号は、契約締結の勧誘などに際して、一定の事項について故意に事実を告げず、または不実のことを告げる行為を禁止しています。その「一定の事項」として、イに35条1項各号・2項各号、ロに35条の2各号、ハに37条1項各号・2項各号(1号を除く)を挙げ、さらにニで相手方等の判断に重要な影響を及ぼす事項一般を受け皿として置いています。

    47条1号に違反すると、79条の2により2年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金、またはこれらの併科です。84条1号の両罰規定により、法人には1億円以下の罰金が科されます。同じ35条の記載事項でも、説明を怠ったにとどまれば罰則がなく、故意に事実を告げなければ刑罰が科される、という構造になっています。禁止行為の射程は業務に関する禁止事項で扱っています。

    宅建士に対する処分

    宅建士本人に対する監督処分は68条と68条の2です。68条1項は指示処分、2項は1年以内の期間を定めた事務禁止処分を定めています。68条の2は登録の消除で、68条1項各号に該当し情状が特に重いとき、または事務禁止処分に違反したときには、都道府県知事は登録を消除しなければなりません。

    事務禁止処分を受けたときは、22条の2第7項により、速やかに宅建士証をその交付を受けた都道府県知事に提出しなければなりません。これを怠れば86条の過料の対象です。提出は禁止期間中の一時的な措置で、期間満了後に返還を請求できます(22条の2第8項)。登録が消除されたときや宅建士証が効力を失ったときの返納(同条6項)とは別の手続です。監督処分の全体像は監督処分の種類と手続にあります。

    試験での出題ポイント

    主語を入れ替える

    もっとも多いパターンです。「宅地建物取引業者は、35条書面に記名しなければならない」は主語が誤りで、記名するのは宅建士です。「宅地建物取引士は、37条書面を交付しなければならない」も誤りで、交付するのは業者です。「宅地建物取引士は、媒介契約書面に記名押印しなければならない」も誤りで、記名押印するのは業者です。

    条文を音読するときに、主語を意識して読む癖をつけてください。「業者は、宅建士をして、させなければならない」なのか「宅建士は、しなければならない」なのか。この2種類しかありません。

    独占業務の数を増やす、減らす

    「宅建士の独占業務は4つである」として媒介契約書面の記名押印を含める肢、「37条書面の交付は宅建士の独占業務である」として交付を含める肢、「供託所等の説明は宅建士が行わなければならない」とする肢が典型です。いずれも独占業務でないものを混ぜ込むパターンです。

    逆に「宅建士の独占業務は重要事項の説明と35条書面への記名の2つである」として37条書面の記名を落とす肢もあります。3つを正確に数えられるかを問われています。

    押印の有無

    「35条書面には宅建士の記名押印が必要」は誤り、「37条書面には宅建士の記名押印が必要」も誤り、「媒介契約書面には業者の記名押印が必要」は正しい。2022年5月18日施行の改正で押印が外れたのは35条5項と37条3項だけです。

    専任かどうか

    「重要事項の説明は専任の宅建士が行わなければならない」は誤りです。35条1項は「宅地建物取引士をして」としか書いていません。同じく「35条書面への記名は専任の宅建士がしなければならない」も誤りです。

    同一人物かどうか

    「35条書面に記名した宅建士が説明を行わなければならない」「35条書面と37条書面には同一の宅建士が記名しなければならない」は、いずれも条文にない要件を付け加えた誤りです。

    提示義務の場面と根拠

    「重要事項の説明の際は、相手方から請求があった場合に宅建士証を提示すればよい」は誤りで、35条4項は請求を要件としていません。「宅建士証の提示義務違反はいずれも10万円以下の過料の対象である」も誤りで、86条に挙がっているのは35条4項だけです。

    業者間取引

    「業者間の売買では35条書面の交付も不要である」は誤りです。35条6項が読替えで外しているのは説明であって交付ではありません。「業者間取引では宅建士の記名も不要である」も誤りで、35条7項が記名を求めています。根拠が78条2項ではなく35条6項である点まで確認しておくと、応用が利きます。

    罰則の入れ替え

    「35条1項に違反した宅建業者は50万円以下の罰金に処せられる」は誤りです。83条1項2号に挙がっているのは37条であって35条ではありません。逆に「37条に違反しても罰則はなく、監督処分の対象になるにとどまる」も誤りです。出題頻度の高い数字は宅建業法の数字まとめで通しで確認できます。

    覚え方・整理の仕方

    主語を3語で唱える

    「業者・士・業者」と唱えます。35条1項が業者、35条5項が士、37条3項が業者。この並びを口に出せるようにしておくと、主語を入れ替えた肢は読んだ瞬間に違和感が出ます。真ん中だけが違う、という形で覚えるのが定着します。

    「させる」があるかどうかで見分ける

    条文に「宅地建物取引士をして」という語があれば、義務者は業者です。この語がなく「宅地建物取引士は」で始まっていれば、義務者は宅建士です。宅建業法の中で「宅地建物取引士は」を主語とする条文は多くありません。15条、15条の2、15条の3の責務規定、22条の2第6項・7項の返納・提出、22条の4の提示、35条4項の提示、35条5項の記名です。この7つを一組にして覚えると、主語の判別が速くなります。

    3つの独占業務を時間軸に置く

    契約成立を境にすると、重要事項の説明と35条書面への記名は契約前、37条書面への記名は契約後です。前が2つ、後ろが1つ。宅建士証の提示は契約前の説明の場面にだけあります。「前に2つ、後ろに1つ、提示は前だけ」と並べると、37条について提示や説明を持ち出す肢を弾けます。

    押印は媒介契約書面にだけ残っていると覚える

    35条書面と37条書面から押印が消え、媒介契約書面には残っている。しかも媒介契約書面は宅建士ではなく業者が記名押印する。「押印が残っているものは、宅建士の仕事ではない」と結びつけて覚えると、2つの論点を1つの知識で処理できます。

    罰則は「37条にはある、35条にはない」から入る

    罰則の細部を全部覚えようとすると混乱します。まず「37条違反には50万円以下の罰金がある、35条違反には罰金がない」という骨格を置き、そのうえで「35条で唯一罰則があるのは4項の提示義務で、10万円以下の過料」を足します。最後に「故意に告げなければ47条1号で刑罰」を乗せれば、三層が揃います。

    独占業務と設置義務を因果でつなぐ

    「独占業務があるから、事務所に宅建士を置かせる」という順序で理解しておくと、31条の3の趣旨を問う肢にも対応できます。逆向きに「専任だから独占業務ができる」と理解していると、専任性と独占業務を混ぜた肢に引っかかります。

    理解度チェッククイズ

    Q1. 宅地建物取引業法35条5項は、宅地建物取引業者に対し、宅地建物取引士をして35条書面に記名させることを義務づけている。○か×か。

    答えを見る ×。35条5項は「第一項から第三項までの書面の交付に当たつては、宅地建物取引士は、当該書面に記名しなければならない」と定めており、主語は宅地建物取引士です。業者が宅建士に記名させるという構造をとっているのは37条3項のほうです。なお、相手方が宅建業者である場合には35条5項が適用されず、35条7項により業者が宅建士をして記名させる形に変わります。同じ35条書面でも、相手が業者かどうかで主語が入れ替わる点まで押さえてください。

    Q2. 宅地建物取引業者は、媒介契約を締結したときは遅滞なく媒介契約書面を作成し、宅地建物取引士に記名させなければならない。○か×か。

    答えを見る ×。34条の2第1項は「次に掲げる事項を記載した書面を作成して記名押印し、依頼者にこれを交付しなければならない」と定めており、記名押印するのは宅地建物取引業者です。宅建士は関与しません。加えて、35条書面・37条書面が2022年5月18日施行の改正で「記名」に改められたのに対し、媒介契約書面は現在も「記名押印」のままです。主体と押印の両方が違うので、独占業務3つに含めてはいけません。

    Q3. 宅地建物取引士は、37条書面を交付する際、相手方から請求がなくても宅地建物取引士証を提示しなければならない。○か×か。

    答えを見る ×。35条4項が提示を求めているのは「前三項の説明をするとき」であり、37条書面の交付には説明という行為がありません。したがって自発的な提示義務は生じません。ただし22条の4により、取引の関係者から請求があったときは提示しなければならないので、「請求されても提示不要」とするのも誤りです。なお、35条4項違反は86条により10万円以下の過料の対象ですが、22条の4は86条の列挙に入っておらず、過料の定めがありません。

    Q4. 宅地建物取引業者が、宅地建物取引士に記名させないまま37条書面を交付した場合、50万円以下の罰金に処せられることがある。○か×か。

    答えを見る ○。83条1項2号は「第三十七条……の規定に違反した者は、五十万円以下の罰金に処する」と定めており、項の限定がないため3項の記名義務違反も含まれます。84条2号の両罰規定により、法人にも各本条の罰金刑が科されます。対比として押さえるべきは35条で、35条1項の説明義務に違反しても罰金の定めはなく、罰則があるのは4項の提示義務違反に対する86条の過料(10万円以下)だけです。

    Q5. 事務所において重要事項の説明を行う宅地建物取引士は、その事務所の専任の宅地建物取引士でなければならない。○か×か。

    答えを見る ×。35条1項は「宅地建物取引士をして」としか書いておらず、専任であることを求めていません。宅建士証の交付を受けている宅建士であれば、専任でなくても重要事項の説明を行えます。31条の3が定める専任の宅建士の設置義務は、事務所に一定数の宅建士を配置させる規制であって、誰が独占業務を行えるかを定めた規定ではありません。設置義務と独占業務は目的でつながっていますが、要件としては独立しています。

    まとめ

    宅建士の独占業務は、重要事項の説明(35条1項から3項)、35条書面への記名(35条5項)、37条書面への記名(37条3項)の3つです。この3つは、条文の主語が「業者・士・業者」と並んでおり、真ん中の35条5項だけが宅建士自身を義務の主体としています。義務の主体は、違反したときに誰が処分されるかを決めるので、書きぶりの差は結論の差になります。

    押印は2022年5月18日施行の改正で35条5項と37条3項から外れ、記名だけになりました。一方、媒介契約書面(34条の2第1項)は今も記名押印を求めており、しかも記名押印するのは業者です。押印が残っているものは宅建士の仕事ではない、という対応で覚えておけば混同しません。

    宅建士証の提示には、35条4項の説明時の提示と22条の4の請求時の提示という別々の義務があります。前者は請求がなくても提示が必要で、違反すれば86条の過料の対象です。後者は86条の列挙に入っておらず、過料の定めがありません。

    そして、独占業務があるからこそ31条の3の設置義務が必要になります。宅建士がいなければ説明も記名もできず、取引が完結しないからです。ただし独占業務を行うのに専任である必要はなく、設置義務と独占業務は要件としては別の規定です。

    宅建業法全体の中でのこの論点の位置づけは宅建業法の全体像で確認できます。宅建試験AIブートラボのアプリでは、35条と37条をめぐる主語の入れ替えを肢別に演習できます。主語の判別は読んで覚えるより、繰り返し判定するほうが速く身につきます。

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