不法行為ふほうこうい
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害し、これによって損害を生じさせる行為で、行為をした者はその損害を賠償する責任を負います(民法709条)。つまり、契約のない相手に対しても、わざと又は不注意で損害を与えたら償うという決まりです。
わき見運転の車が塀に突っ込み、家の一部を壊しました。運転していた人と家の所有者の間に契約はありませんが、所有者は修理代を請求できます。けがをした人がいれば、治療費のほかに、精神的な苦痛に対する慰謝料も請求できます(710条)。契約を守らなかった場合の債務不履行責任と並ぶ、損害賠償のもう一つの柱が不法行為です。損害を与えた側を加害者、受けた側を被害者といいます。

損害賠償債務は、損害の発生と同時に遅滞になります
期限を定めなかった債務は、履行の請求を受けた時から遅滞になるのが原則です(412条3項)。しかし判例は、不法行為による損害賠償債務については、請求を待たずに、損害の発生と同時に遅滞になるとしています。加害者は、事故の日から遅延損害金を負担します。被害者が請求の手紙を出すまで遅滞にならないのでは、被害者の保護に欠けるからです。
被害者の過失や、同じ原因で得た利益は賠償額に反映されます
被害者にも過失があったときは、裁判所は、これを考慮して損害賠償の額を定めることができます(722条2項)。これを過失相殺といいます。被害者が、不法行為と同じ原因によって、損害と同じ性質の利益を受けたときは、その利益の額が賠償額から差し引かれます。これを損益相殺といい、条文はありませんが判例で認められています。放火された家の所有者が受け取る火災保険金は、支払ってきた保険料の対価であって、放火による利益ではないので、差し引かれません。
時効は知った時から3年で、生命・身体の侵害は5年です
不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき、時効によって消滅します(724条1号)。損害と加害者の両方を知った時から数えます。知らないままでも、不法行為の時から20年間行使しないときは消滅します(724条2号)。人の生命又は身体を害する不法行為については、3年が5年に延びます(724条の2)。条文に理由は書いていませんが、生命や身体は特に守る必要が高く、治療などに追われてすぐに請求できないことも多いためと説明されています。

加害者の側から、賠償債務を相殺で消すことは制限されます
悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務と、人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務については、債務者である加害者の側から相殺を主張することができません(509条)。加害者が被害者に貸金などの債権を持っていても、それと差し引きにして済ませることは許されず、現実に賠償金を支払います。被害者に実際にお金を受け取らせるためです。不注意で物を壊しただけの場合の賠償債務は、この二つのどちらにも当たらないので、加害者の側からも相殺できます。被害者の側から、損害賠償の債権を使って相殺することは、どの場合でもできます。

民法 709条故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
試験ではこう問われる
- 不法行為の加害者は、履行の請求を受けた時からではなく、損害の発生と同時に遅滞の責任を負う
- 損害賠償請求権は、損害及び加害者を知った時から3年(人の生命・身体を害する場合は5年)、不法行為の時から20年で時効により消滅する
- 悪意による不法行為や生命・身体の侵害による賠償債務は、加害者の側から相殺できない。被害者の側から損害賠償債権を使って相殺することはできる
- 不法行為と同一の原因で損害と同質の利益を受けたときは、その額が賠償額から控除される。火災保険金は控除されない
- 契約締結前の説明義務違反による損害賠償は不法行為責任で、売買契約上の債務不履行責任は追及できない。時効は3年と20年で数える
- 債務者を教唆して債務の履行を不能にさせた第三者も、不法行為責任を負う。名誉を侵害された者は、損害賠償や名誉回復の処分のほか、侵害行為の差止めも求めることができる
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