履行遅滞りこうちたい
債務者が、履行することができるのに、履行の期限を過ぎても債務を履行しないことです(412条)。つまり、約束の期限に遅れている状態で、いつから遅滞の責任を負うかは期限の決め方によって変わります。
売買代金の支払日を10月31日と決めたのに、買主が11月になっても支払わない。支払うことはできるのに、期限を過ぎても履行していないこの状態が履行遅滞です。遅滞になると、債権者は遅れたことで生じた損害の賠償を請求でき、金銭の支払が遅れた場合は遅延損害金を請求します。相当の期間を定めて催告しても履行がなければ、契約を解除することもできます(541条)。いつから遅滞になるのかは、履行の期限をどう決めていたかで変わります。

遅滞になる時は、期限の決め方で三つに分かれます
10月31日のように到来する日が決まっている期限を確定期限といい、債務者はその期限が到来した時から遅滞の責任を負います(412条1項)。「父が亡くなったら支払う」のように、到来することは確実でも、いつ到来するか分からない期限を不確定期限といいます。この場合は、期限が到来した後に履行の請求を受けた時と、期限の到来を債務者が知った時の、いずれか早い時から遅滞になります(412条2項)。期限を定めなかったときは、履行の請求を受けた時からです(412条3項)。善意の受益者が負う不当利得の返還債務は、期限の定めのない債務なので、履行の請求を受けた時から遅滞になります。
不法行為の損害賠償債務は、損害の発生と同時に遅滞になります
不法行為に基づく損害賠償債務も、支払の期限が決まっていない債務です。412条3項をそのまま当てはめれば、履行の請求を受けた時から遅滞になるはずです。しかし判例は、この債務は請求を待たず、損害の発生と同時に遅滞になるとしています。被害者が請求するまでの間の遅延損害金を加害者が免れるのは公平でないため、と考えられます。

同時履行の抗弁権がある間は、遅滞の責任を負いません
売買では、売主の引渡しと買主の代金の支払は、原則として同時に行います。売主が引渡しの準備をして提供しないかぎり、買主は支払期日を過ぎても代金の支払を拒むことができ、拒んでいる間は遅滞の責任を負いません(533条)。請負でも、仕事の目的物が契約の内容に適合しないときは、注文者は修補に代わる損害賠償を受けるまで報酬の支払を拒めます。判例は、注文者がこの損害賠償債権と報酬債務を相殺したときは、相殺後に残った報酬債務について、相殺の意思表示をした日の翌日から遅滞になるとしています。

金銭の支払が遅れたときは、法定利率で損害を計算します
金銭の給付を目的とする債務の履行が遅れたときの損害賠償の額は、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定めます(419条1項)。契約で定めた利率(約定利率)が法定利率を超えるときは、約定利率によります。債権者は損害を証明する必要がなく、債務者は不可抗力を理由に支払を免れることができません(419条2項・3項)。法定利率は年3パーセントで、3年を一期として、一期ごとに見直されます(404条2項・3項)。
民法 412条債務の履行について確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した時から遅滞の責任を負う。 2 債務の履行について不確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した後に履行の請求を受けた時又はその期限の到来したことを知った時のいずれか早い時から遅滞の責任を負う。 3 債務の履行について期限を定めなかったときは、債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。
試験ではこう問われる
- 確定期限があるときは、その期限の到来した時から遅滞の責任を負う(412条1項)
- 不確定期限があるときは、期限の到来後に履行の請求を受けた時、又は期限の到来を知った時の、いずれか早い時から。「到来を知った後に請求を受けた時から」ではない
- 期限の定めがないときは、履行の請求を受けた時から。善意の受益者の不当利得返還債務もこれに当たる
- 不法行為に基づく損害賠償債務は、履行の請求を待たず、損害の発生と同時に遅滞になる
- 同時履行の関係にある修補に代わる損害賠償債権で相殺した注文者は、相殺後の報酬残債務について、相殺の意思表示をした日の翌日から遅滞の責任を負う
- 代金債務の履行期を過ぎていても、目的物の引渡しについて履行の提供を受けていなければ、買主は代金の支払を拒める
- 法定利率は年3パーセントで固定ではなく、3年ごとに見直される(404条)
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