宅建士は在宅ワークできる?リモートワークの実態と求人の探し方
宅建士が在宅勤務できるかを、IT重説の要件、35条書面・37条書面の電子化、専任の宅建士に求められる常勤性という制度の側から整理し、在宅で完結する業務と事務所での対応を要する業務を分けて解説します。
目次
この記事は、不動産取引のオンライン化を扱う記事群のうち、働き方の側から見たものです。IT重説の要件と書面電子化の手続そのものはIT重説と書面電子化、業界のデジタル化がなぜ起きたかという立法事実の側は不動産テックと不動産業界の動向で扱っています。ここでは、それらの制度が「宅建士がどこにいて働けるか」にどう跳ね返るかだけを追います。
はじめに、この記事の立場を示しておきます。宅建士の独占業務のうち重要事項の説明は、条件を満たせば非対面で実施できます。35条書面と37条書面も、相手方の承諾があれば電磁的方法で提供できます。ここは宅地建物取引業法と国土交通省のガイドラインで定まっている話なので、確実に書けます。
一方、「宅建士なら在宅で稼げる」といった説明は、公的な裏づけを示すことが困難です。在宅勤務が可能な求人がどれだけあるか、その報酬がどうかは、地域と会社によって大きく異なります。この記事では、制度として言えることと、条件つきでしか言えないことを分けて書きます。
「宅建士は在宅ワークできるか」を三つに分ける
この問いは、実は性質の違う三つの問いが混ざっています。分けて考えないと答えが出ません。
第一の問い 独占業務を非対面でできるか
宅建士にしかできない業務は、重要事項の説明、35条書面への記名、37条書面への記名の三つです。この三つを事務所や現地に出向かずに実施できるかどうか。これは法令とガイドラインで答えが出る問題で、結論としてはいずれも可能です。詳しくは次章以降で見ます。三つの独占業務が条文上どう書き分けられているかは宅建士の独占業務3つにまとめています。
第二の問い 専任の宅建士がテレワークできるか
宅建業者は事務所ごとに専任の宅地建物取引士を置かなければなりません(宅建業法31条の3)。この「専任」に該当したまま在宅勤務ができるのか。ここも国土交通省の解釈が示されているので、その範囲で答えられます。宅建士の在宅勤務を考えるうえで、実務上もっとも重要な論点です。
第三の問い 在宅可の仕事が実際にあるか
これは制度の問題ではなく、労働市場の問題です。法律が可能にしていることと、その働き方の求人が自分の通える範囲に存在することは、まったく別です。第一と第二の問いに「できる」と答えられたとしても、それは第三の問いの答えにはなりません。
以下、第一と第二を制度の話として詳しく扱い、第三については確かめ方を示します。
重要事項説明を非対面で行う(IT重説)
35条は対面を要求していない
宅建業法35条1項は、宅建業者に対し、契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士をして、一定の事項について書面を交付して説明をさせなければならないと定めています。条文を読むと分かるとおり、ここに「対面で」という文言はありません。
対面が当然の前提とされてきたのは、条文がそれを命じていたからではなく、技術と運用がそうだったからです。したがって、条文が求める説明の実質を満たせる環境が整えば、非対面での実施を認める余地がありました。これを整理したのが国土交通省のガイドラインです。説明すべき事項そのものは35条書面の記載事項一覧にまとめています。
本格運用までの経緯
IT重説は、社会実験を経て段階的に導入されました。賃貸取引については2017年10月から本格運用が始まりました。売買取引については、法人間取引を対象とした社会実験を経て、個人が当事者となる売買を含めて2021年4月から本格運用されています。
つまり現在は、賃貸か売買かを問わず、要件を満たせばIT重説を実施できる状態です。「売買はまだ対面が必須」という説明は、現在の運用に照らすと誤りです。
国土交通省が示す四つの条件
国土交通省の「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」は、IT重説を35条の説明として認めるための条件を挙げています。要点は次の四つです。
- 宅地建物取引士および説明を受けようとする者が、図面等の書類および説明の内容について十分に理解できる程度に映像を視認でき、かつ双方が発する音声を十分に聞き取ることができ、双方向でやり取りできる環境で実施していること。
- 宅地建物取引士により記名された重要事項説明書および添付書類を、説明を受けようとする者にあらかじめ送付していること。
- 説明を受けようとする者が、重要事項説明書および添付書類を確認しながら説明を受けられる状態にあること、ならびに映像と音声の状況について、宅地建物取引士が説明を開始する前に確認していること。
- 宅地建物取引士が宅地建物取引士証を提示し、説明を受けようとする者がこれを画面上で視認できたことを確認していること。
このうち見落とされやすいのが二つめの「あらかじめ送付」です。IT重説は、書面を手元に持っていない相手に画面だけで説明する方法ではありません。相手が書面を見ながら聞ける状態を作ることが前提になっています。
四つめの宅建士証の提示も重要です。宅建業法35条4項は、重要事項の説明をするときは相手方に宅建士証を提示しなければならないと定めており、これは相手方から請求がなくても必要です。IT重説では画面越しの提示になりますが、相手が視認できたことの確認まで求められている点が対面との違いです。
IT重説にしても変わらないこと
非対面になっても、説明の主体が宅建士であることは変わりません。宅建業者の一般の従業者が説明することはできません。説明すべき事項の範囲も変わりません。相手が理解できるように説明する義務の水準も同じです。
また、IT重説は35条の重要事項説明についての話です。契約締結後に交付する37条書面には説明義務そのものがないので、こちらは説明の方法ではなく交付の方法の問題になります。35条と37条の役割の違いは35条書面の覚え方と37条書面の記載事項で確認してください。
書類の事前送付を電子で行う場合
四つの条件のうち二つめは「あらかじめ送付していること」です。この送付を紙で郵送するのか、電子で送るのかは別の問題になります。
重要事項説明書を電磁的方法により提供するのであれば、後述する35条8項の規律が働き、相手方等の承諾が必要になります。つまり、完全にオンラインで進めようとすると、IT重説の四条件を満たすことに加えて、書面の電子提供についての承諾を得るという手続がもう一つ乗ります。
在宅で説明を担当する立場から見ると、ここは段取りの問題として重要です。相手方が電子での受領を承諾していなければ、説明はオンラインでできても、書面は紙で送る必要があります。この場合、印刷と発送を誰が行うのかという実務上の分担が発生します。「オンラインで完結できる」という制度上の可能性が、そのまま「自宅から一人で完結できる」ことを意味するわけではない、という一例です。
通信環境が要件を満たさないとき
映像が乱れる、音声が途切れるといった状態で説明を続けた場合、要件を満たさないことになります。ガイドラインは、状況が改善しないときは説明を中断し、対面に切り替えるなどの対応をとることを想定しています。
在宅で説明を担当する側から見ると、これは通信環境が業務の適法性に直結するということです。自宅の回線品質や、家族と共用している帯域の状況は、単なる快適さの問題ではありません。
書面の電子化(2022年5月)
押印義務の廃止と「記名」
デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律による宅建業法の改正が、2022年5月18日に施行されました。これにより、35条書面および37条書面への宅地建物取引士の押印義務が廃止され、条文は「記名押印」から「記名」に改められました。
宅建士が書面に関与する義務そのものがなくなったわけではありません。記名は残ります。宅建士が内容に責任を負う建て付けは維持されたまま、押印という物理的な作業だけが外れた、と理解してください。
35条書面の電磁的方法による提供
同じ改正で、35条書面の交付に代えて、電磁的方法により提供することが認められました(宅建業法35条8項)。提供した場合は書面を交付したものとみなされます。
要件として置かれているのが、相手方等の承諾です。宅建業者の側が一方的に電子で送ればよいのではなく、相手方が電子での受領を承諾していることが必要になります。
37条書面の電磁的方法による提供
37条書面についても同様に、書面の交付に代えて電磁的方法による提供が認められました(宅建業法37条4項・5項)。こちらも契約の各当事者の承諾が要件です。売買・交換の場合と貸借の場合で項が分かれていますが、承諾を要する点は共通です。
承諾が要件とされ、しかも撤回できる
なぜ承諾が必要なのか。電子で受け取れる環境にない相手に電子で送りつけると、実質的に書面を受け取れないのと同じになるからです。書面交付義務は相手方を保護するための規定なので、保護の水準を下げないために承諾が置かれています。承諾は口頭では足りず、用いる電磁的方法の種類および内容をあらかじめ示したうえで書面等によって得ます(施行令3条の3第1項、37条書面は3条の4第1項)。承諾を取る手続そのものはIT重説と書面電子化に譲ります。
在宅で書類を回す段取りを組む側にとって効くのは、その承諾が撤回されうるという点です。施行令3条の3第2項は、承諾を得た場合であっても、相手方等から書面等により「電磁的方法による提供を受けない旨の申出」があったときは提供をしてはならないと定めています(37条書面は3条の4第2項)。相手方は理由を示す必要がなく、申出があった時点で電子提供の道が閉じます。
これは「電子で送ると決めた案件が、途中で紙に戻ることがある」という意味です。紙に戻ったときに誰が印刷し、誰が発送するのかを決めていない体制では、在宅の担当者が急に事務所に出向くことになります。制度上オンラインで完結できることと、実際の運用が常にオンラインで閉じることは別だ、という差がここに出ます。
35条と37条で条文の主語が違う
電磁的方法の規定を並べて読むと、35条と37条で文の作りが違うことに気づきます。
35条8項は「宅地建物取引業者は……宅地建物取引士に、当該書面に記載すべき事項を電磁的方法……により提供させることができる」と書かれています。主語は宅建業者ですが、提供という行為をするのは宅建士です。条文の末尾で「当該宅地建物取引士に当該書面を交付させたものとみなし」とされ、5項の記名の規定は適用しないと続きます。
これに対して37条4項・5項は「宅地建物取引業者は……当該書面に記載すべき事項を電磁的方法……により提供することができる」となっており、宅建士が登場しません。提供したときは「当該書面を交付したものとみなし」、3項の記名の規定は適用しないと続きます。
紙の世界では、35条書面も37条書面も交付するのは業者、記名するのが宅建士という同じ構造でした。電子になると、35条だけが宅建士を提供の主体として条文に残しています。もっとも、記名に代わる措置は両方に置かれており、施行規則16条の4の8第2項4号と16条の4の12第2項4号が、いずれも「書面の交付に係る宅地建物取引士が明示されるものであること」を基準に掲げています。宅建士が誰であるかを電子データ上で示す要件は、35条にも37条にも共通してかかります。独占業務としての記名がどこまで維持されたかは宅建士の独占業務3つで扱っています。
電子で送る方法にも技術基準がある
電磁的方法は自由に選べません。施行規則16条の4の8は、35条8項の方法を電子情報処理組織を使用する方法と電磁的記録媒体を交付する方法に限定したうえで、相手方が出力して書面を作成できること、改変が行われていないかどうかを確認できる措置を講じていること、宅建士が明示されることなどを基準として置いています(37条書面は16条の4の12)。各号の中身はIT重説と書面電子化で扱っています。
在宅の担当者の視点で意味を持つのは、ここが「自分のパソコンからPDFをメールに添付して送れば足りる」という話ではない点です。改変検知の措置と宅建士の明示は、会社が用意したシステム側で担保される部分が大きく、個人の判断で送信手段を選べる余地は狭くなります。私用の端末や個人のメールアカウントで書面を送る運用が制度と噛み合わないのは、規律が「送った人が誰か」ではなく「提供の方法が基準に適合しているか」を見ているからです。在宅勤務で会社支給の端末とシステムの利用が求められるのは、情報管理上の方針であると同時に、この基準を満たすための条件でもあります。
電子化しても宅建士の関与は消えない
電磁的方法による提供では、宅建士の記名に代わる措置を講じることが求められます。誰が内容に責任を負っているかを電子データ上でも示す必要がある、ということです。
まとめると、重要事項説明はオンラインで実施でき、書面は電子で提供できます。したがって、取引の手続を非対面で完結させることは制度上可能です。この到達点があるからこそ、次の専任性の論点が意味を持ちます。
専任の宅建士とテレワークの関係
ここがこの記事の核心です。取引の手続が非対面でできても、宅建士が「専任」として数えられなくなるなら、事業者にとって在宅勤務を認める障害になります。
設置義務の内容
宅建業法31条の3第1項は、宅建業者に対し、事務所その他国土交通省令で定める場所ごとに、国土交通省令で定める数の成年者である専任の宅地建物取引士を置くことを義務づけています。省令が定める数は、事務所については業務に従事する者5人に1人以上です(施行規則15条の5の3)。契約の申込みの受付や締結を行う案内所等については、少なくとも1人以上とされています。
この基準に抵触するに至ったときは、2週間以内に必要な措置を執らなければなりません(同条3項)。同項は前段で「第一項の規定に抵触する事務所等を開設してはならず」とも定めており、後から欠けた場合の是正だけでなく、最初から足りない状態で開設することも禁じています。設置義務の詳細は専任の宅地建物取引士にまとめています。
この2週間の期間が過ぎても是正しない場合に何が起きるかは、罰則ではなく監督処分です。宅建業法83条1項の罰金の列挙に31条の3第3項は入っておらず、代わりに65条2項2号が業務停止の事由として31条の3第3項を挙げています。設置義務違反は刑事罰ではなく業務停止で処理される、という構造です。監督処分の全体像は監督処分、罰則との対応は宅建業法の罰則一覧で確認してください。
業者自身が宅建士であるときのみなし規定
31条の3第2項は、宅建業者(法人の場合はその役員)が宅建士であるときは、その者が自ら主として業務に従事する事務所等については、その者をその事務所等に置かれる成年者である専任の宅建士とみなすと定めています。
在宅勤務との関係では、この規定が「自ら主として業務に従事する」という表現を使っている点が効きます。みなされる対象は一つの事務所等に限られ、しかもそこで主として業務に従事していることが前提です。複数の事務所を持ちながら、どこにも主として従事していない状態を作ると、みなし規定は働きません。一人で開業して自宅近くの事務所を拠点にする場合、この項が根拠になります。
専任性は常勤性と専従性で判断される
「専任」の意味は条文に書かれていません。国土交通省の「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」が、これを二つの要素で説明しています。常勤性、すなわちその事務所に常時勤務していること。専従性、すなわち専ら宅地建物取引業の業務に従事していることです。
この二つのうち、在宅勤務との関係で問題になるのは常勤性です。事務所に物理的にいないのに「常時勤務している」と言えるのか、という問いになります。
常勤性にIT活用による事務所外勤務が含まれる
この点について、解釈・運用の考え方は、常勤性の判断にあたり、ITの活用等により事務所以外の場所で通常の勤務時間を勤務する場合を含むことを明示しています。宅建業者と継続的な雇用関係にあり、通常の勤務時間を勤務していると認められるのであれば、勤務場所が事務所の外であることだけを理由に常勤性が否定されるわけではない、という整理です。
したがって、専任の宅建士であることと在宅勤務をすることは、この解釈の範囲では両立しえます。「専任だから絶対に出社しなければならない」という理解は、現在のガイドラインとは合いません。
それでも事務所そのものは必要
ここで混同してはいけないのが、常勤性の解釈が緩和されたことと、事務所が不要になることは別だという点です。宅建業を営むには事務所が必要です。宅建業法施行令1条の2は、法3条1項の事務所を二つに分けており、1号が本店または支店(商人以外の者にあっては主たる事務所または従たる事務所)、2号が「継続的に業務を行なうことができる施設を有する場所で、宅地建物取引業に係る契約を締結する権限を有する使用人を置くもの」です。解釈・運用の考え方は、他の法人や個人の生活空間から物理的に区分され、独立性が保たれていることを求めています。事務所要件の中身は事務所の要件で解説しています。
つまり、「事務所を持たない完全在宅の宅建業者」は制度上成り立ちません。従業者として完全在宅で働くことがありうるのは、雇う側が事務所を維持している前提があるからです。次の章で、その事務所に何が貼りついているかを見ます。
専従性のほうは緩んでいない
常勤性について柔軟な解釈が示されている一方、専従性は別です。専ら宅建業の業務に従事していることが求められるため、他の会社の常勤の職を持ちながら専任の宅建士を務めることは、原則として認められません。
在宅勤務は物理的な拘束が弱いぶん、副業や兼業と組み合わせやすく見えますが、専任の宅建士として登録されている場合は専従性の制約がかかります。副業として不動産に関わることを考えている場合は、この点を確認してください。副業のどこから免許が必要になるかという線引きは宅建の副業で条文から扱っています。
なお、専従性の制約は宅建士の資格そのものにかかるものではありません。宅建士証の交付を受けているだけの人が他の仕事をしていても、何の問題もありません。制約が生じるのは、特定の事務所の専任の宅建士として届け出られたときです。資格を持つことと専任として置かれることの距離は女性の宅建士でも扱っています。
最終的な判断は免許行政庁
どの程度の在宅勤務であれば常勤性を満たすかは、勤務実態に照らした判断になります。判断するのは免許を受けている行政庁です。実務では、勤務時間の管理方法、事務所との連絡体制、出社の頻度といった点を説明できる状態にしておく必要があります。
求人に応募する側から見ると、「在宅可」と書かれていても、自分が専任として届け出られるのかどうかで意味が変わります。ここは面接で確認すべき事項です。
事務所に貼りついた義務は、在宅勤務では動かない
専任の宅建士が在宅で勤務できるとしても、事務所を単位とする義務まで在宅に移せるわけではありません。宅建業法は、いくつかの義務の名宛人を人ではなく場所に置いています。ここを取り違えると、「オンラインで全部済む」という誤解が生まれます。
場所に貼りついた三つと、人に貼りついた一つ
標識の掲示(50条1項)、従業者名簿の備付け(48条3項)、帳簿の備付け(49条)の三つは、条文が「事務所等及び事務所等以外の国土交通省令で定めるその業務を行う場所ごとに」あるいは「その事務所ごとに」という形をとっています。誰がどこで働いているかとは無関係に、その場所に対して義務が発生します。
これに対して従業者証明書は、48条1項が「宅地建物取引業者は、国土交通省令の定めるところにより、従業者に、その従業者であることを証する証明書を携帯させなければ、その者をその業務に従事させてはならない」と定めており、人に貼りついています。同条2項は「従業者は、取引の関係者の請求があつたときは、前項の証明書を提示しなければならない」として、提示義務の名宛人を従業者本人にしています。
在宅勤務との関係で意味があるのはこの非対称です。標識・名簿・帳簿は事務所に置いておけば足りますが、証明書は自宅から出て取引の相手方に会う場面では携帯していなければなりません。在宅勤務が中心の人ほど、たまの外出時に携帯を忘れやすい構造にあります。名簿と帳簿の記載事項そのものは従業者名簿と帳簿で整理しています。
名簿と帳簿を電子化しても「当該事務所において」出せることが要る
名簿と帳簿は電子化できます。ただし条件が付いています。
施行規則17条の2第3項は、従業者名簿の記載事項が「電子計算機に備えられたファイル又は電磁的記録媒体に記録され、必要に応じ当該事務所において電子計算機その他の機器を用いて明確に紙面に表示されるときは、当該記録をもつて……従業者名簿への記載に代えることができる」と定めています。施行規則18条2項も、帳簿について同じ文言を使っています。
決め手は「当該事務所において」という限定です。データがクラウド上にあること自体は問題になりませんが、その事務所で紙に出せる状態でなければ、備付けに代えたことになりません。在宅の担当者の端末にしかデータがなく、事務所からは開けないという状態は、この要件を外します。ペーパーレス化が事務所の義務を軽くするのではなく、事務所で出力できることを条件に紙を省けるだけだ、と読む必要があります。
閲覧についても同様です。48条4項は、取引の関係者から請求があったときに従業者名簿を閲覧に供する義務を課しており、施行規則17条の2第3項後段は、電磁的記録の場合の閲覧を「紙面又は入出力装置の映像面に表示する方法で行う」と定めています。閲覧請求は事務所に来た人が行うので、応じる体制は事務所側に必要です。なお、帳簿には閲覧に供する義務がありません。49条に閲覧の規定が置かれていないためで、名簿と帳簿の違いとしてよく問われます。
保存期間と罰則は「動かせない義務」の重さを示す
保存期間は、名簿が最終の記載をした日から10年(施行規則17条の2第4項)、帳簿が各事業年度の末日をもって閉鎖して閉鎖後5年、自ら売主となる新築住宅に係るものは10年です(同規則18条3項)。起算点の違いを含む名簿と帳簿の対比は従業者名簿と帳簿に譲ります。在宅勤務に固有の危険は、システムの更改やクラウドの契約終了でデータが取り出せなくなることです。保存義務は媒体を問わないので、電子で保存していても期間内に事務所で出せなければ果たしたことになりません。
罰則も付いています。83条1項2号が48条1項(証明書の携帯)と50条1項(標識)の違反を、3号の2が48条3項(名簿)を、4号が49条(帳簿)を挙げており、いずれも50万円以下の罰金です。先に見た専任の宅建士の設置義務違反が業務停止で処理されるのに対して、備付けの側には刑事罰が付いている、という対比になります。設置義務のほうが重そうに見えて、刑事罰が置かれているのは場所に貼りついた義務のほうです。
案内所は在宅にできない
もう一つ、在宅に移せない場所があります。施行規則15条の5の2は、専任の宅建士を置くべき「事務所以外の場所」として、継続的に業務を行うことができる施設を有する事務所以外の場所、10区画以上の一団の宅地または10戸以上の一団の建物の分譲の案内所、他の業者が行う一団の宅地建物の分譲の代理・媒介の案内所、展示会その他これに類する催しを実施する場所の四つを挙げています。
在宅勤務との関係で決定的なのは、この条の柱書です。四つはいずれも「宅地若しくは建物の売買若しくは交換の契約……若しくは宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の代理若しくは媒介の契約を締結し、又はこれらの契約の申込みを受けるもの」に限られています。その場所で契約を締結するか申込みを受けることが、場所の定義そのものに組み込まれているということです。人がその場にいて申込みを受けるからこそ規制がかかるので、案内所を在宅に置き換えるという発想自体が成り立ちません。逆に、申込みを受けない現地の案内所は15条の5の2の場所にあたらず、専任の宅建士も届出も不要で、標識だけが必要になります(施行規則19条1項)。
届出は、あらかじめ、業務を開始する日の10日前までに、免許を受けた国土交通大臣または都道府県知事と所在地を管轄する都道府県知事の両方に対して行います(法50条2項、施行規則19条3項)。置くべき専任の宅建士の数を含め、案内所等の届出・標識・専任の要否は案内所等の規制にまとめてあるので、そちらで確認してください。
この記事で押さえるべきなのは、在宅勤務が広がっても宅建業法の場所の規律は減らないという一点です。事務所には名簿と帳簿と標識が要り、契約の申込みを受ける場所には人と届出が要り、それ以外の業務を行う場所にも標識が要る。誰が自宅で働いているかは、この三段のどこにも影響しません。
自宅で扱う情報と、秘密を守る義務
在宅勤務でいちばん見落とされるのが、この論点です。宅建業法は秘密保持義務を二か所に置いており、そのうち一つは従業者本人を名宛人にしています。
45条は業者、75条の3は従業者
45条は「宅地建物取引業者は、正当な理由がある場合でなければ、その業務上取り扱つたことについて知り得た秘密を他に漏らしてはならない。宅地建物取引業を営まなくなつた後であつても、また同様とする」と定めています。名宛人は業者です。
75条の3は「宅地建物取引業者の使用人その他の従業者は、正当な理由がある場合でなければ、宅地建物取引業の業務を補助したことについて知り得た秘密を他に漏らしてはならない。宅地建物取引業者の使用人その他の従業者でなくなつた後であつても、また同様とする」と定めています。名宛人は従業者本人です。
三つの違いに注意してください。第一に、45条が「業務上取り扱つたこと」を、75条の3が「業務を補助したこと」を対象にしています。第二に、75条の3は宅建士かどうかを問いません。事務職でもアルバイトでも、従業者であれば直接この義務を負います。第三に、どちらも関係が終わった後にも続きます。会社を辞めても、業者が廃業しても、義務は残ります。
在宅勤務では、業務上の情報が会社の管理する空間ではなく自宅に置かれます。会社が負う45条の義務とは別に、自分自身が75条の3の名宛人になっている、という自覚が要ります。主体ごとに義務を並べ替えた整理は宅建業者と宅建士の義務にあります。
罰則は50万円以下の罰金で、しかも親告罪
83条1項3号は、45条または75条の3の規定に違反した者を50万円以下の罰金に処すると定めています。ここまでは名簿・帳簿と同じ額です。
違うのは同条2項です。「前項第三号の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない」とされており、親告罪になっています。宅建業法の罰則のなかで告訴を訴訟条件としているのはここだけです。
なぜ親告罪なのかを考えると、この規定が何を守っているかが見えます。秘密漏示を刑事事件にすると、公開の法廷でその秘密の内容が扱われることになります。被害者にとって、それが漏らされたこと以上の不利益になりうる。だから起訴するかどうかを被害者の意思にかからせている、という設計です。守っている利益が「取引の公正」ではなく「個々の相手方の秘密」であることが、条文の作りから読み取れます。
「正当な理由」の中身
45条も75条の3も、「正当な理由がある場合でなければ」という限定を置いています。正当な理由にあたるのは、裁判で証人として証言する場合、税務調査など法令に基づく質問検査に応じる場合、本人が同意している場合などです。35条の重要事項説明のように法令が開示を命じている場合も、当然に正当な理由があります。
逆に、社内で共有する慣行があるとか、営業上有益だといった事情は正当な理由になりません。在宅勤務では、家族のいる空間で商談の音声が流れる、共用の端末に資料が残る、印刷した重要事項説明書の下書きを一般ごみに出す、といった経路が現実的な問題になります。45条は「漏らしてはならない」という結果を禁じており、経路が業務の都合であったかどうかは義務の有無を左右しません。
宅建士個人にかかる規律も場所を問わない
宅建業法15条は、宅建士が「宅地又は建物の取引の専門家として、購入者等の利益の保護及び円滑な宅地又は建物の流通に資するよう、公正かつ誠実にこの法律に定める事務を行う」ことを求めています。15条の2は信用失墜行為の禁止、15条の3は知識および能力の維持向上の努力義務です。業者の側には31条1項の業務処理の原則(取引の関係者に対し、信義を旨とし、誠実に業務を行う)が置かれています。
これらはいずれも勤務場所を要件にしていません。事務所にいるときだけ適用される規定ではないので、在宅勤務でも同じようにかかります。宅建士証の更新にあたって受ける法定講習も、この維持向上の努力義務と対応する仕組みです。講習の種類の見分け方は宅建士の法定講習にまとめています。
在宅で完結する業務と、そうでない業務
在宅で完結しうる業務
制度上、次の業務は事務所や現地に出向かずに行いうるものです。
- 重要事項説明(IT重説の要件を満たす場合)
- 重要事項説明書および契約書の作成、内容の点検
- 電磁的方法による35条書面・37条書面の提供
- 登記記録や各種台帳のオンラインでの確認
- 顧客からの電話・メール・チャットによる問い合わせ対応
- オーナー向けの報告書作成、経理処理
登記情報はオンラインで取得できますし、都市計画や用途地域の情報も自治体がウェブで公開している範囲であれば確認できます。調査の一部は在宅で進められます。
オンラインで取れる情報と、取れない情報
調査業務のどこまでを在宅でできるかは、情報がオンラインで取得できるかどうかで決まります。ここは具体的に分かれます。
登記記録の内容は、登記情報提供サービスを利用すればインターネット上で確認できます。ただしこのサービスで取得できるのは閲覧用のデータであり、証明文が付された登記事項証明書ではありません。証明書が必要な場面では、オンライン申請を経て郵送で受け取るか、法務局の窓口で受け取ることになります。登記記録の読み方そのものは登記簿の見方で扱っています。
都市計画に関する情報は、用途地域や防火地域の指定状況をウェブ上の地図で公開している自治体が増えています。この範囲であれば在宅で確認できます。一方、前面道路が建築基準法上のどの道路にあたるか、位置指定道路の指定図はどうなっているか、上下水道の埋設状況はどうか、私道の負担がどこまで及ぶかといった事項は、窓口や台帳でしか確認できないことが少なくありません。自治体によって公開の範囲が違うため、どこまで在宅で済むかは地域差が出ます。
つまり調査業務は、在宅でできる部分とできない部分が事項ごとに混在します。「調査は現地に行かないとできない」でも「調査はオンラインでできる」でもなく、案件ごとに切り分ける作業が要る、というのが実態に近い理解です。
35条1項の各号を「在宅で取れるか」で並べ替える
切り分けの基準を自分で作るなら、35条1項の号の並びをそのまま使うのが早道です。調査は説明のために行うものなので、説明事項の裏返しになります。
1号は、登記された権利の種類および内容ならびに登記名義人または登記簿の表題部に記録された所有者の氏名です。ここは登記情報提供サービスで在宅から取れます。ただし前述のとおり、証明文の付いた登記事項証明書が必要な場面では郵送か窓口が挟まります。
2号は、都市計画法、建築基準法その他の法令に基づく制限で契約内容の別に応じて政令で定めるものの概要です。政令が列挙する法律は数十本あり、そのうち用途地域や防火地域のような広域の指定はウェブ地図で確認できることが増えました。一方、位置指定道路の指定図、開発許可や建築確認の履歴、条例による付加規制といった個別の情報は、いまも窓口や台帳が中心です。同じ2号のなかで在宅と窓口が混ざります。
3号は、建物の貸借以外の契約における私道に関する負担です。公図や地積測量図はオンラインで取得できますが、負担の範囲や持分の実態は、実測図と権利者の確認に及ぶことが少なくありません。
4号は、飲用水、電気およびガスの供給ならびに排水のための施設の整備状況です。整備されていない場合は、整備の見通しと特別の負担まで説明します。上下水道の埋設状況は自治体の担当課への照会になり、電話やメールで足りる自治体と、窓口で図面を閲覧させる自治体に分かれます。
5号は、工事完了前の物件について完了時の形状・構造等です。設計図書の取り寄せが中心なので、書類が届けば在宅で処理できます。
6号は区分所有建物の追加事項で、内容は施行規則16条の2が定めています。管理会社への照会で足りることが多く、在宅に寄せやすい領域です。ただしこの号は令和8年度試験に向けて内容が変わりました。令和7年内閣府・国土交通省令第2号により2026年4月1日から施行規則16条の2に第9号が新設され、管理者等が管理組合から委託を受けて管理事務を行うマンション管理業者である場合はその旨を説明することになりました。これにより売買・交換で説明すべき事項は9項目から10項目に増え、旧9号の維持修繕の実施状況の記録は10号に繰り下がっています。建物の貸借で必要なのは第3号および第8号で、ここは改正の前後を通じて変わりません。在宅で調査を担当する立場から見ると、照会先が管理組合なのか管理業者なのかを確かめる手間が一つ増えた改正でもあります。詳細は区分所有建物の重要事項説明と令和8年度の法改正まとめで扱っています。
6号の2は既存建物についての建物状況調査の実施の有無とその結果の概要、および設計図書・点検記録等の保存状況です。調査そのものは建物に対して行われるので、在宅に置き換わりません。
7号以降は取引条件に関する事項で、社内の資料と契約の設計から出てきます。在宅で処理しやすい側です。
こう並べると、オンライン側に寄るのは権利の記録と広域の法令制限、現地側に残るのは物理的な事実と個別の行政情報だという分かれ方が見えます。調査そのものの設計は物件調査、説明事項の全体像は35条書面の記載事項一覧を参照してください。
供託所等の説明は宅建士でなくてもよい
在宅で分担しやすい業務として、供託所等に関する説明があります。35条の2は、宅建業者に対し、契約が成立するまでの間に、保証協会の社員でないときは営業保証金を供託した主たる事務所の最寄りの供託所およびその所在地を、社員であるときは社員である旨・協会の名称・住所・事務所の所在地および弁済業務保証金を供託した供託所とその所在地を「説明をするようにしなければならない」と定めています。
35条の重要事項説明と違い、宅建士にさせることも書面を交付することも要求されていません。条文の語尾も「説明をするようにしなければならない」という努力義務型です。したがってこの説明は宅建士以外の従業者が電話やオンラインで行うこともでき、在宅の担当者が分担しやすい業務にあたります。相手方が宅建業者である場合は説明そのものが不要です。制度の詳細は供託所等に関する説明義務にあります。
事務所や現地での対応を要する業務
一方、次のものは在宅で完結させることが難しい業務です。
- 物件の内見案内と鍵の管理
- 現地の状況確認(越境、接道、周辺環境、日照、騒音など)
- 役所の窓口でしか確認できない事項の調査
- 現地での写真・動画の撮影
- 対面での説明を希望する相手方への対応
- 事務所を単位とする法定の備付書類の管理
特に現地調査は、資料だけでは分からない事実を確認するために行うものなので、性質上オンラインに置き換えられません。仲介業務における調査の位置づけは宅建士の仕事内容を参照してください。
ハイブリッドが現実解になりやすい理由
以上を並べると、仲介業務のなかで在宅にできる部分とできない部分がはっきり分かれることが分かります。書類作成、点検、説明はオンライン側に寄せられる一方、内見と現地調査は現物に触れる必要があります。
したがって、仲介の実務に携わる限り、完全在宅よりも出社と在宅を組み合わせる形が成り立ちやすくなります。これは会社の方針の問題である以前に、業務の性質から出てくる帰結です。
職種ごとに見た在宅の可能性
以下は、業務の性質から言える整理です。特定の職種で在宅の求人が多い、という趣旨ではありません。
売買・賃貸の仲介営業
内見と現地調査が業務の中核にあるため、完全在宅は成り立ちにくい職種です。ただし、繁忙期に重要事項説明だけを分担する体制をとる会社であれば、その部分を在宅で担当する形はありえます。
賃貸管理とバックオフィス
契約更新の手続、入居者からの問い合わせの一次対応、オーナーへの報告、家賃の入出金管理といった業務は、システムが整備されていればオンラインで進めやすい領域です。ただし、原状回復の立会いや設備トラブルの現場対応は現地で行うことになります。賃貸の仲介側で宅建業法がどこまでかかるかは賃貸仲介の実務、物件情報の登録と検索を担う指定流通機構の仕組みはレインズとはで扱っています。レインズは在宅からでも操作できるオンラインの仕組みで、媒介契約に伴う登録義務の履行はどこにいても果たせます。
賃貸管理業には別の体制規律がある
賃貸管理の分野で働く場合、宅建業法とは別に、賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(賃貸住宅管理業法)が関わってきます。2021年6月に全面施行された法律です。
この法律は、管理戸数が国土交通省令で定める規模以上の賃貸住宅管理業者に国土交通大臣の登録を義務づけ、営業所または事務所ごとに1人以上の業務管理者を選任することを求めています。規模は同法施行規則3条が「賃貸住宅管理業に係る賃貸住宅の戸数が二百戸」と定めています。宅建業法の専任の宅建士の設置義務と似た構造で、事業所を単位とする人の配置が要求されている点が共通しています。
在宅勤務との関係で意味があるのは、管理業務においても「事業所ごとに人を置く」という規律が残るという点です。オンライン化が進んでも、事業者側が事業所とその体制を維持する必要はなくなりません。従業者としての在宅勤務は、その体制の上に成り立ちます。
業務管理者の要件は、宅建士の資格と無関係ではありません。同法施行規則14条は、柱書で「管理業務に関し二年以上の実務の経験を有する者又は国土交通大臣がその実務の経験を有する者と同等以上の能力を有すると認めた者」であることを前提に置いたうえで、1号で登録証明事業による証明を受けている者、2号で「宅地建物取引士で、国土交通大臣が指定する管理業務に関する実務についての講習を修了した者」を挙げています。つまり宅建士は、2年以上の実務経験と指定講習の修了を重ねることで業務管理者になれる経路を持っています。宅建士であるだけでは足りませんが、まったく別物でもありません。登録制度と業務管理者の詳細は賃貸住宅管理業法の全体像、管理会社での資格の効き方は不動産管理会社と宅建で扱っています。
重要事項説明を担当するポジション
IT重説の要件を満たす環境があれば、説明の部分だけを担当することは制度上可能です。この形が成立するかどうかは、会社が説明業務を切り出して分担する体制をとっているかどうかによります。分担していない会社では、この働き方自体が存在しません。
不動産テック領域
サービスの企画、導入支援、コンテンツ制作といった職種では、宅建で得た法令知識が直接役に立ちます。業界のIT化の動向は不動産テックにまとめています。ただし、これらの職種で求められるのは宅建の資格そのものより、宅建の知識を前提とした別のスキルであることが多い点は踏まえておいてください。
宅建の知識を使う周辺業務
不動産分野の記事執筆、試験対策の指導、オンラインでの相談対応などは、在宅で行いやすい業務です。ただし、宅建業に該当する行為を無免許で行うことはできません。物件の売買や賃貸の媒介にあたる行為を報酬を得て業として行えば、宅建業の免許が必要になります。情報提供と媒介の線引きは意識しておく必要があります。この線をどこで引くかは宅建の副業で条文から追っています。
在宅勤務の労働時間をどう算定するか
ここまでは宅建業法の話でした。ここからは労働法制の話になります。宅建試験の出題範囲ではないので、受験だけが目的なら飛ばして構いません。ただ、在宅可の求人を判断するときに効くうえ、専任の宅建士の常勤性とも接続するので、要件だけ示します。
事業場外みなし労働時間制は「算定し難いとき」にしか使えない
在宅勤務の求人でしばしば見かけるのが、事業場外みなし労働時間制です。根拠は労働基準法38条の2第1項で、「労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす」と定めています。ただし書は、その業務を遂行するために通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合には、当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなすとしています。2項は、労使協定でその「通常必要とされる時間」を定められるとし、3項は協定を行政官庁に届け出るべきものとしています。
条文の要件は二つです。事業場外で業務に従事したこと。そして労働時間を算定し難いこと。在宅勤務は前者を満たしますが、後者は別の問題です。厚生労働省の「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」は、情報通信機器が使用者の指示により常時通信可能な状態に置かれ、随時具体的な指示に基づいて業務が行われている場合には、労働時間を算定し難いとはいえないと整理しています。
したがって、「自宅で働くから事業場外みなしを適用する」という説明だけでは足りません。求人票にみなし制の記載があったら、常時の通信可能状態や随時の指示がどの程度求められるのかを併せて確認する、という読み方になります。この二つは両立しにくい関係にあります。
深夜・休日の割増賃金は勤務場所で変わらない
在宅勤務は時間の区切りが曖昧になりやすい働き方ですが、割増賃金の規定は勤務場所を要件にしていません。
労働基準法32条は、休憩時間を除き1週間について40時間、1日について8時間を超えて労働させてはならないと定めています。37条1項は、時間外労働と休日労働について通常の賃金の計算額の2割5分以上5割以下の範囲内で政令の定める率以上の割増賃金を求め、1か月について60時間を超えた時間外労働には5割以上の率を求めています。37条4項は、午後10時から午前5時までの労働に2割5分以上の割増賃金を求めています。
自宅にいるという事実は、これらの適用を外しません。夜に作業した時間が労働時間にあたるなら、深夜割増の対象になります。逆にいえば、在宅で自由に時間を動かせる求人ほど、労働時間の管理方法を確認しておく必要があります。
常勤性の説明と労働時間制度は干渉する
宅建業法に戻ると、専任の宅建士の常勤性は「通常の勤務時間を勤務している」ことを見る要素でした。短時間勤務やみなし制の適用は、この説明を難しくする方向に働きます。勤務時間を圧縮したうえで専任として届け出るという設計は、行政庁に対する説明の負担が大きくなります。
したがって、家庭の事情で勤務時間を抑えたいのであれば、専任として届け出られない前提で条件を組むほうが素直です。両立の考え方は主婦の再就職と宅建と女性の宅建士で扱っています。年齢や生活段階に応じた選び方は定年後・60代から宅建も参考になります。
在宅可の仕事をどう確かめるか
求人票だけでは分からないこと
「在宅勤務可」という記載だけでは、実際の働き方は判断できません。応募前または面接時に確認すべき点を挙げます。
- 在宅の対象が全業務なのか、特定の業務だけなのか
- 出社が必要な頻度と、その理由となる業務
- 自分を専任の宅建士として届け出る予定があるかどうか
- IT重説を実施する体制と、使用するシステム
- 通信環境や機材の費用を会社が負担するかどうか
三つめの専任として届け出るかどうかは、勤務日数の裁量に直結します。専任として届け出るなら常勤性と専従性が求められるため、勤務時間を大きく減らすことは難しくなります。
数字を見たときの確かめ方
在宅勤務の割合や宅建士の年収について、具体的な数字を挙げている情報を見たときは、その出所を確認してください。
テレワークの導入状況については、総務省の通信利用動向調査が産業別の導入状況を公表しており、不動産業も区分に含まれます。実際の割合を知りたい場合は、この一次資料にあたるのが確実です。
一方、宅建士という資格の保有者を単位として年収を集計した公的統計は見当たりません。厚生労働省の賃金構造基本統計調査は産業別・職種別・年齢階級別の賃金を公表していますが、資格保有者を単位とした集計ではありません。したがって「宅建士の平均年収」として流通している数字の多くは、求人サイトの掲載情報や事業者独自の調査を集計したものです。母集団に偏りがあることを踏まえて読む必要があります。年収の考え方は宅建士の年収でも扱っています。
この記事で在宅求人の件数や割合を書かないのは、確認できる出典がないためです。自分の地域の実態は、実際の募集を見て判断してください。職種の広がりは宅建士の転職先を参考にしてください。
育児や介護と両立させたい場合
家庭の事情で勤務時間を抑えたい場合、専任の宅建士としてではなく、宅建士としての業務を担当する従業者として働く形が現実的な選択肢になります。専任は常勤性が求められるためです。重要事項の説明も35条書面への記名も、専任でない宅建士が行えます。専任という肩書きを外しても独占業務は担当できる、という点が選択肢を広げます。合格後にどの進路を取りうるかは宅建士のキャリアパスにまとめています。
自分で開業して在宅型にできるか
事務所は避けて通れない
宅建業の免許を受けるには事務所が必要です。前述のとおり、施行令1条の2の2号は「継続的に業務を行なうことができる施設を有する場所で、宅地建物取引業に係る契約を締結する権限を有する使用人を置くもの」を事務所としており、解釈・運用の考え方が生活空間からの物理的な区分と独立性を求めています。自宅の一室を使う場合は間取りが問題になります。玄関から居室を通らずに到達できるか、他の用途と兼用していないか、といった点が実際の審査で見られます。免許を申請する行政庁の窓口に、早い段階で相談してください。
事務所の数が決めるのは免許権者だけではありません。二つ以上の都道府県に事務所を置けば国土交通大臣免許になり、一つの都道府県で完結すれば知事免許になります。事務所の数と所在が何を決めるかは事務所の要件に整理があります。
自分が専任の宅建士になる
一人で開業する場合、自分が専任の宅建士に就くことになります。根拠は31条の3第2項のみなし規定で、業者自身(法人ならその役員)が宅建士であるときは、自ら主として業務に従事する事務所等についてその者を専任の宅建士とみなします。したがって宅建士証の交付まで受けておく必要があります。合格しただけでは足りず、登録と交付という二つの手続が残っている点に注意してください。登録から交付までの手続は宅建士の登録にまとめています。
開業時の資金と、事業を開始できる時点
宅建業を開始するには、営業保証金を供託するか、宅地建物取引業保証協会に加入するかのいずれかが必要です。営業保証金は主たる事務所につき1,000万円、その他の事務所ごとに500万円と政令で定められています(宅建業法25条2項、施行令2条の4)。保証協会に加入する場合の弁済業務保証金分担金は、主たる事務所につき60万円、その他の事務所ごとに30万円です(同法64条の9第1項、施行令7条)。それぞれの制度は営業保証金と保証協会で解説しています。
在宅型の小規模開業を考える人が落としやすいのは、供託しただけでは営業を始められないという点です。25条4項は供託書の写しを添付して免許権者に届け出ることを求め、5項は「宅地建物取引業者は、前項の規定による届出をした後でなければ、その事業を開始してはならない」と定めています。さらに6項は、免許をした日から3か月以内に届出がないときは免許権者が催告をしなければならないとし、7項は催告が到達した日から1か月以内になお届出がないときは免許を取り消すことができるとしています。免許が下りてから供託・届出までを放置すると、免許そのものを失う可能性があります。
事務所を増やすときにも期限があります。64条の9第2項は、保証協会の社員が新たに事務所を設置したときは、その日から2週間以内に分担金を納付しなければならないとし、3項は納付しないときは社員の地位を失うと定めています。在宅の担当者を増やして手狭になり、二つめの拠点を構えるという場面で効いてくる規定です。開業全体の検討事項は宅建で独立開業するを参照してください。
試験での出題ポイント
この記事で扱った制度は、そのまま宅建試験の出題範囲です。
重要事項説明の主体と時期
説明をするのは宅地建物取引士であり、専任である必要はありません。ここは頻出のひっかけで、「専任の宅地建物取引士が説明しなければならない」という肢は誤りです。また、説明は契約が成立するまでの間に行う必要があります。
IT重説を題材にした場合も、要件を満たせば35条の説明として有効である点、宅建士証の提示が必要である点が問われます。
宅建士証の提示
重要事項の説明をするときは、相手方から請求がなくても宅建士証を提示しなければなりません(宅建業法35条4項)。これに対し、取引の関係者から請求があったときにも提示義務があります(同22条の4)。請求の要否が場面によって違う点が問われます。
罰則の有無も対比されます。35条4項に違反した者は86条により10万円以下の過料に処せられますが、22条の4には罰則が置かれていません。86条が列挙しているのは22条の2第6項・7項、35条4項、75条だけなので、条文で確認しておくと肢の正誤が動きません。過料は刑罰ではないので、罰金と書いてある肢は誤りになります。
なお従業者証明書の提示義務は48条2項で、こちらは「取引の関係者の請求があつたとき」に提示するもので、名宛人は従業者本人です。宅建士証の二つの提示義務と合わせて三つが並ぶので、請求の要否と名宛人の二軸で整理してください。
書面への記名と電子化
35条書面・37条書面には宅地建物取引士の記名が必要です。2022年5月の改正で押印は不要になりましたが、記名は残っています。「記名も押印も不要になった」とする肢は誤りです。
電磁的方法による提供については、相手方等の承諾が必要である点が中心的な出題事項です。承諾なく電子で提供してよいとする肢は誤りになります。承諾は施行令3条の3第1項・3条の4第1項の定めるところにより、用いる電磁的方法の種類および内容をあらかじめ示したうえで、書面等によって得ます。さらに、承諾を得た後でも相手方等から書面等で提供を受けない旨の申出があれば提供できなくなる(施行令3条の3第2項・3条の4第2項)という点も、条文にある以上は出題されうる範囲です。「一度承諾を得れば撤回されない」とする肢は誤りになります。
37条書面の交付相手と時期
37条書面は契約成立後遅滞なく交付します。交付の相手方は契約の各当事者です。35条書面が契約成立前に相手方等へ交付されるのと対比して覚えてください。記載事項の異同は37条書面の記載事項、二つの書面の軸ごとの違いは35条書面と37条書面の違いで整理しています。
専任の宅建士の設置義務
事務所については業務に従事する者5人に1人以上、案内所等については1人以上。基準に抵触したときは2週間以内に必要な措置を執る。この三点が繰り返し問われます。常勤性と専従性という専任性の中身も、押さえておく価値があります。
31条の3第3項の前段、すなわち「抵触する事務所等を開設してはならない」という部分も出題されます。欠けてから2週間という是正の側だけを覚えていると、最初から足りない状態での開設を適法とする肢に引っかかります。違反の効果は罰則ではなく65条2項2号の業務停止である点も押さえてください。
事務所を単位とする義務
標識の掲示(50条1項)、従業者名簿の備付け(48条3項)、帳簿の備付け(49条)、従業者証明書の携帯(48条1項)。どれが事務所単位でどれが従業者単位かを取り違えさせる出題があります。従業者証明書は従業者が携帯するもので、事務所に備え置くものではありません。
保存期間と閲覧義務の有無も定番ですが、この二つは従業者名簿と帳簿の側で軸ごとに整理してあります。この記事の射程で押さえておきたいのは、次の電磁的記録の条件です。
電磁的記録による代替は条文から問えます。施行規則17条の2第3項と18条2項がいずれも「必要に応じ当該事務所において……明確に紙面に表示されるとき」を条件にしているので、事務所で出力できない状態を適法とする肢は誤りになります。
秘密を守る義務
45条の名宛人が宅建業者、75条の3の名宛人が使用人その他の従業者であること。どちらも関係が終わった後にも義務が続くこと。違反は83条1項3号の50万円以下の罰金であり、同条2項により告訴がなければ公訴を提起できない親告罪であること。この三点が問われます。宅建業法で親告罪はここだけなので、「宅建業法に親告罪はない」という肢は誤りです。
場所の定義に「申込みを受けるか」が入っている
施行規則15条の5の2の柱書は、四つの場所をいずれも契約を締結し、または契約の申込みを受けるものに限っています。したがって、案内所を設置しただけで専任の宅建士が要るとする肢は誤りで、申込みを受けるかどうかで結論が動きます。標識のほうは19条1項により申込みを受けない場所にも要る、という広狭の差が対で問われます。届出の期限・届出先・届出事項は案内所等の規制で確認してください。こうした「限定の語を落として読ませる」型は引っかけ表現のパターンにまとめています。
覚え方・整理の仕方
IT重説の四条件は「環境・事前送付・事前確認・士証提示」
四つの条件を四語で束ねます。環境、事前送付、事前確認、士証提示。並びも実際の手順どおりなので、説明の流れを頭のなかで再生すれば思い出せます。まず環境を整え、書類を送り、開始前に映像と音声と書類の状態を確認し、宅建士証を提示してから説明に入る、という順です。
「承諾」が出てくる場所を一つに束ねる
電子化まわりで承諾が要求されるのは、35条書面の電磁的方法による提供と、37条書面の電磁的方法による提供です。書面を電子にするときは承諾、と覚えてください。逆に、IT重説そのものは説明の方法の問題なので、四条件の話として別に整理します。承諾の話と要件の話を混ぜないことが、ひっかけを避ける近道です。
専任性は「常勤・専従」の二語で持つ
専任という言葉を見たら、常勤性と専従性の二つに分解します。そのうえで、常勤性についてはITの活用による事務所外勤務が含まれる、専従性は他の職との兼務に厳しい、という違いを添えます。常勤は柔らかく、専従は固い、と対で覚えると混ざりません。
数字は役割ごとに束ねる
- 5人に1人 … 事務所の専任宅建士の割合
- 1人以上 … 案内所等の専任宅建士
- 2週間 … 専任が不足したときの是正措置
- 1,000万円と500万円 … 営業保証金
- 60万円と30万円 … 弁済業務保証金分担金
保証金の四つは、いずれも従たる事務所が主たる事務所の半分という関係にあります。この対応に気づくと、覚える数が実質二つに減ります。
在宅勤務の記事で出てきた数字は、これとは別の束にします。
- 10日前 … 案内所等の届出の期限
- 10年 … 従業者名簿の保存(最終の記載の日から)
- 5年 … 帳簿の保存(事業年度末の閉鎖から。自ら売主の新築住宅は10年)
- 50万円以下の罰金 … 標識・証明書・名簿・帳簿・秘密保持・届出の違反
- 10万円以下の過料 … 35条4項の宅建士証の不提示
- 200戸 … 賃貸住宅管理業の登録義務が生じる管理戸数
罰の重さで並べると、50万円の罰金がずらりと並ぶなかに、宅建士証の不提示だけが10万円の過料として浮いています。書面や場所に関する義務は刑罰で、士証の提示は秩序罰、という色分けで持っておくと取り違えません。数字の整理法そのものは宅建業法の数字まとめにあります。
「事務所」と「事務所等」と「業務を行う場所」を三段で持つ
在宅の話は、場所の概念を混ぜると崩れます。三段で持ってください。狭いほうから、事務所(施行令1条の2)、事務所等(事務所+施行規則15条の5の2の場所。専任の宅建士を置く単位)、業務を行う場所(施行規則19条1項。標識だけを掲げる場所を含む)です。
名簿と帳簿は最も狭い事務所に、専任の宅建士は事務所等に、標識は最も広い業務を行う場所にかかります。名簿・帳簿は狭く、標識は広く、と覚えると、現地案内所に標識だけが要る理由も同時に説明できます。
年月は「賃貸・売買・書面」で並べる
2017年10月が賃貸のIT重説、2021年4月が売買を含む本格運用、2022年5月が書面の電子化と押印廃止。賃貸、売買、書面の順に緩和が進んだ、と時系列で並べると記憶が安定します。説明の非対面化が先で、書面の電子化が後、という順序も理解の助けになります。
理解度チェッククイズ
Q1. 重要事項の説明は、専任の宅地建物取引士が行わなければならない。
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**× 誤り。** 宅建業法35条1項は「宅地建物取引士をして」説明させることを求めているだけで、専任であることは要求していません。専任の宅地建物取引士でなくても、宅建士証の交付を受けている宅地建物取引士であれば説明できます。専任性が問題になるのは31条の3の設置義務の場面です。Q2. 37条書面は、相手方の承諾を得なくても、電磁的方法により提供することができる。
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**× 誤り。** 書面の交付に代えて電磁的方法により提供するには、契約の各当事者の承諾が必要です(宅建業法37条4項・5項)。35条書面についても相手方等の承諾が要件とされています(同35条8項)。承諾は施行令3条の3第1項・3条の4第1項の定めるところにより、用いる電磁的方法の種類と内容をあらかじめ示したうえで、書面等によって得る必要があります。さらに、承諾を得た後でも相手方等から提供を受けない旨の申出があれば、提供してはならなくなります(同3条の3第2項・3条の4第2項)。Q3. 専任の宅地建物取引士は、事務所に物理的に出勤していなければ常勤性を満たさないため、在宅勤務をすることは一切できない。
答えを見る
**× 誤り。** 国土交通省の解釈・運用の考え方は、常勤性の判断にあたり、ITの活用等により事務所以外の場所で通常の勤務時間を勤務する場合を含むとしています。したがって在宅勤務が直ちに常勤性を否定するわけではありません。ただし、事務所そのものが不要になるわけではなく、専従性の要件も別に満たす必要があります。Q4. 宅地建物取引業者は、従業者名簿の記載事項を電子計算機に備えられたファイルに記録している場合、その事務所において紙面に表示できない状態であっても、従業者名簿を備えているものとして扱われる。
答えを見る
**× 誤り。** 施行規則17条の2第3項は、記載事項が電子計算機に備えられたファイルまたは電磁的記録媒体に記録され、「必要に応じ当該事務所において電子計算機その他の機器を用いて明確に紙面に表示されるとき」に限り、その記録をもって記載に代えることができるとしています。事務所で出力できない状態では要件を満たしません。なお、帳簿についても施行規則18条2項が同じ条件を置いています。従業者名簿の保存期間は最終の記載をした日から10年(同規則17条の2第4項)です。Q5. 宅地建物取引業者の従業者が、業務を補助したことについて知り得た秘密を正当な理由なく漏らした場合、その従業者は罰則の対象となるが、被害者の告訴がなければ公訴を提起することはできない。
答えを見る
**○ 正しい。** 宅建業法75条の3は、宅建業者の使用人その他の従業者に対し、正当な理由がある場合でなければ業務を補助したことについて知り得た秘密を漏らしてはならないと定めています。違反は83条1項3号の50万円以下の罰金にあたり、同条2項が「前項第三号の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない」として親告罪としています。宅建業法の罰則で親告罪はこの一つだけです。また、75条の3の義務は従業者でなくなった後にも続きます。まとめ
- 取引の手続は非対面で完結しうる。 重要事項説明はIT重説として実施でき(賃貸は2017年10月、売買を含めて2021年4月から本格運用)、35条書面・37条書面は相手方等の承諾があれば電磁的方法で提供できます(2022年5月18日施行の改正)。ただし承諾は撤回されうるので、紙に戻る経路を残しておく必要があります。
- IT重説には四つの条件がある。 双方向でやり取りできる映像・音声の環境、書類の事前送付、開始前の確認、宅建士証の提示と視認の確認です。
- 専任の宅建士でも在宅勤務は可能。 常勤性の判断にITの活用による事務所外勤務が含まれると明示されています。ただし事務所要件は残り、専従性の制約もあります。
- 事務所に貼りついた義務は動かない。 標識・従業者名簿・帳簿は場所に、従業者証明書は人に貼りついています。名簿と帳簿を電子化しても「当該事務所において」紙面に表示できることが要件で、案内所等は契約の締結や申込みの受付を定義に含むため在宅に置き換えられません。
- 秘密保持義務は従業者本人にも直接かかる。 45条が業者、75条の3が従業者を名宛人にしており、いずれも関係の終了後も続きます。違反は50万円以下の罰金で、親告罪です。
- 業務の性質で在宅可否が分かれる。 書類作成・説明・問い合わせ対応はオンライン側に寄せられますが、内見と現地調査は現物に触れる必要があります。仲介実務ではハイブリッドが成り立ちやすくなります。
- 求人の実態は自分で確かめる。 在宅勤務の割合は総務省の通信利用動向調査に産業別の公表があります。宅建士の年収を資格単位で集計した公的統計はないため、数字は出所とセットで見てください。
よくある質問
Q. 宅建士として完全在宅で働くことは制度上できますか。
A. 従業者としてであれば、担当する業務が在宅で完結するものに限られている場合には可能です。専任の宅建士として届け出られる場合も、常勤性の解釈上は在宅勤務が排除されていません。ただし、雇う側が事務所を維持していることが前提です。事務所を持たずに自分で宅建業を営むことはできません。
Q. IT重説を行うために特別な資格や登録は必要ですか。
A. 宅建業法上、IT重説のための特別な資格や登録は求められていません。宅建士証の交付を受けている宅地建物取引士が、ガイドラインの条件を満たす環境で実施すれば足ります。使用するシステムについても法令上の指定はありません。
Q. 売買取引でもIT重説はできますか。
A. できます。社会実験を経て、個人が当事者となる売買を含めて2021年4月から本格運用されています。賃貸に限られるという理解は現在の運用と合いません。
Q. 相手方が電子での受領を承諾しない場合はどうなりますか。
A. その場合は書面を交付することになります。承諾は要件なので、承諾がないまま電磁的方法で提供しても、書面を交付したことにはなりません。
Q. 在宅勤務を認めてもらえるかは、どこで確認すればよいですか。
A. 求人票の記載だけでは判断できないため、面接時に、在宅の対象業務、出社が必要な頻度、自分を専任の宅建士として届け出るかどうかを確認してください。専任として届け出る場合、勤務時間の裁量は小さくなります。
Q. 在宅勤務でも従業者証明書は必要ですか。
A. 必要です。48条1項は、業者が従業者に証明書を携帯させなければその者を業務に従事させてはならないと定めており、勤務場所による例外はありません。実際に提示が問題になるのは、48条2項により取引の関係者から請求があった場面なので、外出して相手方に会うときに携帯していることが要点になります。
Q. 会社の帳簿や従業者名簿を自宅で管理してもよいですか。
A. 備付けの単位は事務所です。施行規則17条の2第3項と18条2項は、電磁的記録による代替を認めるにあたって「必要に応じ当該事務所において……明確に紙面に表示されるとき」という条件を置いています。自宅の端末にしかデータがなく、事務所から出力できない状態は要件を満たしません。作成や入力を在宅で行うこと自体は妨げられませんが、事務所側で出せる状態を保つ必要があります。
Q. 在宅勤務で扱った顧客情報について、退職後も守秘義務はありますか。
A. あります。75条の3は「宅地建物取引業者の使用人その他の従業者でなくなつた後であつても、また同様とする」と明記しています。業者側の45条も、宅建業を営まなくなった後まで及びます。
IT重説の条件、書面の電子化と承諾、専任の設置義務、事務所を単位とする備付義務は、いずれも宅建業法で繰り返し問われる分野です。宅建試験AIブートラボの肢別トレーニングで、該当分野の肢をまとめて演習して確認してください。