女性の宅建士|公表データと専任要件の実際
宅建試験に受験資格の定めはありません。令和7年度の男女別公表値と機構の統計概要で実数を確認し、専任の宅建士に求められる常勤性・専従性が働き方をどう制約するかを条文根拠つきで整理します。
目次
この記事は、宅建士という資格を「女性が」という条件のもとで検討している人に向けて、確かめられる事実だけを集めたものです。試験そのものの数値の全体像は宅建試験の受験者データ、賃金の話は宅建士の年収、専業主婦のブランクからの再就職という個別の局面は主婦・50代からの再就職にそれぞれ譲り、ここでは制度と統計の側から書きます。
先に、この記事が取らない立場を述べます。「女性だから宅建士に向いている」という説明は、この記事では扱いません。根拠となる調査が存在しないうえに、性別から適性を導く推論そのものが、確かめられる事実の外にあるからです。「女性ならではの視点」「細やかな対応が得意」といった説明は、どこを調べても裏づけが出てきません。
代わりに書けることは、思っているより多くあります。第一に、宅建試験には受験資格の定めがなく、性別・年齢・学歴・実務経験のいずれも問われません。これは条文の構造から言えます。第二に、男女別の受験者数・合格率は不動産適正取引推進機構が公表しており、資格登録者・宅建士証交付者・就業者の男女別内訳も毎年公表されています。数字は実在します。第三に、そして実務的にはこれが最も重要ですが、「専任の宅建士として事務所に置かれる」ことと「宅建士として働く」ことは、法律上まったく別の話です。専任には常勤性と専従性が要求されるため、勤務時間や兼務のあり方によっては専任として数えられません。逆に、専任でなくとも重要事項の説明も書面への記名もできます。この区別を知らずに求人を見ると、条件の意味を取り違えます。
以下、この三つを順に展開します。
宅建試験に受験資格の定めはない
「受験資格がない」という説明は広く流通していますが、根拠として示される条文はまちまちです。まず、条文がどうなっているかを正確に押さえます。
16条が定めているのは「誰が試験を行うか」である
宅地建物取引業法16条1項は、「都道府県知事は、国土交通省令の定めるところにより、宅地建物取引士資格試験を行わなければならない」と定めています。これは試験の実施主体を定めた規定であって、受験資格を定めた規定ではありません。同条2項は「試験は、宅地建物取引業に関して、必要な知識について行う」とし、3項は登録講習修了者の一部免除を定めています。
つまり16条は、試験の主体・内容・一部免除の三つを扱っており、誰が受験できるかについては何も書いていません。「16条が受験資格の制限がないことを定めている」という説明を見かけますが、これは正確ではありません。条文が定めているのではなく、条文が定めていないのです。
受験の側に制限を置いた規定が存在しない
では、他の条文に受験資格の制限があるのか。宅地建物取引業法と同法施行規則を通して読んでも、受験できる者を限定する規定は置かれていません。施行規則には試験の公告、合格の公告と合格証書の交付(11条)、国土交通大臣への報告(13条)、指定試験機関の試験事務規程(13条の7)といった手続規定が並びますが、年齢・学歴・国籍・実務経験・性別のいずれについても、受験を制限する条文が存在しません。
法律で制限されていないことは、法律上できます。これが「受験資格がない」ということの中身です。誰かが例外的に認めてくれているのではなく、そもそも門が設けられていないという構造です。
この構造の帰結は、数字にも現れています。機構の機関誌『RETIO』NO.136(2025年冬号)掲載の試験部「令和6年度宅地建物取引士資格試験の結果について」によれば、令和6年度の最年少合格者は男性14歳・女性13歳、最年長合格者は男性82歳・女性79歳で、過去には10歳の合格者も90歳の合格者も出ています。年齢の両端の実例が存在するのは、受験の門が設けられていないことの直接の帰結です。
制限があるのは「登録」の段階である
一方で、制限がまったくないわけではありません。制限は受験ではなく、登録の段階に置かれています。
宅建業法18条1項は、試験に合格した者で、宅地または建物の取引に関し国土交通省令で定める期間以上の実務の経験を有するもの、または国土交通大臣が同等以上の能力を有すると認めたものが、試験を行った都道府県知事の登録を受けることができる、と定めています。そして同項ただし書に12号の欠格事由が並びます。宅建業に係る営業に関し成年者と同一の行為能力を有しない未成年者、破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者、一定の犯罪により罰金以上の刑に処せられて5年を経過しない者、暴力団員等、といった内容です。
この12号のどこにも、性別・学歴・国籍に関する記載はありません。制限の対象になっているのは、行為能力・破産・犯歴・処分歴という、取引の相手方を保護するために必要とされた事項に限られています。受験の段階に門がないだけでなく、登録の段階の門も、属性ではなく事由によって構成されているということです。登録の手続の全体像は宅建士の登録と宅建士証、免許側の欠格事由との対比は宅建業の免許の欠格事由で扱っています。
受験に関する唯一の制限は不正受験に対する処分
例外を一つだけ挙げておきます。宅建業法17条1項は、不正の手段によって試験を受け、または受けようとした者に対し、都道府県知事が合格の決定を取り消し、またはその試験を受けることを禁止できると定めています。同条3項は、この処分を受けた者に対し、情状により3年以内の期間を定めて試験を受けることができないものとすることができる、としています。
宅建業法において受験そのものを制限しうる規定は、この17条だけです。属性ではなく行為に対する処分であり、期間の上限も3年と定められています。裏返せば、これ以外に受験を止める仕組みは用意されていません。
「制度として中立」と言えるのはここまで
以上を整理すると、制度の中立性について言えることの範囲が決まります。
言えるのは、宅建士になる経路の入口と、その次の登録の要件が、性別を条件にしていないということです。これは条文で確認できます。言えないのは、実際の職場での処遇や配置が中立かどうかです。それは会社ごとの制度と運用の話であり、法律の条文からは導けません。
この区別は重要です。「制度が中立だから現場も中立である」とは言えず、逆に「現場に偏りがあるから制度が排除している」とも言えません。制度の話と現場の話は、確かめる方法がそれぞれ違います。以下では、確かめられる範囲で現場の側の数字を見ていきます。
令和7年度試験の公表値を男女別に見る
男女別のデータは、実は宅建試験の属性別データのなかで最も長く継続して公表されているものです。どこにどう出ているかから確認します。
試験全体の数値
令和7年度試験は令和7年10月19日に実施されました。不動産適正取引推進機構の公表値によれば、申込者306,099人、受験者245,462人、受験率80.2%、合格者45,821人、合格率18.7%、合格判定基準は50問中33点(登録講習修了者は45問中28点)、合格者の平均年齢は36.2歳でした。
職業別の構成比は、不動産業33.2%、建設業8.7%、金融業8.1%、他業種27.9%、学生10.9%、その他11.3%です。ここで押さえておきたいのは、不動産業が3分の1にとどまり、受験者の約3分の2は不動産業の外にいるという点です。宅建は不動産業で働く人だけの資格ではありません。年度ごとの推移や相対評価の仕組みは宅建試験の受験者データにまとめています。
男女別の申込者・受験者・合格者
男女別の内訳は、機構の機関誌『RETIO』に掲載される試験部の報告記事で公表されています。令和7年度分は『RETIO』NO.140(2026年冬号)57ページ以下の「令和7年度宅地建物取引士資格試験の結果について」に載っています。
令和7年度は、申込者が男性196,693人・女性109,406人、受験者が男性156,334人・女性89,128人、合格者が男性28,331人・女性17,490人でした。合格率は男性18.1%、女性19.6%です。受験者に占める女性の割合は約36.3%、合格者に占める女性の割合は約38.2%になります。
前年度の令和6年度は男性17.8%、女性20.1%でした。『RETIO』NO.136の記事は「女性の合格率が男性を上回るのは例年どおり」と明記しており、同記事によれば令和6年度の合格者の男女構成比は男性60.9%・女性39.1%で、女性が30%を超えるのは11年連続、かつ過去最高の水準でした。
合格率の差から言えること、言えないこと
数字は右のとおりですが、ここから何を読み取るかは慎重に扱う必要があります。
言えるのは、女性の合格率が男性を下回っていないということだけです。「不動産は男社会だから女性は受かりにくい」という趣旨の説明があれば、それは公表値と合いません。この一点は数字で否定できます。
言えないのは、その先です。令和7年度の差は1.5ポイント、令和6年度は2.3ポイントでした。この差がなぜ生じるのかを説明するデータは公表されていません。公表されているのは受験者数と合格者数という結果だけで、学習時間、受験回数、学習開始時の予備知識、受験の動機といった変数は一切測られていません。差の原因が特定できない以上、「女性のほうが向いている」という結論は出せません。
そしてもう一点、実用上はこちらのほうが重要です。1.5ポイントから2.3ポイントの差は、個人の合否には何の影響もありません。合否を決めるのは50問のうち何問を取れたかであって、自分が属する集団の平均合格率ではありません。性別を理由に有利・不利を計算するのは、時間の使い方として合理的ではありません。
なぜ男女別の統計が存在するのか
そもそもなぜ男女別の集計が可能なのか、という点も押さえておくと、数字の性格が分かります。
宅建業法18条2項は、登録は都道府県知事が宅地建物取引士資格登録簿に氏名、生年月日、住所その他国土交通省令で定める事項を登載してするものとする、と定めています。そして施行規則14条の2の2第1項1号は、この「国土交通省令で定める事項」として本籍(外国籍の者はその国籍)および性別を挙げています。
登録簿に性別が登載されている以上、登録者・宅建士証交付者・就業者の男女別集計は、追加の調査をしなくても機械的に取り出せます。試験の段階についても、受験申込みの際に把握された情報にもとづいて集計されています。つまり、男女別統計が存在するのは、誰かが特別な意図で調べているからではなく、制度の運用に伴って必然的に生じるデータだからです。
「試験実施概況」の表には男女の欄がない
一点だけ、出典の探し方について注意を書いておきます。機構がウェブサイトで公開している「試験実施概況(令和7年度以前の過去10年間)」というPDFには、実施年度・申込者数・受験者数・合格者数・合格率・合格基準点の欄しかなく、男女別の欄はありません。
このため、この表だけを見て「男女別のデータは公表されていない」と結論づけてしまう例があります。実際には機関誌の側に載っています。数字を引くときは、どの資料に載っているかまでたどってください。孫引きされた数字が出典不明のまま流通しやすいのは、この二段構えが理由の一つです。
資格を持つ人と、宅建業で働いている人の距離
試験のデータは「受かった人」の話です。しかし働き方を考えるなら、見るべきは「いま働いている人」のほうです。ここには別の統計があります。
不動産適正取引推進機構は「宅建業者と宅建士の統計概要」を毎年公表しており、令和7年度分は2026年6月1日に公表されました。数値はいずれも令和8年3月31日現在(令和7年度末)のものです。
登録者124万人、証交付者59万人、就業者36.5万人
まず全体の規模です。宅地建物取引士資格登録者数は1,243,738人で、前年度末の1,211,760人から31,978人、2.6%増加しました。宅地建物取引士証の交付者数は590,086人で、前年度末から12,686人、2.2%の増加です。そして宅地建物取引士の就業者、すなわち宅建士証の交付を受け、かつ宅建業に従事している者の数は365,008人で、前年度末から7,651人、2.1%増加しています。
この三つの数字の落差が、この統計の最大の情報です。登録者124万人に対して、宅建士証まで持っている人は59万人で半分以下。宅建業で働いている人は36.5万人で、登録者の3割にも届きません。資格を持っていることと、宅建業で働いていることは、まったく違う母集団です。
この落差は、宅建士の年収で扱った「宅建士の年収という統計が存在しない理由」と同じ構造を別の角度から示しています。宅建士は職業名ではなく資格名であり、資格保有者の大半は宅建業の外にいます。だからこそ、資格保有者を母集団にした賃金の平均には解釈がつきません。
女性比率は登録27.0%、交付28.9%、就業27.3%
男女別に見ます。資格登録者1,243,738人の内訳は男性907,704人・女性336,034人で、女性比率は27.0%です(前年度末は26.6%)。宅建士証交付者590,086人の内訳は男性419,560人・女性170,526人で、女性比率は28.9%。就業者365,008人の内訳は男性265,279人・女性99,729人で、女性比率は27.3%(前年度末は26.7%)です。
三つの段階で女性比率が26%から29%の帯に収まっており、登録から就業へ進む過程で女性比率が大きく落ちる、という現象は起きていません。むしろ宅建士証交付の段階では女性比率が28.9%と最も高くなっています。
なお、この27%前後という水準は、試験の受験者に占める女性比率(令和7年度で約36.3%)より低い数字です。両者は測っている対象が違います。前者は過去何十年分の累積として現に登録・就業している人の構成であり、後者は単年度の受験者の構成です。近年の受験者の女性比率のほうが高いということは、時間の経過とともに就業者の女性比率も上がっていくことを示唆しますが、これは推測であって、公表値から確定できる事実ではありません。
就業者の女性は前年度末比4.4%増、男性は1.3%増
変化率を見ると差が出ます。就業者数のうち男性は261,814人から265,279人へ3,465人、1.3%の増加でした。女性は95,543人から99,729人へ4,186人、4.4%の増加です。増加率で3倍以上の開きがあります。
機構の記述によれば、就業者に占める女性比率は平成5年度末からの32年間で9.9ポイント高くなっています。この統計を開始した時点では17%台だった女性比率が、30年あまりで27.3%まで上がってきたということです。年ごとの変化は小さくても、長期では一方向に動いています。
年齢階層で切ると、若い層ほど女性比率が高い
就業者を年齢階層別に見ると、この動きの内訳が見えます。令和7年度末の就業者365,008人の年齢階層別の女性比率は、29歳以下が36.8%、30歳から39歳が34.1%、40歳から49歳が27.7%、50歳から59歳が24.9%、60歳から69歳が22.6%、70歳以上が20.1%です。
年齢が下がるほど女性比率が高いという、きれいな単調の関係になっています。29歳以下の36.8%は、直近の試験受験者に占める女性比率(約36.3%)とほぼ一致します。就業者全体の27.3%という数字は、女性比率が低かった時代に資格を取り、いまも働いている層を含んだ平均値であって、これから業界に入る人が置かれる環境を表した数字ではありません。
年齢階層別の構成比そのものは、50歳から59歳が最多で25.6%、70歳以上が10.4%です。就業者の平均年齢は50.0歳で、内訳は男性51.0歳、女性47.3歳でした。宅建士証交付者ベースでは全体51.6歳(男性52.7歳、女性48.7歳)、資格登録者ベースでは全体61.2歳(男性63.2歳、女性55.9歳)です。登録だけして働いていない層に高齢者が多く含まれるため、母集団を広げるほど平均年齢が上がります。年齢を軸にした検討は40代・50代からの宅建、定年後の宅建取得で扱っています。
都道府県によって差がある
就業者の女性比率には地域差もあります。機構の記述によれば、女性比率が高いのは大分の31.3%、青森の31.1%です。都道府県別の資格登録者ベースでも、高知30.0%、広島29.3%、熊本29.6%といった県が全国平均の27.0%を上回っている一方、鹿児島22.1%、鳥取22.1%、岩手22.9%、山形22.9%のように23%を下回る県もあります。
この差が何によって生じているかを説明するデータは公表されていません。産業構成の違い、事業所規模の違い、労働市場全体の女性比率の違いなど、いくつもの要因が考えられますが、統計からは切り分けられません。地域差があるという事実は使えますが、その理由を推測して書くことはできません。
この数字を職業選択の根拠にできる範囲
ここまでの数字を、進路の判断にどう使えるかを整理します。
使えるのは、規模感の把握です。宅建業で働いている宅建士は約36.5万人で、そのうち約10万人が女性です。10万人という規模は、「例外的な存在」ではありません。この点は確かめられます。
使えないのは、「自分が働くことになる会社がどうか」の予測です。全国の平均比率は、特定の一社の環境を何も教えません。会社の側の情報を見るには、あとで述べる女性活躍推進法にもとづく公表情報のほうが直接的です。
「専任の宅建士として置かれる」と「宅建士として働く」は別
ここからが、この記事で最も実務的な部分です。求人を見るとき、この区別を持っているかどうかで、条件の読み方が変わります。
設置義務の条文
宅建業法31条の3第1項は、宅建業者は、その事務所その他国土交通省令で定める場所(事務所等)ごとに、事務所等の規模、業務内容等を考慮して国土交通省令で定める数の成年者である専任の宅地建物取引士を置かなければならない、と定めています。
その「国土交通省令で定める数」は施行規則15条の5の3にあります。事務所については、当該事務所において宅建業者の業務に従事する者の数に対する専任の宅建士の数の割合が5分の1以上となる数、と定められています。一般に「業務に従事する者5人につき1人以上」と言われるのはこれです。
「国土交通省令で定める場所」は施行規則15条の5の2が定めています。継続的に業務を行うことができる施設を有する場所で事務所以外のもの、10区画以上の一団の宅地または10戸以上の一団の建物の分譲を行う案内所、他の業者が行う一団の宅地建物の分譲の代理・媒介を行う案内所、展示会その他これに類する催しを実施する場所です。ただしいずれも、契約を締結し、または契約の申込みを受けるものに限られます。これらの場所については、必要な専任の宅建士は1人以上です。
事務所は割合で、案内所等は頭数という違いになっています。設置義務の詳細は専任の宅建士とは、事務所そのものの要件は事務所の設置要件で扱っています。
2週間以内の措置義務が「席」を動かす
31条の3第3項は、宅建業者は1項の規定に抵触する事務所等を開設してはならず、既存の事務所等が同項の規定に抵触するに至ったときは、2週間以内に、同項の規定に適合させるため必要な措置を執らなければならない、と定めています。
この規定は、有資格者の需要を法律のレベルで作っています。従業者が増えて5分の1を割り込めば、業者は専任の宅建士を増やさなければなりません。専任者が退職すれば、2週間以内に補充しなければなりません。措置を執らずに放置すれば監督処分の対象になり得ます(監督処分の体系は監督処分の整理を参照)。
ただし、ここで論理を飛ばさないことが大切です。設置義務が保証しているのは、有資格者が座るべき席が法律上必要になるということだけです。その席にどういう雇用形態と処遇が付くかは、法律は何も定めていません。
専任とは常勤性と専従性である
条文は「専任」を定義していません。内容は国土交通省の「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」で示されており、専任とは原則として、宅建業を営む事務所に常勤し(常勤性)、専ら宅建業の業務に従事する状態(専従性)をいうものとされています。
常勤性は、その事務所に恒常的に勤務しているかという要素です。通常の業務時間中にその事務所で勤務している状態が求められます。したがって、他社に常勤しながら名義だけを置くこと、月に数日しか出社しないことは常勤性を欠きます。他の法人の常勤役員を兼ねている場合も同様です。
専従性は、宅建業の業務に専ら従事しているかという要素です。宅建業以外の業務が中心になっている場合は専従性を欠きます。二つは別の要件なので、どちらか一方を満たすだけでは専任になりません。
短時間勤務・兼務が専任性に触れる場面
ここが働き方の設計に直接効いてきます。
短時間勤務は常勤性の判断に触れます。育児や介護のために所定労働時間を短縮している場合、その勤務が「通常の勤務時間中に勤務している」といえるかどうかが問題になります。判断は個別の事情によりますが、勤務時間が大きく短いほど、専任として届け出ることが難しくなる方向に働きます。
他業務との兼務は専従性の判断に触れます。宅建業以外の事業を兼業している法人で、宅建業以外の業務が中心になっている場合、専従性を欠くという整理になります。同一人物が複数の事務所や案内所の専任を兼ねることも、常勤性の観点から原則としてできません。
したがって、「宅建を取れば時短でも専任として評価される」という説明は、条件つきでしか成り立ちません。資格を持っていることと、専任として届け出られることは別の要件であり、後者には勤務のあり方そのものが関わってきます。
兼業事務所の例外と、勤務場所の柔軟化
もっとも、専従性には例外が示されています。解釈・運用の考え方は、宅建業以外の業種を兼業している事務所について、宅建業の業務量が僅少であり他の業種に係る業務に従事することが可能な場合など特別の事情があるときは、他の業務に従事することがあっても専任性を欠くものではない、という趣旨を示しています。「兼業している者は一切専任になれない」という断定は正確ではなく、原則は専従だが業務量の実態によっては例外があるという二段構えで理解します。
勤務場所についても整理が進んでいます。かつては専任の宅建士は物理的に事務所に常駐していなければならないという理解が一般的でしたが、現在の解釈・運用の考え方では、ITの活用等により適切に業務を行うことができる体制が確保されている場合には、事務所以外の場所で勤務することも直ちに専任性を否定するものではない、という趣旨が示されています。これは常勤性の要件が消えたという意味ではなく、体制の確保が前提です。テレワークと専任性の関係は宅建士は在宅ワークできるかで詳しく扱っています。
なお、通常の業務の遂行に伴う外出——物件案内、役所調査、契約の立会いなど——によって常勤性が失われることはありません。判断されるのは、恒常的にその事務所に勤務しているといえるかどうかです。
専任でなくとも、宅建士としてできること
ここが核心です。宅建士の独占業務は、専任であることを要件としていません。
宅建業法35条1項は、宅建業者は、契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士をして重要事項を記載した書面を交付して説明をさせなければならない、と定めています。条文が求めているのは「宅地建物取引士であること」であって、「専任の宅地建物取引士であること」ではありません。同条4項により、説明の際には請求がなくても宅建士証を提示しなければなりません。同条5項は35条書面への宅建士の記名を、37条3項は37条書面への宅建士の記名を、それぞれ求めています。いずれも主体は「宅地建物取引士」です。
つまり、専任として届け出られていない宅建士でも、重要事項の説明を行い、35条書面と37条書面に記名することができます。独占業務は宅建士であれば担えるのであって、専任である必要はありません。独占業務の内容は宅建士の独占業務、35条書面と37条書面の役割の違いは35条書面と37条書面の横断整理で扱っています。
この区別が働き方の設計にどう効くか
以上を組み合わせると、働き方の選択肢が二層に分かれることが分かります。
専任として置かれる働き方は、常勤性と専従性を満たす必要があります。フルタイムに近い勤務が前提になり、兼業や副業、複数事務所の掛け持ちは制約されます。その代わり、法定の設置義務に紐づくポジションなので、業者にとって代替の利かない位置になります。
専任ではない宅建士として働く働き方は、この制約を受けません。短時間勤務でも、他業務との兼務でも、宅建士としての独占業務を担うこと自体は妨げられません。その代わり、法定の設置義務に紐づくわけではないので、そのポジションの必要性は会社の業務量によって決まります。
求人を読むときは、「専任の宅建士募集」なのか「宅建士資格保有者歓迎」なのかを分けて見てください。前者は勤務形態に条件が付きます。後者は付かない代わりに、資格が処遇にどう反映されるかが会社ごとの制度に委ねられます。資格が賃金に届く三つの経路については宅建士の年収で分解しています。応募先の種類による違いは宅建を活かした転職先、業務内容そのものは宅建士の仕事内容、賃貸管理という選択肢は賃貸管理業の比較を参照してください。
合格から宅建士になるまでの三段階と、中断の扱い
ライフイベントで一度離れることを想定するなら、資格が時間の経過でどうなるかを正確に知っておく必要があります。ここは誤解が多い部分です。
合格・登録・宅建士証交付の三段階
宅建士になるには三つの段階を踏みます。第一に試験に合格すること(16条)。第二に都道府県知事の登録を受けること(18条1項)。第三に宅建士証の交付を受けること(22条の2第1項)。合格しただけでも、登録しただけでも、宅建士ではありません。
35条の重要事項説明や書面への記名を行えるのは、宅建士証の交付まで受けた者です。登録は済ませたが宅建士証の交付を受けていない者を専任の宅建士として届け出ることもできません。
合格に有効期限はない
条文を見ると、試験の合格そのものに期限を定めた規定はありません。宅建業法22条は登録が消除される場合を列挙していますが、そこに「合格から一定年数が経過したとき」という号はありません。列挙されているのは、本人からの申請、死亡等の届出、届出がなくても事実が判明したとき、17条により合格の決定を取り消されたときの四つです。
したがって、合格した年に登録しなくても、合格の効力が時間の経過で失われることはありません。数年後に登録することもできます。この点が「宅建はブランクに強い」と言われることの制度的な中身です。
実務経験2年または登録実務講習
登録には実務経験の要件があります。18条1項の「国土交通省令で定める期間」は、施行規則13条の15により2年と定められています。
2年の実務経験がない場合の代替が用意されています。施行規則13条の16は、国土交通大臣が実務の経験を有する者と同等以上の能力を有すると認めた者として、登録実務講習を修了した者、国・地方公共団体等において宅地建物の取得または処分の業務に従事した期間が通算して2年以上である者、国土交通大臣がこれらと同等以上の能力を有すると認めた者を挙げています。
未経験から合格した人の大半は、この登録実務講習を経て登録します。実務経験がないことは登録の障害になりません。講習の内容と受け方は登録実務講習で扱っています。
宅建士証の有効期間は5年、法定講習は交付申請前6月以内
宅建士証には期限があります。22条の2第3項により、宅建士証の有効期間は5年です。
そして同条2項は、宅建士証の交付を受けようとする者は、登録をしている都道府県知事が指定する講習で、交付の申請前6月以内に行われるものを受講しなければならない、と定めています。ただし、試験に合格した日から1年以内に宅建士証の交付を受けようとする者、および登録の移転に伴って交付を受けようとする者は、この講習が免除されます。
ここが「ブランクで失効しない」という説明の正確な限界です。失効しないのは登録であって、宅建士証ではありません。宅建士証の有効期間が切れた状態では、重要事項の説明も書面への記名もできません。復帰するには、法定講習を受けて改めて交付を受ける必要があります。手続としては用意されているので復帰は可能ですが、「何もしなくても即座に働ける」わけではない、という区別です。
離職中に宅建士証を更新し続けるかどうかは、費用と手間の判断になります。更新しなかった場合でも登録は残るので、復帰時に法定講習を受ければ交付を受けられます。
改姓・転居があったときの手続
ライフイベントで実際に発生するのが、氏名や住所の変更に伴う手続です。
宅建業法20条は、登録を受けている者は、登録を受けている事項に変更があったときは遅滞なく変更の登録を申請しなければならない、と定めています。氏名は18条2項により登録簿の登載事項なので、改姓は変更の登録の対象です。
さらに施行規則14条の13第1項は、宅建士はその氏名または住所を変更したときは、20条の変更の登録の申請とあわせて宅建士証の書換え交付を申請しなければならない、と定めています。同条3項により、書換え交付は現に有する宅建士証と引換えに新たな宅建士証を交付して行われます。ただし住所のみの変更の場合は、現に有する宅建士証の裏面に変更後の住所を記載することで代えることができます。
氏名変更は新しい宅建士証との引換え、住所のみの変更は裏面記載という違いです。写真の添付も、氏名変更を含む場合は必要、住所のみなら不要と分かれています(同条2項)。
なお、勤務先が他の都道府県に移る場合は、19条の2の登録の移転を申請できます。これは義務ではなく「申請することができる」という規定です。移転があると従前の宅建士証は効力を失いますが(22条の2第4項)、移転の申請とともに交付の申請をすれば、移転後の知事が従前の有効期間の残りを有効期間とする宅建士証を交付します(同条5項)。
育児・介護と両立する働き方は、労働法制の側にある
宅建業法は働き方について何も定めていません。両立を支える仕組みは、労働法制の側にあります。ここで扱う法律はいずれも宅建試験の出題範囲ではありませんが、働き方を設計するうえでは条文で確かめられる材料になります。
3歳未満の子と所定労働時間の短縮措置
育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(育児・介護休業法)23条1項は、事業主は、3歳に満たない子を養育する労働者であって育児休業をしていないものに関して、労働者の申出に基づき所定労働時間を短縮する措置を講じなければならないと定めています。労使協定で除外できる労働者の類型(勤続1年未満の者など)はありますが、原則は事業主の義務です。
3歳から就学前の「二以上の措置」
2025年10月1日から施行された23条の3第1項は、3歳から小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者について、事業主が次の措置のうち二以上を講じなければならないと定めています。始業時刻変更等の措置、在宅勤務等の措置、育児のための所定労働時間の短縮措置、就業しつつ養育することを容易にするための休暇を与える措置、その他省令で定める措置です。
さらに同条5項は、3歳に満たない子を養育する労働者に対し、事業主が講じた措置のいずれを選択するかを判断するために適切な期間内に、対象措置その他の事項を知らせるとともに、申出に係る労働者の意向を確認するための面談その他の措置を講じなければならないと定めています。
在宅勤務が選択肢として法律上明記されている点は、宅建士の働き方との関係で押さえておく価値があります。専任性の判断における勤務場所の整理と組み合わせると、選べる形が広がる方向に制度が動いていることが分かります。
所定外労働・時間外労働・深夜業の制限
三つの制限が並んでいます。
16条の8第1項は、小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者が請求した場合、事業主は所定労働時間を超えて労働させてはならないと定めています(事業の正常な運営を妨げる場合を除く)。
17条1項は、同じく小学校就学前の子を養育する労働者が請求したときは、1月について24時間、1年について150時間を超えて労働時間を延長してはならないと定めています。
19条1項は、同じ範囲の労働者が請求した場合、午後10時から午前5時までの間において労働させてはならないと定めています。
いずれも請求にもとづく制度であり、勤続1年未満の労働者などは対象外とされる場合があります。請求は原則として制限開始予定日の1月前までに行う必要があります。
子の看護等休暇と介護休暇
16条の2第1項は、9歳に達する日以後の最初の3月31日までの子(小学校第3学年修了前の子)を養育する労働者が、1年度において5労働日(子が2人以上の場合は10労働日)を限度として、子の看護等休暇を取得できると定めています。対象となる事由は、負傷・疾病の子の世話、疾病の予防を図るために必要な世話、学校保健安全法20条による学校の休業等に伴う世話に加えて、子の教育または保育に係る行事への参加も含まれます。
16条の5第1項は、要介護状態にある対象家族の介護等を行う労働者が、1年度において5労働日(対象家族が2人以上の場合は10労働日)を限度として介護休暇を取得できると定めています。
どちらも、1日の所定労働時間が短い労働者として省令で定めるものを除き、1日未満の単位で取得できます(各2項)。
介護休業は3回・通算93日
11条1項は、労働者は事業主に申し出ることにより介護休業をすることができると定め、同条2項は、同一の対象家族について3回の介護休業をした場合、または介護休業日数が93日に達している場合には、その対象家族について申出ができないとしています。15条1項は、介護休業期間が93日から既に取得した日数を差し引いた日数を上限とすることを定めています。
対象家族1人につき3回まで、通算93日という枠が、条文上の上限です。
また23条3項は、要介護状態にある対象家族を介護する労働者であって介護休業をしていないものに関して、連続する3年の期間以上の期間における所定労働時間の短縮その他の措置を講じることを事業主に義務づけています。介護休業の93日とは別枠の、より長期の制度です。
女性に固有の定めがある領域
ここまでの育児・介護休業法の制度は、いずれも性別を要件にしていません。労働者であれば性別を問わず対象です。
一方、労働基準法には女性に固有の定めがあります。65条は、6週間(多胎妊娠の場合は14週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合には就業させてはならず、産後8週間を経過しない女性を就業させてはならないと定めています(産後6週間を経過した女性が請求し、医師が支障がないと認めた業務については例外)。同条3項は、妊娠中の女性が請求した場合には他の軽易な業務に転換させなければならないとしています。67条は、生後満1年に達しない生児を育てる女性が、休憩時間のほか1日2回各々少なくとも30分の育児時間を請求できると定めています。
労働法制において女性に固有の定めがあるのは、妊娠・出産・授乳という身体的事由に結びついた部分に限られます。それ以外の両立支援制度は、すべて性別を問いません。この線引きを知っておくと、「女性向けの制度」という説明の実際の範囲が分かります。
均等法が禁止していること
雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(男女雇用機会均等法)5条は、事業主は労働者の募集及び採用について、その性別にかかわりなく均等な機会を与えなければならないと定めています。
6条は、配置(業務の配分及び権限の付与を含む)、昇進、降格、教育訓練、住宅資金の貸付け等の福利厚生、職種及び雇用形態の変更、退職の勧奨、定年、解雇、労働契約の更新について、性別を理由とする差別的取扱いを禁止しています。
9条は、婚姻・妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いを禁止しています。同条4項は、妊娠中の女性労働者および出産後1年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は無効とし、事業主が9条3項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときに限って例外を認めるという、証明責任を事業主側に置いた構造になっています。
応募先を数字で見る手がかり
最後に、会社を選ぶときに使える制度を挙げておきます。女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法)は、2026年4月1日施行の改正後、次の義務を定めています。
8条1項により、常時雇用する労働者の数が100人を超える一般事業主は、一般事業主行動計画を定めて厚生労働大臣に届け出なければなりません。同条3項は、計画を定めるにあたり、採用した労働者に占める女性労働者の割合、男女の継続勤務年数の差異、労働時間の状況、管理的地位にある労働者に占める女性労働者の割合等を把握・分析し、目標を定量的に定めることを求めています。同条5項により、計画は公表しなければなりません。
20条1項は、常時雇用する労働者の数が300人を超える一般事業主に対し、その雇用する労働者の男女の賃金の額の差異、管理的地位にある労働者に占める女性労働者の割合、女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供に関する実績、職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備に関する実績を、定期的に公表することを義務づけています。同条2項は、100人超300人以下の事業主についても、男女の賃金の差異と管理職に占める女性割合、および機会提供実績か両立環境整備実績のいずれか一方の公表を義務づけています。
男女の賃金の差異が法律上の公表事項になっているという点は、実務的に大きな意味を持ちます。宅建士の年収で述べたとおり、宅建士の年収を示す統計は存在しませんが、応募先の企業単位の男女賃金差異と管理職女性比率は、一定規模以上であれば公表されています。平均値を探すより、応募先そのものの公表値を見るほうが情報量が多いという原則は、ここでも当てはまります。
短時間勤務と専任要件が交差する場所
以上を踏まえて、この記事の中心にもう一度戻ります。
育児・介護休業法にもとづく所定労働時間の短縮措置を使うことは、労働者の権利として制度化されています。一方、専任の宅建士として届け出られるには常勤性が要求されます。この二つは、同じ人の同じ時期に交差することがあります。
短縮措置を使いながら専任として届け出られるかは、勤務の実態にもとづく個別の判断になります。ここで確実に言えるのは次のことです。短縮措置を使ったからといって、宅建士でなくなるわけではありません。重要事項の説明も、35条書面・37条書面への記名も、宅建士であればできます。失われうるのは「専任として数えられる地位」であって、「宅建士として働くこと」ではありません。
したがって、働き方を設計するときの問いは「専任になれるか」ではなく、「いまの時期に自分が担うのは、専任の席なのか、宅建士としての業務なのか」になります。この問いなら、勤務先や応募先に直接確認できます。時期によって答えを変えることもできます。キャリアの局面ごとの整理は宅建士のキャリアパス、他資格との組み合わせはダブルライセンス戦略とFPと宅建で扱っています。学習と家庭の両立という手前の段階については主婦が宅建に合格する方法を参照してください。
試験での出題ポイント
この記事で扱った条文は、そのまま試験に出ます。制度として理解しておくと、選択肢の入れ替えに気づきやすくなります。
受験資格と登録の欠格事由を入れ替える出題
「宅地建物取引士資格試験は、宅地建物取引業に従事している者でなければ受けることができない」といった選択肢が出ることがあります。受験の側に制限を置いた条文が存在しないことを押さえていれば、条文の有無だけで切れます。
逆に、登録の欠格事由(18条1項各号)を受験の要件であるかのように書く形も出ます。制限が置かれているのは登録の段階であって受験の段階ではない、という位置関係を持っておいてください。17条の不正受験に対する処分(3年以内の受験禁止)と混同させる形もあります。
5分の1と、案内所等の1人以上
「業務に従事する者5人につき1人以上」は頻出です。作問の型は決まっていて、この数値を10人に1人、3人に1人などに入れ替えて誤りにします。
あわせて問われるのが案内所等の扱いです。契約を締結し、または契約の申込みを受ける案内所等については、業務従事者の人数にかかわらず1人以上を置けば足ります。事務所は割合、案内所等は頭数という違いをそのまま覚えます。
また、施行規則15条の5の2は、案内所等であっても契約の締結・申込みの受付を行うものに限って設置義務の対象としています。単に物件の紹介だけを行う案内所は対象外です。この限定を落とした選択肢も出ます。
2週間以内という期間
31条の3第3項の措置期間も問われます。2週間以内を1か月以内、30日以内に入れ替える形式です。宅建業法の期間の数値は横断的に整理しておくと取りこぼしが減ります(宅建業法の数字まとめ)。
成年者要件とみなし規定
31条の3第1項の文言は「成年者である専任の宅地建物取引士」です。成年者であること、専任であること、宅建士であることの三要素に分解できます。
同条2項のみなし規定も定番です。宅建業者(法人の場合はその役員)が宅建士であるときは、その者が自ら主として業務に従事する事務所等については、その者をその事務所等に置かれる成年者である専任の宅建士とみなす、という内容です。みなし規定である以上、その者が未成年者であっても「成年者である専任の宅建士」として扱われます。ここは18条1項1号(営業に関し成年者と同一の行為能力を有しない未成年者は登録を受けられない)と組み合わせて問われます。
「専任でなければできない」と書く選択肢
この記事の中心に関わる出題です。「重要事項の説明は専任の宅地建物取引士が行わなければならない」という趣旨の選択肢は誤りです。35条1項が求めているのは「宅地建物取引士をして」説明させることであり、専任であることは要件ではありません。
同じ型で、「37条書面には専任の宅地建物取引士が記名しなければならない」という選択肢も誤りになります。37条3項の主体も「宅地建物取引士」です。
説明と記名の入れ替え
35条書面と37条書面の役割の入れ替えも定番です。35条書面は契約成立前に交付し、宅建士による説明が必要で、宅建士の記名が必要。37条書面は契約成立後遅滞なく交付し、説明は不要で、宅建士の記名が必要。37条書面に説明義務があるかのように書く選択肢は誤りです。
義務の主体のすり替えにも注意します。書面を交付する義務を負うのは宅建業者であり、説明と記名を行うのが宅建士です。「宅建士が交付しなければならない」と書かれていれば誤りです。
宅建士証の有効期間と法定講習
22条の2の数値も問われます。有効期間5年(3項)、交付申請前6月以内の講習(2項)、合格から1年以内の交付申請なら講習不要(2項ただし書)という三点です。「有効期間は3年」「講習は申請前1年以内」といった入れ替えが典型です。
登録の移転に伴う宅建士証の扱い(4項・5項)も出ます。移転により従前の宅建士証は効力を失い、移転後の知事が従前の有効期間の残りを有効期間とする宅建士証を交付する、という関係です。「移転後は新たに5年の有効期間になる」という選択肢は誤りです。
変更の登録と書換え交付
20条の変更の登録と、施行規則14条の13の書換え交付の関係も出題対象です。氏名または住所を変更したときは、変更の登録の申請とあわせて書換え交付を申請しなければなりません。住所のみの変更なら裏面記載で代えられるという例外も、そのまま問われます。
統計問題での扱い
例年問48で出題される統計問題では、宅建士の登録者数や就業者数そのものが問われることは多くありませんが、地価公示、住宅着工統計、法人企業統計、土地白書といった資料の最新数値が出ます。本記事で扱った機構の「宅建業者と宅建士の統計概要」は直接の出題対象ではありませんが、数字を出典・年次・母集団の三点で確認する習慣は統計問題でそのまま役立ちます。対策は統計問題の対策にまとめています。
覚え方・整理の仕方
三段階を「合格・登録・交付」で数える
宅建士になるまでを一語ずつで持ちます。合格(16条)、登録(18条1項)、交付(22条の2第1項)。この三つのうちどこまで進んでいるかで、できることが変わります。
合格だけでは何もできません。登録まで進んでも、宅建士証がなければ重要事項の説明も記名もできません。三段階のどこの話をしているかを常に意識すると、「合格すれば宅建士」という言い方の不正確さが見えます。
専任は「常勤+専従」の二語で持つ
専任の定義を文章で覚えると再現できません。二語で持ちます。常勤(その事務所に恒常的に勤務している)と専従(専ら宅建業の業務に従事している)。両方を満たさなければ専任ではありません。
そのうえで、常勤性に触れるのは勤務時間と勤務場所の問題、専従性に触れるのは業務内容と兼務の問題、と対応づけておきます。短時間勤務は常勤性の側、他業種との兼務は専従性の側です。
「割合の事務所、頭数の案内所」
設置義務の数え方を一句で持ちます。事務所は5分の1以上という割合、案内所等は1人以上という頭数。数値そのものを丸暗記すると入れ替えに気づけないので、なぜ形式が違うのかから復元します。
事務所は業務量が従業者数に比例して増えるので割合で定めるのが自然です。案内所等はそこで行われる業務が契約締結と申込受付に限定されているので、頭数で足ります。この理屈を持っていれば、「案内所も5人につき1人」という選択肢に違和感が働きます。
「説明1つ、記名2つ」
宅建士の独占業務を三つと覚えると内訳を忘れます。説明が1つ(35条書面のみ)、記名が2つ(35条書面と37条書面)と数えます。この数え方をしておくと、「37条書面の説明」という誤りの選択肢を内訳の段階で弾けます。
さらに、この三つのいずれについても条文の主体が「宅地建物取引士」であって「専任の宅地建物取引士」ではないことを、セットで持っておきます。
数字を見たら出典・年次・母集団を問う
この記事で使った数字は、すべて出典・年次・母集団を明示しています。宅建士に関する情報を読むときは、この三点を確認してください。
出典は何か。試験の男女別データなら『RETIO』の試験部報告、登録者・就業者のデータなら機構の「宅建業者と宅建士の統計概要」です。年次はいつか。試験は令和7年度、統計概要は令和8年3月31日現在です。母集団は誰か。受験者なのか、合格者なのか、資格登録者なのか、宅建士証交付者なのか、就業者なのか。この三点のうち一つでも答えられない数字は、進路の判断材料にできません。
合格に必要な学習時間として広く流通している数字も、同じ基準で落ちます。試験実施団体も国も、合格者の学習時間を調査していないためです。学習時間の考え方は宅建の勉強時間で扱っています。
理解度チェッククイズ
Q1. 宅地建物取引士資格試験は、宅地建物取引業に従事している者または一定の学歴を有する者でなければ受けることができない。(○か×か)
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×:宅地建物取引業法にも同法施行規則にも、受験できる者を限定する規定は置かれていません。16条1項が定めているのは「都道府県知事が試験を行う」という実施主体であって、受験資格ではありません。制限が置かれているのは登録の段階で、18条1項ただし書に行為能力・破産・犯歴・処分歴に関する12号の欠格事由が並びますが、そこにも性別・年齢・学歴・国籍に関する記載はありません。なお、受験そのものを制限しうる唯一の規定は17条で、不正の手段によって試験を受けまたは受けようとした者に対し、合格の決定の取消しまたは受験の禁止、情状により3年以内の期間を定めた受験禁止ができるとされています。Q2. 宅地建物取引業者は、事務所ごとに、業務に従事する者5人につき1人以上の割合で成年者である専任の宅地建物取引士を置かなければならず、既存の事務所がこれに抵触するに至ったときは2週間以内に必要な措置を執らなければならない。(○か×か)
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○:宅建業法31条の3第1項および施行規則15条の5の3が、事務所については業務に従事する者の数に対する専任の宅建士の数の割合が5分の1以上となる数を求めています。同条3項が2週間以内の措置義務を定めています。この「5分の1」を10分の1などに、「2週間」を1か月などに入れ替える出題が頻出します。なお、施行規則15条の5の2に定める案内所等については、業務従事者の人数にかかわらず1人以上を置けば足ります。事務所は割合、案内所等は頭数という違いで押さえてください。案内所等が設置義務の対象になるのは、契約を締結し、または契約の申込みを受けるものに限られる点も落とさないようにします。Q3. 重要事項の説明および37条書面への記名は、専任の宅地建物取引士でなければ行うことができない。(○か×か)
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×:条文が求めているのは「宅地建物取引士」であって「専任の宅地建物取引士」ではありません。35条1項は宅建業者が「宅地建物取引士をして」重要事項を記載した書面を交付して説明させなければならないと定め、35条5項が35条書面への記名を、37条3項が37条書面への記名を、それぞれ宅地建物取引士に求めています。したがって、専任として届け出られていない宅建士でも、これらの業務を担うことができます。「専任の宅建士として置かれること」と「宅建士として働くこと」は法律上別の話です。なお、説明の際に宅建士証を提示しなければならないのは35条4項で、請求がなくても提示が必要です。Q4. 宅地建物取引士証の有効期間は5年であり、交付を受けようとする者は、原則として交付の申請前6月以内に行われる都道府県知事指定の講習を受講しなければならない。(○か×か)
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○:22条の2第3項が有効期間5年を、同条2項が交付申請前6月以内の指定講習の受講を定めています。ただし2項ただし書により、試験に合格した日から1年以内に交付を受けようとする者、および登録の移転に伴って交付を受けようとする者については受講が不要です。ここで区別しておきたいのは、期限があるのは宅建士証であって登録ではないという点です。登録が消除される場合は22条に列挙されており、時間の経過を理由とする号はありません。合格の効力にも期限はありません。離職中に宅建士証の有効期間が切れても、登録が残っていれば、法定講習を受けて改めて交付を受けることで復帰できます。Q5. 宅地建物取引士が氏名を変更したときは、変更の登録の申請とあわせて宅地建物取引士証の書換え交付を申請しなければならない。(○か×か)
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○:宅建業法20条が、登録を受けている事項に変更があったときは遅滞なく変更の登録を申請しなければならないと定めており、氏名は18条2項により登録簿の登載事項です。そのうえで施行規則14条の13第1項が、氏名または住所を変更したときは変更の登録の申請とあわせて宅建士証の書換え交付を申請しなければならないとしています。同条3項により、書換え交付は現に有する宅建士証と引換えに新たな宅建士証を交付して行われますが、住所のみの変更の場合は現に有する宅建士証の裏面に変更後の住所を記載することで代えることができます。写真の添付も、氏名変更を含む場合は必要、住所のみなら不要と分かれています。まとめ
宅建試験には受験資格の定めがありません。これは16条が「制限しない」と定めているからではなく、宅建業法にも同法施行規則にも受験を制限する条文が置かれていないからです。制限は登録の段階(18条1項ただし書)にあり、その内容も行為能力・破産・犯歴・処分歴という事由に限られ、属性による区別を含みません。受験そのものを制限しうるのは、不正受験に対する17条の処分だけです。
数字は実在します。令和7年度試験は、申込者が男性196,693人・女性109,406人、受験者が男性156,334人・女性89,128人、合格者が男性28,331人・女性17,490人で、合格率は男性18.1%・女性19.6%でした(『RETIO』NO.140、2026年冬号)。試験全体では申込者306,099人、受験者245,462人、合格者45,821人、合格率18.7%、合格判定基準33点、合格者の平均年齢36.2歳です。女性の合格率が男性を下回っていないという事実は使えますが、1.5ポイントの差から適性を語ることはできません。差の原因を説明するデータは公表されておらず、そもそもこの程度の差は個人の合否に影響しません。
働いている人の側の数字も公表されています。令和8年3月31日現在、宅地建物取引士の資格登録者は1,243,738人、宅建士証交付者は590,086人、宅建業に従事している就業者は365,008人です。就業者の女性比率は27.3%で、女性99,729人が宅建業で働いています。前年度末比の増加率は女性4.4%、男性1.3%。年齢階層別に見ると女性比率は29歳以下36.8%から70歳以上20.1%まで単調に下がっており、若い層ほど女性比率が高い構造です。就業者全体の27.3%は、女性比率が低かった時代の層を含んだ平均値です。
そして、この記事で最も実務的な点です。「専任の宅建士として置かれる」ことと「宅建士として働く」ことは別です。専任には31条の3第1項の設置義務が対応し、その内容は施行規則15条の5の3により事務所は5分の1以上、案内所等は1人以上と定められています。専任と認められるには常勤性と専従性が必要で、短時間勤務は常勤性に、他業務との兼務は専従性に触れます。一方、35条1項の重要事項の説明も、35条5項・37条3項の記名も、条文の主体は「宅地建物取引士」であって専任であることを要件としていません。短時間勤務を選んでも、失われうるのは専任として数えられる地位であって、宅建士として働くことではありません。
両立を支える仕組みは宅建業法ではなく労働法制の側にあります。育児・介護休業法は、3歳未満の子について所定労働時間の短縮措置(23条1項)、3歳から就学前について二以上の措置(23条の3第1項、在宅勤務を含む)、就学前の子について所定外労働・時間外労働・深夜業の制限(16条の8、17条、19条)、小学校3年生修了前の子について年5日の子の看護等休暇(16条の2)、介護について年5日の介護休暇(16条の5)と3回・通算93日の介護休業(11条)を定めています。これらはいずれも性別を要件としません。女性に固有の定めは、労働基準法65条の産前産後休業と67条の育児時間という、身体的事由に結びついた範囲に限られます。応募先を数字で見るなら、女性活躍推進法20条により、常時雇用する労働者300人超の事業主は男女の賃金の額の差異と管理職に占める女性割合を公表する義務を負っています(100人超300人以下も2項により公表義務があります)。
進路を決めるときの問いは、「女性に宅建は向いているか」ではありません。答えの出る問いは、「いまの時期に自分が担うのは専任の席なのか、宅建士としての業務なのか」、そして「応募先の公表値と規程はどうなっているか」です。前者には答えがなく、後者には答えがあります。
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