委任と請負|完成を約するかで全部が決まる
委任と請負の違いを、632条と643条の分岐点から導きます。報酬・解除・終了事由・担保責任がなぜそう分かれるのかを条文で説明し、媒介契約が準委任である意味まで整理します。
目次
この記事は、権利関係の契約各論のうち、役務の提供を目的とする二つの類型を扱います。契約が守られなかったときの一般的な処理は債務不履行、引き渡された物が契約に合っていなかったときの処理は契約不適合責任にそれぞれまとめてあるので、この記事は委任と請負という類型そのものの違いに絞ります。
委任と請負は、対比して覚える論点として紹介されることが多い分野です。しかし、報酬・解除・終了事由・担保責任という項目を並べて片方ずつ暗記しても、試験で数値や要件が入れ替えられたときに判定できません。項目が7つあるなら7つ覚えることになり、しかもどちらがどちらだったかは思い出すしかなくなります。
この記事の立場は違います。二つの類型を分けている点は一つしかありません。仕事の完成を約するかどうかです。
民法632条は、請負を「当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約する」契約と定義します。民法643条は、委任を「当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾する」ことで効力を生ずる契約と定義します。請負人が約束しているのは結果であり、受任者が約束しているのは事務の処理です。
この一点から、残りの違いはすべて導けます。結果を約束したのだから報酬は結果に対して払われ、結果が出るまでは払われない。事務の処理を約束したにすぎないのだから、報酬は当然には発生しない。結果を約束した以上、その結果が契約に適合しなければ責任を負う。事務の処理を約束したにすぎないなら、成果物の適合性を問う余地がない。人的な信頼関係にもとづいて事務を任せたのだから、信頼が失われればいつでも解除でき、当事者が死ねば終了する。
以下、この導出を条文で一つずつ確かめます。覚えるべきは分岐点一つで、残りは導出です。
なお、民法は令和8年法律第45号により2026年6月24日に改正・施行されていますが、この改正が触れているのは遺言に関する規定であり、委任と請負の規定(632条から656条まで)には及んでいません。この記事の条文は令和8年度試験の出題範囲(2026年4月1日時点の条文)と一致しています。
二つの類型が分かれる一点
632条と643条を並べて読む
まず条文をそのまま置きます。
632条は「請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる」と定めます。
643条は「委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる」と定めます。
632条には「完成」「結果」「報酬」という三つの語が入っています。643条にはそのどれも入っていません。入っているのは「委託」と「承諾」だけです。条文の書きぶりからして、片方は結果を組み込んだ定義であり、もう片方は結果を組み込んでいない定義です。
「結果」と「過程」——債務の対象が違う
請負人が負う債務の対象は、完成した仕事そのものです。建物を建てる請負なら、建物が建って初めて債務を履行したことになります。どれだけ丁寧に作業しても、建物が完成しなければ債務は履行されていません。
受任者が負う債務の対象は、委任の本旨に従った事務の処理です。644条が「受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う」と定めているとおり、義務づけられているのは注意をもって処理することであって、特定の結果を実現することではありません。
この違いは、しばしば結果債務と手段債務という言い方で説明されます。用語そのものは条文にありませんが、632条が「完成」を明示し、644条が「善良な管理者の注意をもって処理する」と書いているという条文上の差が、この区別の根拠です。
準委任が置かれている理由
643条の定義には、実は狭い部分があります。「法律行為をすることを相手方に委託し」と書かれているため、文言どおりに読むと、法律行為でない事務の委託は委任にあたりません。売買契約を代わりに締結してもらうのは法律行為ですが、物件を調査してもらう、書類を作成してもらうといった事務は法律行為ではありません。
そこで656条が置かれています。「この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する」。これが準委任です。準委任には委任の節の規定(643条から655条まで)がそのまま準用されるので、善管注意義務も、原則無償も、いつでも解除できることも、終了事由も、すべて同じように働きます。
実務で「委任」と呼ばれているものの多くは、法的には準委任です。後で見るとおり、宅建業者の媒介契約もここに入ります。試験対策として押さえるべきは、準委任だからといって扱いが変わるわけではない、という点です。656条は適用範囲を広げる規定であって、内容を変える規定ではありません。
13の典型契約のなかでの位置
民法第3編第2章は13の典型契約を定めています。そのなかで、委任と請負は「他人に何かをしてもらう」類型に属します。同じ系統に、雇用(623条)と寄託(657条)があります。
区別の軸を確認しておきます。雇用は労働に従事すること自体を目的とし、使用者の指揮命令に服します。請負は仕事の完成を目的とし、請負人は独立して仕事を進めます。委任は事務の処理を目的とし、受任者は裁量をもって処理します。寄託は物の保管を目的とします。
物を貸し借りする類型(消費貸借587条、使用貸借593条、賃貸借601条)とは、そもそも目的が違います。ただし、無償が原則か有償が原則かという軸で見ると、委任と使用貸借が同じ側に並びます。使用貸借の詳細は使用貸借、賃貸借は賃貸借契約の基本で扱っています。
なお、寄託には665条が置かれており、646条から648条まで、649条、650条1項・2項が準用されます。事務管理にも701条により645条から647条までが準用されます。委任の規定は、他の類型の受け皿としても使われているということです。これは委任が「他人のために事務を処理する」という関係の基本形だからです。
分岐点から何が導けるか
先に見取り図を示します。以下の節で扱う違いは、すべて632条と643条の差から出てきます。
報酬は、結果に対して払うのか、処理に対して払うのか。義務は、結果を出すことか、注意を尽くすことか。解除は、いつまでできるのか。終了事由は、なぜ委任にだけ列挙があるのか。担保責任は、なぜ請負にだけあるのか。
逆向きに使うこともできます。選択肢を読んで違和感があったら、「この契約は結果を約束しているのか、処理を約束しているのか」に戻る。そこから条文の姿を再構成できます。
報酬——「何に対して払うか」が違う
報酬は、この二つの類型で最も差が大きい部分です。しかもその差は、定義から直接出てきます。
請負の報酬は仕事の完成に対する対価
632条は、注文者が「その仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約する」と書いています。報酬の支払が定義の中に組み込まれているということです。したがって、請負に無償の請負はありません。報酬の約束がなければ、そもそも請負契約が成立していません。
支払時期は引渡しと同時
633条は「報酬は、仕事の目的物の引渡しと同時に、支払わなければならない。ただし、物の引渡しを要しないときは、第六百二十四条第一項の規定を準用する」と定めます。
前段が原則です。建物の建築請負のように引渡しを要する場合、報酬の支払と目的物の引渡しは同時履行の関係に立ちます。注文者は引渡しを受けるまで報酬の支払を拒めますし、請負人は報酬を受け取るまで引渡しを拒めます。同時履行の抗弁権の一般的な仕組みは同時履行の抗弁権で扱っています。
ただし書は、引渡しを要しない仕事についての規定です。624条1項を準用するので、「約した労働を終わった後でなければ、報酬を請求することができない」という後払いになります。
ここで注意しておきたいのは、仕事の完成と目的物の引渡しは別の時点だという点です。633条が同時履行としているのは引渡しと支払であって、完成と支払ではありません。完成しても引き渡していなければ、報酬の支払期限は来ていません。
委任は原則無償
648条1項は「受任者は、特約がなければ、委任者に対して報酬を請求することができない」と定めます。原則は無償で、有償にするには特約が要ります。
これは請負と正反対です。請負は定義に報酬が入っているので必ず有償、委任は特約がなければ無償。この非対称は、委任という制度が歴史的に「信頼に基づいて他人の事務を無償で引き受ける」関係を出発点にしていることに由来します。
もっとも、実際の取引で無償の委任はまれです。理由は民法の外にあります。商法512条が「商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、相当な報酬を請求することができる」と定めているため、商人が営業として引き受ける事務については、特約がなくても報酬請求権が発生します。宅建業者が媒介を引き受ける場面はここに入ります。
試験で問われるのは民法のルールなので、「委任は原則無償」を答えとして持っておきます。「委任契約は有償契約である」という選択肢は誤りです。
有償委任の原則型は後払い・履行割合型
有償の特約をした場合、いつ請求できるのか。648条2項は「受任者は、報酬を受けるべき場合には、委任事務を履行した後でなければ、これを請求することができない。ただし、期間によって報酬を定めたときは、第六百二十四条第二項の規定を準用する」と定めます。
原則は後払いです。期間で報酬を定めたときは624条2項を準用するので、その期間が経過した後に請求できます。月額いくらという定め方をした場合、その月が終わってから請求する、という形です。
この型は、事務の処理そのものに対して報酬が発生する構成なので、履行割合型と呼ばれます。条文上の名称ではありませんが、次に述べる648条の2との対比で広く使われています。
成果完成型の委任
一方で、委任のなかにも成果に対して報酬を払う約束をすることがあります。648条の2第1項は「委任事務の履行により得られる成果に対して報酬を支払うことを約した場合において、その成果が引渡しを要するときは、報酬は、その成果の引渡しと同時に、支払わなければならない」と定めます。
引渡しと同時履行という結論は、請負の633条と同じです。同条2項はさらに、634条(後述する割合的報酬の規定)を準用しています。
つまり、成果完成型の委任は、報酬に関するかぎり請負とほぼ同じ処理になります。ここで大事な確認をしておきます。成果に対して報酬を払う約束をしても、その契約が請負になるわけではありません。請負かどうかを決めるのは、仕事の完成を債務の内容としているかどうかであって、報酬の定め方ではありません。成果完成型の委任では、成果が出なくても債務不履行にはなりません。報酬が発生しないだけです。
中途で終わったときの報酬
仕事が途中で終わったらどうなるか。ここに、二つの類型でよく似た形の規定が置かれています。
請負については634条です。「次に掲げる場合において、請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなす。この場合において、請負人は、注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求することができる」。適用場面は、1号が「注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなったとき」、2号が「請負が仕事の完成前に解除されたとき」です。
要件は二つあります。可分な部分の給付であることと、それによって注文者が利益を受けること。この二つを満たす部分について「仕事の完成とみなす」という構成を取っているのが、この条文の特徴です。完成していないのに完成とみなすことで、632条の枠組みを崩さずに割合的な報酬を認めています。
委任については648条3項です。「受任者は、次に掲げる場合には、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる」。1号が「委任者の責めに帰することができない事由によって委任事務の履行をすることができなくなったとき」、2号が「委任が履行の中途で終了したとき」です。
二つの割合的報酬規定が同じ形をしている理由
634条と648条3項を並べると、構造がほぼ同じであることが分かります。どちらも、委任者・注文者に帰責事由がない場合の履行不能と、中途終了・中途解除の二場面を拾っています。
しかし、条件が一つだけ違います。634条には「可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるとき」という絞りがあり、648条3項にはありません。
この差も分岐点から出てきます。請負は結果に対して報酬を払う契約なので、結果の一部でも注文者の手に残っていなければ報酬の根拠がありません。だから「利益を受けるとき」という条件が要ります。委任は処理に対して報酬を払う契約なので、処理した分だけ報酬が発生するのは自然です。だから条件が要りません。
なお、注文者や委任者に帰責事由がある場合は、これらの条文の出番ではありません。危険負担の536条2項により、債権者に帰責事由がある履行不能では債権者は反対給付の履行を拒めないので、報酬の全額を請求できることになります。危険負担の仕組みは危険負担で扱っています。
義務の中身——善管注意義務と仕事完成義務
644条の善管注意義務は無償でも負う
644条は「受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う」と定めます。
ここが試験で最も狙われる部分です。この義務は、報酬の有無にかかわらず負います。条文に「報酬を受ける場合には」といった限定がありません。無償で引き受けた受任者も、有償で引き受けた受任者と同じ善管注意義務を負います。
「無償の委任では受任者の注意義務は自己の財産に対するのと同一の注意で足りる」という趣旨の選択肢は誤りです。この形は繰り返し出題されます。
「無償だから軽い」とはならない、その理由
なぜ無償でも重い義務なのか。比較すると分かります。
民法には、無償だからという理由で注意義務を軽くしている類型があります。無償寄託の受寄者は「自己の財産に対するのと同一の注意」をもって保管すれば足ります(659条)。しかし委任にはこの種の規定が置かれていません。
理由は、委任が他人の事務を裁量をもって処理する関係だからです。受任者は委任者の財産や権利を左右する立場に立ちます。報酬を受け取っていないからといって、その裁量の行使を粗雑にしてよいことにはなりません。裁量が大きいことと責任が重いことは対応しています。
請負人が負うのは完成義務
請負人の側には、644条にあたる規定がありません。請負人が負っているのは仕事を完成する義務であり、632条がそれを定めています。
もっとも、これは請負人が注意を払わなくてよいという意味ではありません。完成義務のほうが重いと考えるほうが正確です。注意を尽くしても完成しなければ債務不履行になるからです。善管注意義務は「尽くすべき注意を尽くしたか」を問う義務であるのに対し、完成義務は「できたか」を問う義務です。
この差は履行不能の場面で現れます。請負人が最善を尽くしても建物が完成しなければ、原則として債務は履行されていません。受任者が最善を尽くして事務を処理したなら、望んだ結果が出なくても債務は履行されています。415条の免責構成との関係は債務不履行で詳しく扱っています。
委任に固有の付随義務
委任には、善管注意義務のほかに具体的な義務が並んでいます。これらは他人の財産を扱う関係を前提とした規定です。
報告義務(645条)。「受任者は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない」。処理中は請求があったときに、終了後は請求がなくても遅滞なく、という二段構えです。
受取物の引渡義務(646条)。1項は、委任事務を処理するにあたって受け取った金銭その他の物と、その収取した果実を委任者に引き渡さなければならないと定めます。2項は、委任者のために自己の名で取得した権利を委任者に移転しなければならないと定めます。
金銭消費の責任(647条)。委任者に引き渡すべき金額または委任者の利益のために用いるべき金額を自己のために消費したときは、消費した日以後の利息を支払わなければならず、なお損害があるときは賠償の責任を負います。利息の起算点が「消費した日以後」である点が、通常の遅延利息と異なります。
委任者の側の義務
受任者を保護する規定も置かれています。
費用の前払(649条)。委任事務を処理するについて費用を要するときは、委任者は受任者の請求により前払をしなければなりません。受任者が立て替える義務はありません。
費用の償還等(650条)。1項は、必要と認められる費用を支出したときは、その費用と支出の日以後の利息の償還を請求できると定めます。2項は、必要と認められる債務を負担したときは、自己に代わって弁済することを請求でき、その債務が弁済期にないときは相当の担保を供させることができると定めます。3項は、「委任事務を処理するため自己に過失なく損害を受けたときは、委任者に対し、その賠償を請求することができる」と定めます。
650条3項には注意が要ります。委任者の帰責事由が要件になっていません。受任者に過失がなければ、委任者に落ち度がなくても賠償を請求できます。無償の委任でも同じです。無償で引き受けた受任者に損害だけを負わせないための規定です。
請負にはこれらの規定がない
以上の645条から650条までにあたる規定は、請負には置かれていません。
これも分岐点から説明できます。請負人は独立して仕事を完成させる立場であり、その過程は原則として請負人の裁量と計算に委ねられています。費用は報酬に織り込まれている前提なので、別に前払や償還を求める仕組みは要りません。処理状況の報告義務がないのも、注文者が求めているのが結果だからです。
委任は過程を委ねる契約なので過程に関する規定が要り、請負は結果を求める契約なので結果に関する規定が要る。条文の配置そのものが、この違いを写しています。
解除——「いつでも」の中身が違う
解除は、委任と請負の両方に特別な規定があります。どちらも「いつでも」という語を使いますが、内容はかなり違います。
委任は各当事者がいつでも解除できる
651条1項は「委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる」と定めます。
読み落としやすいのは「各当事者が」という部分です。委任者からも受任者からも解除できます。理由も要りません。相手方の債務不履行も要りません。
なぜこれが認められるのか。委任が当事者間の信頼関係を基礎とする契約だからです。信頼が失われた状態で事務の処理を続けさせることにも、続けることにも意味がありません。だから理由を問わずに関係を終わらせる道が開かれています。
損害賠償が必要になる二つの場合
ただし、無条件ではありません。651条2項は「前項の規定により委任の解除をした者は、次に掲げる場合には、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない」と定め、二つの場合を挙げます。
1号は「相手方に不利な時期に委任を解除したとき」。
2号は「委任者が受任者の利益(専ら報酬を得ることによるものを除く。)をも目的とする委任を解除したとき」。
重要な構造を確認します。損害賠償が必要になるのは、解除が無効になるということではありません。解除自体は有効に成立し、そのうえで賠償義務が生じるだけです。「不利な時期の解除は認められない」という選択肢は誤りです。
そして「やむを得ない事由があったとき」は賠償も不要になります。したがって、651条の構造は三段になります。第一に、いつでも解除できる。第二に、二つの場合には損害賠償が要る。第三に、やむを得ない事由があれば賠償も要らない。
「専ら報酬を得ることによるものを除く」の意味
2号の括弧書きは、条文の読み方として押さえておく価値があります。
受任者は報酬をもらえるという利益を持っています。しかしその利益だけをもって「受任者の利益をも目的とする委任」だとしてしまうと、有償委任のすべてが2号に入ってしまい、委任者はほとんど常に賠償義務を負うことになります。
そこで括弧書きが、報酬を得ることだけを内容とする利益を除外しています。2号が想定しているのは、報酬とは別に受任者自身が実質的な利益を得る構造がある場合です。
解除の効力は将来に向かってのみ
652条は「第六百二十条の規定は、委任について準用する」と定めます。620条は賃貸借の規定で、「賃貸借の解除をした場合には、その解除は、将来に向かってのみその効力を生ずる。この場合においては、損害賠償の請求を妨げない」という内容です。
つまり、委任の解除に遡及効はありません。すでに処理された事務が解除によって無効になることはなく、その分の報酬は648条3項により請求できます。継続的な関係を巻き戻すことに意味がないためです。
一般の解除には遡及効があるのが原則なので、ここは例外です。解除の効果の一般論は債務不履行で扱っています。
請負は注文者が完成前に限り解除できる
641条は「請負人が仕事を完成しない間は、注文者は、いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができる」と定めます。
委任の651条と比べると、三つの点で違います。
第一に、解除できるのは注文者だけです。条文の主語が「注文者は」です。請負人の側から641条による解除はできません。仕事を完成させる義務を負っているのは請負人なので、自分の都合で投げ出すことは認められません。
第二に、解除できるのは仕事の完成前に限られます。「請負人が仕事を完成しない間は」という限定があります。完成後は641条による解除はできません。完成してしまえば、あとは引渡しと報酬の支払という決済の問題になるからです。
第三に、損害賠償が常に必要です。条文は「損害を賠償して契約の解除をすることができる」と書いています。委任の651条2項のような場合分けも、やむを得ない事由による免除もありません。
641条の解除が認められる理由
なぜ注文者に自由な解除権が与えられているのか。仕事が完成しても注文者にとって無意味になった場合に、完成まで進めさせて全額を払わせるのは、双方にとって無駄だからです。
その代わり、請負人が受けるはずだった利益を含めて賠償することになります。「損害を賠償して」は解除の条件であり、賠償と引き換えに自由を買う構造だと理解すると、条文の形が納得できます。
なお、解除された場合の報酬については、前述の634条2号が働きます。既にした仕事のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分は完成とみなされ、割合に応じた報酬を請求できます。641条の損害賠償と634条の割合的報酬は、別の根拠にもとづく別の請求です。
注文者の破産による解除
642条は、注文者が破産手続開始の決定を受けた場合の規定です。1項本文により、請負人または破産管財人が契約を解除できます。ただし同項ただし書により、請負人による解除については、仕事を完成した後はできません。
2項は、請負人が既にした仕事の報酬とそこに含まれていない費用について破産財団の配当に加入できることを定めます。3項は、解除によって生じた損害の賠償を請求できるのは、破産管財人が解除した場合における請負人に限るとしています。請負人が自ら解除した場合には賠償を請求できません。
委任にも破産は出てきますが、そちらは解除ではなく終了事由です(653条2号)。同じ破産でも扱いが違う点は、次の節で見ます。
債務不履行を理由とする解除は両方に及ぶ
ここまで見た651条と641条は、いずれも債務不履行を要件としない特別な解除権です。これとは別に、債務不履行を理由とする解除は、委任にも請負にも一般規定として及びます。
541条の催告解除、542条の無催告解除がそれです。請負人が期限までに仕事を完成させないなら催告のうえ解除できますし、受任者が善管注意義務に違反して事務を処理しないなら同様です。要件と効果は債務不履行で扱っています。
終了事由——委任にだけ列挙がある
653条の三つの事由
653条は「委任は、次に掲げる事由によって終了する」として三つを挙げます。
1号 委任者又は受任者の死亡
2号 委任者又は受任者が破産手続開始の決定を受けたこと
3号 受任者が後見開始の審判を受けたこと
読み方の要点は、1号と2号が「委任者又は受任者」と双方を対象にしているのに対し、3号だけが「受任者が」と一方に限られていることです。ここが出題される部分です。
なぜ後見開始だけ非対称なのか
死亡と破産が双方に及ぶのは、委任が人的信頼関係にもとづく契約だからです。誰に任せるか、誰から任されるかが本質的な意味を持つので、当事者が入れ替わることを前提にできません。破産についても、財産管理の権限が破産管財人に移る以上、従前の関係を続ける基礎が失われます。
後見開始が受任者側にだけ置かれているのは、事務を処理する能力の問題だからです。受任者が後見開始の審判を受ければ、他人の事務を裁量をもって処理させることはできません。しかし委任者が後見開始の審判を受けても、事務を処理するのは受任者なので、委任を続ける基礎そのものは失われません。むしろ、判断能力が低下したときこそ他人に事務を任せる必要が生じます。
この理屈を持っておくと、「委任者が後見開始の審判を受けたときは委任は終了する」という選択肢を、暗記ではなく理由から切れます。
終了の対抗要件と急迫の処分
653条で委任が終了しても、それだけでは相手方に主張できません。655条は「委任の終了事由は、これを相手方に通知したとき、又は相手方がこれを知っていたときでなければ、これをもってその相手方に対抗することができない」と定めます。
たとえば委任者が破産したことを受任者が知らずに事務を処理し続けた場合、委任者側は「もう終了していた」と主張できません。相手方の信頼を保護する規定です。
654条は、終了後の処理を定めます。「委任が終了した場合において、急迫の事情があるときは、受任者又はその相続人若しくは法定代理人は、委任者又はその相続人若しくは法定代理人が委任事務を処理することができるに至るまで、必要な処分をしなければならない」。義務として定められている点に注意します。終了したから何もしなくてよい、とはなりません。
請負には終了事由の規定がない
一方、請負には653条にあたる規定がありません。これは条文の欠落ではなく、必要がないということです。
請負人が約束しているのは仕事の完成という結果です。その結果が実現しさえすれば、誰が作業したかは原則として問題になりません。だから当事者の死亡や後見開始で自動的に終了させる理由がありません。請負人が死亡した場合、請負契約上の地位は相続の対象になり得ます。
ただし、これは絶対ではありません。芸術作品の制作のように、その人でなければ完成させられない仕事であれば、履行不能として処理されることになります。判断の基準は、仕事の性質が請負人個人と切り離せるかどうかです。
破産についても扱いが違います。委任では破産が終了事由(653条2号)ですが、請負では注文者の破産が解除権の発生事由(642条)にとどまります。しかも解除するかどうかは請負人と破産管財人の判断に委ねられています。委任は自動的に終わり、請負は選べる。この差も、人的信頼を基礎とするかどうかから出ています。
担保責任——改正で請負固有の規定はほぼ消えた
2020年施行の改正で何が起きたか
かつての民法には、請負人の担保責任に関する規定が旧634条から旧640条まで置かれていました。瑕疵修補請求、修補に代わる損害賠償、解除の制限、期間制限などを請負に固有の形で定めたものです。
2020年4月1日施行の改正で、この体系は解体されました。瑕疵という概念そのものが契約不適合に置き換えられ、請負固有の担保責任の規定は削除されて、売買の契約不適合責任の規定を準用する形に統一されました。
改正後の条文配置を確認します。634条は割合的報酬の規定に置き換わりました。635条は「削除」とだけ書かれた状態で条番号が残っています。636条は担保責任の制限、637条は期間制限です。638条から640条までは条文そのものが置かれていません。
したがって、「請負人の担保責任については民法638条が規定している」といった記述は、現在の条文には対応しません。古い教材を参照するときは注意が必要です。
559条による準用という構造
では現在、請負の目的物が契約に適合しない場合はどう処理されるのか。559条が働きます。
「この節の規定は、売買以外の有償契約について準用する。ただし、その有償契約の性質がこれを許さないときは、この限りでない」。「この節」とは売買の節です。請負は有償契約なので、売買の規定が準用されます。
したがって、注文者は売買の買主と同じ四つの権利を持ちます。追完請求(562条)、報酬減額請求(563条の代金減額請求の準用)、損害賠償請求(564条を介した415条)、解除(564条を介した541条・542条)です。
追完請求の内容は、562条1項により目的物の修補、代替物の引渡し、不足分の引渡しです。請負の場面では通常は修補になります。同項ただし書により、請負人は注文者に不相当な負担を課するものでないときは、注文者が請求した方法と異なる方法による追完ができます。
減額請求は、563条1項により相当の期間を定めて追完の催告をし、その期間内に追完がないときに認められます。同条2項の四つの場合には催告なしに直ちに請求できます。
これら四つの権利の要件と相互関係は契約不適合責任で詳しく扱っています。この記事では、請負固有の修正が二つあることを押さえます。636条と637条です。
636条の担保責任の制限
636条は「請負人が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない仕事の目的物を注文者に引き渡したとき(その引渡しを要しない場合にあっては、仕事が終了した時に仕事の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないとき)は、注文者は、注文者の供した材料の性質又は注文者の与えた指図によって生じた不適合を理由として、履行の追完の請求、報酬の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない」と定めます。
ただし書があります。「請負人がその材料又は指図が不適当であることを知りながら告げなかったときは、この限りでない」。
これは請負に固有の事情に対応した規定です。請負では注文者が材料を提供したり、施工方法を指図したりすることがあります。その結果として生じた不適合の責任を請負人に負わせるのは筋が通りません。だから四つの権利がすべて封じられます。
ただし、請負人が専門家として不適当だと知っていながら黙っていたなら、責任を免れません。知りながら告げなかった場合に限られる点が要件です。「知らなかったことに過失があった場合」は含まれません。
637条の期間制限は「知った時から1年以内の通知」
637条1項は「前条本文に規定する場合において、注文者がその不適合を知った時から一年以内にその旨を請負人に通知しないときは、注文者は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、報酬の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない」と定めます。
押さえるべき点が三つあります。
第一に、起算点は「知った時」です。引渡しの時ではありません。
第二に、期間内にすべきことは「通知」です。訴えを提起する必要も、具体的な請求をする必要もありません。不適合がある旨を知らせれば、権利は保存されます。
第三に、この規定は種類または品質に関する不適合についてのものです。数量に関する不適合や権利に関する不適合には適用されません。
2項は例外です。「前項の規定は、仕事の目的物を注文者に引き渡した時(その引渡しを要しない場合にあっては、仕事が終了した時)において、請負人が同項の不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、適用しない」。請負人が悪意または重過失であれば、1年の制限にかかりません。
売買の566条との対比
売買にも同じ形の規定があります。566条は、買主が不適合を知った時から1年以内に売主に通知しないときは権利を失うと定め、ただし書で売主が引渡しの時に悪意または重過失であった場合を除いています。
構造は請負の637条と同じです。起算点も「知った時」、必要な行為も「通知」、悪意重過失の例外も同じ。売買と請負で異なる期間を覚える必要はありません。
なお、この1年の通知期間とは別に、債権の消滅時効(166条1項)も働きます。通知さえすれば無期限に請求できるわけではありません。時効の一般論は時効で扱っています。
委任には担保責任がない
委任には、これに対応する規定がまったくありません。理由は分岐点から明らかです。受任者は成果物の完成を約束していないので、成果物の契約適合性を問う余地がありません。
受任者の処理が不適切だった場合は、担保責任ではなく善管注意義務違反(644条違反)の問題になり、債務不履行として415条で処理されます。責任追及の根拠となる条文が違うということです。
この違いは実務的にも大きな意味を持ちます。担保責任なら請負人の帰責事由がなくても追完請求や減額請求ができますが、善管注意義務違反による損害賠償には415条ただし書の免責が働きます。受任者は、注意を尽くしていれば結果が悪くても責任を負いません。
住宅の建築請負については、民法の担保責任のうえに特別法が重なります。住宅の品質確保の促進等に関する法律による10年間の瑕疵担保責任と、特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律による資力確保措置です。住宅瑕疵担保履行法で扱っています。
復委任と下請——他人を使えるか
644条の2は許諾かやむを得ない事由を要求する
受任者が事務を他人に任せられるか。644条の2第1項は「受任者は、委任者の許諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、復受任者を選任することができない」と定めます。
原則は禁止で、二つの場合にだけ認められます。委任者の許諾があるか、やむを得ない事由があるか。ここでも人的信頼関係が理由です。委任者はその受任者を信頼して任せたのであって、誰か別の人に処理されることを承諾したわけではありません。
2項は、代理権を付与する委任において受任者が代理権を有する復受任者を選任したときの効果を定めます。「復受任者は、委任者に対して、その権限の範囲内において、受任者と同一の権利を有し、義務を負う」。復受任者が委任者に対して直接に権利義務を持つという構造です。
これは代理における復代理人の地位と同じ発想です。復代理の仕組みは復代理と自己契約、代理制度の全体像は代理制度で扱っています。
請負には制限規定がない
請負については、下請に出すことを制限する規定が民法に置かれていません。したがって、請負人は原則として自由に下請に出せます。
理由はやはり分岐点です。請負で約束されているのは仕事の完成という結果であり、誰が作業するかは原則として問題になりません。結果さえ契約に適合していれば、注文者の利益は満たされます。
もっとも、これは民法上の原則です。契約で下請を禁止する特約を置くことはできますし、その仕事の性質上その請負人でなければならない場合には、下請に出すこと自体が債務不履行になり得ます。また建設業法には一括下請負の禁止という別系統の規制があります。
「委任は原則禁止、請負は原則自由」という対比で押さえます。
宅建業の場面での現れ方
ここまでは民法の話でした。宅建試験の記事として、宅建業の場面にどう現れるかを確認します。
媒介契約は準委任である
宅建業者が依頼者から売買の媒介を依頼される契約は、法的性質としては準委任です。
理由を条文で追います。媒介とは、宅建業法2条2号にいう「売買、交換若しくは貸借の代理若しくは媒介をする行為」のうち、契約の成立に向けて尽力する事実行為を指します。業者は依頼者を代理して契約を締結するわけではなく、相手方を探索し、条件を調整し、契約成立に向けて働きかけます。これは法律行為ではないので、643条の委任そのものにはあたりません。そこで656条により、委任の規定が準用される準委任になります。
代理を依頼された場合は、業者が依頼者に代わって法律行為を行うので、委任(643条)そのものになります。媒介と代理で法的性質が変わる点は、条文の構造から出てきます。
だから成功報酬が原則になる
媒介が準委任だとすると、報酬はどう扱われるのか。648条1項により原則無償ですが、前述のとおり商法512条により、商人である宅建業者は営業の範囲内の行為について相当な報酬を請求できます。
そして実際の媒介契約では、報酬は契約が成立したときに発生する定めになるのが通常です。これは648条の2の成果完成型に近い構成です。宅建業法34条の2第1項7号が、媒介契約書面の記載事項として「報酬に関する事項」を挙げているのも、この定めを明確にさせるためです。
ここで確認しておきたいのは、成功報酬だからといって媒介契約が請負になるわけではないという点です。業者は契約を成立させる義務を負っていません。負っているのは、善管注意義務をもって成立に向けて尽力する義務です。売れなかった場合、業者は債務不履行にはなりません。報酬が発生しないだけです。この区別は、成果完成型の委任について述べたことと同じです。報酬額の上限規制は報酬額の制限、実際の計算は仲介手数料の計算で扱っています。
だから業者は善管注意義務を負う
準委任である以上、644条が準用され、宅建業者は善良な管理者の注意をもって媒介事務を処理する義務を負います。
これが、宅建業法上の各種の義務の民事上の裏づけになっています。物件の調査を怠って誤った情報を伝えた、重要な事項を告げなかったという場合、宅建業法上の監督処分とは別に、善管注意義務違反として損害賠償責任を負い得ます。業者の調査・説明に関する義務は宅建業者の説明義務、調査の実務は物件調査の進め方で扱っています。
645条の報告義務も準用されます。宅建業法34条の2第8項が申込みがあったときの報告を、同条9項が専任媒介で2週間に1回以上、専属専任媒介で1週間に1回以上の業務処理状況の報告を義務づけているのは、民法の報告義務を宅建業法が具体化し、頻度まで法定したものと位置づけられます。
宅建業法34条の2が民法をどう修正しているか
媒介契約には宅建業法の特別な規制がかかり、民法の原則がそのまま適用されない部分があります。
有効期間。34条の2第3項は、専任媒介契約の有効期間は3月を超えることができず、これより長い期間を定めたときはその期間は3月とすると定めます。4項により、依頼者の申出により更新できますが、更新のときから3月を超えられません。民法の委任には有効期間の制限がないので、これは宅建業法による上乗せです。
報告頻度。前述の8項・9項です。民法645条は「請求があるときは」報告すればよいのに対し、宅建業法は請求がなくても定期的な報告を義務づけています。
指定流通機構への登録。5項が専任媒介契約について登録を義務づけています。民法の委任にはこれにあたる義務がありません。
そして最も重要なのが10項です。「第三項から第六項まで及び前二項の規定に反する特約は、無効とする」。有効期間、更新、指定流通機構への登録、登録を証する書面の引渡し、申込みの報告、業務処理状況の報告について、これらに反する特約は無効になります。
民法の委任の規定は原則として任意規定ですが、宅建業法34条の2のこれらの規定は強行規定です。依頼者に不利な特約を無効にすることで、依頼者を保護しています。3類型それぞれの規律は媒介契約の3類型、書面の記載事項は媒介契約書の記載事項で扱っています。
651条の任意解除と有効期間3月の関係
ここで一つ、整理が必要な点があります。委任は651条1項により各当事者がいつでも解除できるはずですが、専任媒介契約には3月という有効期間があります。矛盾するのでしょうか。
矛盾しません。3月の制限は「これを超える期間を定めてはならない」という上限の規制であって、期間中は解除できないという規制ではありません。34条の2第3項が禁じているのは、業者が依頼者を長期間拘束することです。依頼者を守るための規定が、依頼者の解除を封じる方向に働くと読むのは、規定の趣旨と逆になります。
もっとも、期間中に依頼者が解除した場合に、業者がそれまでに要した費用の償還を請求できるかという問題は残ります。これは651条2項の「不利な時期」の解除や650条の費用償還の問題として、契約の定めと事情に即して判断されます。
建物の建築請負が絡む場面
不動産取引では、請負も自然に登場します。建売住宅は完成した建物の売買ですが、注文住宅は建築請負です。土地を購入して建物を建てる場合、土地の売買契約と建物の建築請負契約という二つの契約が並びます。
この区別は責任の追及先に効きます。売買なら売主に対する契約不適合責任、請負なら請負人に対する責任です。期間制限の起算点はどちらも「知った時から1年以内の通知」で同じですが(566条・637条)、636条の担保責任の制限は請負にしかありません。注文者が材料を供したり指図をしたりする場面は、売買にはないからです。
新築住宅については、さらに住宅の品質確保の促進等に関する法律の10年間の責任が重なります。この法律は売買にも請負にも及びます。中古住宅の場合の扱いは中古住宅と契約不適合、免責特約の限界は契約不適合責任の特約で扱っています。
管理受託契約
賃貸物件の管理を管理会社に委託する契約も、法的性質は準委任です。管理会社は入居者対応や修繕手配といった事務を処理するのであって、特定の結果を約束しているわけではありません。
したがって、善管注意義務、報告義務、受取物の引渡義務がそのまま働きます。管理会社が受け取った家賃をオーナーに引き渡す義務は646条1項に、自己のために消費した場合の利息の支払は647条に、それぞれ根拠があります。管理業務の全体像は不動産管理会社の役割で扱っています。
試験での出題ポイント
有償・無償の入れ替え
最も基本的な出題です。「委任契約は有償契約である」「請負契約は無償でも成立する」という形で、原則が入れ替えられます。
委任は特約がなければ無償(648条1項)、請負は定義に報酬が含まれるので必ず有償(632条)。この対比をそのまま持っておきます。
善管注意義務の軽減
「無償の受任者は自己の財産に対するのと同一の注意をもって委任事務を処理すれば足りる」という選択肢が繰り返し出ます。誤りです。644条に報酬の有無による区別はありません。
無償寄託の659条と混同させる意図の出題なので、「軽くなる規定が置かれているのは寄託であって委任ではない」と対で覚えると弾けます。
解除の要件の入れ替え
四つの型があります。
第一に、主体の入れ替え。「請負人は仕事の完成前であればいつでも損害を賠償して契約を解除できる」は誤りです。641条の主語は注文者です。
第二に、時期の入れ替え。「注文者は仕事の完成後もいつでも解除できる」は誤りです。641条は「仕事を完成しない間は」と限定しています。
第三に、損害賠償の要否の入れ替え。「注文者は損害を賠償することなく解除できる」は誤りです。641条は賠償を条件にしています。逆に「委任の解除には常に損害賠償が必要である」も誤りで、651条2項の二つの場合に限られ、やむを得ない事由があれば不要です。
第四に、委任の解除権者。「委任は委任者からのみ解除できる」は誤りです。651条1項は「各当事者が」と書いています。
終了事由の入れ替え
653条3号を狙った出題が定番です。「委任者が後見開始の審判を受けたときは、委任は終了する」は誤りです。後見開始が終了事由になるのは受任者側だけです。
死亡と破産については双方に及ぶので、「受任者が死亡しても委任は終了しない」「委任者が破産手続開始の決定を受けても委任は終了しない」はいずれも誤りになります。
請負と混ぜる形もあります。「請負人が死亡したときは請負契約は終了する」は、653条が請負に適用されないので誤りです。
637条の1年の起算点
「注文者は、仕事の目的物の引渡しを受けた時から1年以内に不適合を通知しなければならない」という形で、起算点が入れ替えられます。637条1項の起算点は「知った時」です。
「1年以内に請求権を行使しなければならない」「1年以内に訴えを提起しなければならない」という形も誤りです。条文が求めているのは通知です。
634条と648条3項
割合的報酬の規定は、要件の抜き差しで問われます。
634条については、「請負人は仕事を完成できなくなった場合、常に既にした仕事の割合に応じて報酬を請求できる」は誤りです。可分な部分の給付によって注文者が利益を受けることが要件です。
また、1号の「注文者の責めに帰することができない事由によって」という部分も狙われます。注文者に帰責事由がある場合は634条ではなく危険負担(536条2項)の問題になり、報酬全額を請求できます。
復委任と下請
「受任者は、委任者の許諾を得なくても、自由に復受任者を選任できる」は誤りです。644条の2第1項は許諾かやむを得ない事由を要求しています。
逆に「請負人は注文者の承諾を得なければ下請に出すことができない」も、民法上はそのような制限規定がないので誤りになります。
媒介契約の法的性質
権利関係と宅建業法をまたぐ形で問われることがあります。「媒介契約は請負契約であるから、業者は契約を成立させる義務を負う」は誤りです。準委任なので、負っているのは善管注意義務をもって尽力する義務です。
専任媒介契約の3月についても、「3月の期間中は依頼者は媒介契約を解除できない」という形が出ます。34条の2第3項は期間の上限を定めた規定であって、解除を禁じた規定ではありません。宅建業法側の数値は宅建業法の数字まとめで横断的に整理しています。
覚え方・整理の仕方
「完成を約すか、処理を約すか」
この記事の内容を一句にすると、これになります。選択肢を読んで迷ったら、まずここに戻ります。
請負は完成を約する。だから報酬は完成に対して払われ、完成前なら注文者は賠償して抜けられ、完成物が契約に合わなければ責任を負い、誰が作っても構わない。
委任は処理を約する。だから報酬は当然には発生せず、信頼が失われればいつでも抜けられ、成果物の適合性は問われず、他人に任せるには許諾が要る。
七つの違いを七つ覚えるのではなく、一つの分岐点から七つを導く。これが試験本番での再現性を上げます。
報酬は三つの型で持つ
報酬の規律は、有償か無償かの二分法では足りません。三つの型で持ちます。
第一が請負型。632条・633条。完成に対する対価で、引渡しと同時履行。
第二が履行割合型の委任。648条。特約がなければ無償、有償なら後払い。
第三が成果完成型の委任。648条の2。成果に対する対価で、引渡しと同時履行。第一の型と結論が同じ。
そして中途で終わったときが、請負は634条、委任は648条3項。634条だけに「注文者が利益を受けるとき」という絞りがある、と付け加えておきます。
解除は一句で分ける
「委任は双方いつでも、請負は注文者が完成前まで」。
そこに賠償を足します。「委任は不利な時期と利益目的のときだけ、請負は常に」。
さらに免除を足します。「委任にはやむを得ない事由という逃げ道があり、請負にはない」。
三段で持つと、四つの型の出題に対応できます。
653条は「死・破は双方、後見は受任者だけ」
終了事由は三つしかないので、丸暗記でも構いません。ただし3号の非対称だけは理由で持っておきます。
事務を処理するのは受任者だから、能力を失って困るのは受任者側だけ。委任者が判断能力を失っても、事務を処理するのは受任者なので、委任を続ける基礎は失われない。むしろ必要性が増す。
期間制限は売買と同じだと知っておく
637条と566条は同じ形です。「知った時から1年以内に通知」、悪意重過失なら制限なし。
覚える対象を一つに減らせます。「請負の期間制限は売買と同じ」と持っておけば、片方を思い出せばもう片方も出ます。
削除された条文に注意する
旧634条から旧640条までの請負人の担保責任は削除されています。現在は559条により売買の規定が準用され、請負固有の修正は636条と637条だけです。
古い教材や過去問の解説には旧規定を前提にした記述が残っていることがあります。条番号を見たら現行の条文を確認する習慣を持ってください。改正前後の対応関係は民法改正のポイントで扱っています。
理解度チェッククイズ
Q1. 委任契約において、受任者が報酬を受けない場合には、自己の財産に対するのと同一の注意をもって委任事務を処理すれば足りる。(○か×か)
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×:644条は「受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う」と定めており、報酬の有無による区別を置いていません。無償で引き受けた受任者も、有償の受任者と同じ善管注意義務を負います。注意義務が軽減される旨の規定が置かれているのは無償寄託(659条)であって、委任ではありません。委任が他人の事務を裁量をもって処理する関係であり、受任者が委任者の財産や権利を左右する立場に立つことが理由です。なお、委任が原則無償である(648条1項)ことと、注意義務が軽いこととは別の話です。Q2. 請負契約において、注文者は、請負人が仕事を完成した後であっても、損害を賠償すればいつでも契約を解除することができる。(○か×か)
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×:641条は「請負人が仕事を完成しない間は、注文者は、いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができる」と定めており、解除できるのは**仕事の完成前**に限られます。完成後は641条による解除はできません。あわせて確認しておきたいのは、この解除権の主体が注文者に限られること、そして損害賠償が常に必要であることです。委任の651条とは三点で異なります。委任は各当事者がいつでも解除でき、賠償が必要なのは相手方に不利な時期の解除(651条2項1号)と委任者が受任者の利益をも目的とする委任を解除した場合(同項2号)に限られ、やむを得ない事由があれば賠償も不要です。Q3. 委任は、委任者又は受任者の死亡、委任者又は受任者が破産手続開始の決定を受けたこと、及び委任者又は受任者が後見開始の審判を受けたことによって終了する。(○か×か)
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×:653条が定める終了事由は、1号が委任者又は受任者の死亡、2号が委任者又は受任者が破産手続開始の決定を受けたこと、3号が**受任者が**後見開始の審判を受けたことです。3号だけが受任者側に限られており、委任者が後見開始の審判を受けても委任は終了しません。事務を処理するのは受任者なので、委任者の判断能力が低下しても委任を続ける基礎は失われず、むしろ他人に事務を任せる必要が生じるためです。なお、653条により終了しても、655条により終了事由を相手方に通知したとき、または相手方が知っていたときでなければ、これを相手方に対抗できません。Q4. 請負人が引き渡した仕事の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合、注文者は、その目的物の引渡しを受けた時から1年以内に、請負人に対して履行の追完を請求しなければならない。(○か×か)
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×:637条1項の起算点は「引渡しを受けた時」ではなく**不適合を知った時**であり、期間内にすべきことは追完の請求ではなく**その旨の通知**です。知った時から1年以内に通知しないときは、追完請求・報酬減額請求・損害賠償請求・解除のいずれもできなくなります。同条2項により、引渡しの時に請負人が不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この制限は適用されません。売買の566条も同じ構造で、起算点・通知・悪意重過失の例外がそろっています。なお、この1年の通知期間とは別に、債権の消滅時効(166条1項)も働きます。Q5. 請負人が仕事を完成することができなくなった場合、既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、請負人はその利益の割合に応じて報酬を請求することができる。(○か×か)
答えを見る
○:634条の定めです。適用場面は、1号が注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなったとき、2号が請負が仕事の完成前に解除されたときで、この場合に可分な部分を「仕事の完成とみなす」という構成を取っています。要件は、可分な部分の給付であることと、それによって注文者が利益を受けることの二つです。委任の側の対応規定は648条3項で、こちらには「利益を受けるとき」という絞りがありません。請負が結果に対して報酬を払う契約であるのに対し、委任は処理に対して報酬を払う契約だからです。なお、注文者に帰責事由がある場合は634条ではなく536条2項の問題になり、請負人は報酬の全額を請求できます。まとめ
委任と請負を分けている点は一つです。仕事の完成を約するかどうか。請負は「ある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約する」契約(632条)、委任は「法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾する」契約(643条)で、法律行為でない事務の委託は準委任として委任の規定が準用されます(656条)。
報酬は、請負が完成に対する対価で必ず有償、支払時期は目的物の引渡しと同時履行(633条)。委任は特約がなければ無償で(648条1項)、有償の場合は後払いが原則、成果に対して報酬を約したときは引渡しと同時履行になります(648条の2)。中途で終わったときの割合的報酬は、請負が634条、委任が648条3項で、634条だけが「可分な部分の給付によって注文者が利益を受けること」を要件にしています。
義務は、受任者が善管注意義務(644条)を負い、これは無償でも軽くなりません。受任者にはさらに報告義務(645条)、受取物の引渡義務(646条)、消費した金銭の利息支払義務(647条)が課され、委任者側には費用の前払(649条)と償還等(650条)の義務があります。請負人が負うのは完成義務であり、これらの規定は置かれていません。
解除は、委任が各当事者がいつでもでき(651条1項)、相手方に不利な時期の解除と委任者が受任者の利益をも目的とする委任を解除した場合に賠償義務が生じますが、やむを得ない事由があれば不要です(同条2項)。効力は将来に向かってのみ生じます(652条・620条準用)。請負は注文者が仕事の完成前に限り、常に損害を賠償して解除できます(641条)。注文者の破産は請負では解除事由(642条)、委任では終了事由(653条2号)です。
終了事由の列挙があるのは委任だけです。653条の三つのうち、死亡と破産は双方に及び、後見開始は受任者側だけです。終了は通知するか相手方が知っていなければ対抗できず(655条)、急迫の事情があるときは必要な処分をする義務があります(654条)。請負に終了事由の規定がないのは、結果さえ実現すれば誰が作業したかを問わないからです。
担保責任は、2020年施行の改正で請負固有の規定がほぼ削除され、559条により売買の契約不適合責任が準用される形に統一されました。635条は削除、638条から640条は存在しません。請負固有の修正は二つで、636条が注文者の供した材料・指図によって生じた不適合について四つの権利を封じ(請負人が不適当と知りながら告げなかった場合を除く)、637条が期間制限を定めます。637条は「知った時から1年以内の通知」で、売買の566条と同じ構造です。委任には担保責任がなく、処理の不適切は644条違反として415条で処理されます。
復委任は委任者の許諾かやむを得ない事由がなければできず(644条の2第1項)、請負の下請には民法上の制限がありません。
宅建業の場面では、媒介契約が準委任にあたります。だから業者は善管注意義務を負い、契約を成立させる義務は負いません。報酬が成功報酬になるのは成果完成型の構成であって、請負になるからではありません。そのうえで宅建業法34条の2が、専任媒介の有効期間3月(3項)、指定流通機構への登録(5項)、申込みの報告(8項)、業務処理状況の報告(9項)といった上乗せを置き、10項でこれらに反する特約を無効としています。任意規定である民法の委任に対して、宅建業法側が強行規定を重ねている構造です。
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