宅建士の法定講習|似た名前の3講習を分ける
法定講習は宅建士証を持ち続けるための義務で、登録の維持には要りません。登録講習・登録実務講習・法定講習という名前の似た3制度を、目的・対象者・実施主体・期間制限の4軸で条文根拠つきに切り分けます。
目次
この記事は、宅地建物取引士証の交付と更新に必要な法定講習を扱います。合格後の手続き全体の流れは宅建合格後にやること、登録から宅建士証までの制度の細目は宅建士の登録と宅建士証にあります。ここでは講習という一点に絞ります。
先に、この記事の中心にある二つの結論を述べます。
第一に、法定講習は「宅建士証を持ち続けるための義務」であって、「登録を維持するための義務」ではありません。このメディアは、試験合格・資格登録・宅建士証の交付という三つが別の制度であるという枠組みをとっていますが、法定講習が紐づいているのは三番目、宅建士証の側だけです。登録には有効期間がないので、登録だけを維持するつもりなら法定講習を受ける必要はありません。この区別を落とすと、宅建士証が失効したときに登録まで失われたと誤解することになります。
第二に、宅建業法には名前のよく似た講習が三つあります。登録講習、登録実務講習、法定講習。この三つは、目的も、対象者も、実施主体も、期間制限も、すべて違います。にもかかわらず名前が似ているため、試験でも実務でも入れ替えの対象になります。この三つを一枚に並べて切り分けることが、この記事のいちばんの役割です。
以下、法定講習が制度のどこに位置するかを確認し、三つの講習を四つの軸で分け、法定講習が必要になる場面と免除される場面を条文で押さえ、最後に講習の中身が何によって決まるのかまで扱います。
なお本記事は2026年4月1日時点で施行されている条文に基づきます。宅建試験は当該年度の4月1日現在施行の法令から出題されるためです。宅地建物取引業法は令和7年法律第68号が2026年4月1日に施行されていますが本則に変更はなく、施行規則についても2026年4月1日施行の版が基準になります。
法定講習は「宅建士証」に紐づく義務である
まず位置づけを固めます。
三段階のどこに位置するか
宅建士として業務を行うまでには三つの段階があります。試験に合格すること、18条1項の登録を受けること、22条の2の宅建士証の交付を受けること。この三つは別の手続きであり、それぞれ要件が違います。
法定講習が要求されるのは、三番目の段階だけです。22条の2第2項は「宅地建物取引士証の交付を受けようとする者は、登録をしている都道府県知事が国土交通省令の定めるところにより指定する講習で交付の申請前六月以内に行われるものを受講しなければならない」と定めています。主語は宅建士証の交付を受けようとする者であって、登録を受けようとする者ではありません。
登録には有効期間がない
ここを条文で確認しておきます。18条は登録の要件と欠格事由を定めていますが、登録に有効期間を設ける規定を置いていません。
登録が失われるのは、22条が定める消除の場合に限られます。同条は「都道府県知事は、次の各号の一に掲げる場合には、第十八条第一項の登録を消除しなければならない」として、本人からの消除の申請があったとき(1号)、21条の届出があったとき(2号)、届出がなくて該当する事実が判明したとき(3号)、試験の合格の決定を取り消されたとき(4号)の四つを挙げています。
四つのどれにも、期間の満了は含まれていません。登録は、消除されない限り続きます。したがって、登録だけを維持するために定期的に何かをする必要はありません。
期間があるのは宅建士証だけ
これに対し22条の2第3項は「宅地建物取引士証(第五項の規定により交付された宅地建物取引士証を除く。)の有効期間は、五年とする」と定めています。
期間の定めがあるのは宅建士証だけです。そして22条の3が、その有効期間を申請により更新するものとし、更新にあたって法定講習を要求しています。
整理すると、合格には期限がなく、登録にも期間がなく、期間があるのは宅建士証だけ。そして法定講習は、その唯一の期間つきの証を維持するための仕組みです。「期限があるのは持ち物だけ」と覚えておくと、三つの段階が混ざりません。
だから失効しても登録は残る
この構造から重要な帰結が出ます。宅建士証の有効期間が満了し、更新しなかった場合、宅建士証は失効します。しかし登録は消除されません。22条の消除事由に当たらないからです。
したがって、その後あらためて宅建士証が必要になったときは、試験を受け直す必要も登録を取り直す必要もありません。法定講習を受講して交付を申請すれば足ります。失うのは証であって資格登録ではないという点が、この制度のいちばん誤解されやすいところです。
15条の3の努力義務を制度として担保している
なぜ5年ごとに講習を課すのか。趣旨は条文から読み取れます。
15条の3は「宅地建物取引士は、宅地又は建物の取引に係る事務に必要な知識及び能力の維持向上に努めなければならない」と定めています。これは努力義務であり、これ自体には期限も手続きもありません。
不動産取引に関する法令は継続的に改正されます。合格した年の知識のままでは、重要事項説明の項目も、書面の交付方法も、税制の特例も変わっています。そこで、努力義務を努力に委ねきらず、5年という期間を切って講習の受講を交付・更新の条件にするという形で制度化したのが法定講習です。宅建士が負う義務の全体像は宅建業者と宅建士の義務にあります。
名前の似た三つの講習を四つの軸で分ける
ここがこの記事の本体です。宅建業法には講習が三つあり、いずれも「講習」という語を含むため混同されます。
登録講習(16条3項)
16条3項は「第十七条の三から第十七条の五までの規定により国土交通大臣の登録を受けた者(以下『登録講習機関』という。)が国土交通省令で定めるところにより行う講習(以下『登録講習』という。)の課程を修了した者については、国土交通省令で定めるところにより、試験の一部を免除する」と定めています。
目的は試験の一部免除です。施行規則10条の14により、登録講習修了試験に合格した日から3年以内に行われる試験について、施行規則8条1号および5号に掲げる事項、すなわち問46から問50までの5問が免除されます。
対象者に限定があります。受講できるのは宅地建物取引業に従事している人に限られ、48条1項の従業者証明書を持っていることが前提になります。制度の全体像と、受ける価値があるかどうかの判断は5問免除(登録講習)、免除を使わない場合の対策は免除科目5問の攻略法にあります。
登録実務講習(18条1項・施行規則13条の16)
18条1項は、試験に合格した者で「宅地若しくは建物の取引に関し国土交通省令で定める期間以上の実務の経験を有するもの又は国土交通大臣がその実務の経験を有するものと同等以上の能力を有すると認めたもの」が登録を受けることができると定めています。
ここで二点、条文の作りを確認してください。実務経験の期間は、法律本体ではなく省令が定めています。施行規則13条の15が「法第十八条第一項の国土交通省令で定める期間は、二年とする」としており、よく言われる「2年」の出どころはこの規則です。
そして「同等以上の能力を有すると認めた者」の中身も省令にあります。施行規則13条の16は三つを挙げており、その1号が「宅地又は建物の取引に関する実務についての講習であつて……国土交通大臣の登録を受けたもの(以下『登録実務講習』という。)を修了した者」です。ちなみに2号は国、地方公共団体等において宅地建物の取得・処分の業務に従事した期間が通算して2年以上である者で、こちらは講習ではなく経験による経路になります。
目的は登録の要件を満たすことです。実務経験がない人が、それに代わるものとして修了します。修了の効果に期間制限はありません。修了してから何年後に登録を申請しても構いません。講習の内容と流れは宅建士の登録実務講習にあります。
法定講習(22条の2第2項)
そして本記事の主題である法定講習です。22条の2第2項が、宅建士証の交付を受けようとする者に対し、登録をしている都道府県知事が指定する講習で、交付の申請前6か月以内に行われるものの受講を求めています。
目的は宅建士証の交付・更新を受けることです。なお、条文には「法定講習」という語そのものは出てきません。22条の2第2項の講習を実務上こう呼んでいるだけで、条文上の名称ではない点も押さえておくとよいでしょう。
軸1 目的が違う
三つを目的で並べると、登録講習は試験のため、登録実務講習は登録のため、法定講習は宅建士証のためです。
三段階のどこに効くかがそれぞれ違う、と言い換えられます。試験合格・登録・宅建士証という三段階に、講習が一つずつ対応している形です。この対応を作っておくと、どの講習の話をしているかを見失いません。
軸2 対象者が違う
登録講習は宅地建物取引業に従事している人に限られます。従業者証明書が前提になるので、業界外の受験者は受けられません。
登録実務講習には従事要件がありません。実務経験が2年に満たない合格者が対象で、業界外から合格した人はここを通ることになります。未経験からの取得を考える場合の順序は未経験で不動産業界に転職で扱っています。
法定講習は、宅建士証の交付または更新を受けようとする者が対象です。すでに登録を受けている人が前提になります。
軸3 実施主体が違う
登録講習は国土交通大臣の登録を受けた登録講習機関が実施します(16条3項、17条の3)。
登録実務講習も国土交通大臣の登録を受けた機関が実施します(施行規則13条の16第1号)。
法定講習は登録をしている都道府県知事が指定する講習です(22条の2第2項)。施行規則14条の17により、都道府県知事が実施するものか、一定の要件を満たす一般社団法人・一般財団法人が実施するものでなければなりません。
大臣か知事かという違いがあります。試験と登録に関わる二つは大臣の登録、宅建士証に関わる法定講習は知事の指定。証を出すのが知事なので、その前提となる講習も知事が指定するという対応です。
軸4 期間制限が違う
ここが最も出題されます。三つとも期間が絡みますが、何からの期間かがすべて違います。
登録講習は、登録講習修了試験に合格した日から3年以内に行われる試験について免除が及びます(施行規則10条の14)。起算点は修了証の交付日でも受講日でもなく、修了試験の合格日です。
登録実務講習には、期間制限がありません。修了すれば、いつ登録を申請してもその要件を満たします。
法定講習は、交付の申請前6か月以内に行われたものでなければなりません(22条の2第2項)。「受講から6か月以内に申請する」という形ではなく、「申請の時点から遡って6か月以内に行われた講習であること」という形で書かれています。
3年・なし・6か月。この三つを並べて持ってください。
三つを一文ずつで言い分ける
まとめます。登録講習は、業界で働いている人が試験の5問を免除してもらうために、試験の前に受けるもの。登録実務講習は、実務経験のない合格者が登録を受けるために、登録の前に受けるもの。法定講習は、宅建士証の交付や更新を受けるために、申請の直前6か月以内に受けるもの。
「試験の前・登録の前・申請の直前」という時間軸で並べると、順番も思い出せます。
法定講習が必要になる場面と、免除される場面
条文の構造を丁寧に読みます。
22条の2第2項の本文とただし書
条文はこうなっています。「宅地建物取引士証の交付を受けようとする者は、登録をしている都道府県知事が国土交通省令の定めるところにより指定する講習で交付の申請前六月以内に行われるものを受講しなければならない。ただし、試験に合格した日から一年以内に宅地建物取引士証の交付を受けようとする者又は第五項に規定する宅地建物取引士証の交付を受けようとする者については、この限りでない。」
本文が原則、ただし書が例外です。そしてただし書には免除が二つ並んでいます。一つ目が合格から1年以内の場合、二つ目が5項に規定する宅建士証、すなわち登録の移転に伴って交付される宅建士証の場合です。
「交付の申請前6か月以内に行われるもの」の読み方
本文の期間制限は、講習の側にかかっています。申請の時点を基準に、そこから遡って6か月以内に行われた講習でなければならないという書き方です。
したがって、講習を受けてから交付の申請までに6か月以上あいてしまうと、その講習では要件を満たしません。受講が早すぎても駄目だということになります。更新の場面では、有効期間の満了日に間に合わせつつ、申請から遡って6か月以内に収まる時期に受講する必要があります。
免除その1 合格から1年以内
一つ目の免除は、試験に合格した日から1年以内に宅建士証の交付を受けようとする場合です。合格して間もなければ知識が新しいという判断によります。
起算点は「試験に合格した日」です。登録を受けた日ではありません。ここを取り違えると計算が狂います。合格から2年後に登録した人は、登録の直後に宅建士証を申請しても法定講習が必要です。「登録してすぐなら講習は要らない」という理解は誤りで、合格からの経過期間だけで判定されます。
この判定が実際にどこで行われるかというと、申請書の記載事項です。施行規則14条の10第1項は、宅建士証交付申請書の記載事項として、申請者の氏名・生年月日・住所(1号)、登録番号(2号)、宅建業者の業務に従事している場合の商号等(3号)に加えて、「試験に合格した後一年を経過しているか否かの別」(4号)を挙げています。申請書の様式そのものに、免除に当たるかどうかを申告する欄が設けられているわけです。
免除その2 登録の移転に伴う交付
二つ目の免除は見落とされがちです。22条の2第4項は、宅建士証が交付された後に19条の2の登録の移転があったときは、その宅建士証は効力を失うと定めています。そして5項が、登録の移転の申請とともに宅建士証の交付の申請があったときは、移転後の知事が新しい宅建士証を交付しなければならないとしています。
この5項による交付については、2項ただし書により法定講習が不要です。移転は勤務地の都道府県が変わっただけであって、知識が古くなったわけではないからです。
免除と引き換えに有効期間も引き継ぐ
ここに条文の対応関係があります。5項は、移転後に交付される宅建士証の有効期間を「前項の宅地建物取引士証の有効期間が経過するまでの期間」と定めています。従前の宅建士証の残存期間を引き継ぐ、ということです。
そして22条の3第3項の括弧書きが「(第五項の規定により交付された宅地建物取引士証を除く。)」として、5項の宅建士証を有効期間5年の対象から外しています。
つまり、移転に伴う交付では法定講習が免除される代わりに、有効期間もリセットされません。講習を受けていないのだから期間も更新されない、という筋の通った組み立てになっています。「登録の移転をすると宅建士証の有効期間が新たに5年になる」という肢は、この対応関係を崩したもので誤りです。登録の移転そのものは宅建士の登録と宅建士証で扱っています。
更新のときは、免除がない
交付と更新は条文が分かれています。ここが最も精密に読むべき部分です。
22条の3の構造
22条の3第1項は「宅地建物取引士証の有効期間は、申請により更新する」と定めています。自動更新ではなく、申請が必要です。
そして2項がこう定めています。「前条第二項本文の規定は宅地建物取引士証の有効期間の更新を受けようとする者について、同条第三項の規定は更新後の宅地建物取引士証の有効期間について準用する。」
準用されるのは「本文」だけである
この一語が決定的です。準用の対象は22条の2第2項の「本文」であって、ただし書ではありません。
したがって、ただし書に置かれた二つの免除、すなわち合格から1年以内の場合と登録の移転に伴う交付の場合は、更新の場面には準用されません。結論として、更新のときは例外なく法定講習が必要です。
条文の「本文」という二文字を読み飛ばすと、「更新でも合格から1年以内なら免除されるのではないか」という誤読が生じます。そもそも更新は最初の交付から5年後の話なので、合格から1年以内ということは通常あり得ませんが、条文の構造として免除が及ばないことを押さえてください。
同項後段により、22条の2第3項も準用されるので、更新後の宅建士証の有効期間も5年になります。
更新の申請は「新たな交付の申請」の形で行う
手続きの形も条文が定めています。施行規則14条の16第1項は「宅地建物取引士証の有効期間の更新の申請は、新たな宅地建物取引士証の交付を申請することにより行うものとする」としています。
そして同条3項が「第一項の新たな宅地建物取引士証の交付は、当該宅地建物取引士が現に有する宅地建物取引士証と引換えに行うものとする」と定めています。古い証を出して新しい証を受け取る、という形です。
交付と更新をまとめると
交付の場面では、原則として法定講習が必要だが、合格から1年以内と登録の移転に伴う交付の二つは免除される。更新の場面では、本文のみが準用されるので免除はなく、必ず法定講習が必要。「交付には例外がある、更新には例外がない」と対で覚えてください。
「1年以内なら免除」の価値をどう見るか
この論点はよく話題になるので、判断の枠組みだけ示します。詳しくは宅建合格後にやることで扱っています。
有名な助言と、その前提
「合格から1年以内に宅建士証の交付を受ければ法定講習が不要なので急いだほうがよい」という助言が広く流通しています。条文の理解としては正しいのですが、利益が実現する条件が限られます。
5年後には必ず受けることになる
理由は単純です。宅建士証の有効期間は交付日から5年で、更新には必ず法定講習が要ります。ということは、1年以内に急いで交付を受けても、5年後には結局法定講習を受けることになります。
免除されるのは最初の1回だけです。しかもその1回のために、合格発表から短期間で登録実務講習の申込・修了、登録の申請、交付の申請を直列で片づける必要があります。
基準は「1年以内か」ではなく「5年以内に使うか」
使う予定が立っていない段階で急いで取得すると、実際に宅建士として働き始める頃には有効期間が切れているか、切れかけているという事態が起こりえます。その場合、失効した宅建士証を取り直す際に改めて法定講習を受けることになり、講習の負担は変わらないまま、交付手数料だけが余分にかかります。
したがって判断の基準は、1年以内かどうかではなく、交付から5年以内に宅建士としての実務が始まる見込みがあるかどうかです。見込みがあるなら急ぐ意味があり、なければ登録まで進めて宅建士証は保留するという選び方が成立します。登録に有効期間がない以上、保留にコストはかかりません。
講習の中身は何によって決まるか
最後に、講習そのものについて確認します。
条文が定めているのは「知事が指定する講習」であること
22条の2第2項が求めているのは、「登録をしている都道府県知事が国土交通省令の定めるところにより指定する講習」であることです。条文は講習の科目や時間を定めていません。
指定の要件は施行規則14条の17にある
施行規則14条の17は、22条の2第2項(22条の3第2項において準用する場合を含む)により知事が指定する講習について、次のすべてに該当するもの、または当該都道府県知事の実施するものでなければならないと定めています。
第1号が、一般社団法人または一般財団法人で、講習を行うのに必要かつ適切な組織および能力を有すると都道府県知事が認める者が実施する講習であること。第2号が、正当な理由なく受講を制限する講習でないこと。第3号が、国土交通大臣が定める講習の実施要領に従つて実施される講習であること。
カリキュラムは省令ではなく実施要領にある
ここが正確を期すべき点です。具体的な科目や時間数は、法律にも省令にも書かれていません。施行規則14条の17第3号が「国土交通大臣が定める講習の実施要領に従つて実施される」ことを要件としており、中身はその実施要領に委ねられています。
一般的には、法改正の内容、紛争の防止に関する事項、取引の実務に関する事項などを扱い、1日で完結する形で実施されます。ただし、具体的な科目構成・時間配分・受講料・実施日程・申込方法は、実施する都道府県および指定を受けた機関によって異なります。この記事では特定の金額や時間数を示しません。示せる一次的な根拠がないためです。受講を予定している場合は、登録をしている都道府県の実施機関が公表している案内で確認してください。
なお第2号の「正当な理由なく受講を制限する講習でないこと」という要件は、受講機会が不当に狭められないことを担保する規定です。
受講する場所は「登録をしている都道府県」が基準
条文は「登録をしている都道府県知事が指定する講習」としています。したがって基準になるのは登録先の都道府県であり、現在の勤務地や住所地ではありません。
勤務地が登録先と離れている場合、この点が実務上の負担になります。19条の2の登録の移転を利用すると登録先を勤務地の都道府県に移せるため、法定講習や更新の手続きを近い場所で受けられるという利便が生じます。登録の移転が任意の手続きでありながら実益を持つのは、主にこの点にあります。
宅建士証が失効したらどうなるか
業務はできなくなる
宅建士証の有効期間が満了して更新しなければ、宅建士証は失効します。2条4号が宅地建物取引士を「宅地建物取引士証の交付を受けた者」と定義している以上、宅建士としての事務は行えなくなります。
具体的には、重要事項の説明(35条1項)、35条書面への記名(35条5項)、37条書面への記名(37条3項)ができません。重要事項説明の際には請求がなくても宅建士証を提示しなければならず(35条4項)、提示すべき物がない以上、説明もできないという関係になります。独占業務の中身は宅建士の独占業務にあります。
専任の宅建士として届け出られている場合はさらに影響が及びます。31条の3第1項の人数を満たさなくなれば、同条3項により2週間以内に必要な措置を執らなければなりません(専任の宅建士の設置義務)。
登録は残るので、取り直す必要はない
前述のとおり、失効しても登録は消除されません。あらためて宅建士証が必要になったときは、法定講習を受講して交付を申請すれば足ります。試験からやり直す必要も、登録実務講習を受け直す必要もありません。登録実務講習は登録の要件であって、登録が残っている以上、再度受ける理由がないからです。
返納と提出は別の制度である
失効に関連して、条文が二つの言葉を使い分けている点も押さえておきます。
22条の2第6項は「宅地建物取引士は、第十八条第一項の登録が消除されたとき又は宅地建物取引士証が効力を失つたときは、速やかに、宅地建物取引士証をその交付を受けた都道府県知事に返納しなければならない」と定めています。
これに対し同条7項は「宅地建物取引士は、第六十八条第二項又は第四項の規定による禁止の処分を受けたときは、速やかに、宅地建物取引士証をその交付を受けた都道府県知事に提出しなければならない」と定め、8項が、禁止の期間が満了した場合に提出者から返還の請求があったときは直ちに返還しなければならないとしています。
返納は戻ってこない、提出は戻ってくる。この違いは、失効・消除の場合と事務禁止処分の場合という原因の違いに対応しています。監督処分の体系は監督処分で扱っています。
試験での出題ポイント
三つの講習の入れ替え
最も多い型です。登録実務講習と法定講習を入れ替える肢、登録講習と法定講習を入れ替える肢が出ます。
判別の手がかりは実施主体と目的です。登録講習と登録実務講習は国土交通大臣の登録を受けた機関、法定講習は登録をしている都道府県知事の指定。目的は順に、試験の免除・登録の要件・宅建士証の交付と更新です。
期間の起算点をずらす
登録講習の3年は「登録講習修了試験に合格した日」から、法定講習の6か月は「交付の申請前」から遡って、免除の1年は「試験に合格した日」から。それぞれ起点が違うので、これを入れ替えた肢が作られます。
とくに免除の1年について「登録を受けた日から1年以内」とする肢は誤りです。
更新にも免除があるとする肢
22条の3第2項が準用しているのは22条の2第2項の本文だけです。ただし書の免除は準用されないので、「更新の場合であっても、登録の移転に伴うときは法定講習が不要である」といった肢は誤りになります。
登録に有効期間があるとする肢
「登録の有効期間は5年であり、5年ごとに法定講習を受けて更新しなければならない」という形の肢が出ます。有効期間があるのは宅建士証だけです。18条に期間の定めはなく、22条の消除事由にも期間の満了は含まれていません。
失効で登録も消えるとする肢
「宅建士証の有効期間が満了したときは、登録も効力を失う」という肢も誤りです。22条の消除事由に該当しない限り、登録は残ります。
登録の移転と有効期間
「登録の移転をして新たに宅建士証の交付を受けた場合、その有効期間は交付の日から5年である」という肢は誤りです。22条の2第5項により従前の残存期間を引き継ぎ、同条3項の括弧書きが5年の対象から除外しています。法定講習が免除される代わりに期間もリセットされないという対応で覚えてください。
数字の組み合わせ
宅建士証の有効期間5年、法定講習は申請前6か月以内、免除は合格から1年以内、登録講習の免除は3年以内、実務経験は2年(施行規則13条の15)、設置義務に抵触した場合の措置は2週間以内。数字が集中している領域なので、それぞれ何の期間かをセットで持ってください。宅建業法の数字は宅建業法の数字まとめで横断的に整理しています。頻出度の全体像は宅建業法の頻出論点にあります。
覚え方・整理の仕方
三段階に講習を一つずつ割り当てる
試験・登録・宅建士証という三段階に、講習が一つずつ対応します。試験に登録講習、登録に登録実務講習、宅建士証に法定講習。
名前が紛らわしいときは、この対応から引き直してください。「登録実務講習」は名前に登録が入っているので登録の段階、「登録講習」は名前が似ていますが試験の免除の話、と切り分けられます。
実施主体を「大臣・大臣・知事」で持つ
登録講習と登録実務講習は国土交通大臣、法定講習は都道府県知事。前二つが大臣で、最後だけ知事です。
理由も添えます。宅建士証を交付するのが知事だから、その前提の講習も知事が指定する。理由から入れば逆にしません。
期間は「3年・なし・6か月」
登録講習は修了試験合格から3年以内の試験に効く。登録実務講習に期間制限はない。法定講習は申請前6か月以内のものでなければならない。
真ん中だけ「なし」という並びで覚えると、登録実務講習に期限を設ける肢を弾けます。
「本文だけ準用」を条文の語で覚える
22条の3第2項の「前条第二項本文の規定は」という一語を覚えてください。本文だけだから、ただし書の免除は更新に及ばない。
交付には例外がある、更新には例外がない。この対で持っておけば、更新の免除を主張する肢に気づけます。
「期限があるのは持ち物だけ」
合格に期限はなく、登録に期間はなく、期間があるのは宅建士証だけ。持ち物にだけ期限があると覚えます。
ここから、法定講習が宅建士証の側にしか紐づかないこと、失効しても登録が残ることが同時に出てきます。
免除の1年は「合格日から」
免除の起算点を間違えないために、「合格発表の日を起点に1年」と場面ごと覚えてください。登録した日でも、登録実務講習を修了した日でもありません。申請書に「試験に合格した後一年を経過しているか否かの別」を書く欄がある(施行規則14条の10第1項4号)ことも、起算点が合格日であることの裏づけになります。
理解度チェッククイズ
問1 宅地建物取引士の登録の有効期間は5年であり、5年ごとに都道府県知事が指定する講習を受講して更新しなければならない。
答え:×。有効期間があるのは登録ではなく宅地建物取引士証です。18条は登録の要件と欠格事由を定めていますが、有効期間を設ける規定を置いていません。登録が失われるのは22条が定める消除の場合、すなわち本人からの消除の申請、21条の届出、届出がなくて該当事実が判明したとき、試験の合格の決定の取消しの四つに限られ、期間の満了は含まれていません。これに対し22条の2第3項は宅建士証の有効期間を5年と定め、22条の3が申請による更新を定めています。法定講習は宅建士証の交付・更新に紐づく義務であって、登録を維持するための義務ではありません。したがって、登録だけを維持するつもりであれば法定講習は不要です。
問2 宅地建物取引士資格試験に合格した日から1年を経過した後に宅地建物取引士証の交付を申請する場合であっても、登録を受けた日から1年以内であれば、法定講習を受講する必要はない。
答え:×。22条の2第2項ただし書が免除の基準としているのは「試験に合格した日から一年以内」であり、登録を受けた日ではありません。したがって、合格から1年を経過していれば、登録の直後に申請する場合でも法定講習が必要です。起算点が合格日であることは手続の側からも確認でき、施行規則14条の10第1項4号は宅建士証交付申請書の記載事項として「試験に合格した後一年を経過しているか否かの別」を挙げています。なお、ただし書にはもう一つ免除があり、22条の2第5項に規定する宅建士証、すなわち登録の移転に伴って交付されるものについても法定講習は不要です。
問3 宅地建物取引士証の有効期間の更新を受けようとする者は、試験に合格した日から1年以内である場合を除き、交付の申請前6か月以内に行われる法定講習を受講しなければならない。
答え:×。更新の場面に免除はありません。22条の3第2項は「前条第二項本文の規定は宅地建物取引士証の有効期間の更新を受けようとする者について……準用する」と定めており、準用されるのは22条の2第2項の本文だけです。ただし書に置かれた「合格から1年以内」および「登録の移転に伴う交付」という二つの免除は準用されません。したがって更新の際は例外なく法定講習が必要です。条文の「本文」という語を読み飛ばすと生じる誤りで、交付には例外があるが更新には例外がないという対で押さえてください。なお同項後段により22条の2第3項も準用されるため、更新後の宅建士証の有効期間も5年です。
問4 宅地建物取引士証の交付を受けた後に登録の移転があり、移転後の都道府県知事から新たに宅地建物取引士証の交付を受けた場合、その宅地建物取引士証の有効期間は交付の日から5年である。
答え:×。22条の2第4項により、登録の移転があると従前の宅建士証は効力を失い、同条5項により、登録の移転の申請とともに交付の申請があったときは移転後の知事が新たな宅建士証を交付します。このとき条文は有効期間を「前項の宅地建物取引士証の有効期間が経過するまでの期間」と定めており、従前の残存期間を引き継ぎます。あわせて22条の2第3項の括弧書きが「(第五項の規定により交付された宅地建物取引士証を除く。)」として、5項の宅建士証を有効期間5年の対象から除いています。この扱いは法定講習の免除と対応しており、移転に伴う交付では講習が免除される代わりに期間もリセットされないという組み立てになっています。
問5 実務の経験が2年に満たない試験合格者が登録を受けるために修了する登録実務講習は、修了した日から3年以内に登録の申請をしなければ効力を失う。
答え:×。登録実務講習の修了に期間制限はありません。18条1項は、国土交通省令で定める期間以上の実務経験を有する者に加えて、国土交通大臣が同等以上の能力を有すると認めた者も登録を受けられるとしており、施行規則13条の16第1号がこれに登録実務講習の修了者を挙げています。修了の効果に期限を設ける規定はなく、修了後いつ登録を申請しても要件を満たします。なお実務経験の「2年」は法律本体ではなく施行規則13条の15が定めています。3年という期間制限があるのは別の講習で、施行規則10条の14が、登録講習修了者について登録講習修了試験に合格した日から3年以内に行われる試験の一部を免除すると定めています。名前の似た三つの講習は、目的・実施主体・期間制限がそれぞれ異なります。
まとめ
法定講習は宅建士証に紐づく義務である。22条の2第2項の主語は宅建士証の交付を受けようとする者です。18条に登録の有効期間の定めはなく、22条の消除事由にも期間の満了は含まれていないため、登録だけを維持するなら法定講習は要りません。期限があるのは宅建士証だけです。
名前の似た講習が三つある。登録講習(16条3項)は試験の5問免除のため、宅建業に従事する者が対象、大臣の登録を受けた機関が実施、修了試験合格から3年以内。登録実務講習(18条1項・施行規則13条の16)は登録の要件を満たすため、実務経験2年未満の合格者が対象、大臣の登録を受けた機関が実施、期間制限なし。法定講習(22条の2第2項)は宅建士証の交付・更新のため、登録を受けている者が対象、登録先の知事が指定、申請前6か月以内。
交付には二つの免除がある。試験に合格した日から1年以内の場合と、22条の2第5項による登録の移転に伴う交付の場合です。1年の起算点は合格日であって登録日ではありません。移転に伴う交付では、免除と引き換えに有効期間も従前の残存期間を引き継ぎます(同条5項、3項括弧書き)。
更新に免除はない。22条の3第2項が準用するのは22条の2第2項の「本文」だけで、ただし書は準用されません。更新後の有効期間は5年です。更新の申請は新たな交付の申請の形で行い、現に有する宅建士証と引換えに交付されます(施行規則14条の16)。
「1年以内なら免除」の価値は限定的である。免除されるのは最初の1回だけで、5年後の更新では必ず受けることになります。判断の基準は1年以内かどうかではなく、交付から5年以内に実務が始まる見込みがあるかどうかです。
講習の中身は実施要領に委ねられている。条文が定めているのは知事が指定する講習であることだけで、指定の要件は施行規則14条の17にあります。科目・時間・費用は法令に書かれておらず、実施する都道府県と機関によって異なります。
失効しても登録は残る。宅建士証が失効すれば独占業務はできなくなりますが、登録は消除されません。再び必要になれば法定講習を受けて交付を申請すれば足ります。なお、失効・消除の場合は返納(22条の2第6項)、事務禁止処分の場合は提出(同7項)で、後者は期間満了後に返還されます。
よくある質問
Q. 宅建士証を失効させたままにしておくと、登録も消えてしまいますか。
A. 消えません。登録が消除されるのは22条が定める四つの場合に限られ、宅建士証の失効はそこに含まれていません。したがって、何年後であっても、法定講習を受講して宅建士証の交付を申請すれば宅建士としての業務を再開できます。試験の受け直しも、登録実務講習の受け直しも不要です。
Q. 法定講習はどの都道府県で受けることになりますか。
A. 22条の2第2項が「登録をしている都道府県知事が指定する講習」としているので、基準は登録先の都道府県です。住所地でも勤務地でもありません。勤務地が登録先と離れていて不便な場合、19条の2の登録の移転を利用すれば登録先を移せます。移転は任意の手続きですが、法定講習や更新を近い場所で受けられるという実益があります。
Q. 法定講習を受けたあと、すぐに申請しないとどうなりますか。
A. 22条の2第2項は「交付の申請前六月以内に行われるもの」を受講することを求めています。期間制限は講習の側にかかっているため、受講から申請までに6か月以上あくと、その講習では要件を満たさなくなります。更新の場合は、有効期間の満了日に間に合わせつつ、申請から遡って6か月以内に収まる時期に受講する必要があります。
Q. 講習の費用と時間はどのくらいですか。
A. 法令には定めがありません。22条の2第2項は知事が指定する講習であることを求め、施行規則14条の17は指定の要件として、一定の法人が実施すること、正当な理由なく受講を制限しないこと、国土交通大臣が定める実施要領に従うことを挙げているだけです。科目構成・時間・受講料・日程は実施する都道府県と機関によって異なるため、登録をしている都道府県の実施機関が公表している案内で確認してください。
Q. 登録実務講習を修了していれば、宅建士証の交付のときに法定講習は免除されますか。
A. 免除されません。二つは別の制度で、効く段階が違います。登録実務講習は18条1項の登録の要件を満たすためのもので、修了すれば登録を受けられます。法定講習は22条の2第2項が宅建士証の交付について求めるもので、免除されるのは合格から1年以内の場合と登録の移転に伴う交付の場合だけです。登録の段階を通過したことは、宅建士証の段階の要件を満たしたことにはなりません。
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