行政書士と宅建のダブルライセンス|業務の接点と業際
行政書士と宅建士は不動産取引のどこを担当するのか。行政書士法・宅地建物取引業法の条文から業務範囲と業際を切り分け、農地転用・相続・免許申請での役割分担、兼業時の事務所と登録の要件を整理します。
目次
この記事は、行政書士と宅建士の両方を持つと実際にどういう仕事ができるのか、そしてどこから先は手が出せないのかを、条文の側から切り分けるためのものです。試験としての難易度や合格基準の比較は宅建と行政書士はどっちが難しい?難易度比較とダブル受験の可否に、科目単位でどこが重なりどこが重ならないかは行政書士と宅建の試験範囲|重なる科目と固有科目にまとめてあります。ここでは試験の話を繰り返しません。
先に結論を三つ述べます。第一に、この二つの資格は競合しません。行政書士が担当するのは官公署に対する手続で、宅建士が担当するのは取引当事者に対する説明です。相手方が違うので、同じ仕事を奪い合う関係になりません。第二に、「宅建士の業務」と「宅建業者の業務」を分けないと、補完関係の中身を取り違えます。媒介や代理は宅地建物取引業者の業務であって、宅建士の独占業務ではありません。第三に、行政書士の業務を定める条文の番号は2026年1月1日に動きました。従来の1条の2が1条の3に、1条の3が1条の4になっています。古い条番号のまま説明している資料が多数残っているので、確認の起点として先に押さえます。
なお、この記事では学習時間や年収、報酬相場の数値を書きません。出典を示せる公表資料が確認できないためです。金額は、政令や告示で定められているものだけを条文名とともに示します。
行政書士の業務は条文のどこに書かれているか
2026年1月1日に条番号が動いた
行政書士法の一部を改正する法律(令和7年法律第65号、2025年6月13日公布)が2026年1月1日に施行され、条の構成が変わりました。改正前は1条が目的、1条の2が業務、1条の3が代理等、1条の4が使用人という並びでした。改正後は1条が使命、1条の2が職責、1条の3が業務、1条の4が代理等、1条の5が使用人という並びになっています。
つまり、行政書士の業務を説明するときに引くべき条文は、現在は1条の3と1条の4です。「行政書士法1条の2に業務が定められている」と書かれた資料は、2025年12月31日までの条文を前提にしています。内容が全部間違っているわけではありませんが、条番号だけをそのまま引き写すと現行法とずれます。この記事は2026年8月時点の条文に基づいて書いており、最新の内容はe-Gov法令検索で確認してください。
1条は「行政書士は、その業務を通じて、行政に関する手続の円滑な実施に寄与するとともに国民の利便に資し、もつて国民の権利利益の実現に資することを使命とする」と定めます。改正前の「目的」規定が「使命」規定に置き換わったもので、条文の性格が制度の説明から職業の位置づけへと変わりました。
1条の3が定める書類作成
1条の3第1項は、行政書士の業務の中核を次のように定めます。「他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類その他権利義務又は事実証明に関する書類(実地調査に基づく図面類を含む。)を作成することを業とする」。
ここで扱われる書類は三種類に整理できます。官公署に提出する書類、権利義務に関する書類、事実証明に関する書類です。不動産の場面でいえば、農地転用の許可申請書や開発許可の申請書は一つ目、遺産分割協議書や各種の契約書は二つ目に当たります。書類の作成には、それに代えて電磁的記録を作成する場合が含まれると同項の括弧書きが明記しており、電子申請の時代を前提とした条文になっています。
1条の3第2項が重要な限定を置いています。「前項の書類の作成であつても、その業務を行うことが他の法律において制限されているものについては、業務を行うことができない」。行政書士の業務範囲は、他の士業法によって外側から削られる構造になっているということです。この構造を理解しておくと、後述する業際の問題が「行政書士に何ができるか」ではなく「他の法律が何を取っているか」の問題であることが見えてきます。
1条の4が定める代理と相談
1条の4第1項は、書類作成に加えて行える四つの事務を列挙します。第1号が官公署への提出手続の代理と、聴聞や弁明の機会の付与といった意見陳述手続における官公署に対する行為の代理。第2号が許認可等に関する審査請求などの不服申立て手続の代理と、その手続で官公署に提出する書類の作成。第3号が契約その他に関する書類を代理人として作成すること。第4号が書類の作成についての相談に応じることです。
第1号には「弁護士法第72条に規定する法律事件に関する法律事務に該当するものを除く」という括弧書きが付いています。この一文が、行政書士と弁護士の境界を条文の中に書き込んでいます。
1条の4第2項は、第1項第2号の不服申立て代理を特定行政書士に限定します。「当該業務について日本行政書士会連合会がその会則で定めるところにより実施する研修の課程を修了した行政書士」が特定行政書士です。行政書士の登録を受けただけでは不服申立ての代理はできず、研修の修了が別に必要になります。
なお、令和7年法律第65号は第2号の対象も広げました。改正前は「行政書士が作成した官公署に提出する書類に係る許認可等」に限られていたものが、改正後は「行政書士が作成することができる官公署に提出する書類に係る許認可等」となっています。自分が作成した申請でなくても、行政書士が作成できる種類の申請であれば不服申立ての代理ができる、という読み方になります。
19条の業務の制限
19条1項は「行政書士又は行政書士法人でない者は、他人の依頼を受けいかなる名目によるかを問わず報酬を得て、業として第一条の三に規定する業務を行うことができない」と定めます。これが行政書士の独占を支える規定です。ただし書は、他の法律に別段の定めがある場合と、定型的かつ容易に行えるものとして総務省令で定める手続について総務省令で定める者が電磁的記録を作成する場合を除外しています。
19条の2第1項は、行政書士でない者が行政書士またはこれと紛らわしい名称を用いることを禁じています。
宅建士の独占業務と宅建業者の業務を分ける
宅建士が独占しているのは説明と記名
宅地建物取引業法35条1項は、宅地建物取引業者に対し、契約が成立するまでの間に「宅地建物取引士をして」重要事項を記載した書面を交付して説明させなければならないと定めます。35条5項は、その書面の交付に当たって宅建士が記名しなければならないとし、電磁的方法で提供する場合を定める35条7項も、業者は宅建士をして記名させなければならないとしています。37条3項も同様に、37条書面について宅建士に記名させることを業者に義務づけています。
つまり、宅建士に固有に割り当てられているのは、重要事項の説明と、35条書面・37条書面への記名です。詳細は宅建士の独占業務3つ|独占業務の内容と重要性、書面の中身は35条書面の記載事項一覧|重要事項説明書に何を書くかと37条書面の記載事項|必要的記載と任意的記載の違いで扱っています。
媒介や代理は業者の業務
一方、売買や貸借の媒介・代理そのものを行うのは宅地建物取引業者です。3条1項が免許を要求しており、12条1項は免許を受けない者が宅地建物取引業を営むことを禁じています。宅建士の資格を持っているだけでは、他人の物件の売買を媒介して報酬を受け取ることはできません。免許が必要です。
この区別を落とすと、行政書士との関係の説明が崩れます。「行政書士として許可申請を代理し、宅建士として売買を仲介する」という書き方は不正確です。正確には「行政書士として許可申請を代理し、宅地建物取引業者として売買を媒介し、その取引の重要事項説明を宅建士として行う」という三段構えになります。両方の看板を出すというのは、行政書士の登録と宅地建物取引業の免許という二つの資格ないし許可を取るということです。
一つの取引を時間順に並べてみる
農地を宅地にして売る場合
農地法4条1項は、農地を農地以外のものにする者は都道府県知事等の許可を受けなければならないと定めます。5条1項は、農地を農地以外のものにするため所有権などの権利を設定・移転する場合に、当事者が都道府県知事等の許可を受けなければならないとしています。3条1項の権利移動が農業委員会の許可であるのに対し、転用が絡む4条と5条は都道府県知事等が許可権者である点が違います。切り分けは農地法|3条・4条・5条の切り分けと許可権者で扱っています。
市街化区域内には例外があります。4条1項7号は、市街化区域内の農地をあらかじめ農業委員会に届け出て農地以外のものにする場合を許可不要とし、5条1項6号が転用目的の権利移動について同じ扱いを置いています。許可が要るのか届出で足りるのかは、その土地が市街化区域内かどうかで変わります。
農地を宅地にして売る案件を時間順に並べると、まず5条1項の許可申請または5条1項6号の届出があり、これは行政書士の業務です。次に、造成の規模によっては都市計画法29条1項の開発許可が必要になり、この申請書の作成と提出代理も行政書士の業務です。開発許可の要否は宅建の開発許可制度|開発行為の定義から建築制限までで扱っています。そのうえで売買の媒介契約を結び、35条の重要事項説明を行い、37条書面を交付します。ここからが宅地建物取引業者と宅建士の担当です。
一人でこれを通すと何が変わるか。手続の前後関係を一つの頭で管理できるようになります。転用許可の見込みが立たないまま売買契約を先に進めれば契約は宙に浮きますし、逆に許可が下りてから売却先を探し始めると転用の期限に追われます。どちらの側の事情も分かった状態で順序を組めることが、二つを持つ実務上の意味です。
建設業の顧客が絡む場合
建設業法3条1項は、建設業を営もうとする者に大臣または知事の許可を求めています。政令で定める軽微な建設工事のみを請け負う者は除かれます。同条3項により、この許可は5年ごとに更新を受けなければ効力を失います。許可申請と更新申請の書類作成・提出代理は、行政書士法1条の3および1条の4第1項第1号の範囲に入ります。
不動産の仕事をしていると、リフォームや新築を扱う事業者と接する機会が多くなります。その事業者が許可の要否や更新期限で困っている場面に、行政書士として応じられるかどうかは、実際の受注の幅に直結します。建設業と不動産業の接点そのものは建設業界で宅建が活きる理由|施工管理と不動産の接点でも扱っています。
相続で発生する手続を担当ごとに割る
相続は、行政書士・司法書士・土地家屋調査士・税理士・弁護士・宅地建物取引業者が同じ案件の別々の部分を担当する典型例です。どこまでが行政書士かを条文で線引きします。
遺産分割協議書の作成は、行政書士法1条の3第1項の「権利義務に関する書類」に当たります。相続関係を確認するための戸籍の収集や相続関係説明図の作成も、事実証明に関する書類の範囲で扱えます。相続の実体法上の枠組みは相続|相続人の範囲・法定相続分・遺留分にまとめています。
相続登記の申請は司法書士の領域です。司法書士法3条1項1号が「登記又は供託に関する手続について代理すること」、2号が法務局等に提出する書類の作成を司法書士の事務として定めています。相続登記の申請義務については遺産分割協議と相続登記義務化|2024年改正のポイントで扱っています。行政書士がここに踏み込むことはできません。司法書士との役割分担は司法書士と宅建のダブルライセンス|業務と業際でも整理しています。
境界が問題になる場合は土地家屋調査士です。土地家屋調査士法3条1項1号が表示に関する登記に必要な調査・測量、2号が表示に関する登記の申請手続の代理を定めています。土地の分筆が必要な相続では、この工程を外せません。関連は土地家屋調査士と宅建|重なる範囲と取得順序にあります。
相続税の申告は税理士です。税理士法2条1項が税務代理・税務書類の作成・税務相談を税理士の業務とし、52条が税理士または税理士法人でない者が税理士業務を行うことを禁じています。
相続人の間で争いが生じている場合は弁護士です。弁護士法72条は、弁護士でない者が報酬を得る目的で法律事件に関して代理その他の法律事務を取り扱うことを業とすることを禁じています。行政書士法1条の4第1項第1号の括弧書きが弁護士法72条を名指しで除外しているのは、この線を条文の中で引くためです。遺産分割協議書を作成できることと、相続人の一方の代理人として交渉することはまったく別です。
そして、相続した不動産を売却する段になれば、宅地建物取引業者と宅建士の出番になります。相続不動産の扱い方は相続不動産の基礎知識|評価方法と手続きの流れで扱っています。
一件の相続でこれだけの担当が並ぶことを知っていると、依頼者に対して「これは自分の業務、これは他の士業に頼む必要がある」と最初に説明できます。この整理そのものが、両方の資格を持つ人の価値になります。
宅建業を始めるときに行政書士ができること
免許申請そのものが行政書士の業務
宅地建物取引業法3条1項の免許申請書は、官公署に提出する書類です。行政書士法1条の3で作成でき、1条の4第1項第1号で提出手続の代理ができます。宅建業を始めようとする人にとって、この申請の代理は行政書士の典型的な仕事の一つです。免許制度の全体像は宅建業の免許制度|要否・免許権者・更新にあります。
手数料の額は公表された政令に根拠があります。地方公共団体の手数料の標準に関する政令の別表は、宅地建物取引業法3条1項の免許申請に対する審査を33,000円、電子情報処理組織を使用する方法による場合を26,500円とし、3条3項の更新申請に対する審査も同額としています。都道府県が条例で定める額の標準を示した政令なので、実際の額は各都道府県の条例で確認してください。この額は2026年8月時点のものです。
開業に必要な資金のうち大きいのは免許手数料ではありません。25条1項が営業保証金の供託を求め、同条2項を受けた宅地建物取引業法施行令2条の4が、主たる事務所につき1,000万円、その他の事務所につき事務所ごとに500万円と定めています。保証協会に加入する場合は64条の9第1項と施行令7条により、主たる事務所につき60万円、その他の事務所につき30万円の弁済業務保証金分担金となります。仕組みは営業保証金|供託額・事業開始・還付と取戻しと保証協会の仕組み|加入・弁済業務・還付充当金で扱っています。開業全体の設計は宅建で独立開業する|免許と保証金の要件にまとめました。
免許の基準に引っかからないか
5条1項は免許をしてはならない場合を列挙しています。同項5号は「拘禁刑以上の刑に処せられ、その刑の執行を終わり、又は執行を受けることがなくなつた日から五年を経過しない者」です。1号の破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者、2号から4号までの免許取消しに関する規定なども併せて確認する必要があります。詳細は宅建業の免許制度|要否・免許権者・更新を参照してください。
行政書士側の欠格事由は行政書士法2条の2にあります。同条3号は「拘禁刑以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなつてから三年を経過しない者」です。刑の種類の基準は同じ拘禁刑以上ですが、待つ期間が宅建業は5年、行政書士は3年と違います。両方を目指す人にとっては、片方の要件を満たしていてももう片方では足りないという事態が起こり得ます。
特定行政書士という第二の入口
免許の申請が拒否されたり、監督処分を受けたりした場合、行政不服審査法に基づく審査請求という道があります。行政書士法1条の4第1項第2号は、許認可等に関する審査請求等の手続について代理し、その手続で官公署に提出する書類を作成することを行政書士の事務としており、同条2項によりこれは特定行政書士に限られます。宅地建物取引業の監督処分については監督処分|指示・業務停止・免許取消の違いで扱っています。
ここでも弁護士法72条の線は生きています。1条の4第1項第1号の括弧書きが示すとおり、法律事件に関する法律事務に該当するものは行政書士の業務から除かれます。行政庁に対する不服申立てと、相手方のいる紛争の代理は別物です。
両方を持つ人の登録はどう進むか
行政書士の登録と入会は一体になっている
行政書士法6条1項は、行政書士となる資格を有する者が行政書士となるには、行政書士名簿に住所・氏名・生年月日・事務所の名称および所在地などの登録を受けなければならないと定めます。同条2項・3項により、名簿は日本行政書士会連合会に備えられ、登録も日行連が行います。
登録の申請は6条の2第1項により、事務所の所在地の属する都道府県の区域に設立されている行政書士会を経由して日行連に対して行います。そして16条の5第1項が「行政書士は、第六条の二第二項の規定による登録を受けた時に、当然、その事務所の所在地の属する都道府県の区域に設立されている行政書士会の会員となる」と定めています。
つまり、登録と入会は別々に申請するものではなく、登録を受けた時点で当然に会員になるという構造です。「名簿への登録と行政書士会への入会の両方が必要」という説明は結果としては正しいのですが、二つの手続を踏むという意味ではありません。16条の5第2項により、他の都道府県に事務所を移転したときは、その移転があったときに当然に従前の会を退会して移転先の会の会員になります。
日行連は6条の2第4項により、登録をしたときは申請者に行政書士証票を交付し、7条の2第1項は、登録が抹消されたときや14条による業務停止処分を受けたときの証票の返還を定めています。
宅建士の登録は都道府県知事に対して行う
宅建士側は18条1項が、試験に合格した者で国土交通省令で定める期間以上の実務経験を有するものなどが、当該試験を行った都道府県知事の登録を受けることができると定めます。22条の2第1項により、登録を受けている者は都道府県知事に宅建士証の交付を申請でき、同条3項によりその有効期間は5年です。手続の流れは宅建士の登録と宅建士証|合格後の手続きにまとめています。
手数料は前述の政令の別表に、宅地建物取引士資格登録簿への登録が37,000円、登録の移転の申請に対する審査が8,000円、宅建士証の交付の申請に対する審査と有効期間の更新の申請に対する審査がそれぞれ4,500円と示されています。試験の実施は8,200円です。いずれも都道府県の条例が定める額の標準であり、2026年8月時点の政令の内容です。
二つの登録は系統がまったく別です。行政書士は日行連の名簿、宅建士は都道府県知事の登録です。片方で懲戒や登録消除があっても自動的にもう片方に及ぶわけではありませんが、行政書士法2条の2各号と宅地建物取引業法18条1項各号・5条1項各号は、それぞれ他士業の処分を欠格事由として拾う規定を置いています。行政書士法2条の2第7号は、弁護士会からの除名や司法書士・土地家屋調査士の業務禁止などを受けた者を3年間欠格としています。宅建士側の欠格は宅建業の免許の欠格事由|5条1項を系統別に整理で扱っています。
事務所をどこに置くかが兼業の実務の中心になる
行政書士は事務所を二つ以上持てない
行政書士法8条1項は、行政書士はその業務を行うための事務所を設けなければならないと定めます。同条2項は「行政書士は、前項の事務所を二以上設けてはならない」と明記しています。同条3項は、他の行政書士や行政書士法人の使用人である行政書士は事務所を設けてはならないとしています。
一人の行政書士が持てる事務所は一つだけです。これは宅地建物取引業とは対照的です。宅建業者は3条1項の枠組みの中で複数の事務所を持てますし、二以上の都道府県に事務所を設ければ国土交通大臣免許、一の都道府県内だけなら知事免許という区分になります。
なお、事務所を複数持ちたい場合の受け皿として行政書士法人があります。13条の3は、行政書士が1条の3および1条の4第1項(第2号を除く)に規定する業務を行うことを目的として法人を設立できると定めています。第2号が除かれているのは、不服申立ての代理が特定行政書士に限られる業務だからです。
宅建業の事務所には専任の宅建士が要る
宅地建物取引業法31条の3第1項は、事務所等ごとに国土交通省令で定める数の成年者である専任の宅建士を置かなければならないと定めます。その数は宅地建物取引業法施行規則15条の5の3が定めており、事務所については「業務に従事する者の数に対する宅地建物取引士の数の割合が五分の一以上となる数」です。よく言われる「5人に1人」はこの規則を指しています。数え方は専任の宅建士の設置義務|5人に1人の数え方で扱っています。
31条の3第2項は、業者本人(法人の場合は役員)が宅建士であるときは、その者が自ら主として業務に従事する事務所等について専任の宅建士とみなすとしています。一人で開業する場合、この規定によって自分自身が専任の宅建士になります。同条3項は、既存の事務所等が基準に抵触するに至ったときは2週間以内に適合させる措置を執らなければならないと定めています。宅建業の事務所要件そのものは宅建業の事務所の要件|設置義務・届出事項を完全整理にまとめました。
同じ場所に二枚の看板を出すとき
行政書士事務所と宅建業の事務所を同一の場所に置くこと自体を禁じる規定は、行政書士法にも宅地建物取引業法にもありません。ただし、確認すべき点が二つあります。
一つは、行政書士法8条2項の「二以上設けてはならない」に触れないかです。宅建業の事務所を複数構えたうえで、そのそれぞれに行政書士事務所も置くことはできません。行政書士としての事務所は一つに絞る必要があります。
もう一つは、宅地建物取引業の事務所として認められる形になっているかです。宅建業の事務所には31条の3の専任性の要件がかかります。専任とは、その事務所に常勤して専ら宅建業の業務に従事することを指すため、行政書士業務との兼務の度合いによっては専任性が問題になり得ます。個別の判断は免許権者である都道府県の運用によるので、開業前に確認するのが確実です。
掲示するもの・備えるものが二重になる
両方の看板を出すと、事務所に置かなければならないものが二系統になります。しかもよく似ていて中身が違うので、混同しやすいところです。
報酬額の掲示は、どちらにも義務があります。行政書士法10条の2第1項は「行政書士は、その事務所の見やすい場所に、その業務に関し受ける報酬の額を掲示しなければならない」と定めます。宅地建物取引業法46条4項は「宅地建物取引業者は、その事務所ごとに、公衆の見やすい場所に、第一項の規定により国土交通大臣が定めた報酬の額を掲示しなければならない」と定めます。
掲示するものが違います。行政書士が掲示するのは自分が受ける報酬の額、宅建業者が掲示するのは国土交通大臣が告示で定めた上限額です。行政書士の報酬に法定の上限はなく、各自が決めた額を開示させることで規律しています。宅建業者の報酬は46条1項で大臣が定めるところによるとされ、2項が超過受領を禁じています。詳しくは報酬額の制限|46条と告示が定める上限の枠組みを参照してください。
行政書士法10条の2第2項は、行政書士会および日行連が、依頼者の選択と行政書士の業務の利便に資するため、報酬の額について統計を作成し公表するよう努めなければならないと定めています。行政書士の報酬水準を知りたい場合は、この規定に基づいて公表される統計に当たるのが筋です。この記事で相場の数値を挙げないのは、そのためです。
帳簿も二系統です。行政書士法9条1項は業務に関する帳簿に事件の名称・年月日・受けた報酬の額・依頼者の住所氏名などを記載することを求め、同条2項は帳簿閉鎖の時から2年間の保存を義務づけています。宅地建物取引業法49条は、事務所ごとに業務に関する帳簿を備え、取引のあったつど所定の事項を記載することを求めています。
このほか宅建業者には、48条3項の従業者名簿の備付けと48条1項の従業者証明書の携帯、50条1項の標識の掲示があります。行政書士側にはこれらに対応する規定がありません。二つの事業を同じ場所で営むときは、宅建業側の備付義務のほうが重いと押さえておけば足ります。
守秘義務と懲戒の重さを並べる
守秘義務は、条文の書きぶりがよく似ています。行政書士法12条は「行政書士は、正当な理由がなく、その業務上取り扱つた事項について知り得た秘密を漏らしてはならない。行政書士でなくなつた後も、また同様とする」。宅地建物取引業法45条は「宅地建物取引業者は、正当な理由がある場合でなければ、その業務上取り扱つたことについて知り得た秘密を他に漏らしてはならない。宅地建物取引業を営まなくなつた後であつても、また同様とする」。どちらも資格や免許を失った後まで及びます。行政書士法19条の3は、行政書士や行政書士法人の使用人その他の従業者にも同じ義務を課しています。
違いは罰則の重さです。行政書士法22条1項は12条または19条の3の違反に対して1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金を定めます。宅地建物取引業法83条1項3号は45条の違反に対して50万円以下の罰金を定めており、拘禁刑がありません。ただし、どちらも親告罪である点は共通です。行政書士法22条2項と宅地建物取引業法83条2項が、いずれも告訴がなければ公訴を提起できないと定めています。
懲戒の枠組みも並べておきます。行政書士法14条は、この法律や命令・規則・都道府県知事の処分に違反したとき、または行政書士たるにふさわしくない重大な非行があったときに、都道府県知事が戒告・2年以内の業務の停止・業務の禁止のいずれかの処分をすることができると定めます。宅地建物取引業者に対する監督処分は65条・66条にあり、指示処分・業務停止処分・免許取消処分という構成です。
そのほか、行政書士法11条は「行政書士は、正当な事由がある場合でなければ、依頼を拒むことができない」という依頼応諾義務を定めています。宅地建物取引業法には、業者に対して依頼を受けることを一般的に義務づける規定はありません。この非対称は、行政書士が行政手続への国民のアクセスを担保する立場にあることから来ています。
試験での出題ポイント
行政書士法の条番号は動いたばかり
宅建試験に行政書士法は出題されませんが、行政書士試験の基礎知識科目には令和6年度から行政書士法等関連諸法令が加わりました。両方を視野に入れる人は、業務の根拠条文が1条の3と1条の4であることを押さえておく必要があります。市販の教材や解説記事で1条の2・1条の3となっているものは、2026年1月1日より前の条文です。
「宅建士が仲介する」は誤り
宅建試験で繰り返し狙われる形です。媒介や代理を行うのは宅地建物取引業者であり、宅建士に割り当てられているのは35条の説明と、35条5項・7項および37条3項の記名です。行政書士との比較で「宅建士は不動産取引の代理ができる」と書いてある資料は、この区別を落としています。
農地法の許可権者を3条と混同させる
3条1項は農業委員会、4条1項と5条1項は都道府県知事等です。転用が絡むかどうかで許可権者が変わります。さらに市街化区域内は4条1項7号・5条1項6号により、あらかじめ農業委員会に届け出れば許可が不要になります。「市街化区域内でも知事の許可が必要」という肢は誤りです。
欠格の期間を取り違えさせる
拘禁刑以上の刑に処せられた場合、宅地建物取引業法5条1項5号は5年、行政書士法2条の2第3号は3年です。刑の種類は同じでも期間が違います。宅建試験では5年を問われるので、行政書士法の3年と混ぜないようにします。
報酬の掲示の中身を入れ替える
宅地建物取引業法46条4項が掲示させるのは国土交通大臣が定めた報酬の額、つまり上限額です。「自社が受け取る報酬の額を掲示する」という肢は誤りになります。自分の額を掲示するのは行政書士法10条の2第1項のほうです。
特定行政書士の限定を落とす
不服申立ての代理は行政書士なら誰でもできるわけではありません。1条の4第2項により、日行連の会則で定める研修を修了した特定行政書士に限られます。他の三つの事務(提出代理、契約書の代理作成、相談)にはこの限定がありません。
登録と入会を別手続として問う
行政書士法16条の5第1項は、登録を受けた時に「当然」に行政書士会の会員となると定めています。入会の申請を別に出すのではありません。土地家屋調査士法52条1項が登録の申請と同時に入会の手続をとることを求めているのとは、条文の作りが違います。
覚え方・整理の仕方
「官公署に出す/当事者に説明する」で二つを分ける
行政書士は官公署に向かって書類を出す人、宅建士は取引の相手方に向かって説明する人。向いている方向が違うと覚えれば、競合しない理由がそのまま出てきます。行政書士の業務が1条の3で「官公署に提出する書類」から始まり、宅建士の業務が35条で「宅地建物取引業者の相手方等に対して」から始まることが、この対比を条文の側から裏づけています。
業務は「作る・出す・代理する・相談する」の四つ
1条の3が「作る」、1条の4第1項第1号が「出す」、第2号と第3号が「代理する」、第4号が「相談する」。四つに割っておくと、どれが特定行政書士に限られるかも一つだけだと分かります。限定がかかるのは第2号の不服申立てだけです。
数字は「3年と5年」「1と複数」「2年と5年」
欠格で待つ期間は行政書士3年・宅建業5年。事務所の数は行政書士1つ・宅建業は複数可。帳簿の保存は行政書士が閉鎖から2年、宅建業は国土交通省令の定めによります。三組の対比で並べると、行政書士のほうが期間も数も小さい側に来ると覚えられます。
掲示は「自分の額か、決められた額か」
行政書士は自分の額を貼る、宅建業者は大臣が決めた上限を貼る。報酬の規律の向きが逆であることが、この一組でつかめます。上限が法定されているのは宅建業者のほうです。
業際は「誰の独占か」で管理する
登記は司法書士、表示に関する登記の調査測量は土地家屋調査士、税務は税理士、紛争の代理は弁護士。行政書士の業務範囲は1条の3第2項によって外側から削られる構造なので、「行政書士にできるか」ではなく「他の法律が取っていないか」を先に問うと判断を誤りません。
相続は「協議書・登記・測量・申告・売却」の五工程
順に行政書士・司法書士・土地家屋調査士・税理士・宅地建物取引業者。この五つを並べて覚えておけば、依頼を受けたときにどこを自分で処理してどこを紹介するかが即座に決まります。争いが出た時点で弁護士が入る、という条件を一つ足しておきます。
「宅建士」と「宅建業者」を毎回言い分ける
説明と記名は宅建士、媒介と代理と免許は宅建業者。この二語を混ぜないだけで、両資格の関係を説明するときの精度が変わります。行政書士と組み合わせる相手は、正確には宅建業者のほうです。
理解度チェッククイズ
次の記述の正誤を判定してください。
問1. 行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類のほか、権利義務または事実証明に関する書類を作成することを業とすることができるが、その業務を行うことが他の法律において制限されているものについては業務を行うことができない。
答えは正しい記述です。行政書士法1条の3第1項が官公署に提出する書類その他権利義務または事実証明に関する書類(実地調査に基づく図面類を含む)の作成を業とすると定め、同条2項が「前項の書類の作成であつても、その業務を行うことが他の法律において制限されているものについては、業務を行うことができない」と定めています。相続登記の申請書が司法書士法3条1項の、相続税の申告書が税理士法2条1項の対象になるのは、この2項が働く場面です。なお、この条番号は令和7年法律第65号により2026年1月1日から現在の形になっており、それ以前は1条の2でした。
問2. 行政書士の登録を受けた者は、不服申立ての手続について代理する業務を当然に行うことができる。
答えは誤りです。行政書士法1条の4第1項第2号が許認可等に関する審査請求等の不服申立て手続の代理を掲げていますが、同条2項が「前項第二号に掲げる業務は、当該業務について日本行政書士会連合会がその会則で定めるところにより実施する研修の課程を修了した行政書士(以下「特定行政書士」という。)に限り、行うことができる」と定めています。研修を修了して特定行政書士とならなければ、この業務は行えません。同項の他の三号(提出手続の代理、契約書等の代理作成、相談)にはこの限定がありません。
問3. 市街化区域内にある農地を宅地に転用する目的で売買する場合、都道府県知事等の許可を受けなければならない。
答えは誤りです。農地法5条1項6号が、市街化区域内にある農地について、政令で定めるところによりあらかじめ農業委員会に届け出て農地以外のものにするためこれらの権利を取得する場合を、許可を要しない場合として定めています。4条1項7号が自己転用について同じ扱いを置いており、市街化区域内では許可ではなく農業委員会への事前の届出で足ります。市街化区域外であれば5条1項本文により都道府県知事等の許可が必要です。
問4. 行政書士は事務所を二以上設けてはならないが、宅地建物取引業者は複数の事務所を設けることができる。
答えは正しい記述です。行政書士法8条1項が事務所を設ける義務を定め、同条2項が「行政書士は、前項の事務所を二以上設けてはならない」と明記しています。同条3項により、他の行政書士や行政書士法人の使用人である行政書士は事務所を設けられません。一方、宅地建物取引業法3条1項は、二以上の都道府県の区域内に事務所を設置する場合は国土交通大臣、一の都道府県内にのみ設置する場合は当該都道府県知事の免許とする区分を置いており、複数の事務所を持つことが前提になっています。ただし31条の3第1項と施行規則15条の5の3により、事務所ごとに業務に従事する者の5分の1以上の割合で成年者である専任の宅建士を置く必要があります。
問5. 宅地建物取引業者が事務所ごとに公衆の見やすい場所に掲示しなければならないのは、その業者が実際に受け取る報酬の額である。
答えは誤りです。宅地建物取引業法46条4項が掲示を義務づけているのは「第一項の規定により国土交通大臣が定めた報酬の額」、つまり告示で定められた上限額です。自分が受ける報酬の額を掲示するのは行政書士のほうで、行政書士法10条の2第1項が「その事務所の見やすい場所に、その業務に関し受ける報酬の額を掲示しなければならない」と定めています。行政書士の報酬には法定の上限がなく、掲示によって開示させる仕組みになっている点が宅建業者との違いです。46条4項の違反は83条1項2号により50万円以下の罰金の対象です。
まとめ
- 行政書士の業務は行政書士法1条の3(書類の作成)と1条の4(提出手続の代理、不服申立ての代理、契約書等の代理作成、相談)に定められています。この条番号は令和7年法律第65号により2026年1月1日から現在の形になったもので、それ以前の1条の2・1条の3のまま説明している資料が多く残っています。不服申立ての代理は1条の4第2項により特定行政書士に限られます。
- 宅建士に割り当てられているのは35条の重要事項の説明と、35条5項・7項および37条3項の記名です。媒介や代理は3条1項の免許を受けた宅地建物取引業者の業務であり、宅建士の独占業務ではありません。行政書士が官公署に向き、宅建士が取引の相手方に向くという方向の違いが、二つが競合しない理由です。
- 兼業では、行政書士法8条2項が事務所を二以上設けることを禁じている点、宅地建物取引業法31条の3が事務所ごとに専任の宅建士を求めている点、報酬額の掲示が行政書士法10条の2第1項では自分の額、宅地建物取引業法46条4項では大臣が定めた上限額である点が、実務上の分かれ目になります。
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