宅建試験の合格率推移|公表10年分の読み方
機構が公表する10年分12件の実測値から、合格率という指標そのものを検証。分母を受験者から申込者に変えると15.0%になること、2回実施年度を合算すると上昇が単調でなくなることを計算して示します。
目次
この記事は、宅建(宅地建物取引士)試験の合格率について、その数字が何を測っているのかを扱います。合格率を使って何かを説明する記事は別にあります。合格基準点の動きは「宅建試験の合格ライン」、受験者の属性は「宅建の受験者データ」、他資格との比較を含む難易度の評価は「宅建試験の難易度と合格率」です。ここではその手前、指標の定義と計算と限界に絞ります。
結論を先に述べます。「宅建試験の合格率は18.7%」という文の情報量は、思われているより小さいです。理由が3つあります。
第一に、分母が受験者数だからです。申込者数を分母に取り直すと15.0%になります。この差は約2割の当日欠席から生じており、10年分を計算すると12.4%から15.0%という別の系列が現れます。
第二に、2回実施された年度があるからです。令和2年度と令和3年度は10月と12月に分かれており、どちらを使うか、合算するかで傾向が変わります。年度合計で計算すると、合格率は10年のうち2回下がっています。「一貫して上昇している」という説明は、この2回を落としています。
第三に、「合格率」と「必要正答率」が別物だからです。18.7%は合格率、66.0%は必要正答率です。どちらもパーセントで表示されるため混同されますが、測っているものが違います。
以下、機構の公表値12件を並べたうえで、この3点を順に計算します。
この記事が使えるデータの範囲
出典は機構の「試験実施概況(令和7年度以前10年間)」
使う数値は、不動産適正取引推進機構が公表している「試験実施概況(令和7年度以前10年間)」です。申込者数、受験者数、合格者数、合格率、合格基準点(一般受験者と登録講習修了者の2種類)が年度ごとに載っています。
10年より前は一次情報に当たれない
先に制約を明示します。機構が公表しているのは直近10年分のローリング資料であり、それより前の年度は同じ形では取得できません。この記事が扱えるのは平成28年度から令和7年度までです。
合格率の推移を扱う記事のなかには、平成初期や2000年代の数字を並べているものがあります。それらが誤りだと言いたいのではなく、この記事の方法では検証できないというだけです。検証できない数値は載せません。したがってこの記事のグラフは10年で始まり10年で終わります。
この制約自体に意味があります。20年、30年の推移を語る記事に出会ったら、その数字の出所を確認する価値があるということです。
2回実施の年度があるので、10年度分でも12件になる
もうひとつの構造的な事情があります。令和2年度と令和3年度は、新型コロナウイルス感染症の影響で会場の収容人数が制限され、一部の受験者が12月試験に振り分けられました。このため10年度分の資料に12件のデータが載っています。
12月試験は独立した回として、申込者数から合格基準点まで別建てで公表されています。この2年度をどう数えるかが、後述するとおり傾向の読み方を左右します。
公表値は自分で検算できる
合格率は「合格者数÷受験者数」で計算されており、公表されている合格率と自分の計算が一致するかを確かめられます。12件すべてについて計算したところ、公表値と一致しました。たとえば令和7年度は45,821÷245,462=18.67%で、公表値18.7%と整合します。平成28年度は30,589÷198,463=15.41%で、公表値15.4%です。
検算が通るということは、公表されている合格率に調整や丸め以外の操作が入っていないことを意味します。この確認をしておくと、以下で自分の計算した派生指標を信頼できます。統計数値の扱い方そのものは「統計問題の対策」でも触れています。
公表されている12件の実測値
数字を並べます。以下、順に「申込者数/受験者数/合格者数/合格率/合格基準点(かっこ内は登録講習修了者)」の順です。
平成28年度から平成30年度
平成28年度は245,742人/198,463人/30,589人/15.4%/35点(30点)。平成29年度は258,511人/209,354人/32,644人/15.6%/35点(30点)。平成30年度は265,444人/213,993人/33,360人/15.6%/37点(32点)。
この3年度は合格率が15%台で揃っています。一方で基準点は35点、35点、37点と動いており、合格率が動かないまま基準点だけが2点上がった年があることがここで既に見えます。
令和元年度から令和3年度
令和元年度は276,019人/220,797人/37,481人/17.0%/35点(30点)。前年から合格率が1.4ポイント上がっています。
令和2年度は2回に分かれます。10月試験が204,163人/168,989人/29,728人/17.6%/38点(33点)。12月試験が55,121人/35,261人/4,610人/13.1%/36点(31点)。この38点が10年で最も高い基準点、13.1%が10年で最も低い合格率です。
令和3年度も2回です。10月試験が256,704人/209,749人/37,579人/17.9%/34点(29点)。12月試験が39,814人/24,965人/3,892人/15.6%/34点。令和3年度12月試験だけは登録講習修了者の基準点が公表されていません。免除の対象者が12月試験には割り振られなかったためと考えられます。
令和4年度から令和7年度
令和4年度は283,856人/226,048人/38,525人/17.0%/36点(31点)。令和5年度は289,096人/233,276人/40,025人/17.2%/36点(31点)。令和6年度は301,336人/241,436人/44,992人/18.6%/37点(32点)。令和7年度は306,099人/245,462人/45,821人/18.7%/33点(28点)。
令和7年度の33点は、10年で最も低い基準点です。そして合格率18.7%は10年で最も高い値です。この組み合わせが、合格率と基準点が別々に動くことを最もはっきり示しています。
分母を変えると数字が変わる
ここから、公表値をもとに自分で計算した数字を扱います。第一の論点が分母です。
公表される合格率は受験者を分母にしている
機構の資料は合格率を「c/b」、すなわち合格者数÷受験者数として定義しています。令和7年度の18.7%は、試験会場に来た245,462人のうち45,821人が合格したという意味です。
これは自然な定義です。試験を受けていない人を分母に入れると、試験の難しさとは別の要因が混ざります。ただし「自分が合格する確率」を考えるときには、必ずしもこの分母が適切とは限りません。
申込者を分母にすると15.0%になる
申込者数を分母に取り直します。令和7年度は45,821÷306,099で15.0%です。公表値18.7%との差は3.7ポイントあります。
差が生じる理由は明快で、申込者306,099人のうち60,637人、約2割が受験していないからです。受験率は80.2%です。受験率そのものの分析は「宅建の受験者データ」が、申込から当日までの流れは「宅建の試験日から逆算する年間スケジュール」と「宅建試験の申し込み方法」が扱っているので、ここでは分母への影響だけを見ます。
10年分を計算すると、もうひとつの系列が現れる
申込者を分母にした合格率を、12件すべてについて計算します。
平成28年度12.4%、平成29年度12.6%、平成30年度12.6%、令和元年度13.6%、令和2年度10月14.6%、令和2年度12月8.4%、令和3年度10月14.6%、令和3年度12月9.8%、令和4年度13.6%、令和5年度13.8%、令和6年度14.9%、令和7年度15.0%。
通常回だけを見ると、12.4%から15.0%へ、10年で2.6ポイント上がっています。公表される合格率が15.4%から18.7%へ3.3ポイント上がったのと、方向は同じです。比率でいえばどちらも約21%の上昇で、受験率が安定しているため、2つの系列はほぼ平行に動いています。
追加実施回では差がさらに開く
例外が2件あります。令和2年度12月試験は申込者ベースで8.4%、令和3年度12月試験は9.8%です。公表値の13.1%、15.6%と比べて4.7ポイント、5.8ポイントも低くなっています。
理由は受験率です。令和2年度12月は35,261÷55,121で64.0%、令和3年度12月は24,965÷39,814で62.7%でした。通常回が80%前後で安定しているのに対し、追加実施回だけが60%台前半に落ちています。10月試験を予定していた人が12月に振り分けられた回であり、当日までの事情が変わった人が多かったと推測されますが、機構は理由を公表していません。
分母を変えると、この2件の異質さが公表値よりも鮮明に出ます。指標を1つしか見ないと、母集団の性質の違いを見落とすという一般的な教訓がここにあります。
どちらの数字を使うべきか
結論から言えば、目的によります。
試験の難しさを他年度や他資格と比べるなら、受験者ベースが適切です。当日欠席という、試験の内容とは無関係な要因が混ざらないからです。他資格と比較する場合は、相手側の合格率も受験者ベースかどうかを確認する必要があります。
一方、「これから申し込む自分が1年後に合格している確率」を粗く見積もるなら、申込者ベースのほうが実態に近くなります。申し込んだ人の集団に自分を置いたとき、約2割は当日そこにいません。
どちらが正しいという話ではなく、18.7%と15.0%が同じ現象の別の切り口だということを知っていれば十分です。数字が食い違う記事に出会ったとき、分母を確認すれば説明がつきます。
2回実施の年度をどう数えるか
第二の論点です。ここは扱い方によって結論が変わるため、慎重に見ます。
3つの数え方がある
令和2年度と令和3年度について、数え方が3通りあります。10月試験だけを使う。12月試験だけを使う。年度で合算する。
多くの記事は1つ目を採用しています。12月試験は受験者数が通常回の6分の1程度と小さく、性質も違うためです。この扱いには合理性があります。
年度で合算した数字
合算した場合の数字を出しておきます。
令和2年度は、申込者259,284人、受験者204,250人、合格者34,338人。合格率は34,338÷204,250で16.8%です。受験率は78.8%、申込者ベースの合格率は13.2%になります。
令和3年度は、申込者296,518人、受験者234,714人、合格者41,471人。合格率は41,471÷234,714で17.7%です。受験率は79.2%、申込者ベースは14.0%です。
数え方で傾向が変わる
ここが重要です。年度単位で合算した合格率を並べます。
平成28年度15.4%、平成29年度15.6%、平成30年度15.6%、令和元年度17.0%、令和2年度16.8%、令和3年度17.7%、令和4年度17.0%、令和5年度17.2%、令和6年度18.6%、令和7年度18.7%。
前年差を取ると、順に「+0.2、±0.0、+1.4、マイナス0.2、+0.9、マイナス0.7、+0.2、+1.4、+0.1」です。
10年のうち2回、合格率は前年より下がっています。令和2年度が令和元年度から0.2ポイント、令和4年度が令和3年度から0.7ポイントです。「合格率は一貫して上昇している」という説明は、この2回を落としています。
上昇のほとんどは2回のジャンプで作られている
もうひとつ、前年差の並びから見えることがあります。+1.4ポイントという大きな動きが2回だけあり(令和元年度と令和6年度)、それ以外の年は±0.7ポイント以内に収まっています。
10年間の上昇幅3.3ポイントのうち、2.8ポイントがこの2回で説明できます。つまり合格率は、なだらかな坂を上がってきたのではなく、8年間の踊り場と2回の段差でできています。
なぜその2年度に段差が生じたのかを、機構は説明していません。事実として段差があることを押さえるにとどめ、理由を推測して書くことはしません。
この記事の扱い
以上を踏まえ、この記事では次のようにします。通常回どうしの比較には10月試験の数値を使い、年度の傾向を語るときは合算値も併記します。片方だけを使うと、上で見た2回の低下が見えなくなるためです。
合格率の変化を人数に換算する
3.3ポイントという上昇幅は、割合で聞くと小さく感じます。人数に直しておきます。
同じ受験者数に過去の合格率を当てはめる
令和7年度の受験者245,462人に、過去の合格率を当てはめて合格者数を計算します。
平成28年度の15.4%なら37,801人。平成30年度の15.6%なら38,292人。令和元年度の17.0%なら41,729人。実際の令和7年度は45,821人でした。
平成28年度の水準のままだったとすれば、合格者は8,020人少なかったという計算になります。3.3ポイントという数字は、24万人規模の母集団では8千人分に相当します。
逆向きにも計算しておく
反対に、平成28年度の受験者198,463人に令和7年度の18.7%を当てはめると37,113人です。実際の平成28年度の合格者は30,589人でしたから、6,524人の差になります。
どちらの向きから見ても、合格率の3.3ポイントは無視できる大きさではありません。合格者数が10年で約1.50倍になった要因のうち、受験者数の増加(24%増)で説明できない部分が、この合格率の上昇分です。
ただし人数が増えても順位は変わらない
人数換算をしておく理由は、割合の変化を過小評価しないためです。ただし、これを「自分が受かりやすくなった」と読むのは別の話になります。
合格者が8千人増えたのは、その分だけ線が下に引かれたからです。線が下がれば、同じ実力でも内側に入る人は増えます。しかし線がどこに引かれるかは自分では動かせません。自分が動かせるのは分布の中での位置だけです。合格までの組み立ては「宅建の合格戦略」、落ちる要因の分析は「宅建に落ちる原因」で扱っています。
前半5回と後半5回で平均を取る
上昇を別の形でも確認しておきます。通常回10件を前半5回(平成28年度から令和2年度10月)と後半5回(令和3年度10月から令和7年度)に分けて平均を取ると、前半16.24%、後半17.88%で、差は1.64ポイントです。
前年差で見ると2回の低下が混じって上下しますが、5回ずつの平均に均すと水準は確かに切り上がっています。短期の上下と長期の傾向は、同じデータから別々に読み取れるということです。
「合格率」と「必要正答率」は別物
第三の論点です。どちらもパーセントで表されるため混同されますが、測っているものが違います。
18.7%と66.0%
令和7年度について、2つのパーセントがあります。合格率18.7%は、受験者のうち何割が合格したか。必要正答率66.0%は、合格するために50問中何割の正解が必要だったか。33÷50で66.0%です。
前者は競争の激しさを、後者は問題の難しさに対する到達水準を表します。片方が上がればもう片方が下がる、といった単純な関係にはありません。令和6年度は合格率18.6%で必要正答率74.0%、令和7年度は合格率18.7%で必要正答率66.0%でした。合格率がほぼ同じでも、必要正答率は8ポイント違います。
10年分の必要正答率
一般受験者の必要正答率を並べます。平成28年度70.0%、平成29年度70.0%、平成30年度74.0%、令和元年度70.0%、令和2年度10月76.0%、令和2年度12月72.0%、令和3年度10月68.0%、令和3年度12月68.0%、令和4年度72.0%、令和5年度72.0%、令和6年度74.0%、令和7年度66.0%。
最も低いのが令和7年度の66.0%、最も高いのが令和2年度10月試験の76.0%です。幅は10ポイントあります。合格率の幅が3.3ポイント(追加実施回を除く)であることと比べると、必要正答率のほうが3倍近く大きく動いています。
この対比は実務的な意味を持ちます。予測が難しいのは点数のほうであり、割合のほうではありません。目標点の置き方は「宅建試験の合格ライン」で扱っています。
「6割で受かる」という言い方が成立しない理由
50問の6割は30点です。10年12件のうち、基準点が30点だった回はひとつもありません。最も低い令和7年度でも33点です。
6割という表現は、絶対評価で60%以上を合格とする他の試験から連想されたものと考えられます。宅建試験の必要正答率は10年間66.0%から76.0%の範囲にあり、通常回10件の中央値は71.0%、平均は71.2%です。目標を置くなら7割ではなく、上振れした年に対応できる水準を見ておく必要があります。
基準点の分布を見ると、真ん中がどこかが分かる
必要正答率の元になる基準点そのものの分布も出しておきます。通常回10件を点数ごとに数えると、33点が1回、34点が1回、35点が3回、36点が2回、37点が2回、38点が1回です。追加実施回2件(令和2年度12月の36点、令和3年度12月の34点)を加えた12件でも、35点と36点が各3回で最も多くなります。
最頻値は35点、中央値は35.5点、平均は35.6点。分布はきれいな山型ではありませんが、35点から37点のあたりに7割が集まっています。
ここから2つ言えます。ひとつは、35点前後を「例年の水準」と呼ぶこと自体は事実に反しないということ。もうひとつは、その例年の水準を目標に置くと、10年のうち3回(37点が2回と38点が1回)は届かなかったということです。中央値を目標にすれば、およそ半分の年で落ちます。分布の真ん中を知ることと、そこを目標にすることは別の判断です。
満点が2種類あるので、率も2種類ある
登録講習を修了した5問免除者は、45問を解いて別の基準点で判定されます。ここにも計算で確かめられることがあります。
基準点の差は、11回すべてで正確に5点
一般受験者と登録講習修了者の基準点の差を、公表されている11回(令和3年度12月試験は免除の公表なし)すべてについて取りました。平成28年度35点と30点、平成29年度35点と30点、平成30年度37点と32点、令和元年度35点と30点、令和2年度10月38点と33点、令和2年度12月36点と31点、令和3年度10月34点と29点、令和4年度36点と31点、令和5年度36点と31点、令和6年度37点と32点、令和7年度33点と28点。
例外なく5点差です。免除される5問を全問正解したものとみなして加算しているのではなく、基準点から5点を引く運用がされていることが、この一致から読み取れます。
分母が違うので、必要正答率は一致しない
ここが計算しないと気づかない点です。5点を引くだけなら公平に見えますが、分母が50から45に減っているため、必要正答率は一致しません。
令和7年度で計算します。一般受験者は33÷50で66.0%。登録講習修了者は28÷45で62.2%。3.8ポイント、免除者のほうが低くなっています。
11回すべてで計算すると、差は2.7ポイントから3.8ポイントの範囲にあり、一度も逆転していません。最も差が小さいのは令和2年度10月試験の2.7ポイント、最も大きいのが令和7年度の3.8ポイントです。基準点が低い年ほど差が開きます。
つまり、免除者は残る45問について、一般受験者より低い正答率で合格できるという構造になっています。ただしこれは免除者が有利かどうかの結論とは別です。免除される5問は施行規則8条1号と5号の範囲であり、免除を受けない人にとっては得点しやすい問題が含まれる領域でもあるからです。制度の中身は「宅建の5問免除」、免除を使わない場合の対策は「5問免除科目の攻略」で扱っています。
合格者に占める登録講習修了者の割合が答えていないこと
令和7年度について、合格者に占める登録講習修了者の割合は24.2%と公表されています。この数字の読み方に注意が必要です。
これは合格者の内訳であって、登録講習修了者の合格率ではありません。修了者の合格率を出すには、修了者が何人受験したかという母数が要ります。その数値がこの資料からは得られない以上、「5問免除者は合格率が高い」という命題は、この数字からは導けません。
24.2%から言えるのは、合格者のおよそ4人に1人が免除を使った受験者だった、という事実だけです。逆に約4分の3は免除を使っていません。
前年の数字から翌年を予測できるか
推移を扱う記事である以上、この問いに答えておきます。
系列は階段ではない
前年差の並びをもう一度見ます。+0.2、±0.0、+1.4、マイナス0.2、+0.9、マイナス0.7、+0.2、+1.4、+0.1。
符号が2回反転し、変化幅は0.0から1.4ポイントまで散らばっています。規則性を見出せる形ではありません。仮に「前年が大きく上がった翌年は下がる」という仮説を立てても、令和元年度の+1.4の翌年はマイナス0.2で当たりますが、令和6年度の+1.4の翌年は+0.1で外れます。2例では検証にもなりません。
上昇が続くという前提を置かない
令和6年度18.6%、令和7年度18.7%と2年続けて18%台だったことから、令和8年度も18%台またはそれ以上と考えたくなります。しかし10年の系列には低下が2回含まれており、上昇が保証されているわけではありません。
そもそも合格率がどう決まるのかについて、機構は判定の方法を公表していません。結果として一定の幅に収まっているという事実が観測されるだけで、目標値が設定されていることが公表されているわけではありません。この点は「宅建試験の難易度と合格率」でも同じ整理をしています。
予測できないことの実務的な意味
合格率が18%でも15%でも、受験者本人がやることは変わりません。上位に入る以外の合格方法がないからです。
むしろ実務的に効くのは、合格率ではなく必要正答率の幅のほうです。66.0%から76.0%まで10ポイント動く以上、下限に合わせた準備では上振れした年に届きません。得点計画の立て方は「宅建の科目別攻略法」、進捗の測り方は「宅建の勉強時間」で扱っています。
自分がいまどのあたりにいるかを知る手段は、公表データの側にはありません。得点分布が公表されていない以上、本番と同じ条件で通しを解いて相対的な位置を推定するしかありません。その方法は「模試の活用法」に、弱点の切り分けは「宅建の弱点克服法」にまとめてあります。
10年で変わったものと変わらなかったもの
推移をまとめる形で、動いた指標と動かなかった指標を分けます。
動いたもの
申込者数は245,742人から306,099人へ、60,357人増えました。率にして25%増です。受験者数は198,463人から245,462人へ、46,999人増えました。24%増です。合格者数は30,589人から45,821人へ、15,232人増えました。約1.50倍です。
合格者数の伸び率が受験者数の伸び率を上回っているのは、その差が合格率の上昇分にあたるためです。3つの数字が整合していることが、ここでも確認できます。
動かなかったもの
受験率は、通常回のすべてで79%台後半から82%台に収まっています。10年前も今も、申し込んだ人の約2割が試験会場に来ません。この安定は、申込者ベースと受験者ベースの2つの合格率がほぼ平行に動く理由でもあります。
基準点の上下幅も、傾向としては動いていません。33点から38点という6点の幅のなかを往復しており、年を追って上がっているとも下がっているとも言えません。10年の前半(平成28年度から令和元年度)が35、35、37、35。後半(令和4年度から令和7年度)が36、36、37、33。幅の中で動いているだけです。
数字がない領域
最後に、この資料から分からないことを挙げておきます。得点分布は公表されていません。何点の人が何人いたかが分からないため、自分の点数が上位何パーセントに当たるかを事後に計算することはできません。科目別の平均点も公表されていません。登録講習修了者の受験者数も、この資料には含まれていません。
公表されているのは、申込・受験・合格の人数と、基準点だけです。これ以上の分析は、公表されていない数値を推測することになります。自己採点の扱い方は「自己採点のやり方」を参照してください。
他の試験と比べるときに揃えるもの
合格率は資格どうしの比較に使われがちです。比較の当否そのものは「宅建試験の難易度と合格率」が扱っているので、ここでは揃えないと比較にならない条件だけを挙げます。この記事で分母の話をした延長線上にあるためです。
分母が受験者か申込者か
第一に分母です。宅建の18.7%は受験者ベースです。相手側の資格が申込者ベースで公表していれば、その時点で比較になりません。宅建を申込者ベースに直すと15.0%であり、同じ試験の同じ年でも3.7ポイント動きます。この幅は、資格間の差として語られる幅と同じくらいの大きさです。
受験資格の有無
第二に母集団の入口です。宅建試験には受験資格がありません。年齢も学歴も実務経験も問われず、誰でも申し込めます。受験資格に実務経験年数や一次試験の合格を課している資格では、そもそも母集団が絞り込まれた後の数字になります。
入口が開いている試験ほど、準備が十分でない層が母集団に含まれます。合格率が低いことが、必ずしも問題が難しいことを意味しないのはこのためです。
複数回受験の扱い
第三に、母集団に何度目の受験者が含まれるかです。宅建試験は受験回数の制限がなく、前年に不合格だった人も同じ母集団に入ります。機構は受験回数別のデータを公表していないため、初回受験者と再受験者の比率は分かりません。
この3点を揃えられない限り、合格率どうしの直接比較は成立しません。比べるなら、合格率ではなく試験の形式(出題数、試験時間、絶対評価か相対評価か、科目合格制度の有無)を並べるほうが実質的です。
試験での出題ポイント
はじめに明確にしておきます。この記事で扱った合格率や受験者数は、宅建試験に出題されません。問48で問われる統計は、地価公示、住宅着工統計、法人企業統計、土地白書といった不動産市場の統計であって、試験そのものの実施結果ではありません。最新の数値は「統計問題の最新データ」に、地価公示の制度そのものは「地価公示」にまとめてあります。
一方で、この記事に関連して出題される制度があります。
登録講習と5問免除は条文で問われる
宅建業法16条3項は、国土交通大臣の登録を受けた登録講習機関が行う登録講習の課程を修了した者について、試験の一部を免除すると定めています。具体的な範囲と期間は施行規則10条の14にあり、登録講習修了試験に合格した日から3年以内に行われる試験について、施行規則8条1号および5号に掲げる事項を免除します。
出題されるのは、3年の起算点(修了証の交付日でも受講日でもなく、修了試験に合格した日)と、受講できる者の範囲(宅地建物取引業に従事している者に限られ、宅建業者が発行する従業者証明書が必要)です。免除される科目数が5問であることや、45問を1時間50分で解くことも問われます。
統計の数値と試験結果の数値を混同しない
統計問題の対策をしていると数字を大量に覚えることになりますが、そこに合格率や受験者数を混ぜないでください。出題対象の統計は毎年更新されるもので、覚える時期も直前期です。試験の実施結果は出題対象ではないので、暗記の対象に含める必要がありません。
数字の出所を確認する習慣は問48に効く
この記事で行った「公表値を自分で検算する」「分母を確認する」という作業は、統計問題そのものにも効きます。統計問題では、増加と減少を入れ替える、前年比と前年度比を入れ替える、全国と地方の数値を入れ替えるといった作り方がされます。数字を覚えるだけでなく、それが何を分母にした何年の数字かを併せて覚えると、入れ替えに気づけます。
覚え方・整理の仕方
「率」を見たら分母を聞く
18.7%、15.0%、66.0%、62.2%、80.2%、24.2%。この記事に出てきたパーセントはすべて分母が違います。数字を覚えるのではなく、分母とセットで覚えてください。合格率は受験者、必要正答率は問題数、受験率は申込者、24.2%は合格者。分母を言えれば、その数字で何が言えるかも決まります。
10年で「3つの数字」だけ覚える
推移の全体を覚える必要はありません。下限、上限、直近の3点で足ります。合格率は下限15.4%(平成28年度)、上限18.7%(令和7年度)、直近18.7%。基準点は下限33点(令和7年度)、上限38点(令和2年度10月)、直近33点。この6つの数字があれば、記事や広告に出てくる数字が範囲内かどうかを判定できます。
令和2年度と令和3年度は「2回ある年」と覚える
12件という件数の違和感は、この2年度で説明がつきます。コロナ禍で10月と12月に分かれた2年度があると覚えておけば、資料の行数が合わないときに迷いません。そして12月試験は受験者数が通常回の6分の1程度で、受験率も60%台と性質が違うので、傾向を語るときは別扱いにします。
「合格率が上がった」を「受かりやすくなった」に翻訳しない
10年で3.3ポイント上がったのは事実です。しかし同じ期間に受験者は4万7千人増えています。割合が上がっても、上位に入るという条件は変わりません。そして必要正答率は66.0%から76.0%まで動き続けています。翻訳するなら「受かりやすくなった」ではなく「割合の水準が切り上がった」までにとどめてください。
出所のない数字を見分ける
10年より前の数字、得点分布、科目別平均点、登録講習修了者の合格率。これらは機構の公表資料には含まれていません。記事や広告でこれらを見かけたら、出所を確認する価値があります。この判別ができること自体が、統計を扱う科目の下地になります。
理解度チェッククイズ
Q1. 令和7年度の宅建試験の合格率は18.7%であり、これは申込者306,099人のうち45,821人が合格したことを示している。
答えを見る
×:**分母が違います。**機構が公表する合格率は合格者数÷**受験者数**で計算されています。令和7年度は45,821÷245,462=18.67%で、公表値18.7%と一致します。申込者306,099人を分母に取り直すと45,821÷306,099=**15.0%**になり、公表値より3.7ポイント低くなります。差が生じるのは、申込者のうち60,637人、約2割が受験していないためです(受験率80.2%)。10年分を計算すると、申込者ベースの合格率は平成28年度12.4%から令和7年度15.0%へと推移しており、受験率が安定しているため受験者ベースの系列とほぼ平行に動いています。Q2. 直近10年間で、宅建試験の合格率が前年より下がった年度は一度もない。
答えを見る
×:**2回下がっています。**2回実施された令和2年度と令和3年度を年度単位で合算して並べると、平成28年度15.4%、平成29年度15.6%、平成30年度15.6%、令和元年度17.0%、**令和2年度16.8%**、令和3年度17.7%、**令和4年度17.0%**、令和5年度17.2%、令和6年度18.6%、令和7年度18.7%となります。令和2年度は前年から0.2ポイント、令和4年度は前年から0.7ポイント下がっています。また前年差を並べると、+1.4ポイントという大きな動きが令和元年度と令和6年度の2回だけあり、10年間の上昇幅3.3ポイントのうち2.8ポイントがこの2回で説明できます。**なだらかな上昇ではなく、踊り場と2回の段差でできた系列です。**Q3. 令和7年度の合格基準点は一般受験者が50問中33点、登録講習修了者が45問中28点であった。両者の差は5点なので、合格に必要な正答率も等しい。
答えを見る
×:**分母が違うため、必要正答率は一致しません。**一般受験者は33÷50=66.0%、登録講習修了者は28÷45=**62.2%**で、3.8ポイント免除者のほうが低くなります。なお、基準点の差が5点であること自体は正確で、公表されている11回(令和3年度12月試験は登録講習修了者の基準点の公表なし)すべてで例外なく5点差でした。免除される5問を全問正解したものとみなすのではなく、基準点から一律に5点を引く運用がされていることが読み取れます。差は2.7ポイントから3.8ポイントの範囲にあり、11回とも免除者のほうが低く、一度も逆転していません。基準点が低い年ほど差が開きます。Q4. 令和7年度試験の合格者に占める登録講習修了者の割合は24.2%であった。このことから、登録講習修了者は一般受験者より合格率が高いといえる。
答えを見る
×:**言えません。**24.2%は**合格者の内訳**であって、登録講習修了者の合格率ではありません。修了者の合格率を計算するには、修了者が何人受験したかという母数が必要ですが、その数値は機構の公表資料からは得られません。母数が不明である以上、修了者の合格率は算出できず、一般受験者との比較もできません。この数字から言えるのは、合格者のおよそ4人に1人が免除を使った受験者だったという事実だけであり、逆に**約4分の3は免除を使っていない**ということでもあります。Q5. 登録講習を修了した者は、登録講習修了試験に合格した日から3年以内に行われる試験について、5問の免除を受けることができる。
答えを見る
○:宅地建物取引業法16条3項が登録講習の修了者について試験の一部を免除すると定め、同法施行規則10条の14が範囲と期間を具体化しています。期間は**登録講習修了試験に合格した日から3年以内**に行われる試験についてであり、起算点は修了証の交付日でも受講日でもありません。免除の対象は施行規則8条1号(土地の形質等)と5号(宅地建物の需給に関する法令および実務)で、これが問46から問50にあたります。なお登録講習を受講できるのは宅地建物取引業に従事している者に限られ、宅建業者が発行する従業者証明書が必要です(従業者証明書の携帯義務は宅建業法48条1項)。試験時間も異なり、一般受験者が50問を2時間で解くのに対し、免除者は45問を1時間50分で解きます。まとめ
公表されているのは直近10年分だけで、10年度分でも12件ある。令和2年度と令和3年度がコロナ禍で10月と12月の2回に分かれたためである。これより前の年度は同じ形では取得できないので、この記事では扱わない。
公表値は自分で検算できる。12件すべてについて合格者数÷受験者数を計算したところ、公表されている合格率と一致した。
分母を受験者から申込者に変えると、18.7%は15.0%になる。10年分を計算すると12.4%から15.0%という別の系列が現れる。受験率が80%前後で安定しているため2つの系列はほぼ平行に動くが、受験率が60%台に落ちた追加実施回では差が5ポイント以上に開く。
年度単位で合算すると、合格率は10年で2回下がっている。令和2年度と令和4年度である。上昇幅3.3ポイントのうち2.8ポイントは令和元年度と令和6年度の2回のジャンプで説明でき、系列は「なだらかな上昇」ではない。
合格率と必要正答率は別物である。必要正答率は66.0%から76.0%まで10ポイント動いており、合格率の幅3.3ポイントの3倍近い。予測が難しいのは点数のほうである。なお基準点が30点だった回は10年間ひとつもないので、「6割で受かる」は成立しない。
満点が2種類あるので率も2種類ある。基準点の差は11回すべて正確に5点だが、分母が50と45で違うため必要正答率は一致せず、免除者のほうが2.7から3.8ポイント低い。合格者に占める修了者の割合24.2%からは、修了者の合格率は算出できない。
前年の数字から翌年は予測できない。前年差は符号が2回反転しており、規則性がない。予測できないことを前提に、必要正答率の上限側に合わせて準備するほかない。
合格基準点そのものの動きは「宅建試験の合格ライン」、受験者の属性と地域別のデータは「宅建の受験者データ」、他資格との比較は「宅建試験の難易度と合格率」で扱っています。令和8年度の日程と確定情報は「令和8年度宅建試験の日程」にあります。
宅建試験AIブートラボの年度別過去問演習では、ここで扱った各年度の問題を本番と同じ50問の形で解き、自分の得点がその年の基準点に届くかを確認できます。
肢別演習と年度別演習で、立てた学習計画をそのまま実行に移せます。間違えた肢だけを繰り返す復習にも対応しています。