履行の着手りこうのちゃくしゅ
契約の当事者が、客観的に外部から認識し得るような形で履行行為の一部をし、又は履行の提供をするために欠くことのできない前提行為をすることで、判例がこう定義しています。相手方が履行に着手した後は手付による解除ができなくなるので(民法557条1項、宅地建物取引業法39条2項)、手付解除の締め切りを決める区切りになります。
契約の後、買主が中間金を振り込んだ。売主は建物を引き渡し、所有権の登記を移した。こうした、契約で約束したことを実際に果たし始める行為を、履行の着手といいます。手付が交付された売買では、相手方が履行に着手するまでなら、買主は手付を放棄し、売主は倍額を現実に提供して、理由を問わずに契約を解除できます(民法557条1項)。宅地建物取引業者が自ら売主となる売買でも、39条2項が同じ区切りを置いていて、履行に取りかかった相手方が後から契約をやめられて損をしないよう、手付解除のできる期間の終わりを決めています。

履行の着手は、外から見て分かる形で取りかかることです
判例は、履行の着手とは、客観的に外部から認識し得るような形で履行行為の一部をし、又は履行の提供をするために欠くことのできない前提行為をした場合をいうとしています。買主なら中間金や残代金を支払うこと、売主なら物件を引き渡すことや所有権移転の登記をすることが、履行行為の一部に当たります。履行期が来た後に、買主が残代金をいつでも払えるよう用意して売主に引渡しを求めることも、判例は履行の着手に当たるとしています。心の中で準備をしているだけでは相手方から見て分からないので、着手にはなりません。
区切りになるのは、解除される側の着手です
民法557条1項ただし書も宅地建物取引業法39条2項ただし書も、「その相手方が契約の履行に着手した後は」と定めています。解除しようとする者が自分で着手していても、相手方がまだ着手していなければ解除できると、判例は述べています。条文に理由は書いていませんが、ただし書は履行に取りかかって費用や手間をかけた相手方を守るための規定で、自分で着手した者は、その分を承知で解除を選べばよいからと考えられます。業者が自ら売主の売買では、買主が手付を放棄して解除できるのは売主の業者が着手するまでで、業者が倍額を提供して解除できるのは買主が着手するまでです。

業者は、相手方が着手する前の手付解除を拒めません
39条2項は、業者が自ら売主として受け取った手付を、どんな名目でも解約手付として扱い、相手方が履行に着手するまでの解除を認めています。これより買主に不利な特約は無効で(39条3項)、業者は買主の手付放棄による解除を、正当な理由なく拒んだり妨げたりしてはなりません(47条の2第3項、施行規則16条の11第3号)。国土交通省の解釈では、売主が既に契約の履行に着手している場合が、拒んでよい正当な理由に当たるとされています。業者の側から解除するときは、正当な理由は要りませんが、手付の倍額を現実に提供することと、買主がまだ履行に着手していないことが必要です。
宅地建物取引業法 39条2項宅地建物取引業者が、自ら売主となる宅地又は建物の売買契約の締結に際して手付を受領したときは、その手付がいかなる性質のものであつても、買主はその手付を放棄して、当該宅地建物取引業者はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる。ただし、その相手方が契約の履行に着手した後は、この限りでない。
試験ではこう問われる
- 業者が自ら売主の売買で、買主が履行に着手した後は、業者は手付の倍額を現実に提供しても解除できない
- 買主が履行に着手する前なら、業者は正当な理由がなくても、手付の倍額を現実に提供して解除できる。「正当な理由がなければ解除できない」は誤り
- 手付はいかなる性質のものでも、売主の業者が履行に着手するまでの間、買主は手付を放棄して解除できる
- 業者がすでに所有権移転の登記をし、引渡しも済ませているなら、買主からの手付放棄による解除を拒むことができる。拒むことに正当な理由がある
- 履行期の到来後に買主が代金支払の準備をして履行を催告していれば、買主は履行に着手しており、売主は倍額を現実に提供しても解除できない
用語で読んだ論点を、解説つきの肢別演習で確かめられます。無料プランは月300肢まで。