先取特権さきどりとっけん
法律の規定に従い、その債務者の財産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利です(303条)。つまり、法律が決めた種類の債権にだけ当然に付く担保で、契約で設定することはできません。
工務店が家の増築工事をしたのに、施主が代金を払わないまま、ほかの借金も抱えて財産が競売にかけられた。このとき工務店は、ほかの債権者と同じ順番で分け合うだけでは報われません。そこで法律は、一定の種類の債権を持つ人に、債務者の財産から他の債権者に先立って弁済を受ける権利を与えました。これが先取特権です(303条)。抵当権と違って契約で設定するものではなく、法律が決めた債権について当然に生まれる担保物権で、こうした担保を法定担保物権といいます。

法律が決めた債権にだけ生じ、契約では作れません
先取特権を持てるのは、民法その他の法律が定めた原因で生じた債権に限られます(303条)。当事者が「この貸金には先取特権を付ける」と合意しても、先取特権は生まれません。お金を貸しただけの貸金債権は、民法の列挙するどの原因にも当たらないので、先取特権を持てません。条文に理由は書いていませんが、その債権者に先に払うのが公平だと法律が考えた場面、つまり債務者の財産を守ったり増やしたりした人や、生活に欠かせない費用を出した人に絞っていると考えられます。
総財産に及ぶ一般のものと、特定の物に及ぶものがあります
一般の先取特権は、共益の費用、雇用関係、子の監護の費用、葬式の費用、日用品の供給によって生じた債権について、債務者の総財産に及びます(306条)。子の監護の費用は、令和8年4月1日施行の改正で加わりました。動産の先取特権は、不動産の賃貸借や動産の売買などによる債権について、債務者の特定の動産に及びます(311条)。不動産の先取特権は、不動産の保存、不動産の工事、不動産の売買による債権について、債務者の特定の不動産に及びます(325条)。どれも「債務者の」財産が対象なので、借りている人が頼んだ工事でも、建物が貸主のものであれば、工事業者はその建物に先取特権を持てません。

工事の先取特権は、工事の前に登記して効力を保ちます
不動産の工事の先取特権は、効力を保存するために、工事を始める前にその費用の予算額を登記しなければなりません(338条1項)。修理や増築を終えてから、当然に競売の代金から先に受け取れるわけではありません。条文に理由は書いていませんが、先取特権は登記がなくても法律で当然に生じる権利なので、ほかの債権者が知らないうちに先を越されないよう、工事の前に登記で示させていると考えられます。不動産の保存や売買の先取特権も、それぞれ決まった時期に登記して効力を保存します(337条・340条)。

民法 303条先取特権者は、この法律その他の法律の規定に従い、その債務者の財産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
試験ではこう問われる
- 先取特権は法律が定めた債権にだけ生じる法定担保物権。単なる貸金債権の債権者は、債務者の総財産に先取特権を行使できない
- 一般の先取特権が生じるのは、共益の費用・雇用関係・子の監護の費用・葬式の費用・日用品の供給による債権(306条)
- 不動産工事の先取特権は「債務者の不動産」について生じる。賃借人が頼んだ修理でも、建物の所有者が賃貸人なら、修理業者はその建物に先取特権を持たない
- 不動産工事の先取特権は、工事を始める前に費用の予算額を登記しなければ効力を保存できない。修理をしただけで当然に行使できるわけではない(338条1項)
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