宅建と行政書士はどっちが難しい?難易度比較とダブル受験の可否
宅建と行政書士の難易度を、公表された合格率・合格基準・出題形式から比較。合格基準の性格の違い、民法の重なりの深さ、同一年度に併願できるかを出典つきで整理します。
目次
本記事の役割 — この記事は「試験としての難易度と制度の違い」に絞って比較します。
業務内容や独立開業での組み合わせ方は行政書士と宅建のダブルライセンス、
他資格も含めた組み合わせの全体像は宅建とダブルライセンス|相性の良い資格5選にまとめています。
宅建(宅地建物取引士資格試験)と行政書士試験は、どちらも受験資格がなく、法律を扱い、秋に実施されます。「どちらが難しいのか」「同じ年に両方受けられるのか」は繰り返し検索される問いですが、答えは単純な合格率の大小では出ません。
先に結論を述べます。第一に、公表されている合格率と合格者数を見る限り、行政書士のほうが厳しい試験です。令和7年度の合格率は宅建が18.7%、行政書士が14.54%でした。第二に、しかし難しさの体感を大きく分けているのは合格率ではなく合格基準の性格です。宅建は毎年の合格点が動く仕組み、行政書士は満点に対する割合で基準が定められ、さらに科目ごとの基準点(いわゆる足切り)がある仕組みで、この違いが対策の設計をまるごと変えます。第三に、同一年度の併願は日程上は可能ですが、令和8年度は両試験の間隔が3週間しかありません。成立する条件はかなり限られます。
以下、公表資料にあたって確認できた数値と制度の内容だけを使って、順に説明します。本記事に載せた数値には、すべて出典と公表時期を添えています。
数字で見た難易度差
まず、両試験の直近の結果を確認します。
令和7年度の実施結果
宅建試験は、一般財団法人不動産適正取引推進機構が実施しています。同機構「令和7年度宅地建物取引士資格試験結果の概要」(令和7年11月26日公表)によると、令和7年10月19日に実施された試験の申込者数は306,099人、受験者数は245,462人、受験率は80.2%、合格者数は45,821人、合格率は18.7%でした。合格判定基準は50問中33問以上の正解です。登録講習修了者に限ると合格率は24.2%、判定基準は45問中28問以上でした。
行政書士試験は、一般財団法人行政書士試験研究センターが実施しています。同センター「令和7年度行政書士試験実施結果の概要」(令和8年1月28日公表)によると、令和7年11月9日に実施された試験の受験申込者数は63,845人、受験者数は50,163人、受験率は78.57%、合格者数は7,292人、合格率は14.54%でした。合格者の平均得点は197点です。
合格率だけを並べれば、宅建18.7%に対して行政書士14.54%となります。
合格率の推移
単年の数字は振れます。行政書士試験研究センターが公表している最近10年間の推移によると、行政書士試験の合格率は平成28年度9.95%、平成29年度15.72%、平成30年度12.70%、令和元年度11.48%、令和2年度10.72%、令和3年度11.18%、令和4年度12.13%、令和5年度13.98%、令和6年度12.90%、令和7年度14.54%と動いています。10%を下回った年から15%台の年まで、5ポイント以上の幅があります。
宅建試験の合格率は、2010年代の15%台から近年は18%台へ切り上がりました。令和6年度18.6%、令和7年度18.7%です。推移の詳細と読み方は宅建試験の合格率推移で扱っています。
つまり両者の差は、年によって3ポイント程度から8ポイント程度まで開きがあり、常に一定の差があるわけではありません。行政書士の令和7年度14.54%と宅建の平成28年前後の15%台を並べれば、ほとんど差がない年もあったことになります。
合格率だけで比較できない理由
より重要なのは、合格率が受験者集団の性質に強く依存する指標だという点です。
宅建試験の受験者数は令和7年度で245,462人、行政書士試験は50,163人でした。宅建は行政書士のおよそ5倍の規模です。宅建は不動産業に従事する人が勤務先から受験を求められて申し込むケースが多く、準備の程度に大きなばらつきがある集団になります。一方の行政書士は、受験に費用も時間もかかるうえ実務上の必置要件がないため、自発的に選んで受ける人の比率が高いと考えられます。
準備の薄い層が多く含まれる集団の合格率と、準備の厚い層が中心の集団の合格率を単純に比べても、1人の受験者から見た「受かりにくさ」の比較にはなりません。合格率は難易度の目安のひとつにすぎない、という前提で読んでください。宅建の難易度の位置づけは宅建試験の難易度と合格率で詳しく扱っています。
- 令和7年度は宅建18.7%、行政書士14.54%。行政書士のほうが低い。
- ただし行政書士の合格率は年により9%台から15%台まで動く。
- 受験者集団の性質が違うため、合格率の差=受かりにくさの差ではない。
試験制度の違いを制度の言葉で押さえる
数字の背後にある制度を確認します。ここが対策設計の土台になります。
実施日と試験時間
宅建試験は例年10月の第3日曜日に実施され、試験時間は13時から15時までの2時間です。登録講習修了者は5問が免除されるため、13時10分から15時までの1時間50分となります。令和8年度は不動産適正取引推進機構の公表によれば、試験日が令和8年10月18日(日)、合格発表が令和8年11月25日(水)です。
行政書士試験は例年11月の第2日曜日に実施され、試験時間は13時から16時までの3時間です。行政書士試験研究センターの「令和8年度行政書士試験のご案内」によれば、令和8年度の試験日は令和8年11月8日(日)、合格発表は令和9年1月27日(水)午前9時です。
令和8年度の両試験の間隔は、10月18日から11月8日までのちょうど3週間です。この21日間という数字は、後述する併願の議論で決定的に効いてきます。試験日程の全体像は2026年度宅建試験の日程にまとめています。
出題形式
宅建試験は、四肢択一のマークシート50問です。形式は1種類しかありません。1問あたりの持ち時間は単純計算で2分24秒です。
行政書士試験は、出題形式が3種類あります。行政書士試験研究センターの案内によれば、「行政書士の業務に関し必要な法令等」から46題、「行政書士の業務に関し必要な基礎知識」から14題の計60題が出題され、法令等は択一式と記述式、基礎知識は択一式で構成されます。記述式は40字程度で記述する形式です。
近年の出題実績にもとづく内訳としては、法令等が5肢択一式40問、多肢選択式3問、記述式3問の計46問、基礎知識が5肢択一式14問という構成が続いています。配点は5肢択一式が1問4点、多肢選択式が1問8点、記述式が1問20点で、法令等244点、基礎知識56点、合計300点満点です。3時間で3種類の形式を処理する必要があり、時間配分そのものが技術として要求されます。
選択肢の数も違います。宅建は四肢択一なので当てずっぽうでも4分の1が当たりますが、行政書士の択一は5肢なので5分の1です。この差は小さく見えて、50問と60問という母数で効いてきます。
受験資格と受験手数料
受験資格は両方ともありません。行政書士試験研究センターは「年齢、学歴、国籍等に関係なく、どなたでも受験できます」と明示しています。宅建も同様に制限はありません。
受験手数料は、令和8年度で宅建が8,200円、行政書士が10,400円(別途システム手数料370円)です。申込期間も違い、宅建はインターネット申込が令和8年7月1日から7月31日まで、行政書士は令和8年7月21日から8月24日までです。併願する場合、この2つの申込を別々に済ませる必要があります。
科目構成
宅建試験の出題範囲は宅地建物取引業法施行規則に定められており、近年の出題実績では権利関係14問、法令上の制限8問、税・その他3問、宅建業法20問、免除科目5問という配分が続いています。得点源は20問を占める宅建業法です。科目ごとの戦い方は宅建の科目別攻略法を参照してください。
行政書士試験の法令等科目は、憲法・行政法・民法・商法・基礎法学から出題されます。近年の出題実績にもとづく配点は、行政法が112点、民法が76点、憲法が28点、商法・会社法が20点、基礎法学が8点です。行政法が全体の3分の1以上を占める最重要科目である点が、宅建における宅建業法と対応する構図です。
なお、行政書士試験の科目は令和6年度から改正されています。従来の「一般知識等」が「行政書士の業務に関し必要な基礎知識」に変わり、出題内容に行政書士法など行政書士業務と密接に関連する諸法令が加わりました。古い教材や記事は「一般知識」のままの記述が残っているので注意してください。
- 令和8年度は宅建10月18日、行政書士11月8日。間隔は3週間。
- 宅建は四肢択一50問2時間。行政書士は択一・多肢選択・記述の60問3時間。
- 行政書士の科目は令和6年度から「一般知識等」が「基礎知識」に変更。
合格基準の性格が難易度の体感を変える
ここが両試験のもっとも本質的な違いです。
宅建の合格基準は毎年動く
宅建試験には、あらかじめ定められた合格点がありません。合格判定基準はその年の受験者全体の成績分布を踏まえて決定され、結果として合格率は一定の幅に収まります。令和7年度は33点、令和6年度は37点でした。同じ試験でも年によって4点動いています。
この仕組みの下では、目標は「何点を取るか」ではなく「上位グループに入るか」になります。問題が易しい年は高得点を取っても届かず、難しい年は低めの点で届く。つまり自分の得点だけでは合否を判断できません。合格ラインの考え方は宅建の合格ラインの読み方で扱っています。
学習設計への影響も明確です。相対評価である以上、みんなが取る問題を落とさないことが最優先になります。難問を1問拾うより、宅建業法20問を確実に固めるほうが合格に近い。宅建の対策が「過去問の反復」に収斂するのは、この構造から来ています。
行政書士の合格基準は割合で定められている
行政書士試験研究センターが公示している合格基準は、次の3要件をいずれも満たすこと、という形になっています。第一に、法令等科目の得点が満点の50パーセント以上であること。第二に、基礎知識科目の得点が満点の40パーセント以上であること。第三に、試験全体の得点が満点の60パーセント以上であることです。
満点に当てはめると、法令等は244点の50%で122点以上、試験全体は300点の60%で180点以上となります。基礎知識は56点の40%で22.4点以上ですが、1問4点きざみで採点されるため、実際には6問正解の24点が最低ラインになります。5問正解の20点では22.4点に届きません。
この基準の下では、目標は明確な点数として定まります。他の受験者が何点取ろうと関係なく、180点を超えれば合格です。順位を争う必要がないという意味で、心理的には宅建より見通しが立てやすい面があります。
足切りが意味すること
しかし、割合で定められているからといって易しいわけではありません。3要件を「いずれも」満たす必要があるという条件が重くのしかかります。
法令等で満点近くを取っても、基礎知識が5問正解の20点なら不合格です。逆に基礎知識が満点でも、法令等が122点に届かなければ不合格になります。得意科目で不得意科目を埋め合わせることができないのが、この仕組みの厳しさです。
とくに基礎知識科目は、行政書士法等の関連諸法令、一般知識、情報通信・個人情報保護、文章理解と範囲が広く、時事的な要素も含みます。法令科目のように積み上げれば必ず伸びるという性質ではないため、14問中6問という一見低いハードルが、毎年一定数の受験者を落としています。宅建には科目別の足切りが一切ないので、この点は行政書士に固有の負荷です。
「絶対評価だから楽」とは言えない理由
もうひとつ見落とされやすいのが、行政書士試験の合格基準に付されている注記です。センターは合格基準について「試験問題の難易度を評価し、補正的措置を加えることがあります」と明示しています。つまり基準点は完全に固定されているわけではなく、難易度に応じて調整される余地が制度上残されています。
さらに、記述式3問60点の採点基準は公表されません。40字程度で書いた解答が何点になるかは、結果が出るまで確定しないのです。択一の自己採点で170点前後だった受験者が、記述の採点次第で合否のどちらにも転ぶという状況は珍しくありません。自己採点で合否が読めないという点では、行政書士も宅建と同じかそれ以上に不確実です。
「行政書士は絶対評価だから、180点を目指せばよい」という説明はよく見かけますが、実際には記述式の不確定性を織り込んで、択一だけで180点近くを積む設計が推奨されるのはこのためです。
- 宅建は合格点が毎年動く。令和7年度33点、令和6年度37点。
- 行政書士は法令等50%以上・基礎知識40%以上・全体60%以上の3要件をすべて満たす必要がある。
- 行政書士には基礎知識の足切りがあり、得意科目での埋め合わせが効かない。
試験での出題ポイント|民法はどこがどう重なるか
両試験で唯一まともに重なるのが民法です。ただし「重なる」の中身を正確に把握しないと、学習計画を誤ります。
出題数と配点の実際
宅建の権利関係14問のうち、民法そのものから出るのは近年の実績でおおむね10問前後です。残りは借地借家法が2問、区分所有法が1問、不動産登記法が1問という配分が続いています。権利関係の全体像は権利関係の全体像にまとめました。
行政書士では、民法が5肢択一9問(36点)と記述式2問(40点)で合計76点、300点満点の約25%を占めます。択一よりも記述式のほうが配点が大きいという点が宅建との決定的な違いです。記述2問を落とすと40点が消え、180点への到達がほぼ絶望的になります。
重なる論点
論点の名前レベルでは、かなりの部分が共通します。意思表示(詐欺・強迫・錯誤・虚偽表示と第三者保護)、代理(有権代理・無権代理・表見代理)、時効(取得時効・消滅時効)、物権変動と対抗要件、抵当権、債務不履行と解除、契約不適合責任、賃貸借、不法行為、相続と遺留分。これらはいずれも両試験の頻出領域です。
宅建側の各論点は、意思表示、代理制度、時効、抵当権、契約不適合責任、相続などの記事で個別に扱っています。頻出度の高い順は権利関係の頻出論点を参照してください。
深さの違い1: 判例の射程まで問われるか
同じ論点でも、求められる理解の深さが違います。宅建では、主要判例について結論を知っていれば正誤を判断できる問題が中心です。「この事案でこの結論になる」という対応関係を押さえれば足ります。
行政書士では、判例の射程まで問われます。判旨のどの部分が理由づけで、どこまでの事案に及ぶのか。似て非なる事案が選択肢に置かれ、判例の結論をそのまま当てはめてよいかどうかを判断させる出題が普通にあります。条文の文言についても、キーワードではなく正確な要件の理解が要求されます。
深さの違い2: 記述式で問われる形
もっとも大きな違いが記述式です。宅建の民法は「与えられた記述が正しいかを判定する」課題ですが、行政書士の記述式は「白紙から要件と効果を40字程度で構成する」課題です。
この2つは同じ知識を使っていても、必要な習熟度が違います。選択肢を読んで正誤を判定できる状態と、何も見ずに要件を列挙して書ける状態の間には、はっきりした段差があります。宅建の民法をどれだけ回しても、記述式が書けるようにはなりません。逆に、記述式が書ける状態まで仕上げれば、宅建の民法は判定するだけなので容易になります。
重ならない領域
重なりを強調しすぎると計画を誤るので、重ならない部分も明確にします。
宅建にしかないのは、宅建業法20問のほぼ全部、法令上の制限8問(都市計画法、建築基準法、国土利用計画法、農地法、宅地造成及び特定盛土等規制法、土地区画整理法)、税・その他、免除科目の5問です。宅建の得点の中核である宅建業法20問は、行政書士の学習からは1点も持ち込めません。宅建業法の全体像は宅建業法の全体像にまとめています。
行政書士にしかないのは、行政法112点分(行政手続法、行政不服審査法、行政事件訴訟法、国家賠償法、地方自治法)、憲法28点分、商法・会社法20点分、基礎法学8点分、基礎知識56点分です。合計すると300点中224点、つまり行政書士試験の4分の3近くは宅建と無関係な領域ということになります。
民法76点が重なるといっても、300点中76点です。この比率を正確に把握しておくことが、後述する併願判断の前提になります。行政書士固有科目の対策は行政書士と宅建の試験範囲を比較で詳しく扱っています。
引っかけになりやすいところ
両方を学ぶ人が特に間違えやすいのが、次の2点です。
ひとつは、宅建で学んだ借地借家法・区分所有法・不動産登記法を、行政書士の民法の知識と混同することです。これらは民法の特別法であって、行政書士試験の出題範囲には基本的に含まれません。宅建の権利関係14問の感覚のまま行政書士の民法に臨むと、実際にはカバー範囲が違うことに気づくのが遅れます。
もうひとつは、民法改正の反映度の違いです。両試験とも改正民法に対応していますが、行政書士のほうが条文の細部まで問われるため、宅建向けの理解では足りない箇所が出てきます。改正論点の整理は民法改正のポイントを参照してください。
どちらから取るべきか
順序の判断軸を3つに絞ります。
判断軸1: 使う予定があるか
もっとも強い基準です。宅建業法31条の3は、宅建業者に対し、事務所ごとに業務従事者5人につき1人以上の割合で成年者である専任の宅建士を置くことを義務づけています。この設置義務があるため、不動産業では宅建士が事実上の必須要件として機能します。勤務先や転職先から求められているなら、迷わず宅建からです。設置義務の内容は専任の宅建士の設置義務で扱っています。
行政書士には、これに相当する必置の仕組みがありません。企業に勤めながら行政書士資格を活かす道が閉ざされているわけではありませんが、独立開業を前提にしたほうが価値を発揮しやすい資格です。「使う予定が具体的にあるか」を先に確かめてください。
判断軸2: 法律の学習経験
法律の学習が初めてなら、宅建から入るほうが挫折しにくくなります。宅建は四肢択一のみで、条文の要件と例外を覚えれば得点に直結する部分が大きく、成果が見えやすい試験です。ここで法律の文章に慣れてから行政書士に進むと、行政法という新しい科目に集中できます。
すでに法学部で学んだ、あるいは他の法律系資格の学習経験があるなら、この軸はあまり効きません。判断軸1と3で決めてください。
宅建から行政書士へ持ち込めるもの、持ち込めないもの
宅建合格後に行政書士へ進む場合、持ち込めるのは民法の基礎的な理解と、法律の文章を読む速度、そして過去問中心の学習の型です。意思表示・代理・時効・債務不履行・相続といった論点の骨格ができているので、行政書士の民法択一9問に取り組む際の初速が上がります。
持ち込めないのは、行政法112点分、憲法28点分、商法・会社法20点分、基礎知識56点分、そして記述式を書く力です。300点中224点分は新規学習という現実を、計画の最初に織り込んでください。宅建に受かったから行政書士も近い、という見積もりは危険です。
行政書士から宅建へ進む場合
逆順の場合、民法については行政書士のほうが深いので、宅建の権利関係14問のうち民法部分はほぼ確認作業になります。ただし借地借家法・区分所有法・不動産登記法の4問分は新規です。そして宅建業法20問、法令上の制限8問、税・その他3問、免除科目5問はすべて一から積む必要があります。
こちらも「50問中36問分は新規」ということになります。どちらの順序でも、後から取るほうの試験に相応の学習量が必要である点は変わりません。取得順の全体設計は資格取得の順番ガイドを参照してください。
学習時間の相場をどう扱うか
「宅建は300時間、行政書士は600時間から1,000時間」という数字が広く流通しています。ただしこれらは受験指導業界で相場として語られている目安であり、公的な統計にもとづく数値ではありません。本記事ではこれを事実として断定しません。
実際に必要な時間は、法律学習の経験、業界での実務経験、1日に確保できる連続時間、過去問を回す速度で大きく変わります。他人の平均値を借りるより、最初の2週間でテキスト1章分と過去問10問にかかった時間を実測し、全体量から逆算するほうが確実です。見積もりの立て方は宅建の勉強時間の目安で扱っています。
相場の数字に意味があるとすれば、両者の比率としての目安という点です。行政書士のほうが宅建より相当に多くの時間を要するという方向感は、出題範囲(300点中224点が宅建と無関係)と出題形式(記述式を含む3形式)から見ても妥当です。
同一年度に両方受験するのは現実的か
検索でよく問われる論点です。日程と負荷の両面から検討します。
令和8年度は3週間しかない
令和8年度は宅建が10月18日、行政書士が11月8日です。間隔は21日、ちょうど3週間です。日程が重ならないという意味では併願可能ですが、この21日間の意味を正確に理解する必要があります。
宅建は年1回しかない試験で、直前期の8月から10月にかけての追い込みが合否を大きく左右します。一方の行政書士も、記述式と基礎知識の仕上げに直前期のまとまった時間を要します。両方の直前期が9月から11月に完全に重なるというのが、この併願の構造的な問題です。
宅建試験の翌日から行政書士まで3週間あるとはいえ、3週間で行政法112点分を仕上げることはできません。行政書士の準備は、宅建の直前期と並行して進めておく必要があります。つまり、宅建の追い込みを削るか、行政書士の仕上げを削るかという選択を、9月から10月にかけて毎日迫られることになります。
現実的に成立する条件
それでも併願が成立する場合があります。次のいずれかに当てはまるなら検討の余地があります。
第一に、行政書士の学習を前年から始めており、宅建試験の時点で行政書士の全科目が一巡し終わっている場合。この場合、宅建の直前期に行政書士は維持学習にとどめ、宅建試験後の3週間を記述式と基礎知識の集中に充てる形が組めます。
第二に、行政書士の受験経験があり、今年は再挑戦という場合。行政法の土台がある状態なら、宅建の学習に時間を割いても行政書士の水準を保ちやすくなります。
第三に、すでに宅建に必要な知識の大半がある場合。不動産業で実務経験があり宅建業法に馴染みがある、あるいは過去に宅建を受験して惜しくも届かなかった、といったケースです。
成立しにくい条件
逆に、次の場合は併願を勧めません。
法律の学習が初めてで、その年から両方の学習を始める場合。行政法という新しい体系と宅建業法という新しい体系を同時に積み上げることになり、どちらも中途半端になりやすくなります。
もうひとつは、宅建に合格する必要が実際にある場合です。勤務先から求められている、転職の要件になっているといった事情があるなら、宅建を確実に取ることを優先すべきです。年1回の試験で、落ちれば次は1年後です。行政書士は翌年に回せますが、宅建の1年は取り返せません。
併願する場合の優先順位の決め方
併願を選ぶなら、どちらを本命とするかを先に決めて文書化しておくことを勧めます。9月に入って時間が足りなくなったとき、その場の気分で配分を決めると両方削ることになるからです。
宅建を本命にするなら、9月以降は宅建7割・行政書士3割程度に固定し、行政書士は宅建試験後の3週間で仕上げる前提で組みます。行政書士を本命にするなら、宅建は業法20問を集中的に固めて合格ラインを狙う設計にし、権利関係は行政書士の民法学習でカバーされる範囲で割り切ります。
もうひとつ実務的な注意として、宅建試験の自己採点をいつ行うかを決めておいてください。宅建の結果が微妙だった場合、その後の3週間の集中力に影響します。直前期の組み立て方は直前期の過ごし方、複数受験を含む戦略は再受験・併願の戦略も参考になります。
資格の使いみちの違い
試験の難易度と、資格の使いやすさは別の話です。
宅建士は宅建業に必置
宅建士でなければできない事務が宅建業法に定められています。契約成立前の重要事項の説明と重要事項説明書への記名(35条)、37条書面への記名(37条)、重要事項説明時の宅建士証の提示(35条4項)です。加えて、前述の専任の宅建士の設置義務(31条の3)があります。
この構造により、宅建士の需要は企業側の法令遵守の必要から生まれます。個人の営業力とは別の水準で下支えされているのが特徴です。独占業務の内容は宅建士の独占業務にまとめています。
行政書士の独占業務
行政書士は、行政書士法に基づき、官公署に提出する書類の作成、権利義務に関する書類の作成、事実証明に関する書類の作成を業として行える資格です。扱える書類の種類が非常に広い一方、勤務先に設置義務があるわけではないため、資格を活かす場面は自分で作る性格が強くなります。
不動産に関連する場面では、農地法4条・5条の転用許可申請、開発許可の申請、建設業許可の申請などで両資格の業務が接続します。関連する宅建側の論点は農地法と開発許可で扱っています。
就職・転職での評価のされ方
不動産業界では宅建が明確に評価されます。求人の応募条件に含まれることも多く、資格手当の対象になる企業もあります。手当の考え方は資格手当の実情を参照してください。
行政書士は、企業の求人で必須条件として挙がる場面が宅建より限られます。建設会社やハウスメーカーで許認可手続きの知識が評価されるケースはありますが、資格そのものが採用要件になる形は多くありません。独立開業を前提にしたときに真価を発揮する資格である、という理解が実態に近いはずです。
なお、両資格を持つ場合の業務上の組み合わせ方や開業の設計は、本記事ではなく行政書士と宅建のダブルライセンスで扱っています。他の資格も含めた比較検討は宅建と組み合わせる資格一覧、宅建合格後の進路は資格取得の順番ガイドが参考になります。
覚え方・整理の仕方
両試験を比較する際、細部を全部覚える必要はありません。要点の持ち方を示します。
制度の違いは3つの数字で持つ
比較項目を並べると混乱するので、3つだけに絞ります。
第一に、問題数と時間。宅建は50問2時間、行政書士は60問3時間。第二に、形式の種類。宅建は1種類(四肢択一)、行政書士は3種類(択一・多肢選択・記述)。第三に、合格基準の性格。宅建は毎年動く1本の基準点、行政書士は割合で定めた3本の基準です。
この3つを押さえれば、残りの違いはここから導けます。形式が3種類あるから時間配分の練習が要る、基準が3本あるから苦手科目を捨てられない、といった具合です。
民法は「判定する型」から「書く型」へ変換する
宅建から行政書士へ進むとき、民法の学習を最初からやり直す必要はありません。必要なのは型の変換です。
具体的には、宅建の過去問を解いたあとに、その論点の要件を何も見ずに40字程度で書いてみる練習を挟みます。「無権代理人の責任が生じる要件は」「取得時効の要件は」といった問いに、選択肢なしで答えられるかを確認する作業です。これができれば、行政書士の記述式に必要な状態にかなり近づきます。既存の宅建の教材をそのまま使えるので、追加コストが小さいのが利点です。
記述式は択一の学習に組み込む
記述式を独立した対策として後回しにすると、直前期に破綻します。択一の演習をするたびに「これが記述で出たら何を書くか」を1行メモする運用にしておけば、専用の時間を確保しなくても書く力が積み上がります。
併願する年はカレンダーを先に引く
併願を決めたら、学習を始める前に日程を紙に書き出します。宅建の申込(7月1日から7月31日)、行政書士の申込(7月21日から8月24日)、宅建試験(10月18日)、行政書士試験(11月8日)、宅建の合格発表(11月25日)。この5つの日付を先に置いてから、逆算して各科目の仕上げ時期を決めます。
とくに申込期間は両方とも夏で、宅建の締切が先です。学習に集中していて申込を忘れるという事故は毎年起きるので、カレンダーに入れておいてください。過去問の回し方は過去問の活用法を参照してください。
理解度チェッククイズ
Q1. 令和7年度の合格率は、宅建試験より行政書士試験のほうが低い。(○か×か)
答えを見る
○:令和7年度の合格率は宅建が18.7%(受験者245,462人、合格者45,821人。出典:不動産適正取引推進機構「令和7年度宅地建物取引士資格試験結果の概要」令和7年11月26日公表)、行政書士が14.54%(受験者50,163人、合格者7,292人。出典:行政書士試験研究センター「令和7年度行政書士試験実施結果の概要」令和8年1月28日公表)でした。ただし行政書士の合格率は年により9%台から15%台まで動いており、常に一定の差があるわけではありません。Q2. 行政書士試験は絶対評価なので、法令等科目で高得点を取れば基礎知識科目の点数にかかわらず合格できる。(○か×か)
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×:行政書士試験研究センターが公示する合格基準は、法令等科目が満点の50パーセント以上、基礎知識科目が満点の40パーセント以上、試験全体が満点の60パーセント以上という3要件を「いずれも満たす」ことです。基礎知識は56点満点の40%(22.4点)以上が必要で、1問4点きざみのため実際には6問正解の24点が最低ラインになります。法令等が満点でも基礎知識が20点なら不合格です。Q3. 宅建試験にはあらかじめ定められた合格点がなく、合格判定基準は年によって変動する。(○か×か)
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○:宅建試験の合格判定基準はその年の受験者全体の成績分布を踏まえて決定されます。令和7年度は50問中33問以上、令和6年度は37点でした。同じ試験でも年によって4点動いており、自分の得点だけでは合否を判断できない仕組みです。Q4. 宅建試験と行政書士試験で出題範囲が重なるのは民法であり、その配点は行政書士試験の300点満点中およそ4分の1にあたる。(○か×か)
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○:近年の出題実績では、行政書士試験の民法は5肢択一9問(36点)と記述式2問(40点)の計76点で、300点満点の約25%です。裏を返せば、行政法112点、憲法28点、商法・会社法20点、基礎法学8点、基礎知識56点の合計224点分は宅建と重なりません。宅建側でも、宅建業法20問をはじめ大半の科目は行政書士の学習から持ち込めません。Q5. 令和8年度において、宅建試験と行政書士試験の間隔は約2か月ある。(○か×か)
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×:令和8年度の宅建試験は令和8年10月18日(日)、行政書士試験は令和8年11月8日(日)で、間隔は21日、ちょうど3週間です。日程は重なりませんが、両試験の直前期が9月から11月にかけて完全に重なるため、併願する場合はどちらを本命とするかを事前に決めておく必要があります。よくある質問
Q. 結局どちらが難しいのですか。
公表された合格率と合格者数で見れば行政書士のほうが厳しい試験です。令和7年度は宅建18.7%、行政書士14.54%でした。ただし難しさの種類が違います。宅建は上位に入る競争、行政書士は3つの基準点をすべてクリアする課題です。苦手科目がある人にとっては行政書士の足切りが重く、逆に得点の安定しない人にとっては毎年動く宅建の合格点が読みにくい、という形で負荷のかかり方が変わります。
Q. 法律の学習が初めてです。どちらから始めるべきですか。
宅建からを勧めます。四肢択一のみで形式が単純であり、条文の要件を覚えれば得点に直結する部分が大きいため、法律の学習に慣れる目的に合っています。宅建で法律文の読み方を身につけてから行政書士に進むと、行政法という新しい体系に集中できます。
Q. 宅建に受かれば行政書士も近いですか。
近くはありません。行政書士試験300点のうち、宅建と重なる民法は76点分です。行政法112点、基礎知識56点をはじめ、224点分は新規学習になります。加えて記述式3問60点は宅建にない形式で、択一の学習だけでは書けるようになりません。
Q. 同じ年に両方受験できますか。
日程上は可能です。令和8年度は宅建が10月18日、行政書士が11月8日で、間隔は3週間です。ただし両方の直前期が重なるため、行政書士の全科目が宅建試験の時点で一巡し終わっている、あるいは行政書士の受験経験があるといった条件が揃っていないと成立しにくくなります。法律の学習を同じ年に始める初学者には勧めません。
Q. 行政書士の記述式はどのくらい合否に影響しますか。
3問で60点、300点満点の20%です。合格に必要な180点に対して3分の1にあたる配点であり、しかも採点基準は公表されません。択一の自己採点で170点前後の受験者が、記述の採点次第でどちらにも転ぶ状況が生じます。そのため、択一だけで180点近くを積む設計が現実的とされています。
Q. 学習時間はどのくらい必要ですか。
「宅建300時間、行政書士600時間から1,000時間」という数字が広く語られていますが、これは受験指導業界で相場として言われている目安であり、公的な統計にもとづくものではありません。本記事では断定しません。実際に必要な時間は前提知識と学習環境で大きく変わるので、最初の2週間で自分の実測値を取り、そこから逆算するのが確実です。
まとめ
- 合格率では行政書士のほうが厳しいが、差は年によって動く。 令和7年度は宅建18.7%、行政書士14.54%。ただし行政書士の合格率は過去10年で9.95%から15.72%まで振れており、受験者集団の性質も違うため、合格率の差をそのまま受かりにくさの差と読むことはできません。
- 難しさの体感を分けるのは合格基準の性格である。 宅建は毎年動く1本の基準点による相対的な仕組み、行政書士は法令等50%以上・基礎知識40%以上・全体60%以上という3本の基準をすべて満たす仕組みです。行政書士では苦手科目を得意科目で埋め合わせられず、記述式の採点が公表されないため自己採点でも合否が読めません。
- 重なるのは民法だけで、比率としては小さい。 行政書士300点のうち民法は76点分、残る224点分は宅建と無関係です。同一年度の併願は令和8年度で間隔3週間、両方の直前期が完全に重なるため、行政書士の学習が一巡している場合など条件が揃うときに限られます。
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