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不動産テックとは|制度で確定した部分から読む

キャリア・試験情報 読了 約23分

不動産テック(PropTech)を、宅建業法で確定した部分から整理。IT重説の実施要件、35条・37条書面の電磁的方法による提供、承諾の取り方、変わっていない宅建士の役割を条文と国土交通省の資料で解説します。

目次

    この記事は、不動産テック(PropTech)と呼ばれる領域のうち、宅地建物取引業法で制度として確定した部分を条文単位で整理したものです。不動産取引のIT化の全体像もこの記事で扱います。IT重説と書面電子化を条文の号ごとに詰めたい場合はIT重説と書面電子化、働き方の側から見た整理は不動産業界のリモートワーク、資格そのものの位置づけは宅建士の将来性で扱っています。

    不動産テックを論じる記事は、市場規模や導入率の予測、個別サービスの紹介に流れがちです。この記事はその形を取りません。予測は検証できず、サービスの評価は数年で古くなるためです。代わりに扱うのは、何がすでに法令で可能になったか、そのために何の要件が課されているか、そして何が変わっていないか、の3点です。ここは条文と国土交通省の公表資料で確認できるため、判断材料として長く使えます。以下で引用する条文の項番号と施行日は、国土交通省「重要事項説明書等の電磁的方法による提供及びITを活用した重要事項説明 実施マニュアル」(令和4年4月、令和6年12月版)の参照条文等に基づいています。

    不動産テックとは何を指すか

    不動産テックは、Property(不動産)とTechnology(技術)を組み合わせた造語で、不動産の取引・管理・運用に技術を適用する取り組み全般を指します。範囲が広く、物件情報の検索プラットフォーム、価格の自動査定、オンライン内覧、スマートロック、管理業務のクラウド化、電子契約などが一括りにされます。

    この広さが、議論を曖昧にする原因になっています。同じ「不動産テック」という言葉の中に、法令上の位置づけが確定しているものと、単なる民間サービスの工夫にすぎないものが混在しているからです。前者は制度を確認すれば分かりますが、後者は事業者ごとに内容が異なり、数年で入れ替わります。

    したがって本記事では、宅建業法が明示的に手当てした2つの領域、すなわちITを活用した重要事項説明(IT重説)と、書面の電磁的方法による提供(書面電子化)を軸に据えます。この2つは、条文、施行日、要件がすべて公表されており、試験範囲にも入っています。

    IT重説|制度として確定していること

    社会実験から本格運用までの経緯

    国土交通省の実施マニュアルによれば、出発点は平成25年6月14日に閣議決定された「世界最先端IT国家創造宣言」です。同年12月20日に策定されたアクションプランで、宅建業法35条に基づく重要事項説明について、インターネット等を利用した対面以外の方法を検討することが方針として示されました。

    平成27年8月31日からIT重説の社会実験が始まり、平成29年3月13日に開催された検証検討会(第3回)で「目立ったトラブルは発生せず、IT重説の実施に支障がない」と認められました。これを受けて、賃貸取引は同年、すなわち2017年10月1日から本格運用に移行しています。

    売買取引については、令和3年1月25日開催の検証検討会(第7回)で同様に認められ、同年3月30日から本格運用へ移行しました。2021年3月30日以降は、賃貸・売買の別を問わずIT重説が可能になっています。

    対面の重要事項説明と同じ扱いになる

    国土交通省が宅建業法の解釈および運用の考え方を示している「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」(平成13年1月6日国総動発第3号)では、IT重説を対面による宅建業法35条の重要事項説明と同様に取り扱うものとしています。

    つまりIT重説は、35条の例外や特則ではなく、35条の説明を行う方法の一つという位置づけです。この整理が重要で、35条が要求している事項はすべてそのまま適用されます。説明を行う者は宅建士であり、説明すべき事項も変わりません。説明事項の一覧は35条書面の記載事項を参照してください。

    実施にあたって遵守すべき事項

    実施マニュアルは、IT重説を行う際に遵守すべき事項をいくつか挙げています。主なものは次の3つです。

    第一に、重要事項説明書の事前交付です。IT重説は、説明の相手方の手元に重要事項説明書および添付書類がある状態で実施する必要があります。そのため、実施に先立って、宅建士により記名された重要事項説明書と添付書類を相手方に送付していなければなりません。あわせて、事前に読んでおくことを推奨し、交付から一定期間の後にIT重説を実施することが望ましいとされています。

    第二に、実施前のIT環境の確認です。宅建士は、相手方の映像や音声を自分の端末で確認できること、自分の映像や音声を相手方の端末で確認できること、事前に送付した重要事項説明書と添付書類が相手方の手元にあることを、説明を始める前に確認する必要があります。マニュアルは確認すべき内容として、映像が明瞭に視認できること、静止画の状態が数秒続くことが連続して生じないこと、音声が明瞭に聞き取れることを例示しています。

    第三に、宅建士証の提示です。宅建業法35条4項は、宅建士は説明をするときに相手方に対し宅建士証を提示しなければならないと定めており、これはIT重説でも変わりません。マニュアルはさらに踏み込んで、宅建士が相手方に宅建士証を視認できたことを確認する必要があるとしています。具体的には、宅建士証をカメラにかざしたうえで、画面上の写真と説明をする宅建士の顔が同一人物であることを相手方に確認してもらい、宅建士証に記載された氏名・生年月日・登録番号を読み上げてもらい、最後に宅建士証を確認した旨を声に出して答えてもらう、という流れが図示されています。

    この手順が置かれている理由は、宅建士でない者が重要事項説明をすること、あるいは宅建士の名義貸しをすることを防ぐためであるとマニュアルに明記されています。オンライン化によって本人確認の確実性が下がる部分を、手順で補っている構造です。

    支障が生じたときの中断と中止

    IT重説の実施中に映像の視認や音声の聞き取りに支障が生じた場合、宅建士はIT重説を中断し、原因を把握して支障がない状況にしてから再開する必要があります。電波状況の改善や通信網の変更といった措置を試みても解消しない場合には、中止することとされています。

    あわせて、映像の視認や音声の聞き取りができない状況が生じた場合に備え、IT重説に用いるソフトウェア以外の連絡手段、たとえば電話やインスタントメッセンジャーをあらかじめ確保しておくことが重要だとされています。

    録画・録音の扱い

    実施状況を録画・録音して記録を残すことは、トラブル発生時の解決手段として有効とされる一方、重要事項説明には宅建士や相手方だけでなく売主・貸主等の個人情報も含まれるため、扱いに注意が必要です。マニュアルは、利用目的を可能な限り明らかにして双方了解のもとで行うこと、録音が不適切と判断される情報が含まれる場合は中断する旨を伝えること、記録を残す場合は相手方の求めに応じて複製を提供することを挙げています。取得した記録は個人情報の保護に関する法律に則った管理が必要です。

    書面の電子化|2022年5月18日に何が変わったか

    根拠となった法改正

    令和3年5月に成立・公布された「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」(令和3年法律第37号)に、宅建業法の関連規定の改正が含まれていました。この法律は令和4年、すなわち2022年5月18日に施行され、書面電子化が法令上実施可能となりました。

    同日をもって、それ以前の社会実験用ガイドラインと旧マニュアルは廃止され、現行の実施マニュアルに一本化されています。

    対象となる書面と条文

    電磁的方法による提供が可能になったのは、宅建業法34条の2、35条、37条に基づき交付する書面です。条文上の位置は次のとおりです。

    媒介契約書面については、34条の2第11項が、1項の書面の交付に代えて、依頼者の承諾を得て、記名押印に代わる措置を講じたうえで電磁的方法により提供できると定めています。この場合、宅建業者は当該書面に記名押印し、これを交付したものとみなされます。媒介契約の内容は媒介契約の種類と規制、書面の記載事項は媒介契約書面の記載事項で扱っています。

    指定流通機構への登録を証する書面については、34条の2第12項が、6項の規定による引渡しに代えて、依頼者の承諾を得て電磁的方法により提供できると定めています。

    重要事項説明書については、35条8項が、1項から3項までの書面の交付に代えて、相手方等の承諾を得て、宅建士に電磁的方法により提供させることができると定めています。業者間取引について読み替えて適用される場合は9項が対応します。

    契約成立時の書面については、37条4項が1項の書面(売買・交換)について、5項が2項の書面(貸借)について、それぞれ承諾を得て電磁的方法により提供できると定めています。37条書面の記載事項と35条書面との違いは37条書面と35条書面の違いにまとめています。

    承諾は書面等で得る必要がある

    いずれの条文も、共通して相手方の承諾を要件としています。この承諾の取り方は施行令で具体化されています。媒介契約書面については施行令2条の6、重要事項説明書については施行令3条の3、契約成立時の書面については施行令3条の4です。

    内容はほぼ共通で、宅建業者はあらかじめ、電磁的方法による提供に用いる電磁的方法の種類および内容を示したうえで、書面または電子情報処理組織を使用する方法等によって承諾を得るものとされています。口頭のやり取りだけで済ませることはできません。

    さらに重要なのが撤回の扱いです。承諾を得た場合であっても、相手方から書面等により電磁的方法による提供を受けない旨の申出があったときは、電磁的方法による提供をしてはならないとされています。ただし、その申出の後に再び承諾を得た場合はこの限りではありません。承諾は一度取れば固定される性質のものではない、という点が要点です。

    提供方法に課される3つの基準

    電磁的方法による提供は、どんな形でもよいわけではありません。施行規則は、提供に用いる方法が満たすべき基準を定めています。媒介契約書面についての規定である施行規則15条の14第2項は、次の3点を挙げています。

    第一に、相手方のファイルへの記録を出力することにより書面を作成できるものであること。つまり、受け取った側が紙に印刷できる形式である必要があります。

    第二に、ファイルに記録された記載事項について、改変が行われていないかどうかを確認することができる措置を講じていること。電子署名などがこれにあたります。

    第三に、記載事項を宅建業者側のファイルに記録する旨または記録した旨を相手方に通知するものであること。ただし、相手方が当該記載事項を閲覧していたことを確認したときは通知は不要です。

    実施マニュアルはこれに加えて、電子書面が改変されていないかどうかの確認方法を相手方に説明すること、電子書面の保存の必要性および保存方法を説明すること、電子書面が閲覧できないトラブル等が解消しない場合は電磁的方法による提供を中止することを、遵守事項として挙げています。

    押印は不要になったが記名は残った

    この改正でもう一つ変わったのが押印の扱いです。35条5項は、1項から3項までの書面の交付に当たっては宅建士は当該書面に記名しなければならないと定め、37条3項は、宅建業者は書面を作成したときは宅建士をして当該書面に記名させなければならないと定めています。いずれも「記名」であり、押印は求められていません。

    一方、媒介契約書面については34条の2第1項が「記名押印」と規定しており、11項はその記名押印に代わる措置を講じた電磁的方法による提供を認める、という構造になっています。書面の種類によって条文の書きぶりが異なる点は、試験でも問われうる箇所です。

    IT重説と書面電子化は別の制度である

    ここが最も誤解されやすい部分です。実施マニュアルは明確に、書面電子化を実施する場合の重要事項説明は必ずしもIT重説である必要はなく、また、IT重説を実施する場合の重要事項説明書は必ずしも電子書面で提供する必要はない、と注記しています。

    つまり、対面で説明しながら書面だけを電子で提供することも、オンラインで説明しながら書面は紙で郵送することも、どちらも可能です。2つの制度は独立しており、それぞれ別に承諾や要件の確認が必要になります。両方を同時に行う場合は、電磁的提供に係る承諾とIT重説に係る承諾の両方を得る必要があります。

    変わっていないこと|判断と責任の所在

    ここまでが、制度として確定した変化です。次に、変わっていない部分を確認します。この記事の芯にあたる部分です。

    説明を行う者は宅建士である

    宅建業法35条1項は、宅建業者は契約が成立するまでの間に、宅建士をして、一定の事項について記載した書面を交付して説明させなければならないと定めています。この規定は、IT重説の本格運用でも書面電子化でも改正されていません。

    説明の場所が事務所からオンラインに移り、書面の媒体が紙から電子データに移っても、説明を行う主体は宅建士のままです。技術は、説明という行為をどこで、どの媒体で行うかを変えましたが、誰が行うかは変えていません。この点を変更するには宅建業法35条の改正が必要になります。独占業務の範囲は宅建士の独占業務で扱っています。

    記名と宅建士証の提示は残っている

    35条5項の記名、37条3項の記名、35条4項の宅建士証の提示は、いずれも現行法に残っています。電子化されたのは書面の媒体であって、記名という要件そのものではありません。

    むしろIT重説では、宅建士証の提示について実施マニュアルが対面より詳細な手順を示しています。オンラインでは相手方が宅建士証を手に取って確認できないため、読み上げや同一人物の確認といった代替手順で確実性を担保する必要があるからです。要件が緩んだのではなく、同じ確実性を別の手順で確保している、という関係です。

    責任の所在は人と法人に置かれている

    制度が説明の主体を宅建士に、書面交付の義務を宅建業者に固定しているのは、説明が不十分だった場合や事実と異なる説明をした場合に、責任を追及する相手を定めるためです。監督処分の対象になり、損害賠償請求の相手方にもなります。

    技術がどれだけ進んでも、責任を負う主体を制度上どこかに置く必要があります。この構造がある限り、説明という行為を完全に無人化する設計は、現行法の枠組みでは成立しません。逆に言えば、将来この構造が変わるとすれば、それは技術の進歩としてではなく法改正として現れます。宅建業法の改正動向は宅建業法の改正ポイントで追っています。

    内覧と本人確認はオンライン化で消えない

    実施マニュアルは、IT重説の要件とは別に、留意すべき事項として2つを挙げています。どちらも、非対面化が進んだからこそ重要になる論点です。

    一つは取引物件の内覧です。買主や賃借人になろうとする者に内覧をしてもらうことは法律上の義務ではありません。ただしマニュアルは、実際に物件を確認せずに重要事項説明を受けていたとしても、想像していた内容と異なっていたり、実際に見ていなかったりすることで不満が生じるなど、トラブルが発生する可能性が高くなると指摘し、対面取引と非対面取引の別にかかわらず内覧の実施を推奨することが望ましいとしています。オンライン内覧が普及しても、現地で確認できる情報が減るわけではありません。

    もう一つは本人確認です。重要事項説明は、契約当事者が取引条件や権利関係等を事前に理解したうえで契約を締結し、トラブルを未然に防止する観点から行われるものです。したがって、説明の相手方が契約当事者本人(代理人を含む)であることは重要事項説明の前提であり、実施までに身分を確認する必要があるとされています。

    売買取引については、さらに強い要請があります。売買取引(その媒介または代理を含む)においては、マネー・ローンダリングを防止する観点から、犯罪による収益の移転防止に関する法律(平成19年法律第22号)に基づき、契約当事者本人であることの確認を行う必要があるとマニュアルは明記しています。画面越しでは対面より本人確認が難しくなるため、この部分は手順で補う必要があります。

    公的な情報基盤として何が使えるか

    不動産テックというと民間サービスを想像しがちですが、取引の土台になっている情報基盤には公的なものが少なくありません。

    指定流通機構(レインズ)

    指定流通機構は、宅建業法に基づいて国土交通大臣が指定する法人で、物件情報を登録・提供する仕組みです。一般にレインズと呼ばれています。

    宅建業法34条の2第5項は、専任媒介契約を締結した宅建業者に対し、指定流通機構への登録を義務づけています。登録期限は施行規則で定められており、専任媒介契約は契約締結の日から7日以内、専属専任媒介契約は5日以内で、いずれも宅建業者の休業日は算入しません。

    登録した業者は、34条の2第6項により、50条の6に規定する登録を証する書面を遅滞なく依頼者に引き渡さなければなりません。前述のとおり、この引渡しは12項により電磁的方法での提供に代えることができます。さらに34条の2第7項は、売買または交換の契約が成立したときに、遅滞なく指定流通機構へ通知することを義務づけています。

    つまりレインズは、民間の任意サービスではなく、法律上の登録義務によって情報が集まる仕組みです。制度の詳細はレインズとはを参照してください。

    登記情報のオンライン取得

    不動産の権利関係を確認する基礎資料である登記記録は、法務局の窓口に行かなくてもオンラインで取得できます。登記事項証明書のオンライン請求のほか、証明書としての効力はないが内容の確認には足りる登記情報の提供サービスも運用されています。

    重要事項説明で説明すべき事項のうち、登記された権利の種類および内容は35条1項1号にあたります。この調査がオンラインで完結するようになったことは、実務上の負担を確実に下げました。ただし、登記に現れない権利関係、たとえば未登記の借地権や境界の争いは、登記情報だけでは把握できません。オンラインで取得できる範囲と、現地や関係者への確認が必要な範囲を分けて考える必要があります。

    ハザードマップと水害リスクの説明義務

    災害リスク情報のオンライン公開も進んでいます。国土交通省はハザードマップのポータルサイトを運営しており、市町村が作成したハザードマップへ横断的にアクセスできます。

    これは単なる情報提供にとどまりません。宅建業法施行規則16条の4の3第3号の2により、水防法(昭和24年法律第193号)に基づき市町村長が提供する水害ハザードマップにおける対象物件の所在地が、重要事項説明の対象に追加されました。2020年8月28日の施行です。対象となるのは洪水、雨水出水(内水)、高潮の3種類です。

    宅建業者は、水防法に基づくハザードマップを提示して物件のおおむねの位置を示すこととされており、市町村のウェブサイトからの印刷物を用いることも認められています。オンラインで公開された公的データが、そのまま説明義務の根拠資料として制度に組み込まれた例です。

    不動産情報ライブラリ

    国土交通省は、不動産取引の際に参考となる情報を地図上に重ね合わせて表示するWebGISとして「不動産情報ライブラリ」の運用を2024年4月1日から開始しました。価格、周辺施設、防災、都市計画といった複数のデータを同じ地図に重ねて閲覧でき、専用ソフトを必要とせずスマートフォンやタブレットからも利用できます。従来の土地総合情報システムは2024年3月末で廃止され、取引価格情報は同年4月からこちらに移りました。掲載データはAPIでも無償公開されています。

    取引価格の相場観を持つために、以前は業者側にしかない情報に頼る場面がありましたが、公的なオープンデータで一定の確認ができるようになりました。買主や借主が事前に調べられる範囲が広がったということでもあり、説明する側にはより正確な情報提供が求められます。

    周辺制度の整備

    取引の周辺でも制度整備が進んでいます。管理業務の領域が代表例です。

    賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(令和2年法律第60号)が令和2年6月19日に公布され、2つの柱が段階的に施行されました。

    第一に、サブリースに関する規制です。2020年12月15日に施行され、サブリース業者による勧誘時の不当な行為の禁止と、サブリース契約の締結前における重要事項の説明が義務づけられました。家賃保証をうたう勧誘をめぐるトラブルが背景にあります。

    第二に、賃貸住宅管理業の登録制度です。2021年6月15日に施行され、管理戸数200戸以上の賃貸住宅管理業者に登録が義務づけられました。自ら所有する物件は戸数に算入されません。

    この制度整備が意味するのは、管理業務が「取引の後の付随作業」から、独立した規制対象の業務領域になったということです。宅建士の資格は管理業の登録要件そのものではありませんが、業務内容は重なる部分が大きく、キャリアの選択肢としても近接しています。管理会社の業務は不動産管理会社の仕事、賃貸管理の比較は賃貸管理会社の比較で扱っています。

    広告の分野でも、インターネット広告の普及に伴って規制の適用場面が広がりました。誇大広告等の禁止(宅建業法32条)や取引態様の明示義務(34条)は媒体を問わず適用され、おとり広告の問題はオンラインでこそ起きやすくなっています。詳細は宅建業法の広告規制にまとめています。

    置き換わった業務と置き換わっていない業務

    ここまでの整理を、業務の単位で切り分けます。予測ではなく、現時点で制度と実務がどうなっているかの記述です。

    置き換わったのは、情報を集める作業と、情報を届ける作業です。物件情報の検索、成約事例の参照、登記情報の取得、ハザードマップの確認、価格の概算、書面の送付。これらはいずれも、オンラインで完結する経路が用意されました。移動と待ち時間が減ったぶん、1人が扱える案件数は増えます。働き方への影響は宅建士は在宅ワークできるかで扱っています。

    置き換わっていないのは、集めた情報のうち何を説明対象とするかを決める作業と、説明したという事実に責任を負う作業です。前者は、たとえばハザードマップ上の位置を示すだけでなく、その意味を相手方が理解できる形で伝えるところまでを含みます。後者は制度そのものです。

    もう一つ置き換わっていないのが、データに現れない事実の収集です。登記に現れない権利関係、近隣との紛争、建物の実際の状態、周辺環境の変化予定。これらは現地確認、役所への照会、関係者への聞き取りでしか把握できません。オンライン化が進むほど、この部分の比重が相対的に上がります。仕事の全体像は宅建士とは、業界の動向は不動産業界の最新トレンドを参照してください。

    試験での出題ポイント

    この分野は改正論点として出題されます。押さえるべき箇所を整理します。

    電磁的方法による提供の3点セット

    出題の中心は、承諾、対象書面、要件の3点です。

    承諾については、あらかじめ電磁的方法の種類および内容を示したうえで、書面等により得る必要があります。「口頭の承諾でよい」「承諾は不要」とする選択肢は誤りです。また、承諾後に相手方から書面等で受けない旨の申出があったときは提供してはならず、その後に再び承諾を得れば可能になる、という往復関係も問われます。

    対象書面は、34条の2の媒介契約書面、34条の2第12項の登録を証する書面、35条の重要事項説明書、37条の契約成立時の書面です。

    要件は、出力して書面を作成できること、改変が行われていないかどうかを確認できる措置が講じられていること、記録した旨を通知すること(閲覧を確認したときは不要)の3点です。

    記名と押印の区別

    35条5項と37条3項は記名を求めており、押印は求めていません。一方、34条の2第1項は記名押印と規定しています。「電子化により宅建士の記名が不要になった」とする選択肢は誤りです。押印が廃止されたことと、記名が残っていることを混同させる出題が想定されます。

    IT重説の要件

    IT重説でも宅建士証の提示が必要であること(35条4項)、重要事項説明書を事前に送付している必要があること、映像と音声が双方向でやり取りできる環境が必要であることが問われます。

    引っかけとして考えられるのは、「IT重説では宅建士証の提示が不要」とする形、「IT重説を行う場合は重要事項説明書も必ず電子書面で提供しなければならない」とする形です。後者は前述のとおり誤りで、2つの制度は独立しています。

    指定流通機構への登録期限

    専任媒介は7日以内、専属専任媒介は5日以内、いずれも休業日を算入しない、という点が繰り返し問われます。あわせて、有効期間が3か月を超えられないこと、業務処理状況の報告が専任媒介で2週間に1回以上、専属専任媒介で1週間に1回以上であることも、同じ条文まわりの頻出事項です。

    水害ハザードマップ

    重要事項説明の対象が、水防法に基づく水害ハザードマップにおける対象物件の所在地であることを押さえます。対象は洪水、雨水出水(内水)、高潮の3種類です。「ハザードマップが存在しない場合も説明が必要」といった形で、市町村が作成していない場合の扱いを問う出題もありえます。演習の進め方は過去問の活用術を参照してください。

    覚え方・整理の仕方

    「何が変わって、何が変わっていないか」の2列で持つ

    この分野は、改正で追加された部分だけを覚えようとすると混乱します。変わった側と変わらない側を対にして持ってください。

    変わったのは、説明の場所(対面のみからオンラインも可へ)、書面の媒体(紙のみから電磁的方法も可へ)、押印(義務から廃止へ)です。変わらないのは、説明を行う主体(宅建士)、書面への記名、宅建士証の提示、そして電磁的提供に必要な相手方の承諾という要件です。

    この2列を口に出して言えるようにしておけば、改正論点の選択肢はほぼ判別できます。

    「承諾」で串刺しにする

    電磁的方法による提供の条文は、34条の2第11項・12項、35条8項・9項、37条4項・5項と散らばっていますが、要件の中心はどれも「相手方(依頼者)の承諾」です。

    条文を個別に暗記するのではなく、「電磁的方法による提供には常に承諾が要る」という原則を先に置き、そのうえで承諾の相手が誰かを書面ごとに確認する形にしてください。媒介契約書面なら依頼者、重要事項説明書なら宅建業者の相手方等、37条書面なら契約の当事者です。

    日付は3つだけ覚える

    この分野の施行日は多く見えますが、試験で必要になるのは実質3つです。賃貸取引のIT重説が2017年10月1日、売買取引を含むIT重説が2021年3月30日、書面電子化が2022年5月18日です。

    日付そのものが出題されることは多くありませんが、「売買のIT重説はまだ認められていない」といった古い前提の選択肢を見抜くために、順序だけは押さえておいてください。

    制度と技術を混ぜない

    学習でも実務でも、制度の話と技術の話を混ぜないことが重要です。「オンラインでできる」と「法律上認められている」は別の問題で、技術的に可能でも承諾や要件を満たさなければ違反になります。

    逆に、法改正されていない部分について「技術が進んだからいずれ変わる」と考えるのも危険です。変わるときは条文が変わるので、そのときに覚え直せば足ります。現時点の条文を正確に押さえることが、最も確実です。

    理解度チェッククイズ

    Q1. IT重説を実施する場合、重要事項説明書は必ず電子書面で提供しなければならない(○か×か)

    答えを見る ×:国土交通省の実施マニュアルは、IT重説を実施する場合の重要事項説明書は必ずしも電子書面で提供する必要はなく、また、書面電子化を実施する場合の重要事項説明は必ずしもIT重説である必要はないと明記しています。IT重説と書面電子化は独立した制度で、どちらか一方だけを行うこともできます。なお、IT重説は説明の相手方の手元に重要事項説明書と添付書類がある状態で実施する必要があるため、紙で提供する場合は事前送付が必要です。

    Q2. 宅建業者は、重要事項説明書を電磁的方法により提供する場合、相手方の承諾を得なければならない(○か×か)

    答えを見る ○:宅建業法35条8項は、1項から3項までの書面の交付に代えて、相手方等の承諾を得て、宅建士に電磁的方法により提供させることができると定めています。承諾は、施行令3条の3により、あらかじめ電磁的方法の種類および内容を示したうえで、書面等によって得る必要があります。なお、承諾を得た後でも、相手方から書面等により提供を受けない旨の申出があったときは電磁的方法で提供してはならず、その後に再び承諾を得た場合はこの限りではありません。

    Q3. 2022年5月18日施行の改正により、35条書面への宅建士の記名は不要になった(○か×か)

    答えを見る ×:記名は残っています。宅建業法35条5項は、1項から3項までの書面の交付に当たっては宅建士は当該書面に記名しなければならないと定めており、37条3項も同様に宅建士の記名を求めています。この改正で廃止されたのは押印です。なお、媒介契約書面については34条の2第1項が「記名押印」と規定しており、11項はその記名押印に代わる措置を講じたうえでの電磁的方法による提供を認める、という構造になっています。

    Q4. IT重説においては、宅建士証の提示は省略することができる(○か×か)

    答えを見る ×:宅建業法35条4項の提示義務はIT重説でも適用されます。国土交通省の実施マニュアルは、宅建士は説明の相手方が宅建士証を視認できたことを確認する必要があるとし、宅建士証をカメラにかざして画面上の写真と説明者の顔が同一人物であることを確認してもらうこと、記載された氏名等を読み上げてもらうことといった手順を示しています。これは、宅建士でない者が重要事項説明をすることや名義貸しを防ぐために必要とされています。

    Q5. 専任媒介契約を締結した宅建業者は、契約締結の日から5日以内(休業日を除く)に指定流通機構へ登録しなければならない(○か×か)

    答えを見る ×:専任媒介契約は7日以内です。5日以内は専属専任媒介契約の期限で、いずれも宅建業者の休業日は算入しません。登録義務の根拠は宅建業法34条の2第5項で、登録した業者は6項により登録を証する書面を遅滞なく依頼者に引き渡す必要があります。この引渡しは12項により、依頼者の承諾を得て電磁的方法による提供に代えることができます。

    まとめ

    1. 制度で確定した変化は2つに整理できる。 IT重説は賃貸取引が2017年10月1日から、売買取引を含めて2021年3月30日から本格運用されています。書面電子化は、デジタル社会形成整備法(令和3年法律第37号)による宅建業法改正が2022年5月18日に施行され、34条の2、35条、37条の各書面を電磁的方法で提供できるようになりました。

    2. 要件の中心は相手方の承諾である。 34条の2第11項・12項、35条8項・9項、37条4項・5項のいずれも承諾を要件としています。承諾は、あらかじめ電磁的方法の種類および内容を示したうえで書面等により得る必要があり、受けない旨の申出があれば提供できなくなります。提供方法には、書面に出力できること、改変の有無を確認できる措置が講じられていること、記録した旨を通知することという基準があります。

    3. 手段は変わったが、判断と責任の所在は変わっていない。 35条1項の説明の主体、35条5項と37条3項の記名、35条4項の宅建士証の提示は、いずれも現行法に残っています。むしろIT重説では、宅建士証の提示について対面より詳細な確認手順が示されており、要件が緩んだのではなく同じ確実性を別の手順で担保している構造です。

    4. 公的なデータ基盤が説明義務に組み込まれつつある。 指定流通機構は34条の2に基づく登録義務で情報が集まる仕組みであり、水防法に基づく水害ハザードマップは2020年8月28日施行の施行規則16条の4の3第3号の2により重要事項説明の対象になりました。国土交通省の不動産情報ライブラリは2024年4月1日から運用されています。キャリアへの接続は宅建士のキャリアパス、資格の組み合わせは宅建と組み合わせる資格一覧を参照してください。

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