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不動産鑑定士への進み方|受験年と実務修習の設計

関連資格・ダブルライセンス 読了 約24分

宅建の次に不動産鑑定士を目指すときの道のりを、制度の日程と免除制度から設計します。短答式免除の使い方、公表された科目別平均点の読み方、実務修習まで。

目次

    この記事は、宅建に合格した人が不動産鑑定士を目指すと決めたあと、合格から登録までをどう組み立てるかを扱います。そもそも不動産鑑定士とはどういう資格で、宅建士とどう違うのか、試験範囲がどこで重なるのかという制度の対比は不動産鑑定士と宅建士の違い|重なる範囲と順序にまとめてあります。まだ目指すかどうかを決めていない段階なら、先にそちらを読んでください。

    先に全体像を述べます。不動産鑑定士になるまでには、短答式試験、論文式試験、実務修習の修了、名簿への登録という四つの関門があります。このうち試験の二つは年に一度しかなく、実務修習は12月に始まる年度制で動いています。つまり、どの年に何を通すかという設計が、学習の中身と同じくらい結果を左右します。

    そして設計の鍵になるのが、短答式合格の効力が翌年以降にも及ぶ免除制度です。これを使うか使わないかで、現実的な計画は大きく変わります。

    なお、この記事では学習時間の目安を書きません。出典を示せる公表調査が確認できないためです。年収や報酬相場も同じ理由で扱いません。試験の数値は国土交通省が公表した実施結果と受験案内に当たったものだけを、年度と出典を添えて示します。

    合格までに超える四つの関門

    条文が定める順序

    不動産の鑑定評価に関する法律(以下「鑑定評価法」)4条は「不動産鑑定士試験に合格した者であつて、第十四条の二に規定する実務修習を修了し第十四条の二十三の規定による国土交通大臣の確認を受けた者は、不動産鑑定士となる資格を有する」と定めています。そして15条により、国土交通省に備える不動産鑑定士名簿に登録を受けて、はじめて不動産鑑定士になります。

    試験そのものも一段階ではありません。8条は、試験を短答式および論文式による筆記の方法で行うと定めています。したがって関門は四つです。短答式に受かる、論文式に受かる、実務修習を修了して国土交通大臣の確認を受ける、名簿に登録する。

    宅建との違いはここに出ます。宅建は試験に合格すれば、要件を満たして登録し、宅建士証の交付を受ければ宅建士です。合格後の手続は宅建士のキャリアパス|合格後の進路と手続にまとめてありますが、いずれも数か月で完結します。鑑定士の場合、試験に受かってからさらに1年以上の修習が待っています。

    二段階であることが計画に効く

    短答式と論文式が別の試験だという事実は、計画上とても重要です。同じ年に両方を通すこともできますし、年を分けることもできます。どちらを選ぶかで、1年でやることの量がまったく変わります。

    同じ年に両方を通す場合、5月の短答式に受かってから8月の論文式まで、2か月半しかありません。しかも論文式の中心科目は短答式と重なる鑑定評価理論だけで、民法・経済学・会計学は短答式の範囲外です。短答式に受かってから論文式の勉強を始めるのでは間に合わない、という構造になっています。

    年を分ける場合、短答式に受かった年は論文式を捨て、翌年以降に論文式へ集中するという組み方になります。これを可能にしているのが免除制度です。

    年間カレンダーを先に引く

    令和7年の日程を実例として

    制度の動き方は、実際の日程を並べると掴みやすくなります。国土交通省・土地鑑定委員会「令和7年不動産鑑定士試験受験案内」によれば、令和7年の日程は次のとおりでした。

    願書の受付期間が令和7年2月6日から3月7日まで。短答式試験が5月18日(日)で、午前10時から12時までが不動産に関する行政法規、午後1時30分から3時30分までが不動産の鑑定評価に関する理論。短答式の合格発表が6月25日(水)。論文式試験が8月2日(土)から4日(月)までの3日間で、8月2日が民法と経済学、8月3日が会計学と不動産の鑑定評価に関する理論、8月4日が不動産の鑑定評価に関する理論と同(演習)。論文式の合格発表が10月17日(金)。

    受験手数料は12,800円で、短答式の免除や論文式の科目免除がある場合も同額です。試験地は、短答式が札幌市・仙台市・東京都特別区・新潟市・名古屋市・大阪市・広島市・高松市・福岡市・那覇市の10か所、論文式が東京都特別区・大阪市・福岡市の3か所です。論文式が3か所しかないため、地方在住であれば8月の3日間について宿泊を含めた計画が必要になります。

    鑑定評価理論だけ3コマある

    日程表を見て気づいてほしいのが、論文式で不動産の鑑定評価に関する理論だけが3コマを占めていることです。8月3日の午後、8月4日の午前、そして8月4日の午後の演習。他の科目が各1コマ2時間であるのに対し、鑑定理論だけが6時間です。

    配点もこれに対応しています。民法・経済学・会計学が各100点であるのに対し、鑑定評価に関する理論は300点。600点満点の半分がこの科目です。試験の重心がどこにあるかは、日程表を見るだけでわかります。

    実務修習は12月始まり

    試験の後にもカレンダーがあります。国土交通省の実務修習に関する案内によれば、実務修習の期間は1年と2年の2種類のコースがあり、12月1日から翌年11月30日を1年間として運用されています。修了考査を経て国土交通大臣の修了確認が行われ、その結果は3月末までに通知されます。

    論文式の合格発表が10月中旬であることと合わせると、10月に合格して12月から修習に入る、という流れになります。合格発表から修習開始まで1か月半しかありません。合格したら年内に生活の組み立てを変える必要がある、ということです。

    1年コースを選んだ場合、10月合格、12月修習開始、翌年11月修習終了、翌々年3月末までに修了確認、その後に登録。試験に受かってから鑑定士になるまで、最短でも1年半近くかかる計算になります。

    短答式免除を軸に受験年を組み立てる

    免除の条文

    鑑定評価法10条1項は「短答式による試験に合格した者に対しては、その申請により、当該短答式による試験に係る合格発表の日から起算して二年を経過する日までに行われる短答式による試験を免除する」と定めています。

    条文の書き方を正確に読んでください。免除されるのは、合格発表の日から起算して2年を経過する日までに行われる短答式試験です。合格した年を含めて何年、という書き方ではありません。実際の運用としては、令和7年の受験案内が「論文式試験は、本年実施の短答式試験に合格した者及び令和5年又は令和6年の短答式試験の合格者のうち本年の受験申請において短答式試験の免除申請をした者が受験できます」としています。つまり、短答式に一度受かれば、その年を含めて3回の論文式に挑戦できることになります。

    もうひとつ、免除は自動ではありません。条文が「その申請により」と書いているとおり、翌年以降の受験申込時に免除申請が必要です。受験案内も、短答式合格通知書の原本または写しなどの証明書類の添付を求めています。手続を忘れれば免除は受けられません。

    三つの型

    この免除制度を前提にすると、現実的な組み立ては三つに分かれます。

    第一が、同じ年に両方を通す型です。5月の短答式と8月の論文式を1年で抜けます。成立させるには、短答式の勉強と並行して論文式の民法・経済学・会計学を仕上げておく必要があります。短答式の発表が6月下旬なので、発表を待ってから論文の準備を始めるのでは間に合いません。免除制度を使わない型なので、短答式に落ちればその年の論文式も受けられません。

    第二が、短答式を先に通してから論文式に集中する型です。1年目は短答式に的を絞り、行政法規と鑑定評価理論の2科目に資源を集中します。合格したら、免除を使って2年目と3年目の論文式に挑みます。短答式の負担を先に片づけることで、論文式の年は民法・経済学・会計学・鑑定理論の4科目に専念できます。宅建の学習が効くのは行政法規なので、宅建合格直後の記憶が新しいうちに短答式を抜ける、という点でも理にかなっています。

    第三が、初年度は短答式のみを受けつつ、2年目に論文式と短答式の両方に備える型です。免除が使えるので短答式は受けなくてよいのですが、万一に備えて感覚を維持しておく、という考え方です。

    免除が切れる意味

    注意しておきたいのが、免除には期限があるという点です。合格発表の日から起算して2年を経過すれば、免除は使えなくなります。論文式に3回挑んで通らなければ、短答式からやり直しです。

    したがって、短答式に受かった時点で「あと3回」というカウントダウンが始まります。この期限を意識して、論文式の4科目をどの順で仕上げるかを先に決めておく必要があります。資格取得の順番を日程から逆算する考え方は資格取得の順番|試験日程から逆算する計画にまとめてあります。

    論文式の科目免除は使えるか

    短答式とは別に、論文式にも科目免除の制度があります。鑑定評価法10条2項が定めるもので、対象は限られていますが、他の資格や経歴を持っている場合には検討する価値があります。

    条文が挙げるのは次の場合です。大学等において通算3年以上、法律学に属する科目の教授もしくは准教授の職にあった者、または法律学に属する科目に関する研究により博士の学位を授与された者は民法。同じく経済学について3年以上の教授・准教授または博士の学位を有する者は経済学。商学について同様の者は会計学。民法・経済学・会計学について高等試験本試験または公認会計士試験を受けて合格した者は、その試験において受験した科目。司法修習生となる資格を得た者は民法です。

    令和7年の受験案内は、公認会計士試験の合格者について「会計学及び合格した試験において受験した科目(民法又は経済学)」が免除されると整理しています。公認会計士試験の論文式では会計学が必須で、民法または経済学を選択科目として受験できるため、選択次第で2科目が免除されることになります。

    宅建からこの免除に接続する道はありません。宅建士であることは10条2項のどの号にも当たらないからです。ただし、簿記や公認会計士の学習経験がある人、法学部で研究歴のある人にとっては、計画そのものが変わる制度です。複数の免除が使える場合、その全部を申請することも、一部だけを選んで申請することもできると受験案内は述べています。

    公表された科目別平均点から重点配分を読む

    短答式は行政法規のほうが平均点が低い

    国土交通省「令和7年不動産鑑定士試験短答式試験の結果について」によれば、令和7年5月18日に実施された短答式の結果は、申込者2,738人、受験者2,144人、合格者779人でした。合格基準は総得点の70.0パーセント以上、合格率は36.3パーセントです。

    ここで注目したいのが科目別の平均点です。不動産に関する行政法規が100点満点で56.5点、不動産の鑑定評価に関する理論が100点満点で66.6点。総合の平均点は200点満点で123.1点、得点比率61.6パーセントでした。

    つまり、行政法規のほうが平均点が10点低いのです。宅建の法令上の制限と重なる科目だから楽だろう、という予想とは逆の結果になっています。理由は範囲の広さにあります。宅建で学ぶ都市計画法・建築基準法・国土利用計画法・農地法に加え、土地基本法、地価公示法、土地区画整理法、都市再開発法、不動産登記法、土地収用法、土壌汚染対策法、文化財保護法、所得税法、法人税法、租税特別措置法、地方税法などが中心の出題範囲に入り、さらに宅地建物取引業法や自然公園法、森林法、河川法なども含まれます。

    そして合格基準が総得点の70.0パーセント、つまり140点であることを思い出してください。平均点123.1点との差は17点近くあります。平均的な受験者は基準に届いていない、という水準の試験です。宅建で作った土台は入口として効きますが、そこで止まると合格点には届かない、というのが公表値から読める実情です。宅建側の法令上の制限の攻め方は法令上の制限の頻出論点|3層に分けて攻める、個別法は都市計画法の全体像|区域区分・用途地域・開発許可建築基準法の全体像|単体規定と集団規定にまとめてあります。

    論文式は鑑定理論と会計学で沈む

    同じく国土交通省「令和7年不動産鑑定士試験論文式試験の結果について」(令和7年10月17日発表)によれば、8月2日から4日に実施された論文式の結果は、申込者1,566人、受験者981人、合格者173人でした。合格点は合計380点以上で、科目別に設定された合格基準点を満たさない者は除かれます。

    科目別平均点は、民法が100点満点で51.0点、経済学が100点満点で59.6点、会計学が100点満点で41.7点、不動産の鑑定評価に関する理論が300点満点で126.7点。総合の平均点は600点満点で278.9点、最高点は514点でした。

    得点率に直すと、経済学59.6パーセント、民法51.0パーセント、鑑定評価理論42.2パーセント、会計学41.7パーセントです。合格に必要な380点は600点の63.3パーセントですから、平均的な受験者は全科目でこの水準に届いていないことになります。

    ここから読める設計上の示唆は二つあります。第一に、配点300点の鑑定評価理論が得点率42.2パーセントにとどまっているということは、この科目が最大の得点差を生む場所だということです。300点の科目で10パーセント伸ばせば30点動きます。100点の科目で同じ10パーセントを伸ばしても10点です。投じる時間の効き方が3倍違います。

    第二に、会計学の得点率が最も低いことです。宅建にない科目であり、簿記の素養がないところから始める受験者が多いためと考えられます。裏を返せば、ここは他の受験者も取れていない領域なので、基準点を割らない程度に固めれば足りる、という判断もできます。逆に経済学は平均が最も高いので、ここを落とすと相対的に不利になります。

    論文式は総合点だけでは決まらない

    もうひとつ、論文式の合格基準には条件が付いています。国土交通省の発表は、合格者数と合格点について「173人(合計380点以上を取得した者)」としたうえで、「科目別に設定された合格基準点を満たさない者は除く」と注記しています。

    つまり、総合で380点を超えていても、どれか一科目が基準点を割れば不合格です。得意科目で不得意科目を埋め合わせることに限界がある、という構造になっています。短答式についても同様で、受験案内は合格基準を「総合点で概ね7割を基準に土地鑑定委員会が相当と認めた得点」としたうえで、「総合点のほかに各試験科目について一定の得点を必要とする」と定めています。

    この条件があるため、配点300点の鑑定評価理論に資源を集中させるとしても、他の3科目を捨てることはできません。伸ばす科目と、割らない程度に維持する科目を分けて管理する、という発想が必要になります。

    合格者の属性から見える受験者像

    同じ短答式の結果には、合格者の属性も載っています。令和7年の合格者779人の内訳は、男性658人、女性121人。平均年齢は36.6歳で、最年少が17歳、最高齢が76歳でした。

    年齢別の合格率も公表されています。20歳未満33.3パーセント、20歳以上25歳未満37.5パーセント、25歳以上30歳未満40.2パーセント、30歳以上35歳未満36.9パーセント、35歳以上40歳未満37.4パーセント、40歳以上45歳未満31.7パーセント、45歳以上50歳未満38.0パーセント、50歳以上55歳未満34.5パーセント、55歳以上60歳未満30.1パーセント、60歳以上32.8パーセントです。

    読み取れることが二つあります。第一に、平均年齢36.6歳という数字が示すとおり、この試験は社会人が中心です。学生が主力の試験ではありません。第二に、年齢別の合格率が30パーセントから40パーセントの範囲に収まっており、極端な差がないことです。40歳以上の受験者は816人で全体の約4割を占めますが、合格率は30パーセント台を維持しています。宅建の後に、年齢を理由に諦める根拠は公表値からは読み取れない、ということになります。

    数字を過信しない

    ひとつ断っておくと、これは単年の平均点です。年によって問題の難易度は動きますし、平均点は受験者集団の性質にも左右されます。参考までに、国土交通省「令和8年不動産鑑定士試験短答式試験の結果について」によれば、令和8年の短答式は受験票発行者3,088人、受験者2,407人、合格者900人で、受験者は前年から増えています。

    公表値は傾向を掴むために使うものであって、そのまま来年に当てはまるものではありません。重点配分の根拠として使いつつ、絶対視はしない、という距離感で扱ってください。

    宅建の学習が効く科目と、効かない科目

    科目ごとの詳しい重なり方は不動産鑑定士と宅建士の違い|重なる範囲と順序で扱っているので、ここでは学習設計に必要な範囲だけ整理します。

    効くのは二つです。短答式の不動産に関する行政法規と、論文式の民法。行政法規には宅建の法令上の制限と税その他で学ぶ法律の多くが含まれ、民法は宅建の権利関係と論点が重なります。権利関係の全体像は権利関係の全体像|14問の出題範囲と学習設計を参照してください。

    ただし、効き方には限界があります。行政法規は前述のとおり平均点が低く、宅建の範囲だけでは足りません。民法は宅建が四肢択一の判定であるのに対し、論文式は白紙から論述を構成する形式です。同じ知識でも出力の形が違うので、変換の作業が要ります。

    行政法規の範囲を最初に眺めておく

    行政法規の学習に入る前に、範囲の全体を一度見ておくことをすすめます。令和7年の受験案内は出題範囲を二段に分けて列挙しています。

    中心となるのは、土地基本法、不動産の鑑定評価に関する法律、地価公示法、国土利用計画法、都市計画法、土地区画整理法、都市再開発法、建築基準法、マンションの再生等の円滑化に関する法律、不動産登記法、土地収用法、土壌汚染対策法、文化財保護法、農地法、所得税法、法人税法、租税特別措置法、地方税法です。

    「マンションの再生等の円滑化に関する法律」(平成14年法律第78号)は、令和7年法律第47号による改正で旧題名「マンションの建替え等の円滑化に関する法律」から変更されたものです。施行日は令和8年4月1日で、令和7年の受験案内は旧題名で記載されています。法律番号は変わっていないので、旧題名で書かれた教材に当たったときは同一の法律だと判断してください。

    これに加えて、宅地建物取引業法、宅地造成及び特定盛土等規制法、都市緑地法、住宅の品質確保の促進等に関する法律、自然公園法、森林法、道路法、河川法、海岸法、公有水面埋立法、国有財産法、相続税法、景観法、不動産特定共同事業法、資産の流動化に関する法律、投資信託及び投資法人に関する法律、金融商品取引法などが含まれます。

    宅建で学ぶ法律の名前がいくつも並んでいる一方で、土地収用法、都市再開発法、土壌汚染対策法、文化財保護法、河川法、海岸法のように宅建では扱わないものも中心の側に入っています。「宅建の延長」と捉えると量を見誤る、というのが範囲を眺めてわかることです。

    なお、出題される法令の基準日も定められています。令和7年の受験案内は、いずれの科目についても令和6年9月1日時点で施行されているものから出題すると明記しています。法改正の反映時期を確認する際の目安になります。

    効かない科目が学習の中心になる

    効かないのは三つです。経済学、会計学、そして不動産の鑑定評価に関する理論。合わせて論文式600点のうち500点、短答式200点のうち100点を占めます。学習の中心はここになります。

    このうち鑑定評価理論だけは、宅建にも入口があります。宅建の税その他では、地価公示法と不動産鑑定評価基準から出題されるからです。手法と価格の種類の対応関係は不動産の鑑定評価|4つの価格と3つの手法、計算の手触りは鑑定評価の3手法の計算例|原価法・取引事例比較法・収益還元法、地価公示の仕組みは地価公示法|標準地・公示価格の仕組みと効力で扱っています。公的価格の全体像は土地の価格はどう決まる?4つの公的価格を比較が入口になります。

    ただし、宅建で問われるのは用語と手法の対応にとどまります。原価法・取引事例比較法・収益還元法の名前と定義、正常価格・限定価格・特定価格・特殊価格の区別、最有効使用の原則。鑑定士試験ではこれらを条文レベルで暗記したうえで、事例に適用して300点分を書くことになります。入口が同じでも、到達点は別物だと理解してください。

    実務修習という最後の関門

    三つの単元

    鑑定評価法14条の2は、実務修習を、国土交通大臣の登録を受けた実務修習機関が行うと定めています。国土交通省によれば、現在登録を受けている実務修習機関は公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会のみです。

    実務修習は講義、基本演習、実地演習の3単元で構成され、単元ごとに修得の確認を受けます。講義で知識を入れ、基本演習で型を学び、実地演習で実際の不動産を対象に鑑定評価報告書を作成する、という流れです。修了考査を経て国土交通大臣の修了確認が行われ、その結果は3月末までに通知されます。

    コースの選択が生活を決める

    期間は1年と2年の2種類です。どちらを選ぶかは、単に長さの問題ではありません。実地演習は実際の不動産を対象に評価を積み重ねる作業なので、指導を受けられる環境が要ります。鑑定事務所に勤めているかどうかで、進め方がまったく変わるということです。

    宅建士として不動産会社に勤めている人が試験に合格した場合、この段階で選択を迫られます。鑑定事務所へ移って実地演習の環境を確保するか、現職を続けながら修習を受ける方法を探すか。試験の合格発表が10月中旬、修習の開始が12月1日ですから、判断のための時間は長くありません。

    試験に合格した時点ではまだ鑑定士ではない、というのはこういう意味です。宅建が合格から資格の行使まで数か月なのに対し、鑑定士は合格後に生活設計そのものを組み替える段階が挟まります。この差を計画の最初から織り込んでおくかどうかで、合格後の動きの速さが変わります。

    登録して初めて鑑定士

    修了確認を受けたら、15条により不動産鑑定士名簿への登録を申請します。16条には欠格条項があり、未成年者、破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者、拘禁刑以上の刑に処せられて執行を終わり、または執行を受けることがなくなった日から3年を経過しない者などが挙げられています。

    なお、国土交通省が公表している「不動産の鑑定評価に係る登録状況」によれば、令和7年1月1日現在の不動産鑑定士の登録者数は8,789人、不動産鑑定士補が1,187人、合計9,976人です。平成28年1月1日時点の鑑定士8,207人から、10年間でおよそ580人の増加にとどまっています。宅建士の登録者とは規模がまったく違う世界に入る、ということでもあります。

    進むかどうかを決めるための確認

    宅建と同じ年に受けられるか

    日程だけを見れば、宅建と鑑定士は同じ年に受けられます。鑑定士の短答式が5月、論文式が8月上旬、宅建が10月の第3日曜日なので、試験日そのものは重なりません。

    しかし現実的ではありません。論文式の直前期である6月から7月と、宅建の直前期である9月から10月は離れていますが、論文式の合格発表が10月中旬で、宅建の試験日とほぼ同じ時期に来ます。そして何より、論文式は4科目を600点分書く試験です。同じ年に宅建の50問を仕上げる余力を確保するのは、想定しにくい負荷になります。

    順序としては、宅建を先に片づけてから鑑定士に入るのが素直です。宅建は範囲が狭く短期で結果が出るため、法律の学習経験と合格の実績を先に作れます。令和7年度の宅建は、不動産適正取引推進機構「令和7年度宅地建物取引士資格試験結果の概要」(令和7年11月26日公表)によれば、受験者245,462人、合格者45,821人、合格率18.7パーセント、合格判定基準は50問中33問以上でした。この規模と難度の試験を先に通しておくことには、行政法規の土台以上の意味があります。

    他の進路と比べてから決める

    鑑定士は、宅建士から見て学習量も制度上のハードルも大きい資格です。四つの関門を越えるまでに数年かかることを踏まえると、目的が「不動産の価値を判定する専門性」でないのなら、別の方向のほうが合うこともあります。

    登記の分野なら宅建から司法書士へ|重なる科目と試験の構造、土地の境界と表示の登記なら土地家屋調査士と宅建|重なる範囲と取得順序が候補になります。不動産系の資格全体の見取り図は宅建と組み合わせる資格一覧|目的別の選び方宅建とダブルライセンス|相性の良い資格5選にまとめてあります。

    判断の材料は、公表されている制度と数値です。合格率も配点も日程も公表されているので、どれだけの期間と資源を投じることになるかは事前に見積もれます。その見積もりを立ててから決める、という順序をすすめます。

    宅建の側で先に固めておくと効くところ

    鑑定士に進むと決めているなら、宅建の学習の段階から意識しておくと後で効く箇所があります。

    法令上の制限は条文の位置まで

    宅建の法令上の制限は、数字と手続を覚えれば正誤を判定できます。しかし鑑定士の行政法規では、同じ法律について条文レベルの細かさが求められます。宅建の段階で「どの法律の、どのあたりに書いてあるか」まで意識して読んでおくと、行政法規に入ったときの立ち上がりが変わります。

    税その他の問25は鑑定理論の入口

    宅建の税その他では、地価公示法または不動産鑑定評価基準から出題される問題があります。多くの受験生が範囲の狭さから後回しにする領域ですが、鑑定士を視野に入れるなら、ここは最初の接点です。用語の定義を正確に押さえておくだけでも、鑑定理論の教科書を開いたときの抵抗が下がります。税その他全体の攻め方は税・その他の得点戦略|免除科目を含む8問の攻略法にまとめてあります。

    権利関係は「なぜ」まで踏み込む

    宅建の権利関係は、結論を覚えれば得点になります。しかし論文式の民法では、要件と効果を自分の言葉で構成する必要があります。宅建の段階から、その結論がなぜそうなるのかを一言で説明できる状態にしておくと、論文への変換が楽になります。過去問の使い方は宅建の過去問活用術|肢別・年度別と回転法を参照してください。

    登記の知識は行政法規で再登場する

    宅建の不動産登記法は1問程度ですが、鑑定士の行政法規では出題範囲の中心に不動産登記法が挙げられています。不動産登記法|表示の登記と権利の登記の違いで扱っている表示と権利の区別、共同申請の原則といった骨格は、そのまま持ち込めます。

    覚え方・整理の仕方

    関門は「短答・論文・修習・登録」

    四つを順に唱えます。試験に受かることは四つのうち二つでしかない、と最初に理解しておくと、合格後の計画を後回しにしません。

    カレンダーは「2・5・6・8・10・12」

    願書2月、短答式5月、短答発表6月、論文式8月、論文発表10月、実務修習開始12月。数字の並びで年間の動きを持っておくと、いつまでに何を仕上げるかの逆算ができます。

    免除は「発表から2年、申請が要る」

    10条1項の効力は合格発表の日から起算して2年を経過する日まで。そして申請しなければ受けられません。期間と手続の二点をセットで覚えます。

    配点は「鑑定理論が半分」

    論文式600点のうち鑑定評価理論が300点。試験日程でも3コマを占めます。どこに資源を投じるかで迷ったら、この一点に戻ってください。

    得点率は「経済学が高く、会計学が低い」

    令和7年の公表値では、経済学59.6パーセント、民法51.0パーセント、鑑定評価理論42.2パーセント、会計学41.7パーセント。高い科目は落とせない、低い科目は基準点を割らなければよい、という判断の材料になります。

    基準点は「総合だけではない」

    短答式も論文式も、総合点の基準に加えて科目別の基準点があります。総合で届いていても一科目が沈めば不合格です。伸ばす科目と割らない科目を分けて管理する、という発想を最初から持っておいてください。

    「合格=鑑定士」ではない

    宅建の感覚のまま計画を立てると、ここで狂います。10月に合格して12月に修習が始まり、修了確認は早くても1年以上先。試験の先にもう一段ある、と最初から数えておいてください。

    理解度チェッククイズ

    次の記述の正誤を判定してください。

    Q1. 不動産鑑定士試験の短答式に合格した者は、申請をしなくても、以後2年間に行われる短答式試験が自動的に免除される。

    答えは誤りです。鑑定評価法10条1項は「短答式による試験に合格した者に対しては、その申請により、当該短答式による試験に係る合格発表の日から起算して二年を経過する日までに行われる短答式による試験を免除する」と定めています。「その申請により」とあるとおり、翌年以降の受験申込時に免除申請をしなければ免除は受けられません。令和7年の受験案内も、短答式合格通知書などの証明書類の添付を求めています。期間の起算点が合格発表の日である点もあわせて確認してください。

    Q2. 不動産鑑定士試験の論文式では、不動産の鑑定評価に関する理論の配点が600点満点中300点を占める。

    答えは正しい記述です。国土交通省が公表した令和7年の論文式試験の結果によれば、民法、経済学、会計学がそれぞれ配点100点であるのに対し、不動産の鑑定評価に関する理論は配点300点で、総合の満点は600点です。令和7年の試験日程でも、この科目だけが3コマ(うち1コマは演習)を占めていました。試験の重心がこの科目にあることは、配点と日程の両方から確認できます。

    Q3. 宅建の法令上の制限で学ぶ内容と重なるため、不動産鑑定士試験の短答式では、不動産に関する行政法規のほうが不動産の鑑定評価に関する理論より平均点が高い。

    答えは誤りです。国土交通省「令和7年不動産鑑定士試験短答式試験の結果について」によれば、令和7年の科目別平均点は、不動産に関する行政法規が100点満点で56.5点、不動産の鑑定評価に関する理論が100点満点で66.6点でした。行政法規のほうが約10点低くなっています。宅建と重なる法律が含まれるとはいえ、土地基本法、土地収用法、土壌汚染対策法、所得税法、法人税法など宅建で扱わない法律も中心の出題範囲に入るためです。なお短答式の合格基準は総得点の70.0パーセント以上で、総合平均点は200点満点中123.1点でした。

    Q4. 不動産鑑定士試験に合格した者は、その時点で不動産鑑定士となる資格を有する。

    答えは誤りです。鑑定評価法4条は、試験に合格した者であって、14条の2に規定する実務修習を修了し、14条の23の規定による国土交通大臣の確認を受けた者が、不動産鑑定士となる資格を有すると定めています。そのうえで15条により、国土交通省に備える不動産鑑定士名簿への登録を受けて、はじめて不動産鑑定士になります。実務修習は1年と2年の2コースがあり、12月1日から翌年11月30日を1年間として運用されています。試験合格から登録までには、最短でも1年以上の期間が必要です。

    Q5. 宅地建物取引士の資格を有することは、不動産鑑定士試験の論文式試験の科目免除の事由となる。

    答えは誤りです。鑑定評価法10条2項が挙げる論文式の科目免除の事由は、大学等で通算3年以上、法律学・経済学・商学に属する科目の教授または准教授であった者や、これらの分野の研究により博士の学位を授与された者、民法・経済学・会計学について高等試験本試験または公認会計士試験に合格した者、司法修習生となる資格を得た者などです。宅地建物取引士はいずれの号にも該当しません。なお短答式の免除(10条1項)も、宅建士であることを理由に受けられるものではありません。

    まとめ

    • 不動産鑑定士になるまでの関門は、短答式、論文式、実務修習の修了と国土交通大臣の確認、名簿への登録の四つです(鑑定評価法4条・15条)。願書2月、短答式5月、短答発表6月、論文式8月、論文発表10月、実務修習開始12月という年間サイクルを先に引いてから、どの年に何を通すかを決めてください。
    • 計画の鍵は短答式の免除です。合格発表の日から起算して2年を経過する日までに行われる短答式が、申請により免除されます(10条1項)。これにより、短答式を先に通してから論文式に集中する組み方が成立します。ただし期限があるため、短答式合格の時点で論文式に挑める回数が確定します。
    • 重点配分は公表値から読めます。令和7年の科目別平均点は、短答式が行政法規56.5点・鑑定評価理論66.6点(各100点)、論文式が民法51.0点・経済学59.6点・会計学41.7点(各100点)・鑑定評価理論126.7点(300点)でした(国土交通省の各実施結果)。配点300点の鑑定評価理論が得点率42.2パーセントにとどまっており、ここが最大の得点差を生む場所です。

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