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行政書士と宅建の試験範囲|重なる科目と固有科目

関連資格・ダブルライセンス 読了 約23分

宅建の学習が行政書士試験のどこまで効き、どこから効かないのかを科目単位で整理します。60問300点の内訳、合否判定基準、令和6年度の科目改正まで出典つきで解説。

目次

    この記事は、宅建の学習が行政書士試験のどこまで効いて、どこから新しい学習になるのかを、科目単位で切り分けるためのものです。合格率や合格基準の性格といった「試験としての難易度比較」は宅建と行政書士はどっちが難しい?難易度比較とダブル受験の可否に、業務内容や独立開業での組み合わせ方は行政書士と宅建のダブルライセンス|独立開業に有利な組み合わせにまとめてあります。この記事が扱うのは、その中間にある「試験範囲そのものの地図」です。

    先に結論を述べます。重なるのは民法だけです。しかも重なり方は対等ではなく、宅建の民法は行政書士の民法に包含される関係にあり、さらに行政書士では同じ知識を記述式で書けるところまで引き上げる必要があります。そして行政書士試験300点のうち民法は76点にとどまり、残りの大半を占める行政法・憲法・商法・基礎法学・基礎知識は、宅建の学習からは1点も持ち込めません。

    「民法が重なるから有利」という説明はよく見かけますが、有利さの中身と限界を数字で押さえておかないと、学習計画を大きく誤ります。以下、行政書士試験の器を確認したうえで、科目ごとに何が効いて何が効かないかを見ていきます。

    なお、この記事では学習時間の目安を書きません。出典を示せる公表調査が確認できないためです。試験範囲の重なりも「何割」ではなく「何が」で示します。

    行政書士試験の器を先に押さえる

    60問300点の内訳

    一般財団法人行政書士試験研究センターが公表している「行政書士試験の概要」によれば、試験科目は二つです。「行政書士の業務に関し必要な法令等」から46題、「行政書士の業務に関し必要な基礎知識」から14題。法令等は択一式と記述式、基礎知識は択一式で出題されます。

    配点は、同センターが公表した「令和7年度行政書士試験合否判定基準」に明示されています。法令等が5肢択一式40問160点、多肢選択式3問24点、記述式3問60点で計46問244点。基礎知識が5肢択一式14問56点。合計60問300点満点です。問題別の配点は、5肢択一式が1問につき4点、多肢選択式が1問につき8点(空欄ア〜エ一つにつき2点)、記述式が1問につき20点とされています。

    宅建が四肢択一50問・50点満点で、形式が1種類しかないのと比べてください。行政書士は3種類の形式を3時間で処理します。試験時間は午後1時から午後4時まで、実施日は毎年11月の第2日曜日です。宅建の配点構成は宅建の科目別攻略法にまとめてあります。

    受験のハードルは制度上ない

    センターの「行政書士試験の概要」は、受験資格について年齢・学歴・国籍に関係なく誰でも受験できると明示しています。宅建も同様に受験資格の制限はありません。実務経験も学歴も問われないという点で、両試験は同じ入口を持っています。

    受験手数料は、同概要によれば行政書士が10,400円です。宅建より高く設定されていますが、いずれも受験を断念させる水準ではありません。制度上のハードルがない以上、両試験を分けているのは範囲と深さだけだ、ということになります。

    合格するために超えるべき三つの線

    同じ「令和7年度行政書士試験合否判定基準」は、合格基準点を次のように定めています。次の要件のいずれも満たした者を合格とする、として、第一に法令等科目の得点が122点以上であること、第二に基礎知識科目の得点が24点以上であること、第三に試験全体の得点が180点以上であることの三つです。

    「いずれも」という語が効いています。法令等で満点近くを取っても、基礎知識が24点に届かなければ不合格です。基礎知識は1問4点きざみなので、24点以上とは14問中6問以上の正解を意味します。得意科目で不得意科目を埋め合わせられない、という構造です。宅建には科目ごとの基準点が一切ないので、これは行政書士に固有の負荷になります。合格基準の性格そのものの比較は宅建と行政書士はどっちが難しい?難易度比較とダブル受験の可否で詳しく扱っています。

    科目ごとの配点は公示されていない

    注意しておきたいのは、センターが公示しているのが「法令等46問244点、基礎知識14問56点」という枠だけだという点です。行政法が何点、民法が何点という科目ごとの内訳は公示されていません。

    以下でこの記事が使う科目ごとの配点は、近年の出題実績から読み取れる配分です。おおむね行政法112点、民法76点、憲法28点、商法・会社法20点、基礎法学8点という構成が続いています。公表された配分ではないので、年によって動く可能性がある目安として扱ってください。

    令和6年度から科目名と内容が変わった

    ここは古い教材が残りやすい箇所です。従来「行政書士の業務に関連する一般知識等」と呼ばれていた科目は、令和6年度試験から「行政書士の業務に関し必要な基礎知識」に変わりました。センターの「行政書士試験の概要」は、この科目の出題数14題について「令和6年度試験から適用」と明記しています。

    内容も変わりました。センターが示す内訳は、一般知識、行政書士法等関連諸法令、情報通信・個人情報保護、文章理解の四つです。従来の「政治・経済・社会/情報通信・個人情報保護/文章理解」という三本立てに、行政書士法など行政書士業務と密接に関連する諸法令が加わった形になります。

    配点56点、14問、基準点24点という枠は据え置きです。変わったのは科目の名称と、出題される内容の範囲だということになります。「一般知識等」という旧名称や、「政治・経済・社会」を三本柱の一つとして挙げる説明が残っている記事や教材は、この改正を反映していません。

    数字で見た規模の違い

    参考までに直近の実施結果を並べておきます。行政書士試験研究センターの公表によれば、令和7年度は受験者50,163人に対し合格者7,292人で、合格率は14.54%です。令和6年度は受験者47,785人に対し合格者6,165人、令和5年度は受験者46,991人に対し合格者6,571人でした。

    宅建は、不動産適正取引推進機構「令和7年度宅地建物取引士資格試験結果の概要」(令和7年11月26日公表)によれば、令和7年度の受験者245,462人、合格者45,821人、合格率18.7%、合格判定基準は50問中33問以上でした。受験者数の規模がおよそ5倍違います。合格率の読み方は宅建の難易度と合格率|公表値で読む他資格比較宅建試験の合格率推移|2025年最新データで読むトレンド分析で扱っています。

    民法は重なるが、問われ方が変わる

    重なるのは論点の名前

    両試験で唯一まともに重なるのが民法です。論点の名前で並べると、共通する部分はかなりあります。意思表示(詐欺・強迫・錯誤・虚偽表示と第三者保護)、代理(有権代理・無権代理・表見代理)、時効(取得時効・消滅時効、完成猶予と更新)、物権変動と対抗要件、抵当権、債務不履行と解除、契約不適合責任、賃貸借、不法行為、相続と遺留分。いずれも両試験の頻出領域です。

    宅建側の各論点は個別記事にまとめてあります。意思表示の瑕疵|詐欺・強迫・錯誤・虚偽表示の違い代理制度の基本|無権代理と表見代理の違いを解説時効|取得時効と消滅時効の要件・効果を解説物権変動と対抗要件|登記の役割と第三者の範囲抵当権の基本|設定・効力の及ぶ範囲と賃借権債務不履行と損害賠償・解除|3つの類型を整理契約不適合責任|買主の4つの権利と期間制限民法の賃貸借|存続期間・対抗要件・敷金を整理相続|相続人の範囲・法定相続分・遺留分。権利関係の全体像は権利関係の全体像|14問の出題範囲と学習設計を参照してください。

    宅建の権利関係14問がすべて民法ではない

    まず前提の整理です。宅建の権利関係14問のうち、民法そのものから出るのは近年の実績でおおむね10問前後です。残りは借地借家法が2問、区分所有法が1問、不動産登記法が1問という配分が続いています。

    このうち行政書士に持ち込めるのは民法の部分だけです。借地借家法・区分所有法・不動産登記法は行政書士試験の出題科目に含まれていません。センターが示す法令等科目の内訳は憲法・行政法・民法・商法・基礎法学であり、この三法は入っていないからです。

    択一より記述式のほうが重い

    行政書士の民法は、近年の出題実績では5肢択一9問36点と記述式2問40点で、合計76点という構成です。ここに決定的な特徴があります。択一より記述式のほうが配点が大きいのです。

    記述式は1問20点で、40字程度で解答します。民法の記述2問を落とすと40点が消え、180点への到達がほぼ絶望的になります。つまり行政書士の民法対策は、択一を固めることではなく、記述式を書けるようにすることが本体だ、ということになります。

    「判定する」と「構成する」の段差

    宅建の民法は、与えられた記述が正しいかを判定する課題です。四つの選択肢を読み、条文と判例の知識に照らして正誤を決める。選択肢という手がかりが常にあります。

    行政書士の記述式は、白紙から要件と効果を組み立てる課題です。誰が誰に対して何を根拠に何を請求できるのか、その要件は何か。手がかりなしに40字で構成します。

    この二つは同じ知識を使っていても、必要な習熟度が違います。選択肢を読んで正誤を判定できる状態と、何も見ずに要件を列挙して書ける状態の間には、はっきりした段差があります。宅建の民法をどれだけ回しても、記述式が書けるようにはなりません。逆向きは成立します。記述式が書ける状態まで仕上げれば、宅建の民法は判定するだけなので容易になります。

    したがって、両方を視野に入れるなら、民法は最初から書ける水準を目標に学ぶほうが二度手間になりません。

    記述式と多肢選択式という形式そのもの

    宅建にない形式が二つあることも、範囲の問題として押さえておきます。

    記述式は40字程度で書きます。40字は、要件を三つ並べればほぼ埋まる長さです。何を書くかを絞る作業が採点に直結し、条文の文言を正確に思い出せるかどうかがそのまま点数に反映されます。1問20点という配点は5肢択一5問分にあたるので、択一を5問正解する労力と記述を1問書き切る労力を同じ天秤に載せて考えることになります。部分点が入る形式なので、白紙にしないことに意味があります。

    多肢選択式は、文章の空欄ア〜エに語句を当てはめる形式です。「令和7年度行政書士試験合否判定基準」の問題別配点によれば、1問につき8点で、空欄一つにつき2点が配点されます。つまり四つすべてを埋められなくても、埋まった分だけ加点されます。択一のように一つ選んで終わりではないので、ここでも部分点の発想が働きます。

    宅建の四肢択一だけを経験してきた場合、この二形式は時間配分の面でも新しい負荷になります。3時間で3種類の形式を処理する設計そのものが、対策の対象になるということです。

    判例の扱いも変わる

    もうひとつの段差が判例です。宅建では、主要判例について結論を知っていれば正誤を判断できる問題が中心です。「この事案ではこの結論になる」という対応関係を押さえれば足ります。

    行政書士では判例の射程まで問われます。判旨のどの部分が理由づけで、どこまでの事案に及ぶのか。似て非なる事案が選択肢に置かれ、判例の結論をそのまま当てはめてよいかどうかを判断させる出題が普通にあります。条文についても、キーワードではなく要件の正確な理解が要求されます。

    なお、2020年4月1日施行の債権法改正は両試験に等しく影響しています。宅建側での反映点は権利関係の民法改正まとめ|試験で出る改正ポイントにまとめてあります。

    同じ民法でも、宅建では手薄になる領域

    論点の名前が共通すると書きましたが、民法のなかにも宅建ではほとんど触れない領域があります。行政書士の民法は民法全体、つまり総則・物権・債権・親族・相続が範囲だからです。

    宅建で手薄になりやすいのは、第一に債権総論の細部です。債権者代位権(423条)、詐害行為取消権(424条以下)、多数当事者の債権債務関係、債権譲渡と相殺の応用論点。宅建でも保証や相殺は出ますが、扱いは基本的な範囲にとどまります。

    第二に、契約以外から債権が発生する場面です。事務管理(697条)と不当利得(703条以下)は、宅建の出題範囲でほとんど扱われません。

    第三に親族法です。宅建では相続人の範囲を判断する前提として触れる程度ですが、行政書士では婚姻や親子の論点が単独で問われることがあります。

    第四に物権の周辺です。宅建は不動産取引に直結する物権変動と担保物権に重心がありますが、行政書士では用益物権や占有権の細部も範囲に入ります。

    つまり、宅建の権利関係を仕上げていても、民法という科目の全体からすれば一部を固めた状態だ、ということになります。持ち込めるのは骨格であって、範囲そのものではありません。

    行政法という、宅建にない中心科目

    配点の重心はここにある

    行政書士試験の中心は民法ではなく行政法です。近年の出題実績では112点前後を占め、300点満点の3分の1以上にあたります。宅建における宅建業法20問と同じ位置づけの科目だと考えてください。宅建業法の全体像|20問の出題範囲と学習設計で扱っている宅建業法が、宅建の得点の中核であるのと同じ構図です。

    そして行政法は、宅建の出題範囲にまったく含まれません。ここが「民法が重なるから有利」という説明の限界です。有利さは民法76点分に限られ、最大の科目は初めから積み上げることになります。

    何を学ぶ科目なのか

    行政法という一本の法律があるわけではありません。行政の活動と、それに対する私人の救済を扱う法律群の総称です。中核になるのは、行政手続法、行政不服審査法、行政事件訴訟法、国家賠償法、地方自治法の五つと、これらを貫く行政法総論です。

    行政手続法は、行政庁が処分をしたり行政指導をしたりするときの手続を定めます。申請に対する処分では審査基準の設定と公にする努力義務、標準処理期間、拒否処分の理由提示。不利益処分では処分基準、聴聞と弁明の機会の付与という二種類の意見陳述手続。行政指導では、相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであることと、従わなかったことを理由に不利益な取扱いをしてはならないこと。条文を正確に覚えることが得点に直結する、宅建業法に似た性格の法律です。

    行政不服審査法は、処分に不服がある私人が行政機関に審査請求をする手続を定めます。原則として処分庁の最上級行政庁に審査請求をすること、審理員による審理と行政不服審査会への諮問という二段階の公正性確保の仕組み、そして裁決の種類(却下・棄却・認容)が中心になります。

    行政事件訴訟法は、裁判所に訴える手続を定めます。取消訴訟を中心に、無効等確認訴訟、不作為の違法確認訴訟、義務付け訴訟、差止訴訟という抗告訴訟の類型があり、取消訴訟については処分性・原告適格・訴えの利益という三つの訴訟要件が判例とともに問われます。行政法のなかでも判例の比重がもっとも大きい領域です。

    国家賠償法は、公権力の行使にあたる公務員の違法な行為による損害の賠償(1条)と、道路や河川など公の営造物の設置管理の瑕疵による損害の賠償(2条)を扱います。民法の不法行為(709条)や工作物責任(717条)と対応関係にあるので、宅建で不法行為を学んでいれば構造の理解は早くなります。

    地方自治法は、自治体の組織と運営を扱います。条例と規則、議会と長の関係、直接請求の制度、住民監査請求と住民訴訟などが範囲です。条文量が多く、暗記の負担が大きい領域になります。

    宅建の学習との唯一の接点

    まったく無関係かというと、そうでもありません。宅建の「法令上の制限」で学ぶ開発許可(都市計画法29条)や建築確認(建築基準法6条)は、行政法でいう行政庁の処分そのものです。都市計画法の全体像|区域区分・用途地域・開発許可建築基準法の頻出ポイント|建ぺい率・容積率・用途制限で扱っている許可・確認の仕組みは、行政法の教科書でいえば具体例の側にあたります。

    ただし、宅建で問われるのはその処分の要件と数字だけです。処分性があるか、誰に原告適格があるか、どの手続で争えるか、といった枠組みは扱いません。接点があるのは題材であって、問われる思考ではない、と理解してください。行政法を学ぶと宅建の法令上の制限が立体的に見えるようになる、という副次的な効果はありますが、逆方向に得点が持ち込めるわけではありません。

    憲法・商法・基礎法学と、基礎知識56点

    憲法と商法・会社法、基礎法学

    近年の出題実績では、憲法が28点前後、商法・会社法が20点前後、基礎法学が8点前後です。いずれも宅建の出題範囲にありません。

    憲法は人権と統治に分かれます。人権では、表現の自由、法の下の平等、信教の自由、財産権、生存権といった論点について、最高裁判例の判断枠組みが問われます。統治では、国会・内閣・裁判所・財政・地方自治の条文知識が中心です。宅建の学習で判例に触れているとはいえ、民事の判例と憲法判例では読み方が違うため、ここは新規の学習になります。

    商法・会社法は、商法総則・商行為と会社法から出題されます。会社法は設立、株式、機関設計、計算といった範囲が広く、配点に対して学習量が大きくなりがちです。どこまで踏み込むかの判断が必要になる科目だ、という点は押さえておいてください。

    基礎法学は、法の分類、法解釈の方法、裁判制度といった法律学の入口にあたる概念を扱います。配点は最小で、範囲も絞りにくいため、深追いの対象にはなりません。

    宅建で法律の読み方に慣れていることは、これらの科目に入る際の助けにはなります。主語は誰か、原則と例外はどこか、要件と効果はどう対応するか。この読み方が身についているかどうかで、初見の条文に向かうときの負担は変わります。しかし、それは学習の速度に効く話であって、知識としての持ち込みではありません。

    基礎知識56点と足切り24点

    令和6年度から名称と内容が変わった科目です。センターの示す内訳は、一般知識、行政書士法等関連諸法令、情報通信・個人情報保護、文章理解の四つです。

    改正で加わった「行政書士法等関連諸法令」は、この科目の性格を変えました。従来の一般知識は、時事的な要素が強く、法令科目のように積み上げれば必ず伸びるという性質ではありませんでした。そこに行政書士法という条文科目が入ったことで、対策の立てやすい部分が生まれたことになります。行政書士の業務範囲や義務を定める法律なので、資格そのものへの理解とも直結します。行政書士の業務内容は行政書士と宅建のダブルライセンス|独立開業に有利な組み合わせで扱っています。

    四つの分野は性格が違います。行政書士法等関連諸法令と情報通信・個人情報保護は、条文を読めば答えが決まる領域です。個人情報保護法は定義規定と事業者の義務が中心で、法令科目と同じ勉強法が通用します。文章理解は、与えられた文章を読んで並べ替えたり空欄を埋めたりする形式で、知識ではなく読解の技術が問われます。対して一般知識は、政治・経済・社会に関する幅広い事項が対象で、時事的な要素も含むため、出題箇所を事前に絞りにくい領域です。

    したがって基準点対策としては、条文で決まる領域と読解で決まる領域を先に固め、絞りにくい領域は上積みとして扱う、という順序が現実的になります。範囲が絞れる分野があるという点で、旧課程よりは対策が立てやすくなった面があります。

    とはいえ、14問中6問という基準点は毎年一定数の受験者を落としています。宅建にはこの種の足切りが存在しないので、併願を考えるときは「法令等をどれだけ固めても基礎知識で落ちうる」という構造を先に理解しておく必要があります。

    宅建から持ち込めるもの、持ち込めないもの

    ここまでを整理します。

    持ち込めるのは、民法の論点知識です。意思表示、代理、時効、物権変動、抵当権、債務不履行、契約不適合責任、賃貸借、不法行為、相続。これらの骨格を宅建で作っていれば、行政書士の民法は積み上げの続きから始められます。加えて、法律の条文を読む作法そのものが持ち込めます。

    持ち込めないのは、まず行政法112点分です。次に憲法28点分、商法・会社法20点分、基礎法学8点分、基礎知識56点分。単純に足せば224点で、300点満点の4分の3近くになります。

    そして、持ち込めても足りないものがあります。民法の記述式です。宅建で作った知識は判定するための知識であって、書くための知識にはなっていません。ここは持ち込みではなく変換が必要な部分だ、と位置づけてください。

    逆方向から見ると

    行政書士から宅建へ進む場合はどうか。民法については、行政書士の水準で仕上げていれば宅建の権利関係は復習の範囲になります。判定するだけで済むうえ、問われる深さも浅くなるからです。借地借家法・区分所有法・不動産登記法の4問分は新規ですが、範囲が閉じているので負担は限定的です。

    しかし宅建の得点の中核である宅建業法20問は、行政書士の学習から1点も持ち込めません。免許制度、営業保証金と保証協会、重要事項説明と37条書面、8種制限、報酬、監督処分。いずれも宅地建物取引業法という一本の法律の中の話で、行政書士試験の出題科目に含まれていないためです。法令上の制限8問(都市計画法、建築基準法、国土利用計画法、農地法、宅地造成及び特定盛土等規制法、土地区画整理法)と税・その他も同様です。

    ただし、行政法を学んでいれば法令上の制限の理解は速くなります。開発許可も建築確認も農地転用の許可も、行政庁が申請に対してする処分だという共通の構造を持っているからです。処分の仕組みを知っている状態で個別の要件を覚えるのと、要件だけを丸暗記するのとでは、定着の仕方が変わります。得点の持ち込みではありませんが、学習の速度には効きます。

    どちらの方向でも、相手の中核科目は初めから積むことになる。これが正確な理解です。宅建の中核である宅建業法20問の構造は宅建業法の全体像|20問の出題範囲と学習設計にまとめてあります。

    併願する年の設計と、年を分ける場合の設計

    日程の制約を先に確認する

    宅建は例年10月の第3日曜日、行政書士は11月の第2日曜日に実施されます。試験日の間隔は年によって変わり、3週間しかない年もあります。具体的な日程と、併願が成立する条件・成立しにくい条件の判断は宅建と行政書士はどっちが難しい?難易度比較とダブル受験の可否資格取得の順番|試験日程から逆算する計画で扱っています。

    ここで押さえておきたいのは、試験範囲の観点から見た制約です。宅建が終わってから行政書士まで3週間しかないとして、その3週間で行政法112点分を仕上げることはできません。したがって「宅建の後に行政書士を追加する」という組み方は、試験範囲の構造上そもそも成立しません。

    同じ年に両方を狙う場合

    成立するとすれば、年初から行政書士を主、宅建を従として並行させる設計になります。理由は科目の非対称性にあります。

    行政書士の学習は民法を含むので、宅建の権利関係を自動的にカバーします。逆に宅建の学習は行政書士の何もカバーしません。したがって、行政書士側を本流に置き、宅建固有の宅建業法・法令上の制限・税その他を後から足すほうが、重複した労力が発生しません。

    民法は最初から行政書士の水準、つまり記述式を書ける水準を目標に学びます。宅建の水準で始めてから引き上げようとすると、判定する型で固めたものを構成する型に作り直すことになり、二度手間が生じます。

    宅建固有の科目は、暗記と演習で短期に仕上がる性質を持っています。とくに宅建業法は条文の要件と数字を積み上げれば得点になる科目なので、後半に集中投下する対象として適しています。演習の回し方は宅建の過去問活用術|肢別・年度別と回転法を参照してください。

    年を分ける場合

    年を分けるなら、宅建を先に置くのが素直です。範囲が狭く、短期で結果が出るため、法律の学習経験と合格の実績を先に作れます。その民法の知識が新鮮なうちに行政書士へ進む、という順序になります。

    ただし、宅建の民法は行政書士の民法の一部でしかありません。宅建に合格したからといって行政書士の民法が終わっているわけではない、という点は繰り返し確認しておいてください。他資格との組み合わせ全体の見取り図は宅建と組み合わせる資格一覧|目的別の選び方宅建とダブルライセンス|相性の良い資格5選にあります。登記や測量の方向を選ぶなら司法書士と宅建のダブルライセンス|業務と業際土地家屋調査士と宅建|重なる範囲と取得順序も候補になります。

    試験での出題ポイント

    科目名と内容の改正が問われる形

    行政書士試験について書かれた記事や教材を読むときの判定基準として使えます。「一般知識等」という旧名称のまま説明しているもの、「政治・経済・社会」を科目の三本柱の一つとして挙げているものは、令和6年度の改正を反映していません。現行は「行政書士の業務に関し必要な基礎知識」であり、内訳は一般知識、行政書士法等関連諸法令、情報通信・個人情報保護、文章理解の四つです。

    合格基準を「180点だけ」にする誤り

    「行政書士は180点を取れば合格」という説明は不正確です。合否判定基準は三つの要件をいずれも満たすことを求めており、法令等122点以上、基礎知識24点以上、全体180点以上のすべてが必要です。基礎知識だけで落ちる受験者が毎年出るのは、この構造によります。

    重なりの範囲を広げる誤り

    「宅建の権利関係14問がそのまま行政書士の民法に効く」という説明も不正確です。14問のうち民法は10問前後で、借地借家法・区分所有法・不動産登記法は行政書士の出題科目に含まれていません。逆に「民法が重なるから行政書士は半分終わっている」という説明も、民法が300点中76点であることを見落としています。

    記述式の重さを見落とす誤り

    行政書士の民法は択一9問36点と記述2問40点で、記述のほうが配点が大きい構成です。「宅建の民法を固めれば行政書士の民法も取れる」という理解は、この記述40点を計算に入れていません。

    配点の内訳を公表値として扱う誤り

    科目ごとの配点は行政書士試験研究センターから公示されていません。公示されているのは法令等46問244点、基礎知識14問56点という枠と、5肢択一4点・多肢選択8点・記述20点という問題別配点です。行政法112点、民法76点といった数字は出題実績から読み取れる目安であり、公表された配分ではありません。

    覚え方・整理の仕方

    「重なるのは民法だけ、それも76点」

    一言で持っておくと判断を誤りません。有利さの中身は民法、その大きさは300点中76点。この二つをセットにすれば、「民法が重なるから有利」という説明を過大にも過小にも受け取らずに済みます。

    三つの線を数字で覚える

    法令等122点、基礎知識24点、全体180点。順に「ひゃくにじゅうに・にじゅうよん・ひゃくはちじゅう」と唱えます。基礎知識の24点は14問中6問だ、と付け加えておけば、足切りの実感が数字と結びつきます。

    配点は「行政法が最大、次が民法」

    行政法112点、民法76点、基礎知識56点、憲法28点、商法・会社法20点、基礎法学8点。大きい順に並べておけば、どこに時間を投じるかの判断がぶれません。宅建における宅建業法20問と同じ位置に行政法がある、という対応で覚えると位置づけを間違えません。

    民法は「判定する型」から「書く型」へ

    宅建は判定、行政書士は構成。この二語で段差を覚えます。判定できることと書けることは別だ、と分けておけば、記述式対策を後回しにする判断を避けられます。

    科目名は「基礎知識」で更新する

    令和6年度から「一般知識等」は使いません。新しい内訳に行政書士法が入ったことまでを一組で覚えておくと、古い記述を見分けられます。

    併願は「行政書士を主、宅建を従」

    行政書士の学習は宅建の民法をカバーするが、逆は成り立たない。この非対称を覚えておけば、どちらを本流に置くべきかを毎回考え直さずに済みます。

    形式は「択一・多肢・記述」の三本

    宅建は択一の一本、行政書士は択一・多肢選択・記述の三本。多肢選択と記述にはいずれも部分点があり、白紙にしないことが得点になります。形式の数だけ時間配分の設計が必要になる、と押さえておけば、択一の知識だけを積んで安心する状態を避けられます。

    理解度チェッククイズ

    次の記述の正誤を判定してください。

    Q1. 行政書士試験は、試験全体の得点が180点以上であれば合格となり、科目ごとの基準点は設けられていない。

    答えは誤りです。行政書士試験研究センターが公表した「令和7年度行政書士試験合否判定基準」は、次の要件のいずれも満たした者を合格とするとして、法令等科目の得点が122点以上であること、基礎知識科目の得点が24点以上であること、試験全体の得点が180点以上であることの三つを挙げています。全体で180点を超えていても、基礎知識が24点に届かなければ不合格です。宅建には科目ごとの基準点がないため、この点は行政書士に固有の仕組みです。

    Q2. 行政書士試験の科目は令和6年度から変更され、従来の「一般知識等」が「行政書士の業務に関し必要な基礎知識」となり、行政書士法等関連諸法令が出題内容に加わった。

    答えは正しい記述です。行政書士試験研究センターの「行政書士試験の概要」は、「行政書士の業務に関し必要な基礎知識」14題について令和6年度試験から適用と明記し、内訳として一般知識、行政書士法等関連諸法令、情報通信・個人情報保護、文章理解の四つを示しています。配点56点、14問、基準点24点という枠は据え置かれており、変わったのは科目の名称と出題内容です。

    Q3. 宅建試験の権利関係14問を仕上げれば、行政書士試験の民法にはそのまま対応できる。

    答えは誤りです。二重に不正確です。第一に、宅建の権利関係14問のうち民法から出るのは近年の実績で10問前後で、残りの借地借家法・区分所有法・不動産登記法は行政書士の出題科目に含まれていません。第二に、行政書士の民法は近年の出題実績で択一9問36点と記述式2問40点の構成であり、記述式のほうが配点が大きくなっています。選択肢の正誤を判定できる状態と、40字程度で要件を構成して書ける状態は別物です。

    Q4. 行政書士試験の記述式は法令等科目に3問置かれ、1問につき20点で合計60点である。

    答えは正しい記述です。「令和7年度行政書士試験合否判定基準」の配点表は、法令等について5肢択一式40問160点、多肢選択式3問24点、記述式3問60点とし、問題別配点として記述式は1問につき20点と定めています。基礎知識は5肢択一式14問56点で、記述式はありません。合計は60問300点満点です。

    Q5. 行政書士試験の基礎知識科目は14問出題され、5問正解すれば基準点を満たす。

    答えは誤りです。基準点は24点以上です。基礎知識は5肢択一式で1問につき4点なので、5問正解では20点にとどまり基準に届きません。6問正解の24点が最低ラインになります。法令等でどれだけ得点しても、この24点を満たさなければ合格できません。

    まとめ

    • 行政書士試験は60問300点で、法令等46問244点と基礎知識14問56点に分かれます。合格には法令等122点以上、基礎知識24点以上、全体180点以上の三つをいずれも満たす必要があります(行政書士試験研究センター「令和7年度行政書士試験合否判定基準」)。
    • 宅建の学習から持ち込めるのは民法だけで、それも300点中76点にとどまります。行政法112点、基礎知識56点、憲法28点、商法・会社法20点、基礎法学8点は宅建の出題範囲にありません。加えて民法は、判定する型から40字で構成する型へ変換する作業が必要になります。
    • 科目は令和6年度から改正され、「一般知識等」は「行政書士の業務に関し必要な基礎知識」となり、行政書士法等関連諸法令が加わりました。旧名称や「政治・経済・社会」を三本柱とする説明は現行制度を反映していません。

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