不動産業界の動向|宅建士が知っておくべき制度の変化
空き家900万戸、築40年超マンション148万戸といった公表統計と、それに対応して行われた法改正を結びつけて解説。業界動向を条文の裏付けつきで読み、宅建試験の学習に接続します。
目次
本記事は、不動産業界で何が起きているのかを、公表統計と、それに対応して行われた法改正の両面から整理するものです。宅建士という資格そのものの位置づけは宅建士の将来性で、宅建士の日々の業務は宅建士の仕事内容で扱っているので、あわせて読むと「業界がどう変わり、その変化が誰の仕事に届くのか」が立体的になります。
結論を先に述べます。業界の動向を知りたいなら、感想ではなく法改正を読むのが最短です。法律は、社会に生じた具体的な不都合を解消するために改正されます。その不都合のことを立法事実と呼びます。空き家が増えたから空家法が改正され、相続登記がされないまま放置される土地が増えたから登記が義務になり、マンションの集会に人が出てこなくなったから決議要件の分母が変わりました。つまり改正の一覧は、そのまま業界に起きた変化の一覧です。
しかもこの読み方には二つの利点があります。第一に、条文と告示という形で裏が取れます。「〜が増えているようだ」という印象論に頼らずに済みます。第二に、宅建試験に直結します。改正点は出題されるからです。しかも立法事実を知っていると、改正の中身が「なぜそうなったか」とセットで頭に入るので、丸暗記より圧倒的に定着します。
以下では、空き家、所有者不明土地、老朽化マンション、賃貸住宅の管理、書面のデジタル化という五つの領域について、統計と改正を並べて読んでいきます。
業界動向を「立法事実」から読むという方法
なぜ市況の話は試験の役に立たないのか
不動産業界のトレンドとして語られる話題の多くは、市況です。どのエリアが値上がりしているか、どの物件種別が動いているか、といった話ですね。実務では重要ですが、宅建試験の学習という目的からすると、この種の情報には二つの問題があります。
ひとつは、検証できないことです。「都心の物件が人気だ」という記述に条文根拠はありませんし、公表統計に当たろうとしても、何をもって人気とするのかが定義されていません。もうひとつは、陳腐化することです。市況は毎年変わります。一年前に書かれた市況の記述は、一年後には事実として誤っている可能性があります。
これに対して、法改正は違います。改正には官報に載った公布日と施行日があり、条文という確定した文言があります。そして改正の理由は、審議会の資料や統計に残っています。「なぜこの改正が必要だったのか」という問いには、公表された根拠が用意されているのです。
立法事実とは何か
立法事実とは、ある法律や条文を作る・変える必要があると立法者が判断した根拠となる社会的事実のことです。たとえば「空き家が900万戸を超え、そのうち賃貸にも売却にも出ていないものが385万戸ある」という統計上の事実は、空家法を改正して市町村の権限を拡げる根拠になりました。
宅建試験の学習という観点から見ると、立法事実は記憶のフックとして極めて有効です。区分所有法の決議要件が「区分所有者の総数」から「出席した区分所有者」に変わったという改正を、条文の文言だけで覚えようとすると、どちらがどちらだったか混乱します。しかし「集会に出てこない区分所有者が増えて、総数を分母にすると決議が成立しなくなっていた」という背景を知っていれば、分母が小さくなる方向に変わったことは自然に思い出せます。改正の方向には理由があり、理由を知っている人は方向を間違えません。
この記事が扱う範囲と、扱わない範囲
念のため線を引いておきます。この記事は立法事実の側、つまり「何が起きて、その結果どの法律が動いたか」を扱います。改正された条文そのものの詳細は別の記事の担当です。宅建業法の改正点は宅建業法の改正ポイントに、民法および関連法の改正点は権利関係の民法改正まとめに、それぞれ条文単位で整理してあります。試験直前に確認すべきなのはそちらです。
また、この記事で引く数値はすべて出典を明示します。宅建試験の問48で問われる統計そのものについては統計問題の対策と2026年の統計数値まとめで扱っており、この記事で使う数値とは目的が違う点に注意してください。問48は「どの統計が何を測り、直近でどちらに動いたか」を問います。この記事は「その数値が、どの法改正の引き金になったか」を追います。
空き家900万戸という数字が動かした制度
統計の中身を正確に押さえる
総務省「令和5年住宅・土地統計調査」(調査時点は2023年10月1日、住宅及び世帯に関する基本集計の確報集計結果)によると、全国の総住宅数は6,504万7千戸、総世帯数は5,621万5千世帯です。1世帯当たりの住宅数は1.16戸で、住宅の数が世帯の数を上回る状態が1968年以降続いています。
そのうち空き家は900万2千戸、空き家率は13.8パーセントで、いずれも過去最多・過去最高です。前回の2018年調査では848万9千戸・13.6パーセントでしたから、5年間で51万3千戸増えたことになります。同調査によれば、空き家数は1993年からの30年間で約2倍になっています。
ここからが重要です。900万戸という総数だけを見ると実態を読み違えます。空き家には、賃貸に出しているが借り手がついていない住宅、売りに出しているが買い手がついていない住宅、別荘などの二次的住宅が含まれます。これらは市場に乗っている住宅です。問題になるのは、そのどれでもない空き家、つまり調査の用語でいう「賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家」で、これが385万6千戸、総住宅数の5.9パーセントを占めます。前回調査から36万9千戸増えました。
建て方別に見ると、空き家のうち一戸建が352万3千戸(空き家総数の39.1パーセント)、共同住宅が502万9千戸(同55.9パーセント)です。そして一戸建の空き家の80.9パーセント(285万1千戸)が「賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家」であるのに対し、共同住宅の空き家の78.5パーセント(394万7千戸)は賃貸用の空き家です。共同住宅の空き家は募集中の空室、一戸建の空き家は誰も動かしていない家、という違いがはっきり出ています。
所有者の側から見た数字もあります。同調査によれば、主世帯のうち現住居以外の住宅を所有している世帯は475万3千世帯(8.5パーセント)、そのうち居住世帯のない住宅すなわち空き家を所有している世帯は141万6千世帯(2.5パーセント)です。空き家を持っている世帯は約140万世帯あり、そのほとんどは不動産のプロではありません。
空家法が「特定空家等」の手前に段を足した
この統計を背景に改正されたのが、空家等対策の推進に関する特別措置法(平成26年法律第127号。以下「空家法」)です。令和5年法律第50号による改正が2023年12月13日に施行されました。
もともとの空家法は、2条2項の「特定空家等」という概念を中心に組み立てられていました。特定空家等とは、そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態、著しく衛生上有害となるおそれのある状態、適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態、その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態にあると認められる空家等をいいます。22条が、この特定空家等について市町村長の権限を段階的に定めており、1項の助言・指導、2項の勧告、3項の命令、そして9項の行政代執行という順に強くなります。
問題は、この「著しく」というハードルが高かったことです。倒壊しそうになるまで市町村は動けません。そこで改正で入ったのが13条の「管理不全空家等」です。13条1項は、空家等が適切な管理が行われていないことによりそのまま放置すれば特定空家等に該当することとなるおそれのある状態にあると認めるときは、その所有者等に対して必要な措置をとるよう指導をすることができると定めます。2項は、指導をしてもなお改善されず、そのまま放置すれば特定空家等に該当することとなるおそれが大きいと認めるときは、勧告ができるとします。
つまり「著しく危険」の一段手前に、新しい段が足されたわけです。特定空家等が助言・指導、勧告、命令、代執行の四段構えであるのに対し、管理不全空家等は指導と勧告の二段だけです。命令も代執行もありません。この非対称は、そのまま試験の引っかけになります。
勧告で固定資産税が跳ね上がる、という接続
ここが宅建試験に最も効く箇所です。空家法の勧告は、地方税法の側で効果を持ちます。
地方税法349条の3の2第1項は、専ら人の居住の用に供する家屋の敷地の用に供されている土地を「住宅用地」とし、固定資産税の課税標準を価格の3分の1とすると定めます。2項は、そのうち面積200平方メートル以下の部分(小規模住宅用地)について課税標準を価格の6分の1とします。住宅が建っている土地の固定資産税が軽くなる、いわゆる住宅用地の特例です。
そしてこの1項の括弧書きが、住宅用地の定義から次の二つを除外しています。空家法13条2項の規定により所有者等に対し勧告がされた管理不全空家等の敷地の用に供されている土地と、空家法22条2項の規定により所有者等に対し勧告がされた特定空家等の敷地の用に供されている土地です。
勧告を受けると住宅用地でなくなり、6分の1も3分の1も適用されません。空き家を放置しておくほうが固定資産税が安いから壊さない、という所有者の合理的判断そのものが、この改正で崩されたことになります。しかも管理不全空家等が加わったことで、除外の入口が「著しく危険」の手前まで下りてきました。固定資産税の仕組みそのものは固定資産税に、不動産の税全体の見取り図は不動産にかかる税金の全体像にまとめています。
なお空家法は7条で市町村が空家等対策計画を定めることができるとし、その中に空家等活用促進区域を設けられるようにしました。この区域内では、17条により建築基準法43条2項1号の接道規制や48条の用途規制について読替えが働き、18条により市街化調整区域内の建築物の用途変更に関する都市計画法42条1項ただし書・43条1項の許可について都道府県知事の配慮が求められます。空き家を使いたいのに法令上の制限で使えない、という詰まりを解く仕掛けが用意されたわけです。
報酬告示が空き家に合わせて組み替えられた
もうひとつ、宅建業法の側でも空き家に対応した改正が入っています。令和6年6月21日国土交通省告示第949号により報酬告示(昭和45年建設省告示第1552号)が改正され、令和6年7月1日に施行されました。
改正前の第七は「空家等の売買又は交換の媒介における特例」として、代金400万円以下の宅地建物について18万円の1.1倍を上限としていました。改正後は「低廉な空家等の売買又は交換の媒介における特例」となり、対象が800万円以下、上限が30万円の1.1倍に引き上げられています。さらに、改正前は売主側の依頼者からしか上乗せできませんでしたが、その限定が外れました。
なぜこの改正が必要だったのか。ここで先ほどの統計が効いてきます。誰も動かしていない一戸建の空き家が285万戸あり、その多くは地方にあります。価格が低い物件ほど、調査にかかる手間は変わらないのに報酬の上限が低くなるという報酬体系のもとでは、宅建業者が仲介を引き受ける経済的理由がありません。流通させたいのに担い手が動かない、という状態を解消するための改正です。
同じ改正で、長期の空家等の貸借についても第九(媒介)と第十(代理)が新設されました。貸主・借主双方から受ける報酬の合計を、借主の負担を増やさないことを条件に借賃の1月分の2.2倍まで広げるものです。売買だけでなく賃貸でも空き家が動かない、という同じ立法事実に対する手当てですね。告示全体の構造は報酬額の制限、計算手順は報酬額計算のパターン別攻略で扱っています。
所有者不明土地と、登記に義務が生まれた理由
数字を正確に扱う
所有者不明土地について語られる数字には幅があるので、出典を分けて押さえてください。
国土交通省の地籍調査Webサイトが公表しているパンフレット「地籍調査はなぜ必要か」は、国土審議会土地政策分科会特別部会資料を出典として、平成28年度地籍調査における所有者不明土地の数字を二つ挙げています。ひとつは、不動産登記簿上で所有者の所在が確認できない土地の割合が約20パーセントであること。これは所有者不明土地の「外縁」とされています。もうひとつは、探索の結果として最終的に所有者の所在が不明な土地が0.41パーセントであること。こちらは「最狭義の所有者不明土地」です。
この二つは意味が違います。約20パーセントというのは「登記簿を見ただけでは連絡先がわからない」土地の割合であって、その大半は戸籍をたどるなどの探索によって所有者にたどり着けます。最終的にたどり着けないのは0.41パーセントです。
では何が問題なのか。探索に多大な時間・費用・労力がかかること自体が問題なのです。同パンフレットは、こうした土地の存在が地籍調査だけでなく公共事業の推進等の様々な場面で円滑な事業の実施への支障となっていると述べています。売買の相手方を特定するのに数か月かかる土地は、実務上は流通していないのと同じですね。
そして、その原因として明示されているのが「相続登記が数代にわたって行われていないこと等」です。登記が義務でなかったことが、直接の立法事実になっています。
不動産登記法76条の2と76条の5
そこで、不動産登記法に義務規定が新設されました。
76条の2は相続登記の申請義務です。2024年4月1日施行。1項は、所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者が、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならないと定めます。正当な理由がないのに怠ると10万円以下の過料の対象です。
76条の5は住所等変更登記の申請義務です。2026年4月1日施行。所有権の登記名義人の氏名もしくは名称または住所について変更があったときは、その変更があった日から2年以内に変更の登記を申請しなければなりません。こちらは5万円以下の過料です。
3年と2年、10万円と5万円。この四つの数字は入れ替えて出題されます。とくに76条の5は令和8年度の基準日である2026年4月1日にちょうど施行されているので、出題可能性が高い部分です。詳細は住所等変更登記の義務化に、登記制度そのものの構造は不動産登記法にあります。
日本の登記制度は、権利の登記が対抗要件であって効力要件ではない、という設計を取ってきました。登記しなくても所有権は移転します。だから登記しない人がいて、それが積み上がった結果が所有者不明土地です。義務化は、対抗要件主義という基本構造には触れないまま、申請しないことに行政上の不利益を付けるという方法で問題に対処したものと整理できます。
相続登記だけでは足りない、という認識
登記を義務にしても、相続人が「いらない土地」を押しつけられる構造は変わりません。そこで同時期に、出口の側の制度も作られました。
相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律(令和3年法律第25号)です。施行令・施行規則が2023年4月27日に施行され、同日から制度の運用が始まっています。相続または遺贈により土地の所有権を取得した者が、法務大臣の承認を受けて土地を国庫に帰属させることができる制度で、建物がある土地や担保権が設定されている土地などは対象外とされ、負担金の納付も必要です。要らない土地を手放す道を作らなければ、登記の義務だけが残って不公平になるという判断があったわけですね。
民法の物権法改正も同じ立法事実に対応している
さらに、2023年4月1日施行の民法改正も、この一連の対策の一部です。
262条の2の所在等不明共有者の持分の取得は、共有者の一部が誰かわからない、あるいはどこにいるかわからないときに、裁判所の決定を得て他の共有者がその持分を取得できるようにするものです。改正前は、共有者の一人が所在不明だと、共有物の処分がほぼ不可能でした。
252条の共有物の管理についても、裁判所の決定を得たうえで、所在等不明共有者や催告に応じて賛否を明らかにしない共有者を除いた残りの共有者の持分の価格の過半数で管理事項を決められる仕組みが入りました。「連絡がつかない人がいると何も決められない」という状態を解消するという発想は、後述する区分所有法の改正とまったく同じ方向です。共有の条文全体は共有で、相続そのものの仕組みは相続で扱っています。
そして、この二つの領域は空家法で接続します。空家法14条が民法の特例を置いており、1項で市町村長が家庭裁判所に対して民法25条1項の不在者財産管理人の選任命令または952条1項の相続財産清算人の選任を請求できるとし、2項で空家等(敷地を除く)について民法264条の8第1項の所有者不明建物管理命令を、3項で管理不全空家等または特定空家等について民法264条の9第1項の管理不全土地管理命令または264条の14第1項の管理不全建物管理命令を、それぞれ地方裁判所に請求できるとしています。
空き家問題と所有者不明土地問題は、別々の問題ではなく同じ問題の二つの現れ方です。だから空家法という特別法が、民法の新しい管理命令制度を市町村長の側から起動できるようにしているわけですね。
老朽化マンションと、決議が成立しないという事実
ストックの規模と築年数
国土交通省が公表している「分譲マンションストック数の推移」(2024年末現在)によると、分譲マンションのストック総数は約713.1万戸です。同資料は、これに令和2年国勢調査による1世帯当たり平均人員2.2人を掛けると約1,600万人となり、国民の1割超が居住している推計になると述べています。そのうち旧耐震基準のストックが約103万戸です。
そして「築40年以上の分譲マンション数の推移」(2024年末現在)によると、築40年以上のマンションは約148万戸あります。10年前の2014年末は48.5万戸でしたから、10年で3倍になった計算です。同資料は国土交通省の推計として、10年後の2034年末に293.2万戸、20年後の2044年末に482.9万戸になる見込みを示しています。
建替えは713万戸に対して累計323件
これに対して、実際に建替えられたマンションはどれだけあるか。国土交通省「マンション建替え等の実施状況」(2025年3月31日時点)によると、マンションの建替えの実績は累計で323件、約26,000戸です。マンション建替円滑化法にもとづくマンション敷地売却等の実績は累計17件、約1,300戸にとどまります。なお阪神・淡路大震災、東日本大震災および熊本地震による被災マンションの建替え(計115件)はこの数字に含まれていません。
約713万戸のストックに対して、建替えは累計で約26,000戸。この対比が、区分所有法改正の立法事実そのものです。老朽化しているのに建替えも敷地売却も進まない状態が、統計として可視化されているわけですね。
なぜ決議が成立しないのか
進まない理由は、国土交通省「令和5年度マンション総合調査」から読み取れます。
第一に、区分所有者が高齢化しています。世帯主の年齢が70歳以上である割合は、平成15年度調査では10.2パーセントでしたが、令和5年度調査では25.9パーセントになりました。完成年次別に見ると、昭和59年以前に完成したマンションでは70歳代以上が55.9パーセントを占めます。築年数が古いマンションほど居住者も高齢である、という相関がはっきり出ています。
第二に、区分所有者がそこに住んでいません。賃貸住戸のあるマンションの割合は77.8パーセントで、平成30年度調査より増加しました。内訳は、賃貸戸数割合が0パーセント超20パーセント以下のマンションが62.3パーセント、20パーセント超が15.5パーセントです。所有者が別の場所に住んでいれば、集会に出席するハードルは上がります。
第三に、そもそも連絡がつかない住戸があります。同調査では、組合員名簿により所有者が直ちに判明しない、または判明していても連絡がつかない空室があるマンションの割合が3.3パーセントとされています。完成年次が古いマンションほどこの割合が大きくなる傾向も示されています。3.3パーセントという数字自体は小さく見えますが、決議の分母が区分所有者の総数である以上、連絡のつかない1票は常に反対票と同じ働きをします。
第四に、お金の裏付けが弱い管理組合があります。長期修繕計画上の積立額と実際の積立額を比べて、実際の積立額が計画に比べて不足しているマンションは36.6パーセント、そのうち不足の割合が20パーセント超のマンションが11.7パーセントです。積立方式は段階増額積立方式が47.1パーセント、均等積立方式が40.5パーセントとなっています。
第五に、組合の担い手が足りません。外部役員について検討している、または将来必要となれば検討したいという意向を持つマンションは34.6パーセントで、その理由は区分所有者の高齢化が42.7パーセント、役員のなり手不足が42.3パーセントでした。
これらを並べると、絵が見えてきます。高齢で、外部に住んでいて、一部は連絡がつかず、資金も不足している。その状態で「区分所有者の総数および議決権の各4分の3以上」という要件を満たせと言われても、物理的に無理があるわけです。
区分所有法はどう変わったか
そこで、建物の区分所有等に関する法律が令和7年法律第47号により改正され、2026年4月1日に施行されました。令和8年度の出題範囲に入ります。
改正の方向は一言でいえば、決議の分母を「総数」から「出席者」に変えたことです。17条1項の共用部分の変更や31条1項の規約の設定・変更・廃止は、区分所有者の過半数の者であって議決権の過半数を有するものが出席したうえで、出席した区分所有者およびその議決権の各4分の3以上の多数で決するという形になりました。39条1項の普通決議も出席者基準です。分母を出席者にする以上、出席が少なすぎる集会で重要事項が決まってしまわないよう、定足数が新設されています。
あわせて、瑕疵の除去やバリアフリー化のために必要となる共用部分の変更については17条5項が4分の3を3分の2に読み替え、61条5項が大規模滅失の復旧決議を出席者の各3分の2以上に引き下げました。一方で62条1項の建替え決議は5分の4のまま、分母も総数のままです。同条2項が耐震性・耐火性・外壁の剝離・配管の劣化・バリアフリー基準の5類型について4分の3への読替えを定めています。
立法事実と改正内容の対応は一対一です。出席しない区分所有者が増えた、だから分母を出席者にした。老朽化した建物の安全確保と高齢者の移動の便が急がれる、だからその二つの目的の変更だけ3分の2に下げた。決議要件の条文単位の整理は区分所有法の特別決議に、区分所有法全体の構造は区分所有法にあります。
なお、同じ2026年4月1日に宅地建物取引業法施行規則16条の2に第9号が新設され、区分所有建物の重要事項説明事項が9項目から10項目になりました。第三者管理方式に関する開示を求めるもので、これも管理組合の担い手不足という同じ立法事実に連なる改正です。説明事項の整理は区分所有建物の重要事項説明を参照してください。
賃貸住宅の管理と、家主が個人であるという構造
誰が賃貸住宅を持っているのか
賃貸住宅の管理に規制が入った背景も、統計から読めます。
令和5年住宅・土地統計調査によれば、現住居以外の住宅を所有している主世帯は475万3千世帯で、そのうち貸家用の住宅を所有している世帯は210万1千世帯です。持ち家住宅率は60.9パーセント、持ち家は3,387万6千戸ですから、賃貸住宅を持っている世帯は持ち家世帯の一部にすぎません。そして同調査によれば、主世帯の42.7パーセントが高齢者のいる世帯であり、高齢者のいる世帯の81.6パーセントが持ち家に住んでいます。
日本の賃貸住宅の家主は、その多くが個人であり、高齢化しています。個人の家主は不動産管理の専門家ではありませんから、管理会社やサブリース事業者との間には大きな情報の非対称があります。契約書に書かれた借上げ賃料が将来にわたって保証されるものだと理解してしまう、という誤解が生じる余地があるわけですね。
賃貸住宅管理業法は二段階で施行された
これに対応するのが、賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(令和2年法律第60号)です。この法律は二本柱でできています。賃貸住宅管理業の登録制度と、特定賃貸借契約すなわちサブリースに対する規制です。
そして施行日が別々でした。サブリース規制部分(第1章、第3章、第4章および関連する罰則)は2020年12月15日に先行して施行され、登録制度部分は2021年6月15日に施行されています。「2021年6月に全面施行」とまとめられることが多いのですが、正確には半年ずれた二段階施行です。サブリース規制のほうが先に動いたという事実が、立法者がどちらを急いだかを示しています。
登録の有無を問わず及ぶ、という設計
サブリース規制の重要な特徴は、登録の有無にかかわらず、特定転貸事業者と勧誘者に及ぶという点です。誇大広告等の禁止、不当な勧誘等の禁止、締結前の重要事項説明、締結時の書面交付が、事業規模を問わずかかります。
これは登録制度と対照的です。賃貸住宅管理業の登録は、管理戸数が一定数に満たない小規模な事業者には義務づけられていません。登録制度は事業者の適格性を事前に審査する仕組みなので、規模による線引きが成り立ちます。しかしサブリース規制が守ろうとしているのは目の前の家主なので、事業者の規模で保護に差をつける理由がありません。この非対称は、立法事実の違いから説明できます。
宅建試験との関係を正確に述べておきます。宅地建物取引業法施行規則8条が試験すべき事項として7分野を挙げていますが、賃貸住宅管理業法はそこに正面から位置づけられている法律ではありません。したがって条文知識をそのまま問う出題が主戦場ではありません。問われるのは境界です。自ら貸借は宅建業の取引に当たらない、管理の受託も取引に当たらない、という宅建業法上の結論は、賃貸住宅管理業法という別の法律が管理の領域を担っていることを知っていると、理由まで含めて理解できます。法律の全体像は賃貸住宅管理業法の全体像にまとめてあります。
書面のデジタル化と、押印だけが消えたという事実
何がいつ変わったのか
不動産取引のデジタル化について語るとき、最も混同されるのがこの領域です。制度として確定していることだけを、日付と条文で押さえてください。
2022年5月18日に、令和3年法律第37号(デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律)が施行されました。この一本の法律で、宅建業法について二つのことが起きています。ひとつは押印義務の廃止、もうひとつは電磁的方法による提供の解禁です。
押印について。改正後の宅建業法35条5項は「第一項から第三項までの書面の交付に当たつては、宅地建物取引士は、当該書面に記名しなければならない」と定めます。37条3項は「宅地建物取引業者は、前二項の規定により交付すべき書面を作成したときは、宅地建物取引士をして、当該書面に記名させなければならない」です。どちらも「記名」であって、押印は要求されていません。
34条の2第1項だけは記名押印のままである
ところが、媒介契約書面は違います。宅建業法34条の2第1項は、令和8年度の基準日である2026年4月1日時点の条文でも「宅地建物取引業者は、宅地又は建物の売買又は交換の媒介の契約を締結したときは、遅滞なく、次に掲げる事項を記載した書面を作成して記名押印し、依頼者にこれを交付しなければならない」となっています。
押印が廃止されたのは35条書面と37条書面であって、媒介契約書面ではありません。ここは頻繁に混同されます。「宅建業法の書面から押印はすべてなくなった」という理解は誤りです。
なお34条の2第11項は、依頼者の承諾を得て、記名押印に代わる措置を講ずるものとして国土交通省令で定める電磁的方法により提供することができるとし、その場合に書面に記名押印して交付したものとみなすとしています。電子化はできるが、その電子的な措置は「記名押印に代わる措置」でなければならないという書きぶりです。35条・37条の電磁的方法が「記名に代わる措置」であるのとは、要求される中身が違います。
IT重説は法改正ではない
もうひとつの混同がこれです。重要事項説明をウェブ会議等で行うこと、いわゆるIT重説は、法改正によって認められたものではありません。宅建業法35条は、説明の場所も方法も限定していません。だから解釈上、対面でなくてもよかったのです。実務上の取扱いを明確にしたのは国土交通省の解釈・運用の考え方であって、条文ではありません。
したがって「IT重説は宅建業法35条○項によって認められた」という形で条番号を挙げた記述を見たら、その時点で疑ってよいことになります。制度として何が確定しているかは不動産テックとはに、35条・37条の電磁的方法の要件はIT重説と書面電子化に整理してあります。
デジタル化で変わらなかったもの
この領域を業界動向として語るとき、変わった部分より変わらなかった部分のほうが本質的です。説明を行う主体は宅建士であり、これは法律で人に固定されています。35条は宅建士をして説明をさせなければならないと定めており、この主体が装置やシステムに置き換わる余地は条文上ありません。宅建士証の提示義務も残っています。
媒体が紙から電子に変わり、場所が事務所からオンラインに変わっただけで、判断と責任の所在は動いていないというのが、条文から読める事実です。
試験での出題ポイント
立法事実そのものは出題されない
まず前提を確認します。この記事で扱った統計や立法事実が、そのまま宅建試験で問われることは基本的にありません。問われるのは改正後の条文です。統計についても、問48で問われるのは着工統計・地価公示・法人企業統計・土地白書・宅建業法施行状況調査といった決まった顔ぶれで、マンション総合調査や地籍調査は含まれません。
では何のために立法事実を知るのか。改正の方向を間違えないためです。以下の出題パターンは、いずれも「方向」を反転させることで作られます。
数字を入れ替える
最も多い型です。相続登記の申請義務が3年、住所等変更登記が2年。過料が10万円以下と5万円以下。この四つを組み合わせて誤りを作ります。「住所変更は3年以内」「相続登記を怠ると5万円以下の過料」はいずれも誤りです。
報酬告示も同じです。低廉な空家等の特例は800万円以下・30万円の1.1倍であって、400万円以下・18万円の1.1倍は改正前の数値です。区分所有法では過半数・3分の2・4分の3・5分の4の四段があり、どの条文がどの段かを入れ替えられます。
分母を入れ替える
区分所有法の改正に特有の型です。改正後の17条1項・31条1項・39条1項は「出席した区分所有者およびその議決権」を分母とします。しかし62条1項の建替え決議は「区分所有者および議決権」のまま、つまり総数が分母です。「すべての決議が出席者基準になった」と書いてあれば誤りです。
段の数を入れ替える
空家法の型です。特定空家等は助言・指導、勧告、命令、代執行の四段。管理不全空家等は指導と勧告の二段まで。「管理不全空家等について市町村長は除却を命ずることができる」「管理不全空家等について代執行ができる」といった記述は誤りになります。
効果の発生要件をずらす
固定資産税の型です。住宅用地の特例から外れるのは、勧告を受けたときです。指導や助言の段階では外れませんし、命令を待つ必要もありません。「特定空家等に指定された時点で住宅用地の特例が適用されなくなる」という記述は、勧告という要件を落としているので誤りです。
押印の残る書面を見落とさせる
宅建業法の型です。35条書面と37条書面は記名のみ。媒介契約書面(34条の2第1項)は記名押印。「宅建業法上の書面はいずれも記名で足り、押印は不要である」は誤りです。逆に「35条書面には宅建士の記名押印が必要である」も、改正前の記述なので誤りになります。
法改正でないものを法改正として出す
IT重説の型です。宅建業法の条文が改正されてIT重説が可能になった、という記述は誤りです。改正で入ったのは電磁的方法による提供であって、説明方法についてではありません。
規制の及ぶ範囲をずらす
賃貸住宅管理業法の型です。サブリース規制は登録の有無を問わず特定転貸事業者と勧誘者に及びます。「登録を受けていない事業者には誇大広告の禁止は適用されない」は誤りです。宅建業法の規制と混同させる肢も作られるので、どちらの法律の話かを最初に確定させてください。
覚え方・整理の仕方
「統計 → 不都合 → 改正」の三点セットで持つ
改正を単独で覚えると、条文と数字の羅列になって崩れます。統計、そこから生じた具体的な不都合、それに対する改正、という三点セットで持ってください。
空き家900万戸のうち動いていないものが385万戸ある。壊すと固定資産税が上がるから壊さない。だから勧告を受けたら住宅用地の特例から外す。しかもその勧告の入口を、特定空家等より手前の管理不全空家等まで下ろす。
所有者不明土地の外縁が約20パーセントある。相続登記が義務でないから登記されない。だから3年以内の申請を義務にする。ただし要らない土地を押しつけられるだけでは不公平なので、国庫帰属の道も同時に作る。
築40年超のマンションが148万戸あるのに建替えは累計323件。区分所有者が高齢で外部居住で連絡もつかず、総数を分母にすると決議が成立しない。だから分母を出席者にする。
この三行が言えれば、条文の方向は自動的に決まります。
「増えた/減った」ではなく「詰まっている」で捉える
五つの領域に共通する構造があります。どれも「物はあるのに動かない」という詰まりの話です。空き家は住宅があるのに使われない。所有者不明土地は土地があるのに取引できない。老朽化マンションは建物があるのに建替えられない。
そして改正はどれも、詰まりの原因になっている一点を外すという形を取っています。税の逆インセンティブを外す(住宅用地特例の除外)、報酬の上限という経済的制約を外す(低廉な空家等の特例)、連絡のつかない一票を分母から外す(出席者基準)、探索コストを外す(相続登記の義務化と所在等不明共有者の持分取得)。
「何を外したか」で束ねると、改正の内容が一つずつ思い出せます。
数字は必ず出典とセットで持つ
この記事で挙げた数値は、出典が三つに分かれています。空き家と世帯に関する数値は総務省の住宅・土地統計調査(5年ごと、直近は令和5年)。マンションのストックと管理に関する数値は国土交通省(分譲マンションストック数の推移、築40年以上の分譲マンション数の推移、マンション総合調査)。所有者不明土地の割合は国土交通省の地籍調査関係資料です。
「総務省の統計によれば築40年超のマンションが」と言った瞬間に誤りになります。数値そのものより、どの機関がどの調査で出した数字かを一緒に持つほうが、長期的には効きます。問48の対策としても同じ習慣が効くので、統計問題の対策と合わせて練習してください。
施行日は「基準日をまたぐか」だけで判定する
宅建試験は、その年度の4月1日現在施行されている法令から出題されます。令和8年度なら2026年4月1日です。
この記事で扱った改正のうち、2026年4月1日に施行されたのが区分所有法の改正と宅建業法施行規則16条の2第9号の新設、そして不動産登記法76条の5の住所等変更登記の義務化です。基準日ちょうどですから、令和8年度の出題範囲に入ります。それ以外はいずれも基準日より前の施行なので、当然範囲内です。
「新しすぎて出ないだろう」という判断は危険です。基準日に施行されているかどうかだけが基準で、新しさは関係ありません。基準日の考え方そのものは宅建業法の改正ポイントの冒頭で詳しく扱っています。
「変わっていないもの」を並べて持つ
最後に、変化の話をするときほど、変わっていないものを意識してください。
対抗要件主義は変わっていません。登記が義務になっても、登記が効力要件になったわけではありません。重要事項説明の主体が宅建士であることは変わっていません。押印がなくなっても記名は残っています。建替え決議の5分の4という数字は変わっていません。
変わったものだけを覚えると、変わっていないものを「たぶんこれも変わったはず」と誤って処理します。改正の学習で失点する典型は、まさにこの過剰適用です。
理解度チェッククイズ
以下の5問で理解度を確認してください。
Q1:空家法にいう管理不全空家等について、市町村長は指導および勧告をすることができ、勧告に従わない場合には除却を命ずることができる。
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**×(誤り)** 空家法13条1項が指導、2項が勧告を定めていますが、**管理不全空家等について命令の規定はありません。**命令および行政代執行は、22条3項・9項により**特定空家等**についてのみ認められています。 管理不全空家等は、そのまま放置すれば特定空家等に該当することとなるおそれのある状態を捉えた概念で、令和5年法律第50号による改正(2023年12月13日施行)で新設されました。**「著しく」危険な段階の一段手前に、指導と勧告という軽い手当てを置いた**というのが制度の趣旨です。手前の段に置かれた概念に、最も重い手段まで与えるわけではない、と考えると整理できます。 なお、勧告を受けた管理不全空家等の敷地は、地方税法349条の3の2第1項の括弧書きにより住宅用地から除外されます。**命令がなくても、勧告の段階で税の効果は発生します。**Q2:総務省「令和5年住宅・土地統計調査」にいう空き家900万2千戸には、賃貸用の空き家や売却用の空き家、別荘などの二次的住宅も含まれている。
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**○(正しい)** 空き家900万2千戸・空き家率13.8パーセントという数値は、賃貸用の空き家、売却用の空き家、二次的住宅、そしてそのいずれでもない空き家をすべて合算したものです。 これらを除いた「賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家」は**385万6千戸**で、総住宅数の5.9パーセントにとどまります。前回の平成30年調査から36万9千戸増えました。 建て方別に見ると違いがはっきりします。共同住宅の空き家502万9千戸のうち78.5パーセントは賃貸用の空き家、つまり募集中の空室です。一方、一戸建の空き家352万3千戸のうち80.9パーセントは「賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家」で、こちらが放置されている家に当たります。 **総数だけを見て「900万戸が放置されている」と読むのは誤りです。総数と内訳を区別することが、この統計を扱うときの要点になります。**Q3:2026年4月1日施行の区分所有法改正により、集会の決議はすべて出席した区分所有者を分母として計算することとなった。
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**×(誤り)** **62条1項の建替え決議は、出席者基準になっていません。**「区分所有者(議決権を有しないものを除く。)及び議決権の各5分の4以上の多数で」と、総数を分母とする書き方のままです。 出席者基準に変わったのは、17条1項の共用部分の変更、31条1項の規約の設定・変更・廃止、39条1項の普通決議などです。あわせて、区分所有者の過半数かつ議決権の過半数という定足数が新設されました。 この改正の背景には、国土交通省「令和5年度マンション総合調査」が示すような状況があります。世帯主の年齢が70歳以上の割合が25.9パーセント(平成15年度は10.2パーセント)、賃貸住戸のあるマンションが77.8パーセント、所在不明・連絡先不通の空室があるマンションが3.3パーセント。**総数を分母にすると、出てこない人の一票が常に反対票として働いてしまう**という状態への対応です。Q4:2022年5月18日施行の改正により、宅建業法上の書面については押印が不要となり、媒介契約書面についても宅建業者の記名のみで足りることとなった。
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**×(誤り)** **媒介契約書面は記名押印のままです。** 宅建業法34条の2第1項は、令和8年度の基準日である2026年4月1日時点でも「次に掲げる事項を記載した書面を作成して**記名押印**し、依頼者にこれを交付しなければならない」と定めています。 押印が廃止されたのは35条書面と37条書面です。35条5項は「宅地建物取引士は、当該書面に**記名**しなければならない」、37条3項は「宅地建物取引士をして、当該書面に**記名**させなければならない」となっています。 **「宅建業法から押印はすべて消えた」という理解は誤りです。**電磁的方法による提供についても、34条の2第11項は「記名押印に代わる措置」を要求しており、35条・37条の「記名に代わる措置」とは書きぶりが異なります。Q5:報酬告示の「低廉な空家等の売買又は交換の媒介における特例」は、令和6年7月1日施行の改正により、対象が代金800万円以下の宅地建物に拡大され、上限が30万円の1.1倍となった。
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**○(正しい)** 令和6年6月21日国土交通省告示第949号により報酬告示(昭和45年建設省告示第1552号)の第七が改正され、令和6年7月1日に施行されました。改正前は「空家等」を対象に代金400万円以下・18万円の1.1倍でしたから、**対象額も上限額も引き上げられています。** 同時に、改正前は「空家等の売主又は交換を行う者である依頼者に限る」という括弧書きがあり、売主側からしか上乗せできませんでした。**改正後はこの限定がなく、買主側の依頼者からも受けられます。** また、同じ改正で**長期の空家等**の貸借について第九(媒介)と第十(代理)が新設され、双方から受ける報酬の合計を借賃の1月分の2.2倍まで広げられるようになりました。改正前の告示に第九・第十はありません。 **動いていない空き家を流通させるには、それを扱う業者が採算に乗る必要がある**というのが、この改正の立法事実です。まとめ
- 業界の動向は、法改正として読むと裏が取れる。「〜が増えている」という印象論ではなく、統計とそれに対応した条文の組で押さえてください。空き家900万2千戸・空き家率13.8パーセント(総務省・令和5年住宅・土地統計調査)、築40年超マンション約148万戸に対して建替え累計323件(国土交通省・2024年末および2025年3月31日時点)、所有者不明土地の外縁が約20パーセント(国土交通省・平成28年度地籍調査)。この三つが、この記事で扱った改正のほぼすべての引き金です。
- 改正はどれも「詰まりを外す」形をしている。税の逆インセンティブを外し(住宅用地特例からの除外)、報酬の上限を上げ(低廉な空家等の特例)、決議の分母から出てこない人を外し(出席者基準)、探索コストを下げる(相続登記の義務化、所在等不明共有者の持分取得)。何を外したかで束ねると、条文の方向を間違えません。
- 変わっていないものを一緒に持つ。対抗要件主義、重要事項説明の主体が宅建士であること、媒介契約書面の記名押印、建替え決議の5分の4。改正の学習で失点する典型は、変わったものを他の場所にまで広げてしまう過剰適用です。
宅建試験AIブートラボの肢別トレーニングでは、この記事で扱った改正論点を含む過去問を、条文根拠つきの解説で演習できます。
税と価格の評定は毎年ほぼ同じ形で出ます。出題パターンを肢別で押さえれば取りこぼしません。