宅建の無料教材|一次情報と無償の二次情報を分ける
宅建の無料教材は一枚岩ではありません。公的機関が公表する一次情報と、無償で提供される二次情報では信頼性が正反対です。e-Govで基準日版の条文を引く方法まで、無料でできることを整理します。
目次
この記事は、宅建の学習に無料で使えるものを整理します。ただし「おすすめの無料教材を並べる」記事ではありません。「無料」という一語が、信頼性の点で正反対の二つのものを指していることを先に分け、それぞれをどう扱うかを決めるのが目的です。教材形式ごとの選び方は、テキストが宅建テキストの選び方、問題集が宅建の問題集の選び方、動画が宅建のYouTube学習、講座が宅建の予備校の選び方にあります。この記事はそのどれでもなく、費用がゼロであることが品質にどう関係するかだけを扱います。
先に結論を述べます。無料で手に入るものは二つに分かれます。ひとつは一次情報です。条文、本試験の問題と正解番号、行政の解釈・運用、統計の原典。これらは無料であると同時に、入手できるもののなかで最も信頼できる部類に属します。もうひとつは無償で提供される二次情報です。解説動画、無料アプリ、解説サイト。これらは無料ですが、誰も品質を保証していません。
同じ「無料」でも、片方は信頼性の上限にあり、もう片方は検証されていない側にあります。この二つを一括りにして「無料教材」と呼ぶことが、判断を誤らせる最大の原因です。
そしてもうひとつ。一次情報には、有料教材にできないことが一つあります。基準日の条文を自分で指定して引けることです。宅建試験は当該年度の4月1日現在施行の法令から出題されますが、市販教材はその年度向けに作られた一つの版しか提供しません。e-Gov法令検索なら、施行日を指定して当時の条文そのものを読めます。この記事で最も実用的な部分がここになります。
「無料」は正反対の二つを指している
費用がゼロであることは、品質について何も言っていない
まず、当たり前のことを確認します。価格は品質の指標ではありません。高いから正確だということもなければ、無料だから粗いということもありません。
宅建の学習において、最も信頼できる情報源は条文です。そして条文はe-Gov法令検索で無料で読めます。一方、書店に並ぶ有料のテキストは、その条文を要約し平易化したもので、要約の過程で括弧書きの除外が落ちることがあります。つまり、この分野では最も安いものが最も正確という逆転が起きています。
したがって、「無料だから補助的に使う」という一般論は成り立ちません。何が無料なのかによって、扱いを変える必要があります。
無料である理由が二つある
分けるための鍵は、なぜそれが無料なのかです。理由は大きく二つあります。
第一に、公表そのものが制度の一部になっている場合。法令は公布されて初めて効力を持ちますし、行政の解釈を示した文書は、示すことで運用の統一を図るという目的で出されています。試験の問題と正解番号も、実施した機関が公表しています。これらは誰かの善意で無料なのではなく、公表されることが制度の前提です。
第二に、別のところで対価を回収している場合。無料の解説動画は広告収入や有料講座への導線があり、無料アプリは広告表示や有料版へのアップグレードを収益源にしています。無料で提供されているのは、無料で提供することが提供側の利益になるからです。
これは批判ではありません。ビジネスとして正当な形です。押さえておくべきは、理由が違えば、更新される理由も違うという点です。
対価の出所が違えば、更新される理由も違う
ここが実用上、最も重要な帰結です。
法令は改正されれば必ず新しい条文が施行され、e-Govにはその版が収録されます。更新されるかどうかが、提供側の判断に委ねられていません。機構が公表する問題と正解番号も、試験を実施すれば必ず追加されます。
これに対して、無償の二次情報が更新されるかどうかは、提供側の判断次第です。しかも、更新されていないことが利用者側から見えません。動画の公開日は表示されますが、その動画の内容が現在の条文と一致しているかどうかは表示されません。解説サイトの記事に更新日がなければ、いつ書かれたのかすら分かりません。
無料の一次情報は「必ず更新される」、無償の二次情報は「更新されるかもしれない」。この差が、両者を分けて扱うべき最大の理由です。動画という形式について更新コストが高い点は宅建のYouTube学習で扱っています。
信頼性の順序を先に固定しておく
矛盾する説明に出会ったときのために、順序を決めておきます。条文が最上位。次に行政が公表している解釈・運用や公表資料。その次に市販の教材。最後に個人が発信する情報。
この順序は有料か無料かとは無関係です。無料の条文が、有料のテキストより上に来ます。価格ではなく、誰が責任を負っているかで並んでいます。この順序を先に決めておけば、情報が多いことは害になりません。
一次情報として無料で手に入るもの
条文 ― e-Gov法令検索
デジタル庁が運営するe-Gov法令検索で、試験範囲の法令はすべて無料で読めます。宅地建物取引業法、同施行令、同施行規則、民法、借地借家法、区分所有法、不動産登記法、都市計画法、建築基準法、国土利用計画法、農地法、宅地造成及び特定盛土等規制法、土地区画整理法、地方税法、租税特別措置法。すべて収録されています。
条文が読めることの価値は、正確さだけではありません。テキストが要約した結果として落としている情報を、原文が保持しているという点にあります。何を見るかは後の節で扱います。
本試験の問題と正解番号 ― 不動産適正取引推進機構
宅地建物取引士資格試験は、宅地建物取引業法16条1項により都道府県知事が行うものとされ、同法16条の2第1項により、都道府県知事は国土交通大臣の指定する者に試験事務を行わせることができるとされています。現在その指定試験機関となっているのが一般財団法人不動産適正取引推進機構です。
同機構は、過去の本試験の問題と正解番号表を自身のウェブサイトで公開しています。掲載範囲は昭和63年度から令和7年度までで、令和2年度と令和3年度は10月試験と12月試験の両方があるためそれぞれ2回分が別に置かれています。詳細は宅建の問題集の選び方にまとめてあります。
つまり、過去問そのものは費用をかけずに一次資料として手に入ります。しかも試験を実施した機関による正解なので、出版社ごとに答えが違うということが原理的に起こりません。
実施結果の数値 ― 同機構
同機構は、試験の実施結果も公表しています。「令和7年度宅地建物取引士資格試験結果の概要」(令和7年11月26日公表)によれば、令和7年度は申込者306,099人、受験者245,462人、受験率80.2%、合格者45,821人、合格率18.7%、合格判定基準は50問中33問以上、合格者の平均年齢は36.2歳でした。
合格判定基準が毎年公表されていることには意味があります。年ごとの数値が積み上がっているので、基準点が33点から38点の幅で動いてきたという事実を、公表値だけで確認できます。分析は宅建の合格ライン予想、年代別・職業別の内訳は宅建試験の受験者データにあります。
行政の解釈と運用 ― 国土交通省
条文だけでは判断がつかない部分について、国土交通省が「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」を公表しています。条文ごとに、行政としてどう解釈し運用するかを示した文書です。市販のテキストが「〜と解されています」と書いている箇所の出どころが、ここにあることは少なくありません。
この文書は法令が改正されるたびに改訂されます。したがって、開いたら冒頭に示されている版の日付を必ず確認してください。古い版を見ていると、改正で変わった取扱いをそのまま覚えることになります。無料の一次情報であっても、版の確認が要らないわけではありません。
このほか、国土交通省は個別のガイドラインも公表しています。宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン(令和3年10月公表)は、心理的瑕疵の告知について実務上の指針を示したもので、重要事項説明に関連します。詳細は心理的瑕疵の告知ガイドラインを参照してください。
判例と税務の取扱い
権利関係では判例の結論が正面から問われます。最高裁判所のウェブサイトには裁判例の検索機能があり、判決の原文を無償で読めます。テキストに一行でまとめられている判例が、実際にはどういう事案だったのかを確認できます。
税その他の科目では、国税庁が所得税、印紙税、登録免許税などの取扱いを公表しています。譲渡所得の特例のように要件が細かい制度は、テキストの要約だけでは条件を取り違えることがあります。固定資産税や不動産取得税といった地方税は、地方税法および同施行令の条文をe-Govで確認するのが確実です。
統計の原典
統計問題で問われる数値は、国土交通省の土地白書、建築着工統計、法人企業統計、地価公示など、いずれも公表資料が原典です。そして統計だけは、教材に載った時点で古くなるという性質があります。この扱いは後述します。
正解は公的に確定しているが、解説は誰も保証していない
機構が公表しているものと、していないもの
ここが、無料教材を考えるうえで最も重要な非対称です。
機構は問題と正解番号を公表しています。しかし解説は公表していません。さらに同ページには、試験問題および解答内容に関する問合せには一切答えない旨の注記が置かれています。
つまり、「その肢が誤りである」という結論は公的に確定していますが、「なぜ誤りなのか」という説明は、公的にはどこにも存在しません。
この非対称が意味すること
市販の問題集に書かれている解説も、無料の解説サイトに書かれている解説も、無料アプリに付いている解説も、すべて出版社や執筆者の見解です。この点で、有料の解説と無償の解説は同じ層にあります。
有料であることは、解説の正しさを保証しません。逆に、無償であることが解説の誤りを意味するわけでもありません。どちらも検証されていない二次情報であり、読者の側で確かめる手段が要る、というのが出発点です。
だからこそ、順序が効いてきます。正解番号は機構の公表値で確定させ、解説に疑問が出たら条文に戻る。この経路が使えるのは、正解も条文も無料で手に入るからです。
解説に何を求めるかは、有料でも無償でも同じ
解説を評価する基準は、価格によって変わりません。条文番号が示されているか。4肢すべてについて根拠が書かれているか。「〜と解されています」で終わらず、その解釈の出どころが示されているか。この判定軸は宅建の問題集の選び方で整理しています。
無償の解説を使う場合も、同じ基準で見てください。条文番号が書かれていない解説は、確かめようがありません。確かめようがない解説は、正しくても学習の役に立ちにくい。なぜなら、疑問が出たときに戻る先がないからです。
無料の一次情報にしかできないこと ― 基準日版を自分で指定する
出題の基準日は試験年度の4月1日
宅建試験は、当該年度の4月1日現在施行の法令から出題されます。令和8年度(2026年10月18日)の正解は、2026年4月1日時点の条文です。
ここに落とし穴があります。「現行の条文」は、基準日の条文ではありません。4月1日より後に施行された改正は、現在は有効な法律ですが、令和8年度の出題範囲には入りません。つまり、最新の条文で覚えると、令和8年度受験者にとっては誤りになる場合があります。
「最新版」を売っている教材には、この問題を解けない
市販教材は、その年度向けに作られた一つの版を提供します。基準日を意識して作られていれば正しいのですが、利用者の側から「この記述は基準日時点のものか」を確かめる手段が、教材の中には用意されていません。改訂のタイミングが基準日とずれていれば、後から施行された改正が先取りで入っていることもあり得ます。
無償の二次情報はさらに不利です。動画も解説サイトも、どの基準日を想定して作られたかが明示されていないことがほとんどです。
e-Govには施行日ごとの版が収録されている
これに対して、e-Gov法令検索には改正の履歴が収録されており、施行日ごとに版が区別されています。したがって、基準日以前で最も新しい版を選べば、その日時点で施行されていた条文そのものを読めます。
具体例で確認します。宅地建物取引業法には、令和7年法律第68号による改正が2026年4月1日に施行された版があります。この版が、令和8年度の基準日にあたる条文です。同じく建物の区分所有等に関する法律は令和7年法律第47号が2026年4月1日施行、宅地建物取引業法施行規則は令和7年内閣府・国土交通省令第2号が同日施行です。いずれも令和8年度の出題範囲に入ります。
範囲外の改正を、具体的に見る
逆に、基準日より後に施行された改正は範囲外です。都市計画法・建築基準法・土地区画整理法は令和8年法律第23号により2026年5月27日施行、不動産登記法と民法は令和8年法律第45号・第46号により2026年6月24日施行の版があります。これらは現行法ですが、令和8年度の出題範囲ではありません。
税法はさらに注意が要ります。地方税法、印紙税法、登録免許税法はいずれも基準日より後にも改正が施行されており、現行版で引くと確実に基準日を外します。税法は毎年度改正が入るので、基準日以前で最も新しい版を自分で選ぶ必要があります。
施行日を見ただけで判断しない
もっとも、施行日が基準日より後だからといって、条文が変わっているとは限りません。改正法が複数の法律をまとめて改める形式のとき、ある法律については附則の追加だけで本則が動いていない、ということが実際に起きます。
したがって手順は二段になります。第一に、基準日以前で最も新しい版を特定する。第二に、疑問のある条文について、その版と現行版を実際に読み比べる。「改正が施行された」という事実だけで教材を疑うと、不要な確認を増やすことになります。
いつ使うか
条文を最初から読み込むのは効率の悪いやり方です。通常はテキストと演習で進め、次の三つの場面でだけ一次情報に戻ってください。
第一に、教材の記述と問題の解説が食い違って見えるとき。第二に、改正論点を扱っていて、教材の版に不安があるとき。第三に、数字や期限のように一字違えば誤りになる箇所を、確定させたいとき。
改正の全体像は民法改正のポイントと宅建業法の改正ポイントにまとめています。
条文を引くときに見る四つの場所
無料で条文が読めても、どこを見るかを知らなければ活きません。見る場所は四つです。
語尾
「しなければならない」なのか「することができる」なのか。義務か裁量かの分かれ目で、試験ではここが問われます。
たとえば宅地建物取引業法66条1項は、各号のいずれかに該当する場合において免許を「取り消さなければならない」と定めています。必要的取消しです。これに対して同条2項は、条件に違反したときは免許を「取り消すことができる」としています。同じ条文の1項と2項で語尾が違います。要約された解説では、この差が「取り消される」と一語にまとめられてしまうことがあります。
括弧書き
宅建業法や建築基準法の条文には括弧書きが多く、そこに例外や定義が書かれています。要約では省略されがちな部分です。
列挙の欠落
条文が複数の項目を列挙しているとき、そこに何が入っていないかが問われることがあります。
たとえば宅地建物取引業法34条1項は、広告における取引態様の明示について、自己が契約の当事者となって「売買若しくは交換」を成立させるか、代理人として「売買、交換若しくは貸借」を成立させるか、媒介して「売買、交換若しくは貸借」を成立させるかの別を明示せよと定めています。自ら当事者となる場合にだけ貸借が入っていません。自ら貸借が宅建業に当たらないためですが、この不在は条文を読まないと気づけません。詳細は取引態様の明示義務にあります。
同じく78条2項は、業者間取引で適用が除外される規定を「第三十三条の二及び第三十七条の二から第四十三条まで」と列挙しています。この列挙に入っていない条文は、業者間取引でも適用されます。
準用と読替え
「前条の規定は……について準用する」という形の条文は、書き下されていません。たとえば宅地建物取引業法34条の3は、媒介契約の規定を「売買又は交換の代理を依頼する契約」について準用しています。準用先で何がどう読み替わるかは、自分で当てはめる必要があります。媒介契約の規定は媒介契約、書面の記載事項は媒介契約書の記載事項にまとめています。
無償の二次情報をどう扱うか
誰も品質を保証していない
解説動画、無料アプリ、解説サイト。これらに共通するのは、内容の正しさについて責任を負う仕組みが外部にないことです。
有料の教材にその仕組みがあるかというと、実は同じです。出版社の校閲は内部の仕組みであって、外部の保証ではありません。違うのは責任の所在ではなく、更新されるかどうかの見通しです。有料教材は毎年改訂するという商業上の理由がありますが、無償のコンテンツにはその理由が働かないことがあります。
更新が止まっていても分からない
無償の二次情報で最も危険なのは、古い情報が古いと表示されないまま残ることです。
動画の公開日は表示されますが、内容が現在の条文と一致しているかは表示されません。解説サイトに更新日がなければ、いつ書かれたのかも分かりません。宅建は法令の試験なので、古い情報を覚えることは無駄では済まず、誤った知識を入れることになります。
改正の反映は自分で検査する
対処は、教材の側に判定を求めず、自分で検査することです。やることは、改正で消えたはずの表現が残っていないかを探すだけです。読んで理解する必要はなく、特定の語がヒットするかどうかだけを見ます。
検査語の一覧と、何個ヒットしたら見送るかの基準は宅建の問題集の選び方に実装してあります。無償の教材にもそのまま使えるので、そちらを参照してください。ヒットしやすいのは、拘禁刑への一本化、押印の廃止、区分所有法の決議要件、宅地造成等規制法の改組、契約不適合責任への移行あたりです。それぞれ拘禁刑と欠格事由、区分所有法の決議要件、盛土規制法、契約不適合責任に内容があります。
検査語「記名押印」には条件がある
ひとつだけ、そのまま使うと誤判定する検査語があるので補足します。「記名押印」です。
35条書面と37条書面については、押印が廃止されています。宅地建物取引業法35条5項は「第一項から第三項までの書面の交付に当たつては、宅地建物取引士は、当該書面に記名しなければならない」、37条3項は「宅地建物取引業者は、前二項の規定により交付すべき書面を作成したときは、宅地建物取引士をして、当該書面に記名させなければならない」と定めており、いずれにも押印は出てきません。したがって、35条書面や37条書面の説明に「記名押印」とあれば、その教材は古いことになります。両書面の比較は35条書面と37条書面の違いにあります。
しかし、媒介契約書面は違います。34条の2第1項は、媒介契約を締結したときは遅滞なく所定の事項を記載した書面を作成して記名押印し、依頼者にこれを交付しなければならない、と定めています。押印は現在も要求されたままです。
つまり、「記名押印」という語がヒットしても、それが媒介契約書面についての記述であれば正しく、35条書面や37条書面についての記述であれば古いということになります。どの書面の話かを確認せずに判定すると、正しい教材を誤って見送ることになります。
軸を一つ決めて、他は補助にする
無償の二次情報は量が多く、複数を並行すると説明の食い違いに振り回されます。
対策は、体系の基準になるものを一つ決めることです。説明が食い違ったときは軸のほうを採り、それでも判断がつかなければ条文に戻る。この順序を決めておけば、選択肢が多いことは害になりません。
網羅性を先に確認する
軸を決めるときの基準は、説明の巧拙ではなく、範囲を最後まで扱っているかどうかです。
無償のコンテンツは、視聴数や閲覧数が集まる論点だけが厚くなり、出題数が少ない分野が抜けていることがあります。税・その他や免除科目は、配点が小さいぶん扱いが薄くなりがちです。目次にあたるものを最初に確認し、四科目すべてが揃っているものを軸にしてください。抜けがあるなら、その部分だけを別の手段で埋めると決めてから使います。
無料であることの費用
探す時間は学習時間から差し引かれる
無料には、費用以外のコストがあります。第一が探す時間です。
動画を三本見比べて一本を選ぶ作業を毎回やっていると、その時間は学習時間から差し引かれます。無料であることに引かれて選択肢を広く取るほど、比較の時間が増えます。費用はかかっていなくても、時間は失われ続けます。
対策は、最初に構成を固めてしまうことです。軸になる教材、演習の手段、疑問が出たときの確認先。この三つを学習開始の段階で決め、以後は探さないと決める。
順序を自分で設計する負担
第二が順序の設計です。有料の講座が提供しているものの相当部分は、実は情報そのものではなく、どの順序でどこまでやるかという設計です。この点は宅建の予備校の選び方で分解しています。
無料で組む場合、この設計を自分で行うことになります。四科目をどの順序で、どの粒度で進めるか。判断の材料がない状態でこれを決めるのは、簡単ではありません。全体設計は独学合格の進め方を参照してください。
到達の判定が誰からも来ない
第三が判定です。無料の一次情報も無償の二次情報も、「あなたはここまで到達した」とは言ってくれません。
判定は自分で行う必要があります。当メディアの立場では、学習時間は入力であって成果ではありません。見るべきは到達度で、科目ごとの正答率、未着手の論点数、年度別で50問を通したときの得点、間違えた肢のうち理由を説明できるようになったものの数の四つです。理由は宅建の勉強時間、まぐれ当たりの拾い方は宅建の弱点克服法にあります。
この三つ――選定・順序・判定――が、有料教材に払っている対価の実体です。情報そのものではありません。
実在のサービスをどう評価するか
評価語では判定できない
「わかりやすい」「初心者向け」「網羅的」といった表現は、判定に使えません。誰にとって分かりやすいのかが定義されておらず、確かめる方法もないからです。そして、その判断はその教材を実際に最後まで使ってみるまで確定しません。
この記事では、特定のチャンネル名やアプリ名を評価つきで並べることはしません。理由は二つあります。第一に、評価が検証できないこと。第二に、無償のサービスは提供状況が変わりやすく、記事に書いた時点の状態が読む時点で維持されている保証がないことです。
確認できる事実だけで判定する
代わりに使えるのは、その場で確認できる事実です。四つあります。
対応年度の明示があるか。「令和8年度対応」といった表示があるか、その表示が基準日を意識したものかを見ます。表示がないものは、少なくとも改正への配慮が示されていません。
公開日と、更新されているか。公開日が改正の施行日より前であれば、その改正は反映されていません。更新日が表示されていれば、その日以降の改正は反映されている可能性があります。
条文番号が示されているか。示されていれば、疑問が出たときにe-Govで確かめられます。示されていなければ、確かめる経路がありません。
四科目が揃っているか。目次や再生リストで確認できます。
取得日を記録しておく
無償のサービスは、内容も提供条件も変わります。確認した事実には、いつ確認したかを添えて記録してください。「無料で使える」という事実も、確認した日以降も維持されるとは限りません。
このメディアが実在サービスを扱うときに取得日を明記しているのは、この理由によります。アプリの比較は宅建アプリ比較、生成AIを使う場合の限界はAIを活用した勉強法で扱っています。
無料で組むかどうかの判断
決めるのは三つだけ
無料で組む場合に決めるのは、次の三つです。
体系の軸を何にするか。四科目を最後まで扱っているものを一つ選びます。演習の手段を何にするか。過去問そのものは機構の公表分で足りますが、解説をどう埋めるかを決める必要があります。確認先をどこにするか。条文はe-Gov、業法の運用は国土交通省の解釈・運用の考え方、と決めておきます。
この三つが決まっていれば、あとは探さずに進められます。デバイスごとの割り当てや、オンラインだけで完結させてはいけない作業の切り分けは宅建のオンライン学習にまとめています。
買う判断が最も立ちやすいのは解説である
無料で組む場合に、最初に買う判断が立ちやすいのは解説です。
理由は、これまで見てきた非対称から出てきます。問題も正解も無料で手に入り、条文も無料で読める。埋まっていないのは「なぜその肢が誤りなのか」の部分だけです。そして、この部分は誰も公的に保証していないので、自分で条文に戻って埋めるか、誰かの解説を買うかの二択になります。
自分で埋める作業は可能ですが、時間がかかります。2,000肢について毎回条文に戻る時間があるかどうかが判断の分かれ目です。過去問の回し方は過去問の効果的な活用法にあります。
統計だけは扱いが違う
ひとつだけ、無料か有料かとは別の軸で扱うべきものがあります。統計です。
統計問題で問われる数値は、当年の公表値です。そして教材は、印刷された時点でその年の最新値を載せることができません。有料のテキストであっても、統計の部分は刊行時点の値で止まります。
したがって、統計は教材で追わず、公表資料で上書きするのが正解です。これは無料教材の弱点ではなく、教材という形式そのものの限界です。扱い方は統計問題の対策と最新統計データにまとめています。直前期の詰め方は直前期の学習戦略を参照してください。
試験での出題ポイント
基準日で正誤が反転する論点
令和8年度は2026年4月1日時点の条文が基準です。同日施行の改正は範囲に入り、それより後の改正は入りません。区分所有法の決議要件が総数基準から出席者基準に変わった改正、宅地建物取引業法施行規則16条の2の改正により区分所有建物の重要事項説明事項が9項目から10項目に増えた改正は、いずれも同日施行で範囲に入ります。後者は重要事項説明の記載事項にあります。
押印の有無を問う肢
前述のとおり、35条書面と37条書面は記名のみ、媒介契約書面は記名押印です。「宅地建物取引士が35条書面に記名押印しなければならない」は誤り、「媒介契約書面に記名押印しなければならない」は正しい。同じ「記名押印」という語で、正誤が逆になります。35条書面の全体像は35条書面の完全整理、37条書面は37条書面の記載事項にあります。
条文の語尾
「取り消さなければならない」と「取り消すことができる」、「しなければならない」と「することができる」。必要的か任意的かを入れ替えた肢は定番です。要約された解説では区別が消えることがあるので、迷ったら条文で確認してください。
指定試験機関
試験の実施主体そのものが問われることがあります。試験を行うのは都道府県知事(宅地建物取引業法16条1項)であり、知事は国土交通大臣の指定する者に試験事務を行わせることができる(同法16条の2第1項)という建て付けです。「国土交通大臣が試験を実施する」という肢は誤りになります。
統計
統計は当年の公表値で上書きします。教材に載っている数値をそのまま覚えると、前年の値を答えることになります。
覚え方・整理の仕方
「無料」を二語に分ける
一次情報と、無償の二次情報。この二語に分けてから考えます。前者は信頼性の上限にあり、後者は検証されていない側にあります。同じ「無料」でも扱いが正反対です。
情報源の順序は四段
条文、行政の公表資料、市販教材、個人の発信。この順序は価格と無関係で、誰が責任を負っているかで並んでいます。矛盾に出会ったら上へ遡ります。
無償のコンテンツは三つの事実で判定する
対応年度の明示、公開日と更新の有無、条文番号の有無。評価語ではなくこの三つを見ます。確認したら取得日を添えて記録します。
基準日は「試験年度の4月1日」
現行の条文と、基準日の条文は違う。e-Govには施行日ごとの版があるので、基準日以前で最も新しい版を選びます。ただし施行日を見ただけで教材を疑わず、条文を読み比べてから判断します。
有料教材に払っているのは「選定・順序・判定」
情報そのものではありません。この三つを自分でやる覚悟があるかどうかが、無料で組めるかどうかの判定になります。
理解度チェッククイズ
Q1. 宅地建物取引業者は、35条書面を交付するに当たり、宅地建物取引士に当該書面へ記名押印させなければならない。(○か×か)
答えを見る
×:宅地建物取引業法35条5項は「第一項から第三項までの書面の交付に当たつては、宅地建物取引士は、当該書面に記名しなければならない」と定めており、押印は要求されていません。37条3項も「記名させなければならない」で同じです。ただし媒介契約書面は違い、34条の2第1項は「書面を作成して記名押印し、依頼者にこれを交付しなければならない」と定めたままです。同じ「記名押印」という語でも、どの書面の話かで正誤が逆になります。Q2. 不動産適正取引推進機構は、過去の本試験について、問題・正解番号・解説を自身のウェブサイトで公表している。(○か×か)
答えを見る
×:公表されているのは問題と正解番号であって、解説は公表されていません。同ページには試験問題および解答内容に関する問合せには一切答えない旨の注記も置かれています。したがって「なぜその肢が誤りなのか」という説明は公的にはどこにも存在せず、市販の問題集も無料の解説サイトも、そこに書かれた解説はすべて執筆者の見解です。正解は公的に確定しているが解説は誰も保証していない、という非対称が出発点になります。Q3. 宅地建物取引士資格試験は国土交通大臣が実施するものとされており、都道府県知事が実施することはできない。(○か×か)
答えを見る
×:宅地建物取引業法16条1項により、試験を行うのは都道府県知事です。そのうえで16条の2第1項が、知事は国土交通大臣の指定する者に試験事務を行わせることができると定めており、同条3項により、行わせるときは知事は試験事務を行わないものとされています。現在この指定試験機関となっているのが一般財団法人不動産適正取引推進機構です。Q4. 令和8年度の宅建試験では、2026年4月1日より後に施行された法改正の内容も、施行済みである以上は出題範囲に含まれる。(○か×か)
答えを見る
×:宅建試験は当該年度の4月1日現在施行の法令から出題されます。したがって2026年4月1日より後に施行された改正は、現行法ではあっても令和8年度の出題範囲には入りません。「現行の条文」と「基準日の条文」は別物です。e-Gov法令検索には施行日ごとの版が収録されているため、基準日以前で最も新しい版を選べば、その日時点の条文を確認できます。Q5. 統計問題で問われる数値は、その年度に対応した市販テキストに掲載されていれば、それを覚えておけば足りる。(○か×か)
答えを見る
×:統計は当年の公表値が問われますが、教材は印刷された時点の値で止まります。これは無料教材に限った弱点ではなく、有料のテキストでも同じで、教材という形式そのものの限界です。したがって統計だけは教材で追わず、国土交通省の土地白書、建築着工統計、地価公示といった公表資料で上書きする必要があります。まとめ
宅建の無料教材を考えるときの出発点は、「無料」という一語が正反対の二つを指しているという事実です。
一次情報は、無料であると同時に、入手できるもののなかで最も信頼できます。条文はe-Gov法令検索で、本試験の問題と正解番号および実施結果は不動産適正取引推進機構で、宅建業法の解釈と運用は国土交通省で、判例と税務の取扱いは裁判所と国税庁で、それぞれ無償で公開されています。これらが無料なのは誰かの善意ではなく、公表されることが制度の前提だからです。だから必ず更新されます。
無償の二次情報は、無料ですが誰も品質を保証していません。解説動画も無料アプリも解説サイトも、別のところで対価を回収しているから無料であり、更新されるかどうかは提供側の判断次第です。しかも、更新が止まっていることが利用者側から見えません。対応年度の明示、公開日と更新の有無、条文番号の有無という三つの事実で判定し、確認した日付を添えて記録してください。
そして、機構は問題と正解番号を公表していますが、解説は公表していません。「その肢が誤りである」という結論は公的に確定していますが、「なぜ誤りなのか」は公的にはどこにも存在しない。この非対称のせいで、有料の解説も無償の解説も同じ層に並びます。価格は解説の正しさを保証しません。
無料の一次情報にしかできないことが一つあります。基準日の条文を自分で指定して引けることです。令和8年度の正解は2026年4月1日時点の条文であって、現行の条文ではありません。市販教材は年度ごとに一つの版しか提供しませんが、e-Govには施行日ごとの版が収録されています。ただし、施行日が基準日より後だからといって本則が変わっているとは限らないので、疑問のある条文を実際に読み比べてから判断してください。
最後に、無料には費用以外のコストがあります。探す時間、順序を設計する負担、到達したかどうかの判定。有料の教材や講座に払っている対価の実体は情報そのものではなく、この三つです。自分でやる覚悟があるかどうかが、無料で組めるかどうかの判定になります。
宅建試験AIブートラボでは、公表された過去問2,000肢に条文根拠つきの解説を付けた肢別トレーニングと、年度別過去問演習を用意しています。
肢別演習と年度別演習で、立てた学習計画をそのまま実行に移せます。間違えた肢だけを繰り返す復習にも対応しています。