意思能力いしのうりょく
自分のする法律行為の結果を判断できるだけの精神的な力のことで、意思表示をした時にこれを有しなかった人の法律行為は無効です(3条の2)。つまり、契約の意味が分からない状態で結んだ契約は、取り消すまでもなく初めから効力がありません。
重い認知症の父が、訪ねてきた買主に言われるまま、自宅を売る契約書に署名してしまった。父は、家を売れば住む場所がなくなることも、代金がいくらなのかも分かっていませんでした。契約は、自分の意思で権利や義務を引き受けるから守らなければならないものです。そこで民法は、意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為を無効としています(3条の2)。条文は意思能力の定義を置いていませんが、自分のする行為の結果を判断できるだけの精神的な力を指すと理解されています。

無効かどうかは、意思表示をした時の状態で決まります
3条の2が見るのは「意思表示をした時」です。その時点で行為の結果を判断できなかったのなら、後見開始の審判を受けていなくても、その法律行為は無効になります。逆に、審判を受けているかどうかという形式は、意思能力の有無を左右しません。契約の時に贈与者に意思能力がなければ、条件付きの贈与であっても契約そのものが無効で、あとから条件が成就しても受贈者は権利を取得できません。

行為能力の制限とは、別々に働きます
未成年者や成年被後見人などの制限行為能力者の制度は、判断力が十分でない人を類型で決めておき、その人の行為を「取り消すことができる」ものにする仕組みです。意思能力は、類型に関係なく、その時その人が判断できたかを一件ごとに見て、できなかったなら「無効」とします。営業を許された未成年者は、その営業については成年者と同じ行為能力を持ちますが、意思表示の時に意思能力がなければ、やはり無効です。二つの制度は入口が違い、片方を満たしてももう片方の問題は残ります。
受け取ったものは、互いに元に戻します
無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、相手方を原状に復させる義務、つまり受け取ったものを返して元の状態に戻す義務を負います(121条の2第1項)。ただし、行為の時に意思能力を有しなかった者は、現に利益を受けている限度で返せば足ります(同条3項)。判断できなかった人に、使ってしまった分まで返させるのは酷だからです。
民法 3条の2法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。
試験ではこう問われる
- 意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は無効(3条の2)。「取り消すことができる」ではない
- 後見開始の審判を受けているか否かにかかわらず、意思能力を有しないときにした売買契約は効力を有しない
- 営業を許された未成年者でも、その営業に関する意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは無効
- 停止条件付きの贈与契約でも、契約の時に贈与者に意思能力がなければ無効で、条件が成就しても受贈者は所有権を取得できない
- 無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、相手方を原状に復させる義務を負う(121条の2第1項)。条文として規定されている
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